京大芸人(菅広文)
さて今日は諸事情あって感想を二つ書く予定なので大変です。
まず一つ目。
今日は、取次を通さない出版社について書いてみようかなと思います。
どの小売業でもそうなんでしょうが、出版業界も太古の昔から(?)取次というところを通して書店に本を卸しています。流通の基本なのかもしれませんが、一応この取次というものについてざっと説明をしておこうと思います。
基本的に出版社は取次というところに本を送り、それを書店に送る代行をしてもらっていると考えてもらえばいいです。書店に本を運んでくるのは取次(というか取次から依頼を受けた運送会社)の仕事です。こういう仕組みがあるから、数人しか社員がいないような小さな出版社でも、全国の書店に本を送り込むことが出来るわけです。
書店には返品という仕事もあって、これは書店で売れなくなったと判断した本や汚れた本なんかを取次に返すことです。で取次は返品された本を仕分けして出版社に戻すことになります。
書店は出版社と取次どちらに発注することもできます。出版社・取次共に在庫を持っていて、ものによってどちらに在庫が多いなんていうのが違ったりします。この本だったら取次にあるだろうからそっちで、これは取次に頼んでも入ってこないから出版社に、みたいな判断をしながら発注をしたりしています。
他の小売業ではどうか知りませんが、出版業界ではこの取次が非常に大きな力を持っています。その大きな力がどのように発揮されているのか僕はよく知らないんですけど(取次に大きな力があるというのも本か何かで読んだだけの知識)、何にしても取次と取引のない出版社はほぼ書店に本を卸すのは不可能みたいなところがあったはずです。
しかし最近(というほど最近ではないでしょうが、でも昔からあったとも思えません)、取次を通さない出版社というのが結構あります。僕がすぐに出てくるところだけでも、冬水社・ディスカヴァー21・ミシマ社・糸井重里事務所・トランスビュー(トランスビューはちょっと自信ないけど)というようなところがあります。
こういった出版社はどういう風に本を書店まで届けるかというと、通常の運送会社に届けてもらうわけです。取次から来る荷物は、取次の箱に入って裏口みたいなところに運ばれてきますが、取次を通さない出版社の荷物は、書店に届く他の配送物と同様普通の運送会社の人が持って来て、レジで受け取りのハンコを押すような感じになります。
取次と取引をする上で、どれぐらいのお金が発生するのか僕にはまったく分かりませんが(取次に関わる数字の多くには秘密が多いらしいんです)、それでも通常の運送会社を使って書店に本を送る方がお金は掛かるんじゃないかと思うんです(何せこちらが返品する際の送料も出版社持ちになりますからね)。それでも取次を通さない方がメリットがあると判断したんだと思うんですけど(あるいは昔は取次と取引をしていたけど喧嘩したとか、そもそも取次に取引を断られたみたいな可能性もないではないけど)、取次について詳しくない僕には、そのメリットが何なのかはよくわかりません。
昔ディスカヴァー21という出版社が勝間和代の本を出す際に、コンビニに先行販売、みたいなことをやったらしくちょっとだけニュースになっていました。取次と取引をしている場合それは無理らしい(どこかの書店系のブログで読んだ記憶があります)んですけど、でもまあそれがメリットになるのかというとよくわからないですね。
書店側のデメリットとしては、やっぱりめんどくさいというのがありますね。売り場に置くときはいいけど、返品するときは他の本と混ぜてはいけない。取次と取引のある出版社の場合、返品はすべて取次にすればいいので楽ですけど、取次と取引のない出版社の場合それぞれの出版社に返品しなくてはいけないので面倒です。また、これは冬水社だけですが(この出版社は基本的にコミックのみの扱いです)、発売日が毎月20日なんですけど、荷物自体は19日に入ってくるんですね。で、書店によっては19日にすでに店頭に並べてたみたいなことが過去にあったみたいで、それに怒った出版社が荷物が届く日を20日にしたというようなことがありました。今はまた19日に入ってくるようになりましたけど、そういうところも面倒と言えば面倒と言えるかもしれません。
