プロメテウスの罠2 検証!福島原発事故の真実(朝日新聞特別報道部)
内容に入ろうと思います。
本書は、2011年10月から朝日新聞紙上で連載が始まった「プロメテウスの罠」、若干の加筆修正を加えて単行本化した作品です。第一弾は今年の3月に発売され(第一弾の感想はこちら)、第一シリーズから第六シリーズまでが収録されている。第二弾である本書では、第七シリーズから第十二シリーズまでが収録されている。連載期間としては、2012年2月7日から2012年6月8日まで。
あとがきに、こんな文章がある。
『いや、考えてみるとわれわれは忘れるほどのことを知っているのだろうか。知っていてこそ忘れることができる。ひょっとしたら、いまに至っても知らないことのほうが多いのではないだろうか。
論評は要らない。何があったか、事実を調べよう。』
まさにその通りだと思う。知らなければ、忘れることも出来ない。僕たちは、テレビの報道を通じて、Youtubeなどの映像を通じて、色んな人の噂話を通じて、なんとなく「あの時」のことを知った気になっている。知った気になって、なんとなく自分の中で消化して、なんとなく忘れ始めている人も多いだろうと思う。
僕も、その一人だ。
僕の日常の中から、原発事故・大震災の痕跡を感じ取ることは、なかなか難しい。もちろん、探せば色々とあるのだろう。近くに東北から避難してきた人が住んでいるかもしれない。東北にいた家族や友人を亡くした人が住んでいるかもしれない。脱原発に向けて活動している人もいるかもしれない。でも、僕の視界には入ってこない。
会話の中にも、原発事故や大震災のことが入り込むことはなくなってきた。電気代の値上げとか、夏の節電とか、間接的な話題はまだまだ身近だと思う。けど、原発事故そのもの、大震災そのものは、もう日常で意識することは難しいものになってしまっていると思う。
だから、この連載は、とても意義のあるものなのだと思う。そして僕は、連載でではないけど、こうして本にまとまったものを読む。
毎日少しでも、原発事故・大震災そのものについて意識させてくれる連載がずっと新聞に載っているというのは、とても大事なことだと思う。朝日新聞以外の新聞にそういう連載があるのかどうか、僕は知らない。でも、新聞を読まない僕にも、書籍化によってこうして届く形になっているのは、やはり大事だなと思う。
本書でも、様々な事柄が取り上げられている。恐らく、知らなかった話ばかりだろうし、様々な活動をしている個人にも存分にスポットライトが当てられている。特に原発の話は、大きな大きな話になりがちだ。国策と係る巨大な話なので、小さな部分に目が行きにくい。小さな個人にもきちんとスポットライトを当ててくれるのは、いいなと思う。
内容をざっと紹介していこう。
第七章「原子力村に住む」
ここでは主に、二人の個人が取り上げられる。
福島県川内村の山中に少人数で作り上げた獏原人村という集落がある。そこに現在たった一人で住む風見正博さん。
福島第一原発でかつて炉心の運転・設計業務に携わっていたものの、原発が孕む様々な「欺瞞」に嫌気が差し退職した木村俊雄さん。
木村は、風見と出会ったことで、電気に依存する暮らしへの疑問を高め、現在は高知県でなるべく電気に頼らない生活を構築している。月の電気代は約700円。
木村は知り合いに請われ、デモの後の集会で講演をした。聞いている方が驚くほどの「ぶっちゃけ」っぷりだった。
木村は福島第一原発にいるころ、津波がきたら一発で終わりだ、と理解していた。そう上司に進言すると、こんな風に返ってくる。
『そうなんだよ、木村君。でも安全審査で津波まで想定するのはタブー視されてるんだ』
また木村は、後の副社長となる武藤から、ある特命を与えられた。それが、ウインターロックと全制御棒引き抜きの両立だった。
安全のために、インターロックが掛かった状態だと制御棒は1本しか抜けないようになっている。しかしそれでは、保守点検の際に時間が掛かり過ぎる。そこで、インターロックが掛かっていても制御棒をすべて抜けるようなシステムづくりを任されたのだ。これについての、保安院とのやり取りは、なかなか奇妙だ。
第八章「英国での検問」
日本は、使用済み核燃料の再処理にこだわっている。しかし、実用化の目処はたっていない。再処理が前提だから、使用済み核燃料は保管しておかなくてはいけない。それらの処理は、イギリスで行われている。
日本の原発で使った核燃料を再処理する契約は、1977年に結ばれた。取材班は、その処理を請け負う会社について調べる。金額の不透明さ、そして処理に掛かる様々な巨大なお金。本当に原発は「安い」のか。
『使用済み核燃料、それを再処理するという建前があるから保管している。しかし再処理がフィクションであることは明らかです』
この章では電気料金に関する内容もある。
山梨県のスーパーの店長の怒り。節電のために、様々な経費を費やして協力してきたのに、突然電気代を17%も上げると一方的に通告してきた。マンションにも同様の通知が届き、管理費の値上げなどに頭を抱える管理組合も多くある。現在、電気は東電から買う、しかし変圧を別の会社に任せる、というやり方ができるそうだ。それで電気代が4割ほども減る、という。
山梨県のスーパー業界は一致団結して東京電力の独占に噛み付いた。しかしかつて、たった一人で電力独占と戦った男がいた。元通産相出身で、日本ボランタリーチェーン協会の会長だった林信太郎だ。電気の自由化は、何か変えただろうか?
