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第2回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo2

いつもと違う夏
20170830-01

高校2年の夏。僕は期末テストに追われていた。
僕は昨年、期末テストで赤点を取った。そして、親友と海へ行く約束をしていたが、追試で行けなかった。
「今年は、悔しい思いをしたくない!」
そんな思いを胸に、僕はテストの予習のため、早くから学校へ向かった。


今年の夏は、僕にとって一つの区切りでもあった。10月に父親の転勤で引っ越すことが決まっていたのだ。親友とも過ごす最後の夏休み。たくさん思い出を作っておきたい。
そして、もう一つ気がかりなことがあった。引っ越すことを、まだ話していない人物がいるということだった。

僕には、小学生のころから付き合いのある幼馴染がいる。
「齋藤飛鳥」だ。
飛鳥とは小中一緒で、今は同じ高校へ通っている。
小学生のころは、よく遊んでいた。いつもわがままばかり言って、僕のことをすぐバカにしてくる飛鳥だったが、毎日が楽しかった。そして、そんな飛鳥のことが僕は好きだった。
しかし、その想いを伝えないまま、高校生にまでなってしまった。飛鳥に引っ越しのことを話せないでいたのは、悲しくさせてしまうことが、辛かったからだ。飛鳥とも最近連絡をとっていないし、なんて言えばいいか悩んでいた。

僕は学校に着き、ローファーを脱いで、室内用の靴に履き替えた。
僕は2年B組。飛鳥はC組で学校生活を送っている。
教室に入り、鞄から教科書とノートを出し、テスト勉強を始めた。
予習をしていくうちにクラスのみんなは次第に集まり、テスト本番への時間が近づいて行った。
時刻は9時。期末テスト最終日がスタートした。


「はぁ、やっと終わったー」
本日の期末テスト3教科分が終わり、すべてのテストが終わった。
あとは来週の採点結果を待つのみとなった。
「◯◯、テストどうだった?」と親友に聞かれた。
「ぼちぼちって感じだな。まぁ赤点回避できれば問題ないでしょ」
「そうだよなー。俺もそんな感じだ」
「そんなことより、◯◯。今年の夏こそ海行こうぜ!」
「行く行く!俺が昨年、どれだけ悔しい思いをしたか…」
そう答える僕に、親友は言った。
「そうだな。それに今年の夏は◯◯にとっても、いつもの夏とは違うもんな」
そう、今年の夏は特別だ。

「だから◯◯にとって最高の夏休みにしないとな!」と親友は元気良く言った。
「最高の夏休みにしてやる!」と僕も元気良く言った。
「メンツ揃えないとな。いつものメンバーでいいよな?」
「オッケーオッケー。俺からも声かけるわ」
「じゃあ、そういう感じで。でも◯◯と過ごすのも最後かー」
親友は、しみじみと言った。


同日
テストを終えた私に、親友が話しかけてきた。
「飛鳥、テストどうだった?」
「うーん、まあまあかな」
「私も自信なくって。来年、受験とかもあるし、勉強頑張らないとなって」
「あー、受験ね。ほんと高校生って大変」
私は顎を机につけると、両手を伸ばし気だるそうに言った。
「ねえ飛鳥、ちょっといい?」
「なにー?」
「夏休みさ、海行かない?」
「えっ?」
「ほら、こうやって遊べるのも今年で最後かもしれないし」
「海って、私、水着持ってないし…」
「じゃあ、帰りに見に行こうよ!」
「ええ…水着とか恥ずかしいよ…」
「そんなこと言わないでさ!水着だって、いつ着れなくなるかわからないよ?」
「でも…」
「いつもの夏とは違うものにしようよ!」
「そう言われても…」
「はい!じゃあ、飛鳥も海に行くの決定ね!」
「ちょっと待って!まだ行くなんて言ってない…」
親友のグイグイとくる発言に、何も言葉が出てこなかった。
「いつもの夏とは違う…か」
私の心の中で、いろんな思いが入り乱れた。


放課後。
私と親友は、大型ショッピングモールにいた。
「よし、じゃあ飛鳥の水着を探しますか」
自分のことかのようにウキウキする親友に、私は付いていくしかなかった。
ショッピングモールに入り、水着を販売している店へと向かった。
「ねえ、やっぱ恥ずかしいよ…」
「でもこうしないと、飛鳥って水着着ることもないでしょ」
図星だった。テレビや雑誌を見て、なんでこんなものを着れるのか。私にはわからなかった。

