全国の桐生ファンの皆さまお待たせしました!

 桐生大先生の新作でございます!


 "完全オリジナル"をうたった、切なく儚い恋物語。

 某作品に似てる気がする?

 それは勘違いです! 完全オリジナルです!



 今回も「斜めに見える青空」様の「帯」メッセージ付き!

 乃木坂ファンならにやりとできる描写も満載の本作!

 最後の最後まで桐生ワールドにどっぷり浸かってください!


過去の桐生さん作品はこちら



20170211-11

 

桐生です。
過去3作の妄想小説を発表させて頂きましたが、それらの内容が色んな映画やアニメに酷似していると各方面からお叱りを受けました。
調べてみると、驚くべき事にたまたま設定が少し似ている作品を幾つか発見してしまい、今は申し訳ない思いで胸が一杯です。
そこで今回は心機一転、完全オリジナルの設定で、笑いの要素も封印し、現代風のペーソスを加えて全編スタイリッシュな泣ける作品を目指してみました。 
いつもの作風とは異なると思いますが、どうか最後までお付き合い下さい。




今日も、カフンが目に滲みらぁ……
何をしてたかって? そりゃあ、恋をしていたのよ!

恋する文学、はじまる。
(斜めに見える青空)




乃木坂メンバーと「駅のホーム」
星野みなみ 編

作者 桐生



雪が降ってきた。

仕方ない、早々に店じまいするか。

様々な商品を日本全国売り歩いているカリスマ販売員の俺は、昨日から札幌へ来ていた。

しかし運悪く、数年に一度の雪と寒波に見舞われ、時計台近くの広場にはほとんど人気がない。

このまま外にいて風邪でも引いたら商売にならない。

雪が積もりすっかり白くなった商品をさっさと片付け、もっと暖かな南の街にでも移ろう。
そう考えていた矢先、彼女は俺の前に現れた。

雪の中から現れた透き通るように白い肌を持つ美しいその女性は、白い息を吐き、独り言を呟きながら近付いてきた。

「パタパタパタ~♡」

やがて彼女は俺の売り物である健康器具の前で立ち止まった。

「あ!見つけたぞぉ~♡」

本日初めての客ではあるが、絶対声をかけてはいけないヤバイ雰囲気に、俺は黙って様子を見守る事にした。

雪が舞い落ちる中、彼女は躊躇なくその場にしゃがみこみ、売り物の一つである腹筋ローラーを両手で掴んだ。

「元気にな~れみ~ん♡」

そして身体を投げ出すように大きく前に伸ばす…

「イテテテテテッ!」

何やってるんだ!
俺は思わずいつもの商売専用の口調で叫ぶ。

「姐ちゃん!大丈夫かい!」

彼女は地面に突っ伏したまま俺を見上げ恥ずかしそうに笑っている。

「準備運動せずにやったら、めっちゃ腰痛くなった!」
「ったく…雪も降ってんのに危ねえなぁ。」
「田舎モンのハングリー精神ナメてんじゃねーぞ!」
「…姐ちゃん気に入った!それタダでやっから持ってけ泥棒!」

それが俺と彼女の出会いだった。

20170211-09



北海道から南下を続け、俺は久しぶりに生まれ育った街の駅に降り立っていた。

「全然変わらねぇなあ…」

時間に取り残されたような東京下町の冬景色。
駅から参道に進むとやがて一軒の古びた団子屋が見えてくる。
その店先にいた女性店員が俺に気付いた。

「お兄ちゃん!」
「よう、みなみ。元気にしてたか?」
「おいちゃん!おばちゃん!お兄ちゃん帰ってきたよ~!」

「桐か!桐じゃねえか!」
「アンタ帰ってくるなら電話の一本でもくれりゃあいいじゃないか!」
「よう!老夫婦。お迎えはまだかい?しぶといねぇ~」
「ねぇ~お兄ちゃん!」

妹のみなみは口では怒っているが表情は嬉しそうだった。

「桐さん帰ってきたって?」

大声を出しながら隣で印刷工場を営む社長もやってきた。

「おう、零細企業の経営者。頑張って日本経済を支えてるかい?」
「桐さん、零細企業ってそりゃないよ、あんまりだよ!」
「なんだやるのか?このイカ社長!」
「お兄ちゃんやめて!」

