山本一力

November 28, 2007

『あかね空』 山本一力 【by HANA】3

あかね空 (文春文庫)


 久しぶりの江戸市井もの。上方から来た一人の男がはじめる、大江戸は深川長屋下町の豆腐屋物語。200万都市の、ちっぽけなちっぽけなある家族の肖像。ちっぽけなのに、一口では語ることのできない生き生きとした心の交流とドラマがある・・・そんな物語。
 上方で豆腐つくりの修行を積んだ永吉は、自分の店を夢見て江戸に下り、そこで知り合った同じ長屋の桶屋の娘おふみと夫婦に。二人で力をあわせ「京や」をいとなみ、順調に暮らしは安定していく。が、長男、次男、長女の出産、父母の死、繰り返される生死に、信心深い江戸庶民ならではのちょっとしたきっかけがおふみの心を頑なにさせてしまう。
 いつの世にも、家族にはさまざまな葛藤があり夫婦には不可侵の領域がある。夫婦二人の時にはおきなかった感情も、子どもを授かることによってうまれることもある。ついにお互いの本当の気持ちを知らないままに永吉もおふみも死を迎えるのはせつないが、最後には子どもたちの気持ちが一丸となる出来事があり、秋雨のあと、洗われた葉の雫がツンとした香りを放ってあっという間に乾いてしまうような、爽やかな風を感じる読後感へ急展開する。
 なんだかんだ言っても、永吉の味の味噌汁を作り続け、娘にも伝えて生涯を終えるおふみ。いっぱしになった息子よりも上手に作る永吉と考案した茶碗豆腐、生まれる予兆も無いのに縫われた次男夫婦の子のおむつ。言葉は無くともそれら一つ一つにこめられたおふみの心の奥底にひそむ願いには、やはり永吉が願う家族への愛情と同じあったかいものが息づいている。
 家族一人一人の行動は、時に理不尽のように思えて、何がしかの理由があり、最終的には許しあうことで絆が深まる・・・って、結婚生活が何度か破綻してしまう作者の願望がすごく反映されているような気がしてならない。
 結局はいつの時代もこうやって、たくさんの家に無限の形の愛情が生まれては形を変え、次の世代へと受け継がれている。太古の昔も、万葉の時代も、江戸時代も、今も、育てられた環境に影響されない人間はいないから。この連続って、改めてなんだかすごいことのような気がしない?

【HANAレビューはいきなり壮大な話に・・・笑】
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bunkoya at 00:22|PermalinkComments(2)TrackBack(0)clip!
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