まあなかなか特殊な出版社だと言えるかもしれません。それにしても、ディスカヴァー21っていう出版社はすごいなって思いますね。話題作をバンバン出してくるし、勝間和代さんを一番初めに発掘したのも確かここだったと思います。ミシマ社はいい本を出すというので有名だし、冬水社はBLコミックがメチャクチャ売れます。糸井重里事務所とトランスビューについてはよくわかんないけど、何にせよ、取次を通さないという恐らく<不利>な状況であっても、良書を出したり出版社自体にお客さんがつくようになったりすれば、この厳しいと言われる出版業界でもうまくやっていけるんだなぁと思いました。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、芸人コンビである「ロザン」のの一人である菅広文が、相方である宇治原史規をモチーフにした実話小説です。
著者である菅は大阪府立大学(詳しくは知らないけど、割と学力の高い大学なんだと思う)を中退したという経歴だけど、相方の宇治原はなんと京都大学卒というとんでもない経歴です。しかも本書を信じるならば、宇治原が京大を目指した理由は、菅に「芸人になった時に売りになるから」と言われたというのが理由なんだそうです。なんつーか、ホントかよって突っ込みたくなるような話ではあるけど、恐らくホントなんでしょうねぇ。
菅と宇治原は高校で出会いました。菅は、本書の記述を信じるならば、運だけで超難関の進学校に入れた男らしく(最終的にエスカレーター式に高校に上がれた)、実際の学力と学校のレベルが合っていないと感じていたらしいけど、宇治原はその超難関校に試験を突破して入学してきた超エリートだそうです。
菅がそんな外からやってきたエリート達につけた名前が、「高性能勉強ロボ」。みんな同じ顔をしていたそうです。
その後いろいろあって菅と宇治原は仲良くなるんだけど、別に芸人になりたいなんて話をしたことは一度もなかった。
高校三年の春、二人で将来について話している時、菅が突然宇治原に「芸人なれへん?」と聞く。それまで芸人になりたいなんて話はまったくしてなかったのだが、宇治原は何故か乗り気。菅は、大丈夫かコイツは、と思いながらも、畳みかけるようにして宇治原に「京大入ってや」という。理由は、芸人になった時売りになるから、だ。
それから、宇治原が余裕で京大に合格するまでの話を書いたのが本作です。
いやはやすごいものだなと思いますよ。もともと勉強は出来たとは言え、京大に入ると決意したのが高校三年の春ですからね。もちろんしばらく模試とか受けてもE判定とかばっかりなわけです。でも宇治原はまったく慌てない。宇治原は独自のスケジュールを立てていて、そのスケジュール通り勉強すれば絶対に大丈夫だという強い自信があったわけなんですね。で、予定通り成績はグングン上がり、余裕で京大に合格しちゃうわけです。まったく化け物だなと思います。
本書には、宇治原が具体的にどんな勉強方法を取っていたのかというのが書かれているんですけど、なるほど理に適ったやり方かもしれないと思えるものが非常に多かったです。もちろん、宇治原のようなやり方をしてきっちりと成績を上げるには、ある程度の素養みたいなものが必要だと思うんで(そもそも記憶力がよくないと宇治原のやり方は無理で、記憶力が死んでる僕には到底不可能なわけです)、すべての受験生にいい方法だなんてことは言えないけど、「数学や理科は数字が違うだけで同じような問題が出るから同じ問題集を繰り返しやって問題と答えを覚える」「英語は英単語だけで覚えても意味がないから、英文をまるごと覚える」「社会は時代ごと覚えるんじゃなくて、長大なストーリーとして覚える」など、どうしてそういうやり方をするのかという理由も含めて、なるほどなぁと思う部分が多かったです。
本書では勉強以外でも、宇治原が高校時代どんな奴だったのかとか、宇治原が大学に合格してそれからどういう風に芸人への道を進んでいったのかというような話も描かれます。芸人のオーディションで「声が小さい」と言われて、「じゃあマイクをください」っていう発想は無茶苦茶だなと思ったり、オーディションに受かった直後、菅が大阪府立大、宇治原が京都大学に在籍しているとしってニュースで取り上げられたりと、まあ面白いなと思いました。
作品全体としてはまあまあという感じですけど、受験生は立ち読みでもして勉強のやり方の部分だけでも読んでみたらいいと思います。参考になるかどうかは分からないけど、少なくとも自分のやり方が正しいのかどうかということを見直すいい機会になるのではないかなと思ったりします。
菅広文「京大芸人」
まず一つ目。