第九章「ロスの灯り」
青森県の六ケ所村には、日本原燃の核燃料再処理工場がある。なぜこれは、六ケ所村に作られることになったのか。それには、今から50年ほど前、酪農視察の団員としてロサンゼルスを訪れその灯りに魅せられてしまった、後の青森知事・北村正哉の存在がある。
彼は下北半島を、青森のロサンゼルスにしたかった。
北村はロサンゼルスを見た直後から奔走する。青森に巨大な開発を誘致し、住民の暮らしをよくするためだ。彼は、むつ小川原開発計画を立ち上げ、邁進していく。整備さえすれば、素晴らしい条件なのだから、石油化学コンビナートが必ずできる、という信念の元だった。
しかし結局、2500ヘクタールもの土地は、どの企業も誘致できないまま空き地となった。そこに、使用済み核燃料の再処理工場を作りたかった原発側が入り込んだ形となった。この開発のために、住民は様々な争いに巻き込まれることになる。
六ケ所村には、六ケ所村から反核燃を主張する菊川慶子がいる。彼女は、極貧時代に子供時代を過ごし、開発による狂乱も目にし、他の土地に移住するはずだった予定を変えてまで六ケ所村に戻ってきて、そこに反核燃のコミュニティを作った。菊川慶子のセンスによって、ともすれば悲壮感さえ漂う反核燃運動を、明るくて賑やかで楽しいものにしていった。
第十章「長安寺の遺骨」
福島県浪江町南津島に、江戸時代から続く長安寺はある。現在境内には、埋葬できない遺骨がずらりと並んでいる。
津波で亡くなった人だけではない。避難先で亡くなった人もいる。自殺した人もいる。原発に関係する死かどうかという線引が、どこかで行われてしまう。
避難区域に自宅やお墓がある人は、変えることが出来ない。遠くへ避難した人もいる。帰りたいと願う人もいる。現地に留まる人もいる。沖縄まで逃げ夫と別々に暮らすい人もいる。様々な選択があり、様々な人生がある。一つ言えることは、「放射能」がなければ、こんなことにはならなかった、ということだ。そこが、悔しい。
第十一章「遅れた警報」
気象庁では、地震から3分位内に津波警報を出すという自主目標があった。当初発表されたのは、「岩手3メートル 宮城6メートル 福島3メートル…」というもの。
水圧計は無視された。
津波の予測には様々な数値が使われるが、東日本大震災の津波警報の際には、水圧計のデータは無視された。
水圧計の数値から予測された津波の大きさは30メートル。
最初の津波警報で、3メートルなら大丈夫だと思った人は、積極的な避難をしなかった。気象庁が巨大な津波が来ると警告した際には既に、沿岸部は津波に襲われていた。警報は、間に合わなかった。
自身も津波から逃げながら、同時に逃げ遅れた人たちを救出し続けた人たちがいた。浪江町請戸の消防団の面々。「誰かいるのかーっ」と必死に叫ぶ。声が聞こえたら向かう。声が聞こえたのに、原発が爆発するかもしれないと、自らの避難を優先しなければならないこともあった。原発さえなければ助けられた命。それは、津波だけではない。避難区域とされた土地で、餓死した人が多くいた。助けたくとも、助けに入ることができない。やりきれない。
第十二章「脱原発の攻防」
「総合資源エネルギー調査会」の基本問題委員会の議論が続いている。当初、原発推進派と反原発派が半々になるように委員構成が考えられていたにも関わらず、「放射能をつけちゃうぞ」という報道で辞任に追い込まれた鉢呂氏がいなくなってから、脱原発派は少数派となってしまった。2030年までの原発依存度をゼロにするか、20%にするか、それとも…。双方に様々な意見があるが、やはり大きいのは「原子力ムラ」の存在。反原発派は、原子力ムラの強さを感じつつ、現実的な着地点を模索すべく、出来ることをやろうと努力している。
