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第2回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo1

フルーツパーティー
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「カシャッ」「パシャッ」
20××年5月某日。ここは、日本から遥か南に位置する、南国のとある島。
 周囲をエメラルドグリーンの海で囲まれた、常夏のこの島で、今日は、乃木坂46のメンバーの撮影が行われている。
撮影に来たメンバーは、中田花奈、樋口日奈、相楽伊織、若月佑美の4人。
 今回の撮影は、水着での撮影ということで、4人とも水着を着用して撮影に臨んでいる。

 中田の水着は、白のビキニスタイル。常夏の太陽の下、露になった白くて繊細な肌に、水着からはみ出さんばかりの、弾力のある膨らみ。和風な顔の上部に位置する、透き通ったブラウンの瞳は、太陽の光を通して、より透明感を増している。
 樋口の水着は、ライトブルーと白の横縞のストライプのキャミソールに、デニムのショートパンツ。穏やかで控え目な笑顔と、キャミソールの隙間からのぞかせる豊満な肉体が、大人の色気を漂わせている。
 伊織は、黒のタンクトップとビキニ姿。密着した水着にボディラインがくっきりと表れ、ストレートの長い黒髪と相まって、クールで艶のある雰囲気を身に纏っている。
 若月は、花柄の可愛らしいビキニで撮影。いつもはイケメンの男性のような役回りをすることが多い彼女だが、今日は、女の子らしさにあふれた姿をしている。

 撮影は、メンバー毎に撮影チームを作って別々に行われていたが、どのチームも、撮影は順調に進み、午後3時過ぎには、全員の撮影が終了した。

「よし、OK。お疲れ様」
「お疲れ様でしたー」

 撮影が終わって、ホテルへ戻るメンバー達。若月が口を開く。
「あーあ、撮影終わっちゃったね。楽しかったなー」
「ねー。楽しかったよねー。後は帰るだけかー。あ、そうだ、そういえば、うち、今日の差し入れ、楽しみなんだ」
「へー、何なんですか?花奈さん」
「銀座千疋屋のフルーツゼリーなの。確か伊織も好きだったよね?」
「え、そうなんですか!?あれ美味しいですよね。嬉しい!楽しみ」
「私も好き」
「そうだよね、確か若月も好きだったよね。あー、早く食べたい。うち、あれめっちゃ好きなんだよなー」
 そんな話をしながら、4人は、ホテルの楽屋に戻ってきた。

 楽屋に戻り、着替えをするメンバー達。着替えが終わった後、楽屋で4人で談笑していると、しばらくして、中田が、異変に気付く。中田が、差し入れなどが置いてある机の上を見ると、お目当てのゼリーが入った箱が見当たらない。
「あれ?…箱がない。差し入れがない。さっき撮影に出るまでここに置いてあったのに」
 中田が机の上を指さす。
 その箱は、撮影前に、机の上に置かれていたのだが、今見てみると、その場所からなくなっていた。
 中田が周囲のスタッフに聞く。
「え、スタッフさんのどなたか、ここに置いてあった箱、持って行きましたか?」
 しかし、スタッフたちは、皆、知らないと言う。
「え、メンバーのみんなも知らない?」
 しかし、他のメンバーも、首を横に振る。
 現場に不穏な空気が流れる。
 若月がつぶやく。
「これって…、もしかして、差し入れが盗まれたってこと?」
 伊織が反応する。
「え、盗まれたの?本当に?」
 樋口が心配そうな表情で言う。
「いったい誰がそんなことを…」
 中田は、怒りが込み上げて来た。
「…せっかく楽しみにしてたのに。…許せない。これは窃盗事件だわ。絶対に犯人を見つけなきゃ。警察よ、警察!」
 差し入れのお菓子をめぐって、突然、事態は、思わぬ方向に向かうことになった。


 しばらくすると、ホテルからの通報を受けた警察官が、現場にかけつけた。
 現場に到着したのは、3人の女性警察官。3人がホテルの楽屋に到着すると、そのうち、ベージュのコートとハットを身に着けた1人の女性が、警察手帳を示しながら言った。
「警部補の山崎怜奈です。これから、現場検証を行います」
 そして、山崎は、自分の横に立っている、2人の警察官を紹介した。
「こちらは、新内巡査と絢音巡査です」
 新内巡査は、青色の制服に身を包んでいて、紺色のミニスカートから、すらりとした長い脚が見える。表情は、余裕に満ちていて、その佇まいからは、長年経験を積んだベテランのような雰囲気を感じさせる。
 絢音巡査も、新内巡査同様、青色の制服に、紺色のミニスカート姿である。こちらは、冷静な表情で、目は、真っすぐに前を見ている。
 中田が山崎に訴える。
「メンバーの大事な差し入れが盗まれたんです。どうか犯人を見つけてください。お願いします」
 すると、山崎の隣にいた新内巡査が、自信に満ちた表情で言う。
「任せてください。私たちが来たからには大丈夫です。必ずや、犯人を見つけて見せましょう」
(あれ?私が言おうと思ってたのに…)と山崎は思ったが、先に言われてしまったので、仕方なく黙って聞いていた。

