ねえ、貴方は幸せですか?
そう響いた声に、僕は全力で答えた。幸せだよ。世界中の誰よりも。
春風の舞う季節、新入社員歓迎の花見で自己紹介をしたとき、眼に入ったのは桜ではなく桜色に染まった貴女でした。
「2年ぶり、かな?」
「そうですね。」
「わ、敬語なんか使ってる」
「だって同い年でも2年先輩じゃん…」
「大学院はどうでしたか、新人君?」
「ざ・せ・つ・し・ま・し・た・よ・セ・ン・パ・イ。もう、知ってるでしょう…」
「ゴメンゴメン。でも、社会はもーっと厳しいぞ!」
「はい。」
「だから、疲れたり辛かったりしたら、私に頼りなさい!私になら話しやすいでしょ?」
頼って、頼られて、助けて、助けられて、気がつけば辛いとき隣に居るのはいつも衛藤だった。そして何の因果か、クリスマスまで一緒に残業だった。
「終わったあ!」
「お疲れ様でした!」
「ハハ、もう誰もいないし敬語じゃなくていいよ。」
「あ、そう笑」
「…クリスマスだね。でも残業ってね。」
「んー、でも衛藤とだったし、悪くはなかったかな。」
「あら、どういうことでしょう?」
「どうって…」
「実はね、私も悪くはなかったかな、って思ってる。だって誰かさんと一緒にクリスマス過ごせたんだから。」
「え…」
「でもクリスマスはまだ終わってないんだよね~もう少し誰かさんとクリスマス過ごしたいな~」
「…クリスマスだけじゃなくて、その先もずっと、ってのはダメかな?」
「えっ…」
「やっぱりさ、好きなんだよ。6年前に出会ってから、今でもずっと。沢山沢山支えられて、俺やっぱり衛藤と一緒にいると幸せなんだよ。だから、その分今度は衛藤のこと幸せにしたいし、何よりもっともっと衛藤と一緒にいたいんだよ。」
「…遅いよ。」
「え?」
「何年待ったと思ってるのよ!待っても待っても学生の時は何も言ってこないし、院には私は行けないから、就職して諦めようって思って、この会社に入って、そしたらいきなりまたそっちから来るし…」
「…ごめん。」
「…謝るなバカ。」
「はい。」
「絶対に幸せにしないと許さない。」
「はい。」
「絶対にあなたも幸せにならないと許さない。」
「はい。」
「毎日お酒に付き合うこと。」
「はい。」
「あとは…浮気をしない!浮気したら…容赦しないからね?」
「はい。」
「よし!じゃあ早速今晩から付き合ってもらうからね?」
「りょーかい!」
眼前の桜並木に目をやると、彼女の声が聞こえてくる。もう何年前になるのだろう。白髪混じりの頭は中身だけあの頃に戻っていたようだ。
ぼんやりと桜を眺めていると、後ろから歌うような声がする。
「…今年も綺麗だね。」
「桜も、お前さんもな。」
「わたしはもう枯れて何年も経っちゃったよ。40年ぐらい前になるんだよね…ここでお花見したの。あの時のあなたはかわいかったなあ。わたしにガチガチの敬語使っちゃって。」
「そういうお前こそ、今なら絶対穿けないようなミニスカートだった。」
「…それから40年、か。年を取ったね、わたしたち。」
「お互いにお疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。あとはゆっくり二人で過ごせるね~。」
「そうだな~。」
「というわけで、はい。」
「なんだい、このチケットは?」
「温泉にでも行こうかな~って。ゆっくりお湯に浸かって、美味しいもの食べて。」
「んで、美味しい酒を飲むんだろ?」
「勿論!」
「よし、じゃあ行こうか。」
コメント
コメント一覧 (2)
完全に尻に敷かれてる感が出てますし、浮気なんてした日にはえらい事になりそうだw
もちろんあの美人さんを目の前にそんな事は出来ないでしょうけど
素敵な小説ありがとうございます!
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