賑やかにやっていると突然、透き通るような美しい声が店いっぱいに響いた。

「ごめんくださ~い。」

そこにいた全員の視線が店先に集中する。

「あ!桐さんヤッホー!来ちゃった♡」
「な、奈々未さん…」

ヤッホーのイントネーションに違和感が残る、北の大地、恋の街札幌で出逢った彼女が俺に手を振っていた。

言葉も忘れ見惚れていた俺をみなみがつついてきた。

「お兄ちゃん…」
「お、おう…」
「…妹以外に浮気したら…おこだぞ!」

みなみは何故か機嫌悪そうだったが、俺の心には恋の予感がただ駆け抜けるだけだった。

奈々未の話によると、北海道から東京に出てきたまでは良かったが、水道が止まりガスが止まり、かなり苦労をしているらしい。

「きゅうり、ネギ、絹どうふ。この3つが私の身体を構成しておる3大食材です。」

奈々未は暫くの間、住み込みでこの『きりや』で働く事となった。

「みなみ、奈々未さんと仲良くしてやってくれよな。」
「やりたくな~い。」
「なんで?」
「…だって奈々未さんだから。」

みなみは拗ねたように言う。

「上の存在だから。」

しかしみなみは僅か数日ですっかり奈々未に懐き、今ではまるで仲の良い姉妹のようだった。

「どこだ~?みなみちゃんどこ行った~?」

まるで子どものように二人でかくれんぼをして遊んでいる。

「あっ!見~つけた!」
「見つかっちゃったぴょん!」

見ているこちらまで思わず微笑んでしまうくらい仲睦まじい二人だった。

「みなみ、一眼レフが欲しい!ななみん買って~♡」
「あはっ♡いいよ~なに?」
「冗談だからいい。」

俺も何とか会話に混ざろうとする。
「二人とも、草団子でも食べるかい?」
「だめだよガールズトークだから!男子禁制!」

取り付く島もない。
奈々未はそんな俺を見て笑っている。

「もうねーよくわかんないんだよ
私お兄ちゃんいないからさ。」
「ななみんニオイ敏感だもんね~」

何だか知らないが少し傷ついた俺はガックリと項垂れる。

「脆いですね(笑)」

爆笑する奈々未とみなみ。
俺はこんな幸せな一時がいつまでも続けばいいと願っていた。

しかし、別れはやってくる。

奈々未が北海道に帰ると告げたのは、2月の寒い日の事だった。

「一緒にご飯食べようって言ったら、いいよって言ったのに…行けないから…」

みなみは激しく泣いて部屋に閉じ籠ってしまった。

「奈々未さん、駅まで送るよ。」
「桐さん…ありがとう」

二人並んで駅までの参道を歩く。
これからこの人はこの街に別れを告げるのだ。

「これから…どうするんだい?」
「年金について学ばなきゃなあと思ってる。」
「どうして?」

「努力はウソをつかない。」

奈々未は俺の目を見て言った。

「マスミさんの遺した名言をピックアップしてみました。」

最後まで捉えどころのない人だったが、その憂いを帯びた目はどこか寂しそうに見えた。

とうとう駅に着いてしまった。
ホームに並び別れの時を待つ。

「もう汽車きちゃうね。」
「電車だけどね。」

「もっと駅まで遠かったらいがったのにね。」
「えっ?」

奈々未はうつむきながら呟いた。

「したっけさ、もっと一緒にいられんのにね。」

俺は何も言えずにじっと足元を見つめていた。
北海道の言葉は全然分からないのだ。

やがて規則正しいあの音が聞こえてくる。
そう、俺は電車が近づく気配が好きなんだ。

「達者でな。」
「桐さんも。」

ドアが閉まり電車がゆっくりと動き出した。
すると奈々未はいきなり電車の窓を全開にして身を乗り出すように叫んだ。

「桐さ~ん!」

俺も負けずに叫ぶ。

「幸せになれよ~!」
「今生きてるこの世界が地獄かもしれないし~!」
「ちょっとよくわからない~!」

そして電車は遠く走り去って行った。

「だって…わたし桐次郎さん好きなんだもん…」

ホームにぽつんと残された俺の傍らに、いつの間にかみなみが来ていた。

「奈々未さん行っちゃったね。」

俺は黙って頷く。

「…お兄ちゃんがもったえるのも分かるよ。」
「…お兄ちゃんはもったえるが分からないよ。」

風が冷たくなってきた。

「さてと…」
「お兄ちゃん!また旅に出るの?」
「俺は旅人だからな、風の吹くまま気の向くまま。歩きながら考えるさ。」
「あ、ずるい!お兄ちゃん!この前遊びに連れてってくれるって約束したよね!私と行ってくんなきゃもう遊んであげないぞ!」

みなみは懸命に俺を引き止めようとしているが、意を決し背中を向け歩き出す。

「あばよ。」
「バカアニキ!」

どうせおいらはバカアニキ。
わかっちゃいるんだ妹よ。
こうして俺はまた一つ、サヨナラに強くなっていく。

「鞄は?」
「あっ」

商売道具の鞄を取りに一度『きりや』に戻り、ついでにみなみの作った昼飯を食べて俺は再び旅に出たのだった。

20170211-13




一ヶ月後、カリスマ販売員の俺は厳島神社の境内で商売道具を広げていた。

桜が舞い散る阿岐の宮島の参道を可愛い顔をした姉妹が大声で喧嘩しながら歩いてくる。

「ひめちゃんだって我慢して入りよるんじゃけぇね!」

微笑ましい姉妹に俺は笑いながら声をかける。

「どうした?姐ちゃんたち。」

どこまでも抜けるような青空の下、春の宮島に瀬戸内の爽やかな風が吹き抜けていった。