往年の名指揮者オットー・クレンペラーによる大地の歌。有名なCDなので何度も再販され、今度はリマスター版のSACDも出ている。私が持っているのは、もう20年以上前に買った普通のCD。
クレンペラーはポーランド生まれのユダヤ系ドイツ人。マーラーの交響曲第2番「復活」のピアノ編曲がマーラーの目に留まり、マーラーはクレンペラーの才能を認めることになる。これが縁となり、クレンペラーは22歳でマーラーの推挙を受け、プラハのドイツ歌劇場の指揮者になることができた。
以後もマーラーの庇護を受けているが、交響曲を全部演奏したわけではなく、直弟子のワルター程マーラーの音楽を認めていなかったという話だ(ウィキペディア)。
第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」での、ヴンダーリッヒの歌が凄い。冒頭から輝かしく強い声で「Schon winkt der Wein!」と叫び、ちっとも喉に無理をさせずによく通る声を出している。こういう声は聴いていてとても気持ちがいい。このCDの高評価はヴンダーリッヒの歌唱によっているのではないだろうか。
確かに一本調子な気もするし、声の魅力に寄りかかった歌唱ではないかという思いもチラッと頭をかすめたりする。やるせない雰囲気の箇所は泣きが入ったような歌い方で、ちょっと時代を感じる所もある。それでもこの声の魅力には抗しがたく、やっぱり歌って声の魅力が大きいな~と思うのだ。
オーケストラは、マーラーの厭世的な気分をあまり感じさせず、運しい力強さで押しまくっている。なんとなくクレンペラーって、女々しい表現は縁がなさそうなイメージがあるが、CDを聴いてもやっぱりその通りの剛毅な演奏だ。
オーケストラは、マーラーの厭世的な気分をあまり感じさせず、運しい力強さで押しまくっている。なんとなくクレンペラーって、女々しい表現は縁がなさそうなイメージがあるが、CDを聴いてもやっぱりその通りの剛毅な演奏だ。
第2楽章「秋に寂しき者」では、オーケストラが遅めのテンポで密やかな雰囲気を出している。弦の音色はは輝かしく、これを聴くと表現主義的なテンポの揺れや歌い方をしなくてもちゃんと寂しい所を表現できることが分かる。
ルートヴィヒの歌唱はさすが。1928年生まれだから、この時36歳。最も脂が乗っていた時期で、1962年にはオーストリア宮廷歌手の称号を受けたほどだ。既に風格を感じるのは、後の活躍を知っているからか?
スケールが大きな歌唱で、声はよく伸びて、高音域には輝きもある。ヴィブラートが大きいのには時代を感じるが、味わいがあって深みがあり、フォルテッシモでの追力、ピアノでの語りかけるような表現力はルートヴィヒ以外では聴くことができないだろう。
クレンペラーは、意外と遅めのテンポを採っていて、第3楽章「青春について」でもじっくりと明確に表現している。
第4楽章「美について」でも、ちょっと遅めのテンポと明確で見通しのよい音楽作りは変わらない。中間部でオーケストラが大活躍する所でもスピードは上げず、音に込める力で迫力を出している。ルートヴィヒが巧みな語り口で、物語を面白く語って聞かせる。もちろん声の力も十分発揮され、多彩な表現力は流石と言うほかない。
第4楽章「美について」でも、ちょっと遅めのテンポと明確で見通しのよい音楽作りは変わらない。中間部でオーケストラが大活躍する所でもスピードは上げず、音に込める力で迫力を出している。ルートヴィヒが巧みな語り口で、物語を面白く語って聞かせる。もちろん声の力も十分発揮され、多彩な表現力は流石と言うほかない。
第5楽章「春に酔える者」では、ヴンダーリヒの豪快な歌に聴き惚れてしまう。声が強いだけではなく、ここでは歌い方が歌詞のイメージとピッタリマッチしていてとても面白い。思わずニヤッと笑いたくなってしまった。
第6楽章「告別」は、テンポを心持ち速めに採り、剛直で張りが深い表現。音色は明るく、健康的なイメージで、退廃的な雰囲気は微塵も感じられない。それでも内容は濃く、迫力は満点だ。
ルートヴィヒの歌唱も、密やかで表現の幅は広いが、神経質な所がなく、暗くならない所がクレンペラーの指揮と指向を一にしている。最後の節「愛しき大地に春が来て、ここかしこに百花咲く」の所は凄い声量で、圧倒的なパワーを見せつけた。
私の持っているCDは古いので、リマスターされた最新盤とは趣が違っているかも知れないが、オーケストラの立体感がよく出ていて一つ一つの楽器の存在感が明確に伝わってくる。1960年代の録音にしてはキレイに録れているが、ちょっと細部のクローズアツプが過ぎる気もする。トライアングルがやたら聴こえて来たり、独奏の管楽器が迫うてくるようなイメージがあったし 。
グスタフ・マーラー
グスタフ・マーラー
「大地の歌」
テノール:フリッツ・ヴンダーリッヒ
メゾ・ソプラノ:クリスタ・ルートヴィヒ
指揮:オットー・クレンペラー(1885‐1973)
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団
収録:1964,66年