※本記事は、「」に画像を付け、本文に若干の加筆、修正を施した内容となっています。





 それは、彼女たちの軌跡。

 それは、彼女たちの奇跡。

 彼女たちのキセキの物語。


乃木坂物語

「あのときの答えを、今――」

西野七瀬秋元真夏の物語



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西野七瀬の物語


 8th「気づいたら片思い」、9th「夏のFree&Easy」で2連続センターを務めた西野七瀬。握手はトップクラスの売上、不動の人気を確立しつつある彼女だが、スタート時点から恵まれていたわけではない。

 1st「ぐるぐるカーテン」、2nd「おいでシャンプー」での西野の立ち位置は3列目。福神ではなかった。控えめな性格ながら、内面では反骨心をたぎらせていた彼女がこの結果に納得できるわけはない。次こそ選抜、強い思いで、より一層、活動には力が入ったはずだ。

 そして、つづく3rd「走れ!Bicycle」で、ついに念願の福神に選ばれる。

 この選抜発表を受けた西野は、終始、顔を抑えてはいたが、涙を隠しきれてはいなかった。感情の発露が止められない。その姿は、ひたむきにがんばってきたからこそ勝ち得たもの。


「本当にうれしいです。1回目と2回目のときに後ろの9人のところで、3回目も同じところだったら、頑張りが足りてないんかなって……」

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 西野のがんばりは、確かに届いた。だからこその福神入り。ますますの活躍が期待されたが、4th「制服のマネキン」でまさかの事態が起きる。


 西野七瀬、福神降格。再び3列目へと戻る。


 このとき、西野は泣かなかった。気丈に、はっきりと言葉を紡いだ。それはすべての感情を抑えているかのような、見ていて不自然な姿。3rdで福神に選ばれたとき、感情のあふれるままに言葉を発していた彼女ではなかった。


「前回でずっと目指してた7福神に入ることができて、でもなんか、自分の思った様にちゃんと活動が出来なくてすごい心残りがあって」



 せっかく福神に選ばれたのに、満足な成果をおさめられなかった。自覚はあったが、いざ、この現実を叩きつけられると、そのショックは想像以上だったのだろう。自分の感情を抑えることが精一杯で、周りが見えていなかった。

 だから名前を呼ばれたとき、福神から外れた以上の残酷な現実が目の前にあることに、西野は気づいていなかった。

 そんな西野をよそに、選抜発表は続き、その最後に呼ばれたメンバー。

 それは誰もが予想していなかったメンバー。



 秋元真夏。



 西野はいつ気づいたのだろう。

 残酷な事実を、いつ、察したのだろう。


 今回の選抜で福神を外れたのは自分だけだということを。

 その福神に入ったのは、復帰をしたばかりの秋元真夏だということを。

 目の前のポジションにおさまった私服姿の秋元を見て、彼女はなにを思ったのか。

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 環境が変わる。がらりと変わる。勝ち得たはずの福神を外された。それも自分だけ。そこにおさまる秋元の姿。秋元真夏が自分の代わり? 彼女に恨みがあるわけではない。一緒にがんばってきた仲間。これからがんばっていく仲間。そう、仲間。仲間だ。


 でも……。


 西野の心に刃が生まれる。その切っ先は、静かに前方の背中を指し示す――。
 




秋元真夏の物語



 秋元真夏さん。

 そう名前を呼ばれたとき、バナナマン設楽が、「秋元さんは(乃木坂に)いましたっけ?」という反応を見せている。おそらく、ほとんどの視聴者がそう思っただろう。その後、画面に映る秋元を見ても、「だれ?」という意識が拭えなかったかもしれない。

 秋元真夏は紛れもなく、乃木坂46の1期生。1st発売前の暫定選抜メンバーに選ばれるほどの逸材だったが、在学していた高校から芸能活動の許可が下りなかったため、乃木坂46のメンバーでありながら、活動を休止せざるを得なかった。

