「ミスター10月」様より、妄想小説をいただきました。

 今回の主人公は、相楽伊織。

 彼女と過ごす夏の日の一コマが描かれています。


 すっかり小説投稿の常連さんとなったミスター10月様。今回が3回目の投稿になります。ミスター10月様のタグを作成しましたので、ぜひ他の作品もご覧になってください。

ミスター10月様の過去の投稿記事


20170817-09


夏の日と、彼女。

作者 ミスター10月





「やっぱり、ここは最高だなー」
少し高台になった場所にある建物。その窓から見える白い砂浜と青い海、そして水平線。この景色はいつ見ても飽きない。
バンドのベーシストとして活動している僕は、ツアーが終わると決まって都会から離れた、海に近いこの建物で伊織と共に休暇を過ごす。僕たちなりの夏休みの過ごし方だ。
古くなった小さな家を買い取り、屋内をリフォーム、外壁を白く塗装した建物だ。少し小さいがバルコニーも付いている。
「アイスクリーム食べよー」
伊織が僕に呼びかける。アイスクリームが入った器がキッチンのテーブルの上に置かれている。僕は伊織の向かいに座り、アイスをほおばった。彼女もアイスを一口食べる
「んー、冷たくて甘くて美味しい!」
あまりに当たり前のことを口走る伊織に対して、僕は軽く笑ってしまった。
「そりゃそうだろうけど」
「やっぱり、夏に食べるアイスは美味しいね。それに風も涼しいし」
「確かにそれはあるよね」
「そう思うでしょ」
そう言って伊織は笑顔を浮かべる。外見のせいでクールに見られがちだが、それとは裏腹に、ふわふわとした喋り方や可愛らしい笑顔、性格はちょっと天然。それが本来の伊織の姿であり、彼女の魅力なのだ。
「ツアーはどうだったの?」
「うーん、そうだなあ、特に可もなく不可もなくって感じかな」
「そういえば、夜中に突然電話架けてきたことがあったでしょ。しかもかなり酔っ払っていたみたいだし」
「うん、ツアー先で飲んだ焼酎がかなり美味しくてね。あそこまでベロンベロンに酔ったのは久しぶりだったなあ」
「その時に何って言ったか覚えてる?」
伊織がいたずらっぽく尋ねてくる。
「本当に何て言ったか覚えてないんだよ」
「愛してる、とか、好きだよとか、沢山言ってくれたんだよ」
「えー、そうなんだ」
改めて聞かされるとなんだか小恥ずかしい気持ちになる。でも伊織はニコニコ顔だった。
「超うれしくて、興奮して全然寝られなかったんだよ」
「それは悪いことしたね」
「全然気にしてないから」
そう言った伊織のガラス容器の中は空っぽだった。
「アイス、お代わりしてくるね」
「あ、僕のもお願い」
「わかったー」
二つの容器を手にして伊織は冷蔵庫に向かった。
アイスを食べ終え、僕はテーブルの上に上半身を投げ出していた。日頃の疲れが一気に噴き出した感じだった。
伊織に目をやると、洗ったスプーンを丁寧を拭いている。伊織も僕の視線に気づいたようで、僕の方を見る。その表情は何かを語りかけようとしているようも見えるし、ただ黙って僕を見つめてようとも感じ取れる。そんな表情だった。

僕はいつの間にか居眠りをしていたらしい。背伸びをして椅子から立ち上がり、そのままバルコニーに出てみる。伊織はそのバルコニーの手すりの所に立ってにいた。彼女の着ている白のワンピースの裾が風にひらひらと揺れている。
よく見てみると手には何か持っているようだ。僕は伊織の側に近づいた。
「あ、起きたんだ」
「うん。ところでさ、手に持ってるの何?」
「ひまわり。さっき、近くを散歩してたら子ども達に会って、その中の女の子たちから貰ったの」
そういえば、この辺りはひまわりが自生している場所が幾つかある。子どもたちはどこかで摘んだひまわりを伊織にあげたのだろう。
「それでね、女の子に、どうしてくれるの?って聞いたら、お姉さん綺麗だからあげる、って」
照れ笑いをしながら彼女はそう言った。
その美しい顔だちを見れば、女の子がそう言ったのも理解できる。そんな会話をしながら遠くの空に目を向けると、旅客機が飛んでいるのが確認できた。
「あの飛行機はどこに行くのかな?」
伊織が質問してきた。
「うーん、オーストラリアかな?・・・あ、でも、オーストラリアは今は冬か」
「じゃあ、あの飛行機の中は寒いんだね」
「それっておかしくないか?」
「え?あれ?そう言われてみればそうだね」
お互いにクスクス笑う。この天然さにどんなに癒されたことか。
暫く二人で海を眺める。何も会話は無い。それでもとても有意義な時間に思える。
何故そう感じるのだろう?
僕は頭の中でそう考えていた。
『夏休みですから』
そんな声が聞こえた。
僕は伊織の方を向いた。しかし、彼女は目をつむりながら少し下を向いて、潮風の感触を確かめている。
伊織が言ったのか、それともひまわりの呟きだったのか。
風になびく長い髪、そこから覗くエキゾチックな横顔。僕はそれをずっと見つめているだけでなんとも言えない多幸感に溢れるのだ。

20170817-10



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