不安な気持ちを胸に、店に到着した。店内はギャルや若い女の子がいた。今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいだった。しかし親友は、そんな私にお構いなしで、店内を歩き回った。
「飛鳥って、何色が好き?」
「水色だけど…」
「じゃあ…これなんてどう?」
そう言って取り出したのは、水色のビキニだった。
「無理無理!こんなの絶対着れないって!」
私は、全力で拒否した。
「試着するだけでも」
「無理!こんなの恥ずかしいよ…」
私は、これ以上水着を見ないよう、両手で目をふさいだ。
「まあまあ、そう言わずに」
そうこうしていると、店員がやってきた。
「ご試着されますか?」と店員が尋ねる。
「試着するの、この子なんですけど。いいですか?」
「ちょっと待って!まだ着るなんて…」と断ろうとする私。
「では、こちらの試着室までどうぞ」と店員は答えた。
「お願いします」と親友は笑顔で答えた。
「そんな…」
私は言われるがまま、奥の試着室へと連行された。絶対恨んでやる。私は心の中で、初めて親友を恨んだ。

5分後
「飛鳥、ちゃんと着た?」
試着室の前から親友の声がする。
「着たけど…」
私は恥ずかしさのあまり、ほとんど声が出てなかった。
「じゃあ、失礼しまーす」と言い、親友はカーテンを開けた。
私は恥ずかしさのあまり、顔を覆った。
「ヤバイ!可愛いよ、飛鳥!」と興奮気味に言う親友。
「やめて!もう恥ずかしいよ!」
私は顔を真っ赤にし、すぐさまカーテンを閉めた。
「水着はこれで決定ね」と満足気に言う親友。
「絶対買わないから!」と私は断固拒否の姿勢を見せた。
すると、奥から店員が声をかけてきた。
「お客様、いかがでしたでしょうか?」
「この水着ください」と勝手に話しを進める親友。
「買わないです!」と私は遮った。
「いや、絶対買います!」
親友も言っても引かない姿勢。
「どうなさいましょうか」と困惑する店員。
すると親友は、信じられないことを言った。
「じゃあ、私と飛鳥がじゃんけんして、私が勝ったら買うってことで」
「なにそれ!?」
「会計は私が出すから。ね?いいでしょ?」
「いや、そういう問題じゃなくて」
私は反論しようと思ったが、通用しないと思い、決断した。
「じゃあ、私がじゃんけんで勝ったら、水着は買わないってことで」
「飛鳥、真剣勝負よ!」
「のぞむところよ」
水着をかけた真剣勝負。
「じゃんけん…!」



「ただいまー」
「飛鳥、おかえりなさい」
「どうしたの。その紙袋?」
「ううん、なんでもない」
「そう。もう少ししたら夕飯できるから待っててね」
「はーい」

私は、自分の部屋へ戻った。
そして紙袋の中をもう一度確認した。
「はぁ…」
つい、ため息が出てしまう。あの時、私はじゃんけんに負けた。そして、海に行くことも決定した。
「もう、最悪」
それ以外の言葉が見つからなかった。私は、水着をタンスの中にしまい、ひとまず記憶から消すことにした。


3日後
期末テストの返却日を迎えた。僕は赤点がないか。気が気ではなかった。
「よーし、じゃあテスト返していくぞー」
僕は、次々と返ってくるテストに目を向けた。


「いやー、良かったな◯◯。今回は赤点なかったな!」
「ほんと良かった!勉強頑張った甲斐があったわ」
僕は赤点を回避し、見事、海行きのチケットを手にしたのだ。
「これで◯◯も海行き決定だな!」
「今年の夏は、いっぱい遊ぶぞー!」
「それでな◯◯。海に行くのが8月10日になったから」
「8月10日な。オッケー!」
「その日の朝10時に最寄りの駅に集合で!」
「了解!」
「じゃあ、その日に、また会おうな!」
親友がそう言うと僕たちは別れた。
「8月10日。飛鳥の誕生日か」
僕は、飛鳥のことが気になっていた。