本当に原発は必要なのだろうか。僕達も、一緒に考えて行かなくてはならない問題だ。
電気料金など僕達の日常の延長線上にあるような話もあれば、福島や福島から避難した人たちの生の声もある。また、イギリスでの再処理など、まったく日常感からは遠い、しかし着実に電気料金に積み重ねられている知られざる背景などについても描かれる。
本書は、善し悪しの判断を読者に委ねているところがいい。どのみち、覚悟を決めなければどちらかに振りきれない問題ばかりだ。自分の人生をかけるだけの気概がなければ、どちらの立ち位置にいるのか明確にすることは難しい。
でも、その立ち位置を少しでも模索するために、きちんとした情報が必要だ。本書は、出来る限り事実にこだわり、「実際にあったこと」「実際にあっただろうと高い確度で信頼出来ること」「話者が実際にあったことだと信じていること」などを載せる。やはりそれでも、正確ではない情報だってあるだろう。でも、原発事故・大震災からこれだけ時間が経った今、被災者の生の声をきちんとした形で知ることができる環境も少ないのではないかと思う。それだけでも、この連載には十分に価値がある。
知らないことだらけだ。それを恥じる必要はない。本書を読むと、知ろうとしていない自分を恥じるような気持ちにはなる。改めて書くけど、既に僕の日常の中には、原発事故・大震災の面影はない。意識しなければ、原発事故・大震災について考える機会もなくなってしまった。だから僕は、こうして本を読む。知ろうとしない自分は、恥ずかしいから。
朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠2 検証!福島原発事故の真実」
本書は、2011年10月から朝日新聞紙上で連載が始まった「プロメテウスの罠」、若干の加筆修正を加えて単行本化した作品です。第一弾は今年の3月に発売され(第一弾の感想はこちら)、第一シリーズから第六シリーズまでが収録されている。第二弾である本書では、第七シリーズから第十二シリーズまでが収録されている。連載期間としては、2012年2月7日から2012年6月8日まで。
あとがきに、こんな文章がある。
『いや、考えてみるとわれわれは忘れるほどのことを知っているのだろうか。知っていてこそ忘れることができる。ひょっとしたら、いまに至っても知らないことのほうが多いのではないだろうか。
論評は要らない。何があったか、事実を調べよう。』
まさにその通りだと思う。知らなければ、忘れることも出来ない。僕たちは、テレビの報道を通じて、Youtubeなどの映像を通じて、色んな人の噂話を通じて、なんとなく「あの時」のことを知った気になっている。知った気になって、なんとなく自分の中で消化して、なんとなく忘れ始めている人も多いだろうと思う。
僕も、その一人だ。
僕の日常の中から、原発事故・大震災の痕跡を感じ取ることは、なかなか難しい。もちろん、探せば色々とあるのだろう。近くに東北から避難してきた人が住んでいるかもしれない。東北にいた家族や友人を亡くした人が住んでいるかもしれない。脱原発に向けて活動している人もいるかもしれない。でも、僕の視界には入ってこない。
会話の中にも、原発事故や大震災のことが入り込むことはなくなってきた。電気代の値上げとか、夏の節電とか、間接的な話題はまだまだ身近だと思う。けど、原発事故そのもの、大震災そのものは、もう日常で意識することは難しいものになってしまっていると思う。
