よしもとばなな
February 04, 2010
『なんくるない』 よしもとばなな 【by ぶんこや】
なんくるない (新潮文庫)
クチコミを見る
人をおもう気持ちの、ただ単に好きだとかだけではなく、それにまつわるもやもやとしたものを、この人はどうしてこんなにうまく表現するのだろう。説明するわけでも会話をつらねるわけでもなく、ただひとり焦点の合わない目をしてぼやくような、たんたんとした語り口に胸がきゅっとしめつけられる。遠い昔に置いてきてしまった心や、うまい理由をつけてあきらめてしまった想いがふとよみがえり、喉元に大きなかたまりがせりあがってきて苦しくなる。
本を読んでこんな気持ちになったのは、久しぶりのことだ。そしてそれは、ぜんぜん悪い感じじゃない。
軽いと言われて批判的に評価されることが多い(少なくとも一昔前のわたしの周辺ではそうだった)ばななさん。たしかに語り口のテンポがよく選ぶ言葉づかいが若い(笑)し、深刻そうな描写もないし、表面上は軽さを装っている。本をあまり読まない若年層にも簡単に受け入れてもらえそうだ。しかし、ストーリーそのものは軽かったとしても、その一行一行に潜むさまざまなメッセージには、決して軽いだけではないものが盛られている。文章を書くことを好む人間が見ると、こりゃ〜かなわん、と思ってしまうわけだよ。そういう気持ちを文章で表すなんて不可能だと思っていた! というような。文章のうまいへたはよくわからないけれど、やっぱりこの人は、表現の天才だなと思う。
題名からもわかるように、これは沖縄を舞台にした作品集である。日本でありながら外国のような風通し良さをもつ沖縄ならではの、人とのかかわり、心の癒しがうまくテーマ化されて、空虚感あふれる作品にうまくマッチしている。とはいっても、沖縄のあったかい人間関係みたいな大仰なものではなく、“よそ者”の主人公が“沖縄で見つけた何か”くらいのところがいい。沖縄ではなくても、北海道でもハワイでも同じようなことが起こりうる、と言えそうなところがまたいい。
でもやっぱり、沖縄じゃなくちゃだめなんだよなあ、きっと(笑)
行ってみたいなあ、沖縄。