同日
私と親友は一緒に下校していた。
「飛鳥、海に行く話しなんだけどさ、8月10日に決まったから」
「8月10日って、私の誕生日じゃん!」
「そう。誕生日の日に、飛鳥の水着デビュー」と親友は嬉しそうに言う。
「その言い方、ムカつく。絶対着ないからね」
「またまた、飛鳥ったら。そんなこと言って」
「だって、あんな恥ずかしいの、着れるわけないじゃん」
「とにかく、8月10日。最寄りの駅に11時集合ね」
「わかったわよ。行けばいいんでしょ」
私はムキになって答えた。
「ムキになってる飛鳥も可愛い」
親友は、依然として態度を変えないようだ。
「それとさ、飛鳥知ってる?」
「何?」
「◯◯君、10月に引っ越すんだって」
「えっ?」
「あれ、知らなかったの?」
「聞いてないよ…」
「飛鳥、まだ◯◯君のこと好きなんでしょ?今年の夏くらい、どこか誘ってみたら?」
「うん…」
私は、突然のことに動揺を隠せなかった。
「じゃあ、8月10日。絶対来るのよ!」
「はいはい、行きますよ」
親友と別れた私は頭の中に○○のことが浮かんだ。本当にいなくなってしまうのだろうか。今まで一緒にいたのに、急にいなくなるなんて。いなくなることに対して。そして好きな気持ちを伝えられない自分に対しても、腹が立った。
「もう、なんなの。○○のこと考えると、イライラする」
やりきれない気持ちのまま、自宅へ帰った。


迎えた8月10日。
僕は、最寄りの駅に到着した。すでに、いつものメンバー4人が集まっていた。
「おお、◯◯!今年はちゃんと来れたな!」
「今年でみんなと遊ぶの最後だし、たくさん思い出作ろうな!」
「最後とか言うなって。いつでも集まれる仲だろ!」
親友の一言が、感動的だった。
「よっしゃ!海を楽しむぞー!」
僕たちは、ハイテンションで海へと向かった。


同日。11時。
私は、親友に言われた通り、海へやってきた。
「おっ、飛鳥もちゃんと来たね。偉い偉い」
「もう、バカにしないでよ。来てやったのよ!」
私のほかに、女の子が4人いた。
「じゃあ、早速、海へ向かいますか!」
私たちは、海へ向かった。


僕たちは水着に着替え、一直線で海へと向かった。
「なぁ◯◯。あの女の子めっちゃ可愛くない?」
「お前の好きそうなタイプだな」
そして、また別の親友は「あの子が可愛い」と、それぞれが可愛いと思う女の子をあげていった。
「◯◯、そういえば、齋藤のことまだ好きなの?」
突然の質問に、僕は驚いた。
「どうなんだよ」と、周りの親友たちはニヤニヤしながら聞いてくる。
「好きだけど…」
僕は、小さな声で答えた。
「それで、まだ引っ越すことは伝えてないの?」
「伝えてないよ。だって、なんか悲しいじゃん」
「ちゃんと伝えない方が悲しいだろ」
「それはそうだけど…」
「◯◯。この夏休み中に、齋藤に引っ越すことをちゃんと伝えること。いいな?」
「わかった。ちゃんと伝えるよ」
僕は力なく答えた。
「よし!よく言った」
「じゃあ、続けて遊びますか!」
僕たちは、この後も遊び続けた。


「飛鳥。水着に着替えた?」
「着替えたわよ」
私は、親友と合流した。
「飛鳥、水着着てるんだよね」
「もちろん」
私は水着の上にパーカーと、ホットパンツを着ていた。パーカーのファスナーは一番上が少し開くぐらいまで、ほぼ閉めていた。
「そんなに水着姿を見られるのが嫌なのね」
「だいたい、あんなに肌を出して人前に出ること自体考えられないし」
「飛鳥らしいわね」と親友は笑って答えた。
正直なところ、私のこのやる気のなさを見てがっかりされると思っていたが、それでも親友は私に優しかった。

「とりあえず、海に行きましょ!」
親友の一人が、走って海へ飛び込んだ。私たちは追いかけるように、海へと飛び込んだ。
「ほら、飛鳥くらえ!」
「やったなー!」
私は、やり返すように両手で水を飛ばした。こんなにはしゃいだのは、久しぶりだった。