 その秋元が、大学進学を決め、帰ってきた。しかも復帰してすぐ福神という高待遇。このとき他のメンバーの胸に去来した感情はなんだったのか。

 選抜として、福神としての心境を聞かれた秋元は、涙ながらにこう語っている。



「最初からこんな素晴らしい位置をいただいて、とても嬉しいんですけど、私がこんな良い位置に行かせて頂くのには、疑問がある方もいると思うんですよ」

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 その言葉は誰に向けられたものか。カメラを見つめる彼女の視線の先に、その答えはない。心の目が向いた方向にこそ答えはある。

 秋元は続ける。


「でも、その疑問もなくなるように、チームで、みんなでがんばっていけたら良いなと思っています」


 それは彼女なりの精一杯だったのだろう。みんなが、がんばっている姿を見ているからこそ、自分もがんばっていきたい。そうすることでしかみんなは納得してくれないし、自分自身も納得できない。その現れだったのかもしれない。

 秋元はがんばることを決めた。実際にがんばった。スカイダイビングもこなした。丁寧なブログで人気を高めた。熱烈な握手でみんなの心をつかんだ。ファンも認めだした。メンバーとの仲も深まった。

 しかし、秋元は気づいていた。いくら努力をしても、いくら認められても、決して拭えない違和感。近寄りたいのに、距離を詰めたいのに、仲良くなりたいのに……どうしても近寄れない、どうしても距離が詰められない、どうしても仲良くなれない――。


 ――ふたりを分かつ刃を持つ、そんな彼女の存在に。





別々の物語


 4thシングル唯一の福神落ちをした西野と、復帰早々にその枠へとおさまった秋元。彼女たちの不仲はファンにとって定説となっていた。それを裏付けるかのように、お互いがお互いのことを口にすることはほとんどなく、同じ写真に収まることも滅多にない。

 後のインタビューで、ふたりは溝があったことを認めている。不仲とまではいかなくても、ふたりの間には、目に見えない壁が確かに存在していた。


 西野に生まれた刃。それは、西野自身にもどうしていいか分からない異物となっていた。本音は秋元と同じ。しかし、急に距離を縮める勇気がない。人付き合いが苦手な西野にとって、誰からも好かれる秋元の存在はまばゆく、逆にそれが遠ざかる原因だったのかもしれない。

 どう接していいのかわからない。近寄りたい、仲良くなりたい。でも、心の刃がそれを許してくれない。あのとき生まれた刃。決して秋元のせいで自分が福神から外れたわけではない。けどそう頭では理解していても、心が納得しない。そんな感情の軋轢が、さらに刃を鋭利に変える。

 

 このときの西野は知らなかった。秋元が刃を持て余す自分と、距離を詰める努力をしていたことに。



 秋元は、復帰してすぐ福神という待遇に納得しないメンバーがいることを知っていた。だからこそ懸命に努力し、みんなに溶け込めるよう、時間をかけて距離を詰めていった。それは西野との距離も同じ。西野との間に溝があることは分かっている。だからいきなりそれを埋めようとせず、少しずつ、少しずつ、近づいた。

 ときには西野の持つ刃に傷ついたこともあるだろう。それでもくじけない。決して諦めない。秋元は分かっていた。その刃は決して、自分を傷つけるためにあるのではない。西野自身、刃をどうしていいのか、分からなくなっているはず。だったら、自分がその刃を、叩き割る。どんなに時間をかけても。

 西野と一言かわす。ただ、それだけのことでも、秋元にとっては、「やったー!」と叫ぶぐらいに嬉しいこと。なぜなら、その小さな積み重ねこそが、西野の刃を崩すきっかけとなることを知っていたから。



 そんな秋元にほだされてなのか、自身の環境の変化のせいか、西野もまた、秋元との関係を修復したいと思いはじめる。しかし、胸の刃が邪魔をする。秋元に近寄ることができない。