 いったん気を取り直して、山崎が口を開く。
「さて、では捜査を始めるとするか。…ん?」
 山崎が、ふと横を見ると、彼女たちの傍に、見知らぬ小さな女の子がしゃがんでいた。その女の子は、茶色のベレー帽をかぶり、赤い蝶ネクタイをしている。右手には、黒色の虫眼鏡を持って、何やら床の方を見つめている。
 山崎が、女の子に声をかける。
「君はどこから入ったのかな?今から私たちはここでお仕事をするから、君は外で待っていてくれない?」
 すると、女の子は不服そうな表情をして言った。
「子ども扱いしないで。こう見えても、私は探偵なのよ。私の名前はみり愛。探偵みり愛よ。今までにあらゆる難事件を解決してきたんだから」
 山崎は、一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに元の表情に戻り、あしらうような口調で答える。
「はいはい、分かった分かった。それじゃあ、捜査の邪魔にならないように、あっちの方でやっていてね」
「あれ?全然信用してない…。くっそー、こうなったら、絶対私の方が犯人を先に見つけてやるんだから」

 ほどなくして、山崎警部補、新内巡査、絢音巡査、探偵みり愛の4人は、それぞれ、現場に散らばって、捜査を始めた。防犯カメラの映像がないか。指紋や足跡が残されていないか。犯人が現場に遺留したものはないか。
 部屋の中を調べたが、どうやら、部屋には、荒らされた形跡はないようだ。撮影前に差し入れの箱が置かれていた机の上には、現在は、紙コップ、2リットル入りのペットボトルのお茶、ティッシュの箱、別の差し入れのお菓子が置かれている。
 現場検証に加え、メンバーやスタッフ、ホテルの従業員からの事情聴取も行われた。
 捜査の結果、有力な物証は見つからなかったが、目撃者が1人いることが分かった。それは、最近このホテルに新しく雇われた、日本人の女性従業員である。彼女によると、何者かが差し入れの置いてあった部屋から出るところを、偶然見たとのことである。その者は、女性用の水着のようなものを身に着け、帽子をかぶっていたとのことだ。ただ、女性従業員は、その者のことは、すれ違うときに一瞬見ただけだったので、相手の顔までは分からなかったらしい。
 目撃者の話を聞いて、山崎が口を開く。
「水着のようなものねえ…。今日、水着を着ている可能性のある人物といえば…。確か、今日は、乃木坂46のメンバーが水着で撮影をしているらしいですね。…すると、犯人は、撮影に来たメンバーの中にいるということか…」
 その言葉を聞いて、若月が驚いて尋ねる。
「え、まさか、メンバーの中に犯人がいるって言うんですか?」
 山崎が答える。
「その可能性があるということです」
 周囲が俄かにざわつく。

すると、山崎の横にいたみり愛が、突然、何かひらめいたような表情をして言った。
「私、犯人が分かった」
山崎が驚いて尋ねる。
「え?もう犯人が分かったの?」
「分かったわ」
周囲のざわめきが強まる。
「いったい誰?」
みり愛がおもむろに口を開く。
「それは…犯人は…、花奈さん!」
いきなり名前を呼ばれた中田が、驚いて声を上げる。
「え!?うち?何で?」
みり愛が答える。
「だって、花奈さんスイーツ好きじゃないですか」
中田が慌てて反論する。
「違う、違う。確かにスイーツは好きだけど、絶対うちじゃない」
「え~、違うんですか~?」
「違うよ~」
すると、みり愛はがっかりした様子でつぶやいた。
「そうかー、犯人は花奈さんじゃないのかー」

みり愛と中田のやりとりが終わると、次に、新内巡査が、自信ありげな様子で話し始めた。
「ふっふっふっ、私には分かってしまいましたよ。犯人は…、ひなちまだ」
「え~、私じゃないよ~。まいちゅん何で~」
新内が推理を始める。
「みなさん、いいですか?ちょっと思い出してみてください。4人のメンバーが撮影から戻って来るときの会話を。…最初に花奈ちゃんがゼリーの話をしたとき、伊織と若はその話に反応して会話を始めた。しかし、ひなちまだけは、その場にいたにもかかわらず、その会話に参加していなかった。それはなぜか。それは、その会話がされた時点で、すでに自分がゼリーを持って行ってしまっていたため、自然な流れで会話に入ることができなかったから。そういうことです。どうですか、みなさん。完璧な推理でしょう?」
すかさず中田が口を挟む。
「え、それって関係なくない?それだけじゃ証拠にならなくない?」
新内はそう言われると、あごに左手を当てて、考え込む。
「そっかー、確かに、言われてみればそうか。じゃあ、違ったかー」