今日は、取次を通さない出版社について書いてみようかなと思います。
どの小売業でもそうなんでしょうが、出版業界も太古の昔から(?)取次というところを通して書店に本を卸しています。流通の基本なのかもしれませんが、一応この取次というものについてざっと説明をしておこうと思います。
基本的に出版社は取次というところに本を送り、それを書店に送る代行をしてもらっていると考えてもらえばいいです。書店に本を運んでくるのは取次(というか取次から依頼を受けた運送会社)の仕事です。こういう仕組みがあるから、数人しか社員がいないような小さな出版社でも、全国の書店に本を送り込むことが出来るわけです。
書店には返品という仕事もあって、これは書店で売れなくなったと判断した本や汚れた本なんかを取次に返すことです。で取次は返品された本を仕分けして出版社に戻すことになります。
書店は出版社と取次どちらに発注することもできます。出版社・取次共に在庫を持っていて、ものによってどちらに在庫が多いなんていうのが違ったりします。この本だったら取次にあるだろうからそっちで、これは取次に頼んでも入ってこないから出版社に、みたいな判断をしながら発注をしたりしています。
他の小売業ではどうか知りませんが、出版業界ではこの取次が非常に大きな力を持っています。その大きな力がどのように発揮されているのか僕はよく知らないんですけど(取次に大きな力があるというのも本か何かで読んだだけの知識)、何にしても取次と取引のない出版社はほぼ書店に本を卸すのは不可能みたいなところがあったはずです。
しかし最近(というほど最近ではないでしょうが、でも昔からあったとも思えません)、取次を通さない出版社というのが結構あります。僕がすぐに出てくるところだけでも、冬水社・ディスカヴァー21・ミシマ社・糸井重里事務所・トランスビュー(トランスビューはちょっと自信ないけど)というようなところがあります。
こういった出版社はどういう風に本を書店まで届けるかというと、通常の運送会社に届けてもらうわけです。取次から来る荷物は、取次の箱に入って裏口みたいなところに運ばれてきますが、取次を通さない出版社の荷物は、書店に届く他の配送物と同様普通の運送会社の人が持って来て、レジで受け取りのハンコを押すような感じになります。
取次と取引をする上で、どれぐらいのお金が発生するのか僕にはまったく分かりませんが(取次に関わる数字の多くには秘密が多いらしいんです)、それでも通常の運送会社を使って書店に本を送る方がお金は掛かるんじゃないかと思うんです(何せこちらが返品する際の送料も出版社持ちになりますからね)。それでも取次を通さない方がメリットがあると判断したんだと思うんですけど(あるいは昔は取次と取引をしていたけど喧嘩したとか、そもそも取次に取引を断られたみたいな可能性もないではないけど)、取次について詳しくない僕には、そのメリットが何なのかはよくわかりません。
昔ディスカヴァー21という出版社が勝間和代の本を出す際に、コンビニに先行販売、みたいなことをやったらしくちょっとだけニュースになっていました。取次と取引をしている場合それは無理らしい(どこかの書店系のブログで読んだ記憶があります)んですけど、でもまあそれがメリットになるのかというとよくわからないですね。
書店側のデメリットとしては、やっぱりめんどくさいというのがありますね。売り場に置くときはいいけど、返品するときは他の本と混ぜてはいけない。取次と取引のある出版社の場合、返品はすべて取次にすればいいので楽ですけど、取次と取引のない出版社の場合それぞれの出版社に返品しなくてはいけないので面倒です。また、これは冬水社だけですが(この出版社は基本的にコミックのみの扱いです)、発売日が毎月20日なんですけど、荷物自体は19日に入ってくるんですね。で、書店によっては19日にすでに店頭に並べてたみたいなことが過去にあったみたいで、それに怒った出版社が荷物が届く日を20日にしたというようなことがありました。今はまた19日に入ってくるようになりましたけど、そういうところも面倒と言えば面倒と言えるかもしれません。