私たちは一度海を出て、砂浜を歩くことにした。
「飛鳥、◯◯君には引っ越しの話し聞いた?」
「ううん。向こうから話してくれるのを待ってるんだけど、なかなか…」
「そっか。◯◯君、変に気を遣っちゃうところあるからね」
「飛鳥のこと悲しませないようにしてるとかね」
「は?なにそれ。言ってくれない方が、もっと悲しいじゃん」
すると、親友が私に一言。
「飛鳥、◯◯君が引っ越す前に、好きってちゃんと告白したら?」
「いやだ。向こうから言ってくれるまで、私は何もしない」
「もう飛鳥って、そういうところは頑固よね」
私は◯◯のことが好き。そのことを自分から認めたくなかった。

「なんかイライラしてきちゃった。午後は、海の家にいる」
「えーせっかく来たのに」
親友は、ようやく呆れてくれた。
「みんな、飛鳥が体調悪いみたいだから、午後は海の家にいるって」
親友は気を利かせて、みんなに呼びかけてくれた。それ以降、私と親友は別々に過ごした。


夕方
海の向こうには、オレンジ色の夕日が綺麗に見えた。そんななか、親友に声をかけられた。
「◯◯、知ってるか。この砂浜から少し離れたところに、カップルが集まる
デートスポットがあるらしいぞ。行ってみないか?」
「男しかいないのに、そんなところ行ってどうするんだよ」
「まあまあ、行ってみようぜ」
僕は親友に言われるがまま、連れてかれた。


私は、海の家でいつの間にか寝てしまっていた。
「もう夕方か」
海の家から出ると、目の前に広がる海。そして少しずつ沈む夕日に見惚れてしまった。
「飛鳥、迎えに来たわよ」
「楽しかった?」
「ええ、楽しかったわ。私たちナンパされちゃった」
「まさか」と私は笑って答えた。
「もちろん、丁重にお断りしたけどね」
「それでね、その人たちから聞いたんだけど、この砂浜から少し離れた場所に、
デートスポットがあるみたい」
「私たちも行ってみない?」
「彼氏もいないのに?」
「そう固いこと言わないの」
親友に引っ張られ、そのデートスポットまで連れて行かれた。


デートスポットには、確かにカップルがたくさんいた。その中で、僕は一つの女の子の集団を見つけた。
「珍しいな、女の子だけでいるなんて」
その女の子たちに見覚えがあった。僕たちは少しずつ、その集団に近づいていった。そして親友の一人が声をかけた。
「あれ?隣のクラスの…」
「あら!B組のバカ集団じゃない。こんな偶然もあるのね」
それは、C組の女子たちだった。
「どうしてこんなところに?」
「いや、カップルが集まる場所って聞いたから。俺たちもそう聞いてここに。なっ、◯◯!」
「私たちも来て正解だったわ、ねえ飛鳥」
僕と飛鳥は、お互い前へ押し出された。

僕は想定外のことに、言葉を失った。目の前にいる飛鳥は、下を向いて顔を真っ赤にしている。
「じゃあ、お二人さん。そういうことだから!」
そう言うと、僕と飛鳥を残し、全員走って逃げ出した。
「おい!ちょっと待てって!」


しばらくの間、沈黙が続いたが、僕は意を決して話し始めた。
「僕、10月に引っ越すんだ。父親の転勤で」
「本当は言いたくなかったけど。伝えておかないとなって」
飛鳥は、依然として下を向いたままだった。

「それだけなの…」
「えっ?」
「私に言いたいことは、それだけなの…」
「うん…」
「○○は、私のことは好きなの、嫌いなの。どっち?」
「え…?」
「私は、ずっとずっと◯◯のことが好きだった。私がどれだけわがままを言っても、隣にいてくれる◯◯が好きだった。小学生の頃は、私と一緒に手をつないで学校に通ってた。誰よりも私が◯◯の近くにいて見守ってきた」
「飛鳥…」
「ねえ、どうなの!」
飛鳥は、涙を浮かべながら言った。
「僕は…」
「飛鳥は、可愛いから周りの男子からモテる。僕なんかが飛鳥みたいな人と
つり合うわけがない。そりゃ、小さい頃は飛鳥に振り回されてばかりだったよ。我がままばかりで。でも、それが中学、高校ってなったら少しずつ距離が開いてきて。僕じゃなくて、ほかの人を好きになったんだって。だから…」

「なにそれ。◯◯のバカ!」
飛鳥は、その場を立ち去ろうとした。
その時、僕は大声で言った。
「好きだ!飛鳥のことが好きだ!」
立ち去ろうとした飛鳥の足が止まった。
「誰よりも、飛鳥のことが大好きだ!」