少し間を置いて、山崎がぼそっと言う。
「もしかして…犯人は、伊織?」
「何で!?」
「いや、何となく」
「何となくっておかしいでしょ!」
山崎が悩ましげにつぶやく。
「伊織でもないか…。うーん、分からないな~。もう一度目撃者に聞いてみるか」
そう言うと、山崎は、目撃者の従業員に話しかけた。
「顔は見ていなくても、他に何か特徴はありませんでしたか?例えば、背の高さとか、体型とか」
「うーん、身長はそんなに高くはなかった気がします。体型は…どうだったかなあ。細かったような気はします。あと、体の輪郭はあまりなかったような気がします」
絢音巡査がすかさず口を開く。
「犯人が分かりました。犯人は、若月さんですね」
「失礼な!」
「違うんですか?」
「違うわ!」
「けど、目撃者の方の情報によると」
「いや、だって、ここは南の島なんだから、水着を着た女性くらい、いくらでもいるでしょう」
「確かに、それはそうですね。じゃあ若月さんではないんですね」

現場にしばらく沈黙が流れた後、再び山崎がゆっくりと口を開く。
「うーん、捜査は暗礁に乗り上げたな…。どうしようか」
すると、みり愛が、またしても、ひらめいたような表情をして言った。
「ん?もしかしたら、犯人は女性ではないかもしれない」
山崎が尋ねる。「どういうこと?」
みり愛が答える。
「つまり、犯人は女性用の水着のようなものを着ていたっていうから、みんな犯人が女性だと思っているけど、実は、男性が、女性が盗んだとカモフラージュするために、女性用の水着を着て、差し入れを持って行ったんじゃないか、っていうこと」
山崎は感心した様子で言う。
「なるほど…。さすが探偵。その線は考えていなかったわ」
「えっへん」
「すると、犯人は…もしや…」
皆の視線が、部屋の隅に立っている一人の男のもとへ行く。
「え、俺?」
男は、皆の視線を一斉に浴びて、動揺している。黒のジャケットに身を包み、腕を前で組んで立っている男の、ジーンズのポケットから覗いたチェーンが、小刻みに揺れている。
みり愛が疑いの眼差しを向ける。
「怪しい…」
山崎が問いかける。
「何で盗ったんですか?」
男は少し慌てながらも、軽い調子で答える。
「いや、違う、違う。俺じゃない」
新内が詰め寄る。
「違うというなら、違うという証拠を見せてください」
「……………」

辺りに緊張した空気が流れる。すると、目撃者の女性従業員がおもむろに口を開いた。
「いや、私が見たのは男性ではなかったと思います」
「あっ…そうですか…」
「……………」

それでは、一体誰が…。
流れる沈黙。楽屋は、重苦しい雰囲気に包まれた。

すると、その時、ホテルのフロントに一本の電話がかかってきた。ホテルの従業員が電話に出る。
「…はい。…間違って…。…はい。…かしこまりました」
山崎が尋ねる。
「何の電話ですか?」
「実は、その箱、本当は別のお部屋のお客様へお渡しするものだったみたいです…。何らかの手違いで、間違ってそちらに差し入れられてしまったようで…ご迷惑おかけして大変申し訳ございませんでした」
「え、間違いだったんですか?じゃあ、水着を着た人っていうのは?全然関係ない人だったっていうこと?…こんなに捜査したのに…。今までの時間は何だったんだ…」

山崎が落胆すると、新内が山崎を慰めるように言う。
「まあ、いいじゃないですか。一件落着したんですから」
中田が落ち込んだ声で言う。
「ショックー。うちらのじゃなかったのね」
落ち込んだ中田を見て、若月が声をかける。
「まあ、仕方ないよ。間違いは誰にでもあるから」
「まあ、確かにそうね。まあ、今日の撮影は楽しかったから、別にいいか」
「そうだよ、花奈。それより、何かおいしいお土産でも買っていこう」
「そうね」

 こうして、事件は無事解決し、乃木坂のメンバーたちは、帰路に着いた。

―6か月後―

 銀座千疋屋本店の店内にて、中田、樋口、伊織、若月の4名が、テーブルを囲んで談笑している。
「あー、やっぱり美味しいね」
「本当美味しい。さすが千疋屋」
「あ、そうだ、千疋屋と言えば、あのときの撮影のこと思い出しちゃった」
「あー、あのときの撮影ね。そういえば、あんなこともあったね(笑)」
「今出版されてるのって、このとき撮ったんだったね」
「そうそう。でも、このときは、こんなに売れるとは思わなかったね」
「そうね、まさかみんな10万部超えるなんてね」
「そうだね…。このときは南の島だったから、今度は、涼しい所で撮ってみたいね」
「あー、いいね。………あ、もうこんな時間。そろそろ次のお仕事に行かなくちゃ」
「あ、本当だ。じゃあ行こうか。お会計お願いしまーす」
こうして、今日も、乃木坂メンバーは楽しく過ごしているのであった。

めでたしめでたし。

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