まあなかなか特殊な出版社だと言えるかもしれません。それにしても、ディスカヴァー21っていう出版社はすごいなって思いますね。話題作をバンバン出してくるし、勝間和代さんを一番初めに発掘したのも確かここだったと思います。ミシマ社はいい本を出すというので有名だし、冬水社はBLコミックがメチャクチャ売れます。糸井重里事務所とトランスビューについてはよくわかんないけど、何にせよ、取次を通さないという恐らく<不利>な状況であっても、良書を出したり出版社自体にお客さんがつくようになったりすれば、この厳しいと言われる出版業界でもうまくやっていけるんだなぁと思いました。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本作は、芸人コンビである「ロザン」のの一人である菅広文が、相方である宇治原史規をモチーフにした実話小説です。
著者である菅は大阪府立大学(詳しくは知らないけど、割と学力の高い大学なんだと思う)を中退したという経歴だけど、相方の宇治原はなんと京都大学卒というとんでもない経歴です。しかも本書を信じるならば、宇治原が京大を目指した理由は、菅に「芸人になった時に売りになるから」と言われたというのが理由なんだそうです。なんつーか、ホントかよって突っ込みたくなるような話ではあるけど、恐らくホントなんでしょうねぇ。
菅と宇治原は高校で出会いました。菅は、本書の記述を信じるならば、運だけで超難関の進学校に入れた男らしく(最終的にエスカレーター式に高校に上がれた)、実際の学力と学校のレベルが合っていないと感じていたらしいけど、宇治原はその超難関校に試験を突破して入学してきた超エリートだそうです。
菅がそんな外からやってきたエリート達につけた名前が、「高性能勉強ロボ」。みんな同じ顔をしていたそうです。
その後いろいろあって菅と宇治原は仲良くなるんだけど、別に芸人になりたいなんて話をしたことは一度もなかった。
高校三年の春、二人で将来について話している時、菅が突然宇治原に「芸人なれへん?」と聞く。それまで芸人になりたいなんて話はまったくしてなかったのだが、宇治原は何故か乗り気。菅は、大丈夫かコイツは、と思いながらも、畳みかけるようにして宇治原に「京大入ってや」という。理由は、芸人になった時売りになるから、だ。
それから、宇治原が余裕で京大に合格するまでの話を書いたのが本作です。
いやはやすごいものだなと思いますよ。もともと勉強は出来たとは言え、京大に入ると決意したのが高校三年の春ですからね。もちろんしばらく模試とか受けてもE判定とかばっかりなわけです。でも宇治原はまったく慌てない。宇治原は独自のスケジュールを立てていて、そのスケジュール通り勉強すれば絶対に大丈夫だという強い自信があったわけなんですね。で、予定通り成績はグングン上がり、余裕で京大に合格しちゃうわけです。まったく化け物だなと思います。
本書には、宇治原が具体的にどんな勉強方法を取っていたのかというのが書かれているんですけど、なるほど理に適ったやり方かもしれないと思えるものが非常に多かったです。もちろん、宇治原のようなやり方をしてきっちりと成績を上げるには、ある程度の素養みたいなものが必要だと思うんで(そもそも記憶力がよくないと宇治原のやり方は無理で、記憶力が死んでる僕には到底不可能なわけです)、すべての受験生にいい方法だなんてことは言えないけど、「数学や理科は数字が違うだけで同じような問題が出るから同じ問題集を繰り返しやって問題と答えを覚える」「英語は英単語だけで覚えても意味がないから、英文をまるごと覚える」「社会は時代ごと覚えるんじゃなくて、長大なストーリーとして覚える」など、どうしてそういうやり方をするのかという理由も含めて、なるほどなぁと思う部分が多かったです。
本書では勉強以外でも、宇治原が高校時代どんな奴だったのかとか、宇治原が大学に合格してそれからどういう風に芸人への道を進んでいったのかというような話も描かれます。芸人のオーディションで「声が小さい」と言われて、「じゃあマイクをください」っていう発想は無茶苦茶だなと思ったり、オーディションに受かった直後、菅が大阪府立大、宇治原が京都大学に在籍しているとしってニュースで取り上げられたりと、まあ面白いなと思いました。
作品全体としてはまあまあという感じですけど、受験生は立ち読みでもして勉強のやり方の部分だけでも読んでみたらいいと思います。参考になるかどうかは分からないけど、少なくとも自分のやり方が正しいのかどうかということを見直すいい機会になるのではないかなと思ったりします。
菅広文「京大芸人」
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