 気持ちは、同じはずなのに――。



 秋元と西野はこうして、ちぐはぐな関係を埋められないまま、乃木坂46デビュー2周年記念ライブへと望むことになる。




ひとつの物語



 
 あるナレーションを撮り終えた西野は、言葉では言い表せない感情にさいなまれていた。それは、距離を感じていた、秋元へのメッセージが込められた内容。

 まだ迷いはあった。縮まらない距離、埋まらない溝。果たしてこれが流れることで、ふたりの関係はどう変わるのか。ナレーションを撮り終えたあとも、西野の気持ちは定まらなかった。

 そんな複雑な胸中をよそに、横浜アリーナという大会場でライブは幕を開ける。

 西野がどんなナレーションを撮ったのか。それはメンバーの誰もが知らなかった。リハーサルのときですら、ナレーションは流れない。西野の緊張は徐々に高まる。これまでのふたりの関係、そして自分自身の行動を思い起こせば、それが流れたとき、なにが起きるか想像ができない。

 

 そして、その時はくる。

 乃木坂46の歴史において、語り継がれるべき名場面。


 それは運命の曲、「制服のマネキン」の前に流れたナレーションからはじまる。




「あのときは言えなかった言葉でこの曲をはじめます」




 あのとき――、福神から外れ、復帰したばかりのメンバーの背中を見つめたあの日。心に刃が生まれた、あの瞬間。




「真夏、おかえり」




 伝えられなかった言葉。言えなかった言葉。本当はもっと早くに言わなくちゃいけなかった、言葉。
  
 それを。

 今こそ、届ける。

 あのときの、答えとともに。




「一緒にがんばろう」




 ――みんなでがんばっていけたらいいなと思います。


 復帰した直後の秋元の言葉に対する答え。遅すぎる答え。しかし、確かな答え。西野はあのときの秋元の思いを今、受け止める――。



 ナレーションが流れ終えた西野の視線の先、そこには秋元の姿。涙を流す秋元の姿がある。

 その姿を見て、西野の胸の刃が消え去る。自分自身が生み出していた愚かな武器が消滅する。その瞬間、定まらなかった気持ちが固まる。答えが見えた。そしてすべてが変わる。目に見えるものすべてが変わる。


 ただひとつ変わらないもの。それは目の前の秋元の姿。こんな自分と距離を詰めたくて、ずっとひとりで戦っていた、秋元の姿。


 1年と少し。それは長い時間だった。あまりに長い時間の壁。しかし、そんなものは関係ない。想いを重ねたふたりは、時間も、距離も、溝も、すべてを塗り替える。


 もう、ふたりを分かつものは、何もない。


 先に飛びつき、抱きしめたのは西野のほうだった。秋元が壊そうとしていた壁。それを崩した西野。抱きしめ合う、ふたりの想いは同じ。






 ありがとう、真夏。





 ありがとう、なーちゃん。

 








 ずっと、こうしたかった。


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 ――。


 ――。


 ――。


 別々だったふたりの物語が、ひとつの物語となった瞬間――。

 その時を祝福するかのように、この日一番の歓声がふたりを包み込んでいた。

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 耳を澄ませば、ふたりの笑い声。ふたりには話したいこと、語りたいことがたくさんあるはず。空白だった期間を埋める時間はじゅうぶんにある。しっかりと腕を組み、乃木坂を新たなステージへと導く。ふたりにならそれができる。きっと。





 取材が終わったら撮ろうよ?

 うん、いいよ(笑)

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 1年という空白を、一瞬で飛び越えたふたりに、越えられない壁など存在しないのだから。




ー完ー










【参考】

乃木坂って、どこ?/テレビ愛知

乃木坂46公式ブログ/乃木坂46公式サイト

西野七瀬&秋元真夏「真夏、おかえり」で縮んだ2人の距離/音楽ナタリー

その他、個人サイト、ブログ、動画、等々。




※本内容は、テレビ番組、ブログ、インタビュー等をベースに構成していますが、筆者の想像も多く含まれているため、メンバーの心理状態など事実とは異なる可能性があることを、最後に付記させていただきます。





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