だから、この連載は、とても意義のあるものなのだと思う。そして僕は、連載でではないけど、こうして本にまとまったものを読む。
毎日少しでも、原発事故・大震災そのものについて意識させてくれる連載がずっと新聞に載っているというのは、とても大事なことだと思う。朝日新聞以外の新聞にそういう連載があるのかどうか、僕は知らない。でも、新聞を読まない僕にも、書籍化によってこうして届く形になっているのは、やはり大事だなと思う。
本書でも、様々な事柄が取り上げられている。恐らく、知らなかった話ばかりだろうし、様々な活動をしている個人にも存分にスポットライトが当てられている。特に原発の話は、大きな大きな話になりがちだ。国策と係る巨大な話なので、小さな部分に目が行きにくい。小さな個人にもきちんとスポットライトを当ててくれるのは、いいなと思う。
内容をざっと紹介していこう。
第七章「原子力村に住む」
ここでは主に、二人の個人が取り上げられる。
福島県川内村の山中に少人数で作り上げた獏原人村という集落がある。そこに現在たった一人で住む風見正博さん。
福島第一原発でかつて炉心の運転・設計業務に携わっていたものの、原発が孕む様々な「欺瞞」に嫌気が差し退職した木村俊雄さん。
木村は、風見と出会ったことで、電気に依存する暮らしへの疑問を高め、現在は高知県でなるべく電気に頼らない生活を構築している。月の電気代は約700円。
木村は知り合いに請われ、デモの後の集会で講演をした。聞いている方が驚くほどの「ぶっちゃけ」っぷりだった。
木村は福島第一原発にいるころ、津波がきたら一発で終わりだ、と理解していた。そう上司に進言すると、こんな風に返ってくる。
『そうなんだよ、木村君。でも安全審査で津波まで想定するのはタブー視されてるんだ』
また木村は、後の副社長となる武藤から、ある特命を与えられた。それが、ウインターロックと全制御棒引き抜きの両立だった。
安全のために、インターロックが掛かった状態だと制御棒は1本しか抜けないようになっている。しかしそれでは、保守点検の際に時間が掛かり過ぎる。そこで、インターロックが掛かっていても制御棒をすべて抜けるようなシステムづくりを任されたのだ。これについての、保安院とのやり取りは、なかなか奇妙だ。
第八章「英国での検問」
日本は、使用済み核燃料の再処理にこだわっている。しかし、実用化の目処はたっていない。再処理が前提だから、使用済み核燃料は保管しておかなくてはいけない。それらの処理は、イギリスで行われている。
日本の原発で使った核燃料を再処理する契約は、1977年に結ばれた。取材班は、その処理を請け負う会社について調べる。金額の不透明さ、そして処理に掛かる様々な巨大なお金。本当に原発は「安い」のか。
『使用済み核燃料、それを再処理するという建前があるから保管している。しかし再処理がフィクションであることは明らかです』
この章では電気料金に関する内容もある。
山梨県のスーパーの店長の怒り。節電のために、様々な経費を費やして協力してきたのに、突然電気代を17%も上げると一方的に通告してきた。マンションにも同様の通知が届き、管理費の値上げなどに頭を抱える管理組合も多くある。現在、電気は東電から買う、しかし変圧を別の会社に任せる、というやり方ができるそうだ。それで電気代が4割ほども減る、という。
山梨県のスーパー業界は一致団結して東京電力の独占に噛み付いた。しかしかつて、たった一人で電力独占と戦った男がいた。元通産相出身で、日本ボランタリーチェーン協会の会長だった林信太郎だ。電気の自由化は、何か変えただろうか?
