ハル(92)
「あら」とミチコさんは僕を見るなり言った。「どうしたの?」
バツの悪そうな顔をしていた。後ろからついてきたマスターは僕から目をそらすように空を見上げていた。
「いえ、ちょっとこのへんに用事があって」と僕は腕時計を眺めながら言った。「あ、遅れちゃう」
僕はそそくさとその場をあとにした。速足で歩きながら、還暦あたりのおじさんと40過ぎのおばさんの思いのほか激しい営みを想像しかけて、僕はかぶりを振ってその忌まわしいイメージを追い払った。
ふと、幼い日にハルと肌を合わせたときのことを思い出した。
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