2023年09月10日

ハル(102)

 車どころか、駅員に切符を渡してからというもの人影ひとつ見当たらない。

 もう午後4時に近かった。近くに旅館があるのは駅の看板で見て知っていたけれど、ここで夜を明かせる自信はなかった。

 けれどそんな不安より、とにかくミチコさんに会わなければという思いが先走っていた。会ってどうするわけでもない。ただお別れの言葉もなくこっそり去っていったことが解せなくて、そのわけを訊きたかった。

 僕はあてもなく歩き始めた。住所の書かれた封筒を握りしめた手がかじかんでくる。息が煙のように白かった。



kotani_plus at 12:00コメント(0)250字  

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