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ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo6

桜並木の満開の下で
20170513-01



 


ねえ、貴方は幸せですか?

そう響いた声に、僕は全力で答えた。幸せだよ。世界中の誰よりも。


春風の舞う季節、新入社員歓迎の花見で自己紹介をしたとき、眼に入ったのは桜ではなく桜色に染まった貴女でした。

2年ぶり、かな?」

「そうですね。」

「わ、敬語なんか使ってる」

「だって同い年でも2年先輩じゃん…」

「大学院はどうでしたか、新人君?」

「ざ・せ・つ・し・ま・し・た・よ・セ・ン・パ・イ。もう、知ってるでしょう…」

「ゴメンゴメン。でも、社会はもーっと厳しいぞ!」

「はい。」

「だから、疲れたり辛かったりしたら、私に頼りなさい!私になら話しやすいでしょ?」


頼って、頼られて、助けて、助けられて、気がつけば辛いとき隣に居るのはいつも衛藤だった。そして何の因果か、クリスマスまで一緒に残業だった。


「終わったあ!」

「お疲れ様でした!」

「ハハ、もう誰もいないし敬語じゃなくていいよ。」

「あ、そう笑」

「…クリスマスだね。でも残業ってね。」

「んー、でも衛藤とだったし、悪くはなかったかな。」

「あら、どういうことでしょう?」

「どうって…」

「実はね、私も悪くはなかったかな、って思ってる。だって誰かさんと一緒にクリスマス過ごせたんだから。」

「え…」

「でもクリスマスはまだ終わってないんだよね~もう少し誰かさんとクリスマス過ごしたいな~」

「…クリスマスだけじゃなくて、その先もずっと、ってのはダメかな?」

「えっ…」

「やっぱりさ、好きなんだよ。6年前に出会ってから、今でもずっと。沢山沢山支えられて、俺やっぱり衛藤と一緒にいると幸せなんだよ。だから、その分今度は衛藤のこと幸せにしたいし、何よりもっともっと衛藤と一緒にいたいんだよ。」

「…遅いよ。」

「え?

「何年待ったと思ってるのよ!待っても待っても学生の時は何も言ってこないし、院には私は行けないから、就職して諦めようって思って、この会社に入って、そしたらいきなりまたそっちから来るし…」

「…ごめん。」

「…謝るなバカ。」

「はい。」

「絶対に幸せにしないと許さない。」

「はい。」

「絶対にあなたも幸せにならないと許さない。」

「はい。」

「毎日お酒に付き合うこと。」

「はい。」

「あとは…浮気をしない!浮気したら…容赦しないからね?」

「はい。」

「よし!じゃあ早速今晩から付き合ってもらうからね?」

「りょーかい!」


眼前の桜並木に目をやると、彼女の声が聞こえてくる。もう何年前になるのだろう。白髪混じりの頭は中身だけあの頃に戻っていたようだ。

ぼんやりと桜を眺めていると、後ろから歌うような声がする。

「…今年も綺麗だね。」

「桜も、お前さんもな。」

「わたしはもう枯れて何年も経っちゃったよ。40年ぐらい前になるんだよね…ここでお花見したの。あの時のあなたはかわいかったなあ。わたしにガチガチの敬語使っちゃって。」

「そういうお前こそ、今なら絶対穿けないようなミニスカートだった。」

「…それから40年、か。年を取ったね、わたしたち。」

「お互いにお疲れ様でした。」

「お疲れ様でした。あとはゆっくり二人で過ごせるね~。」

「そうだな~。」

「というわけで、はい。」

「なんだい、このチケットは?」

「温泉にでも行こうかな~って。ゆっくりお湯に浸かって、美味しいもの食べて。」

「んで、美味しい酒を飲むんだろ?」

「勿論!」

「よし、じゃあ行こうか。」


咲き誇る桜の花は、二人が歩く先々に桜吹雪を散らしていった。その画はさながら、ライスシャワーが降り注ぐ新郎新婦のようだった。

20170513-02