Quasi Parlando
T. Mansurian
Ecm Records
2014-03-31


ティグラン・マンスリアン(Tigran MansurianまたはTigran MansUlγan)は、1937年、レバノン生まれのアルメニア人作曲家。私は今まで全く知らない名前だったが、CDは結構出ていて、ECMが継続的に録音を行っている。カシュカシュアンによるヴィオラ協奏曲 なんてのもあった。
 
パトリシア・コパチンスカヤが参加していることがこのCDの目玉と言っていいだろう。あとジャズや現代音楽に造詣が深いドイツのチェロ奏者、アニヤ・レヒナーが参加している。
 
現代音楽と言っても、最近ではー昔前のように前衛一本槍でとにかく何がなんやら分からない音楽ばかりではなく、ハッキリしたメロディがあったり、調性が分かる伝統的な響きでできている曲もある。もちろん前衛的な音楽が廃れたわけではなく、基本的には現代音楽と言えば無調の前衛音楽という枠組みは生き残っていて、要するに何でありの状態で、これからの音楽はこれだ!というものは誰にも分からないのだ。
 
1曲目「ヴァイオリン、チェロ、弦楽オーケストラのための二重協奏曲」。聴衆の耳を惹き付けるようなメロディは見いだせないが、曲としてのまとまりは掴みやすく、全く混沌として何がなんやら分からないという風ではない。

最初は静々と始まり、楽章の中間辺りで激しい音楽になる。弦楽器が鋭く切り込み、不協和昔がギシギシときしみながら迫ってくる。まるで心に刃を突きつけられているような音楽だった。そんな具体的なイメージを思い浮かべることができるのは、調性がなくても曲の構造が把握し易いからだろう。後半はまた静かになり、結構変わった響きが出てきて、意外性を見せてくれた。
 
第2楽章も第1楽章と同じくラルゴの指定があるが、こちらは終始静かなまま。柔らかく伝統的な和声でできた曲だった。

「ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのロマンス」は、名前の通り抒情的な響きが現れていて、このCDの中では一番聴きやすい。断片的ではあるが、どこか東洋的な哀愁漂うメロディも聴かれ、静かな雰囲気と相まって、穏やかな湖の水面を児ているような曲だ。

3曲目には「Quasi(殆ど) Pariando」という題名がついているが、意味は分からなかっ た。②「ロマンス」ほど抒情的な雰囲気はなく、静かでちょっと不安な曲だ。所々調性のある和声が聞こえてくるし、メロディの断片はそこらに落ちているが、何となく掴み所のない曲だった。
 
最後に4楽章の大曲(?)ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための協奏曲第2番「4つの厳粛な歌」が入っている。全楽章通して静かな部分が多いが、第1楽章は中でもとても静か。現れるフレーズが地味で変化が少なく、音数も極端に少ない。ハッキリ言ッて少々退屈だった。
 
第2楽章は弦楽オーケストラが活躍し、後期ロマン派の合奏曲のような感じ。激しいフレーズが色っぽい表現で迫ってきて、例えて言うならシェーンベルクの「浄夜」のようだった。
 
第3楽章はこの作曲家には珍しく、ソロ・ヴァイオリンに複雑なリズムが使っててあり、静かな部分が多くていいアクセントになっている。
 
アタッカで第4楽章に入り、ここではヴァイオリンの長く伸ばした音だけの、静かで単純な音楽に変化する。ビブラートなしで弾かれる弦の音は、まるで氷のように冷たく透明な印象で、その冷たい世界が次第に調性のある暖かい和音に包まれていく様は、じんわりと世界が変わっていくようだった。そして音楽は静かに終わる。
 
ティグラン・マンスリアン(Tigran Mansurian)
①ヴァイオリン、チェロ、弦楽オーケストラのための二重協奏曲
 (Dubbel Concerto voor viool, cello en strijkorkest) 
②ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのロマンス
 (Romance voor viool en strijkorkest) 
③チェロと弦楽オーケストラのための“Quasi parlando"
 (Quasi parlando voor cello en strijkorkest) 
④ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための協奏曲第2番「4つの厳粛な歌」
(Concert no.2 'Four Serious Songs' voor viool en strijkorkest) 
ヴァイオリン:パトリシア・コパチンスカヤ(Patricia Kopatchinskja)
チェロ:アニヤ・レヒナー(Anja Lechner)
弦楽オーケストラ:アムステルダム・シンフォニエッタ(Amsterdam Sinfonietta)
指揮:カンディダ・トンプソン
収録: 2012年10月アムステルダム、ムジークへボウ
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