第九章「ロスの灯り」
青森県の六ケ所村には、日本原燃の核燃料再処理工場がある。なぜこれは、六ケ所村に作られることになったのか。それには、今から50年ほど前、酪農視察の団員としてロサンゼルスを訪れその灯りに魅せられてしまった、後の青森知事・北村正哉の存在がある。
彼は下北半島を、青森のロサンゼルスにしたかった。
北村はロサンゼルスを見た直後から奔走する。青森に巨大な開発を誘致し、住民の暮らしをよくするためだ。彼は、むつ小川原開発計画を立ち上げ、邁進していく。整備さえすれば、素晴らしい条件なのだから、石油化学コンビナートが必ずできる、という信念の元だった。
しかし結局、2500ヘクタールもの土地は、どの企業も誘致できないまま空き地となった。そこに、使用済み核燃料の再処理工場を作りたかった原発側が入り込んだ形となった。この開発のために、住民は様々な争いに巻き込まれることになる。
六ケ所村には、六ケ所村から反核燃を主張する菊川慶子がいる。彼女は、極貧時代に子供時代を過ごし、開発による狂乱も目にし、他の土地に移住するはずだった予定を変えてまで六ケ所村に戻ってきて、そこに反核燃のコミュニティを作った。菊川慶子のセンスによって、ともすれば悲壮感さえ漂う反核燃運動を、明るくて賑やかで楽しいものにしていった。
第十章「長安寺の遺骨」
福島県浪江町南津島に、江戸時代から続く長安寺はある。現在境内には、埋葬できない遺骨がずらりと並んでいる。
津波で亡くなった人だけではない。避難先で亡くなった人もいる。自殺した人もいる。原発に関係する死かどうかという線引が、どこかで行われてしまう。
避難区域に自宅やお墓がある人は、変えることが出来ない。遠くへ避難した人もいる。帰りたいと願う人もいる。現地に留まる人もいる。沖縄まで逃げ夫と別々に暮らすい人もいる。様々な選択があり、様々な人生がある。一つ言えることは、「放射能」がなければ、こんなことにはならなかった、ということだ。そこが、悔しい。
第十一章「遅れた警報」
気象庁では、地震から3分位内に津波警報を出すという自主目標があった。当初発表されたのは、「岩手3メートル 宮城6メートル 福島3メートル…」というもの。
水圧計は無視された。
津波の予測には様々な数値が使われるが、東日本大震災の津波警報の際には、水圧計のデータは無視された。
水圧計の数値から予測された津波の大きさは30メートル。
最初の津波警報で、3メートルなら大丈夫だと思った人は、積極的な避難をしなかった。気象庁が巨大な津波が来ると警告した際には既に、沿岸部は津波に襲われていた。警報は、間に合わなかった。
自身も津波から逃げながら、同時に逃げ遅れた人たちを救出し続けた人たちがいた。浪江町請戸の消防団の面々。「誰かいるのかーっ」と必死に叫ぶ。声が聞こえたら向かう。声が聞こえたのに、原発が爆発するかもしれないと、自らの避難を優先しなければならないこともあった。原発さえなければ助けられた命。それは、津波だけではない。避難区域とされた土地で、餓死した人が多くいた。助けたくとも、助けに入ることができない。やりきれない。
第十二章「脱原発の攻防」
「総合資源エネルギー調査会」の基本問題委員会の議論が続いている。当初、原発推進派と反原発派が半々になるように委員構成が考えられていたにも関わらず、「放射能をつけちゃうぞ」という報道で辞任に追い込まれた鉢呂氏がいなくなってから、脱原発派は少数派となってしまった。2030年までの原発依存度をゼロにするか、20%にするか、それとも…。双方に様々な意見があるが、やはり大きいのは「原子力ムラ」の存在。反原発派は、原子力ムラの強さを感じつつ、現実的な着地点を模索すべく、出来ることをやろうと努力している。
本当に原発は必要なのだろうか。僕達も、一緒に考えて行かなくてはならない問題だ。
電気料金など僕達の日常の延長線上にあるような話もあれば、福島や福島から避難した人たちの生の声もある。また、イギリスでの再処理など、まったく日常感からは遠い、しかし着実に電気料金に積み重ねられている知られざる背景などについても描かれる。
本書は、善し悪しの判断を読者に委ねているところがいい。どのみち、覚悟を決めなければどちらかに振りきれない問題ばかりだ。自分の人生をかけるだけの気概がなければ、どちらの立ち位置にいるのか明確にすることは難しい。
でも、その立ち位置を少しでも模索するために、きちんとした情報が必要だ。本書は、出来る限り事実にこだわり、「実際にあったこと」「実際にあっただろうと高い確度で信頼出来ること」「話者が実際にあったことだと信じていること」などを載せる。やはりそれでも、正確ではない情報だってあるだろう。でも、原発事故・大震災からこれだけ時間が経った今、被災者の生の声をきちんとした形で知ることができる環境も少ないのではないかと思う。それだけでも、この連載には十分に価値がある。
知らないことだらけだ。それを恥じる必要はない。本書を読むと、知ろうとしていない自分を恥じるような気持ちにはなる。改めて書くけど、既に僕の日常の中には、原発事故・大震災の面影はない。意識しなければ、原発事故・大震災について考える機会もなくなってしまった。だから僕は、こうして本を読む。知ろうとしない自分は、恥ずかしいから。
朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠2 検証!福島原発事故の真実」
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