しばらく沈黙が続いた。

すると、背を向けていた飛鳥は振り返り、僕のもとに戻ってきた。
「◯◯。目、つぶってくれる」
「なんで」
「いいから、目をつぶって!」
僕は飛鳥に言われた通り、目をつぶった。

「いいよ」
飛鳥の一言で、僕は目を開けた。

目を開けると、水着姿の飛鳥が立っていた。足元には、さっきまで着ていたパーカーとホットパンツがあった。
「どう、水着似合ってるかな…?」
「本当に好きな人の前でしか、こういうの見せたくないなって…」
飛鳥は恥ずかしそうに言った。
「…」
僕は突然の出来事に、言葉が出てこなかった。
「○○のことが好き。これからも、私のそばにいてくれる?」
飛鳥は真剣な表情だったが、その目は今にも泣きそうな感じだった。ここで伝えなきゃいけない。今まで言えなかったことを。
「・・・これからも、飛鳥のそばにいさせてください」
僕は、ようやく想いを伝えることができた。

「手…握って」
飛鳥は左手を僕に差し出し、その言葉に応えるように、僕は右手を出した。僕と飛鳥は海のほうを見つめ、お互いが手をギュッと握った。隣の飛鳥の顔を見ると、泣きながら笑っていた。そんな飛鳥を見て、僕は思い出したかのように言った。
「そうだ、飛鳥。誕生日おめでとう」
「ありがと。こんなに嬉しい誕生日初めて」


その時だ。
「キャー!ロマンチックすぎるわ」
「お前ら、ラブラブじゃねーか!」
僕と飛鳥を置いて逃げ出したみんなが、物陰から現れた。

「ちょっと!まさかずっと見てたの!」
「もちろん。まさか飛鳥から告白しちゃうとは」
「うるさい!うるさい!うるさい!」
僕は何が起こっているのか、わからないままだった。
「◯◯、今回はお前と齋藤に、素直な気持ちを伝えてほしくて、みんなで色々考えたんだ」
「俺と飛鳥のために?」
「ああ、ダメ元で女子たちに頼んだら、乗り気になっちゃってさ」
「もしかして最初から?」
「ああ。でも良かったよ、こうして想いを伝えることができて」
「そういう事だったのか」
僕は、ようやく全てを理解した。

「もうみんなして黙って、サイテー!」
「でも、飛鳥ったら、私たちの前で水着姿見せなかったくせに、◯◯君の前で見せるとは。なかなかあざといわね」
「もう、そういうんじゃないってば!」
飛鳥は顔を赤らめながら言った。そのいじられている姿を見て、僕もつい笑ってしまった。
「あっ、◯◯まで笑った!もう◯◯のこと嫌い!」
「またまた。こんなことして、言い逃れできないのに」
「もー!みんな嫌い!!」
飛鳥の親友は、またも茶化していた。

こうして、僕たちの『いつもと違う夏』は幕を下ろした。


時は過ぎ、10月になった。
僕は、引っ越しの挨拶をしに、飛鳥の家へと向かった。
「向こうに行っても、連絡してよね」
「するって」
「毎日よ、毎日」
「毎日って…」
「それと、ほかに好きな子できたら、許さないからね」
「はいはい」
「ねえ、私は真剣に言ってるの!」
「わかってるって」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
「私が来いって言ったら、すぐ来てね」
「それは無理だろ」
「だって、私のわがままには、なんだって付き合うんでしょ」
「いや、できることと、できないことがあってだな」

僕はこういう会話は、とうぶんできないと思っていたが、意外と早く、また飛鳥に会えるような気がした。そう思っていると、なんだか笑えてきた。
「何が可笑しいのよ」
「いや、またすぐに飛鳥に会えそうだなって」
「じゃあ、もう行くね」
「うん。向こうに行っても元気でね」
「わかった」
「あっ、ちょっと待って」
そう言うと、飛鳥は家の奥に入っていった。そして、戻って来た飛鳥が僕に一枚の写真を手渡した。
「はい、これ」
「ああ、あの時の」
「じゃあ、またね」
「ああ、またな」

飛鳥の家を出た。僕は飛鳥からもらったものを、もう一度見返した。みんなで海に行った時の集合写真だ。
それは、全員が笑顔で『水着姿』で写っている写真だった。

20170830-02