車どころか、駅員に切符を渡してからというもの人影ひとつ見当たらない。
もう午後4時に近かった。近くに旅館があるのは駅の看板で見て知っていたけれど、ここで夜を明かせる自信はなかった。
けれどそんな不安より、とにかくミチコさんに会わなければという思いが先走っていた。会ってどうするわけでもない。ただお別れの言葉もなくこっそり去っていったことが解せなくて、そのわけを訊きたかった。
僕はあてもなく歩き始めた。住所の書かれた封筒を握りしめた手がかじかんでくる。息が煙のように白かった。
こたに大将