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第2回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo4

パン一の國
20170901-01


「ねぇー!(怒)」

彼女は無茶苦茶怒っている。
無理もないと思う。

「一体どういうこと⁉(怒)」

話せば長くなるのだが、ここは最初から順を追って説明しなければ決して彼女に理解してはもらえないだろう。
僕はとある地方都市のごくありふれた一般家庭で育った。
幼い頃から元気だけが取り柄だった僕は近所の子どもたちと…

「違う!いま!この状況だけ説明して!(怒)」

そうか。では、何故僕がいま彼女にブチギレられているのか、その理由だけにポイントを絞って説明しよう。

彼女は乃木坂46と言う超人気アイドルグループの選抜メンバーなのだが、ひょんな事から僕と知り合い、いつしか付き合うようになった。
本当はドラマチックな出逢いから交際に至るまでの経緯もたっぷりと語りたいのだが、当の彼女が今にも更なる怒りを爆発させそうなので残念ながら省略する他はない。

今を時めく超人気アイドルだけあって凄まじく多忙な日々を送る彼女だが、久しぶりに1日だけ休みが取れたらしく、僕たちは初めて二人だけで遠出する事を決めた。

「どこ行きたい?」

「うーん…選べない♡」

「どこにでも付き合ってあげるよ。」

「じゃあ…富士山!」

「えっ? だってお仕事でも登ってなかった?」

「いいじゃん!頂上でお願いしたい事あるの!お願い♡」

そんな訳で目的地は富士山頂と決まった。
但し、富士山麓までの道中は二人きりのところを一般の方や週刊文春に目撃される危険が大き過ぎるため、今回は登山口のある五合目で待ち合わせする事にした。
ちなみに彼女は登山口まで父親の車で送ってもらう段取りになっている。

そして約束の日の前夜、彼女との初遠出にすっかり舞い上がっていた僕は、待ち合わせの朝まで待ちきれず深夜から富士山へ向かい愛車を走らせていた。

ヘッドライトに次々と照し出される曲がりくねったアスファルト。タイヤを切りつけながら暗闇を走り抜けていく。
カーステレオで乃木坂名曲集を聴きながらノリノリでハンドルを握っていた僕は、突然ある事を思い出した。

「富士山か…」

僕の愛車のトランクには、ある水着が入っている。
その水着とは、まだ彼女と付き合って間もない頃に新宿伊勢丹で購入した超クールなビキニパンツの事である。
いつの日か二人で海に行く事を妄想していた僕にとって、偶然見つけたそのビキニパンツはまさに神様からの啓示のように輝いて見えた。

ただのビキニパンツではない。
金色の糸がきめ細かく幾重にも織り込まれた生地の高級感、そして、股間に大きく刺繍された金色の富士山のインパクト。
全てが素晴らしいとしか表現しようのない先鋭的なデザインに一目惚れだった。
即決36回払いで購入する時、僕は誓った。

いつの日か必ず、このイカした金富士ビキニを履いて彼女と砂浜で戯れるぞ!

その情景を妄想しているうち、いてもたってもいられなくなった僕は、アクセルを踏み込みスピードを上げる。
そして、深夜の富士登山口駐車場に到着するやいなやトランクからそのビキニを取り出してみた。

面積は最小限に、滑らかな手触りまでもがラグジュアリーな至高のビキニパンツ。
待ち合わせの夜明けまでには、まだかなり時間がある。
これはもう履かずにはいられない!

しかし流石に車中でパンツを脱ぐわけにもいかない。

まだ暗く誰もいない駐車場を見回すと、裸電球に照らし出された公衆トイレが目に入った。

よし、あそこで着替えよう!

途中、車上荒らし注意の警告看板に気付いた用心深い僕は、車内の貴重品、携帯、財布、全てを持ってその公衆トイレへと向かった。

トイレは狭く、お世辞にも綺麗とは言い難かったので、入口近くの洗面台に全ての荷物を置き個室へと入る。
ご機嫌な僕は、鼻歌交じりで衣服を脱ぎ始めた。

「♪更衣をするのはーいけないことかー♪」

そして、バスタオルも巻きつけず、10秒もかからず、遂に念願のビキニパンツへと股を通したのだった。

うーん、いいじゃないか。

ギリギリまで攻めた斬新なデザインもさることながら、この素肌に吸い付くような最高のフィット感。
誘蛾灯の光に煌めくビキニパンツを見下ろしているうちに、こうなったら全身を見てみたいという衝動に駆られる。
しかし残念ながら洗面台に鏡は無かった。

…まだ全く人の気配も無い事だし、車まで戻ってミラーで確認するか。

トイレから顔だけ出し周囲を確認するが、まだ辺りは真っ暗で依然として人の姿はない。

よし!今なら大丈夫!

ビキニパンツとサンダルだけのあられもない姿で、自分の車へと小走りで向かう。

「♪水着よりー官能的にー♪」

愛車に颯爽と乗り込み、車内灯を点けバックミラーを調整する。
そして座席で腰だけをくいっと持ち上げ、じっくり自分のビキニ姿を鑑賞してみる。

うんうん、いいじゃないか。

金色のビキニパンツは車内灯の光をキラキラと幻想的に反射し、僕の予想を遥かに超えるゴージャス感を醸し出している。
いつまででも見ていられる、とはこの事だろう。

思わず感嘆の独り言が漏れる。

「ラックス、スーパーリッチ。」

特に意味は無い。

時を忘れるほど自分の海パン姿に見惚れていたのだろうか、いつの間にか遠く東の空が白み始めているのに気付いた。

ヤバい、そろそろ他の登山客が来るかもしれない。

慌てて車を出て小走りに公衆トイレへと戻る。
そして、先ほど洗面台に置いた荷物を…

「…ない!」

確かに洗面台に置いたはずの服、携帯、財布、全てが跡形もなく無くなっている。

「やられた…」

しかし不運はそれで終わらなかった。
愕然としている僕へ追い討ちをかけるかのように、今度は突然、駐車場から車の急発進音が響く。

「しまった!」

慌ててトイレを飛び出したが時既に遅く、盗難された僕の愛車のテールライトが山道を遠ざかっていくのが見え、やがて遥か彼方へと消えていった。

「Wやられた…」

もはや身につけているものと言えばビキニパンツとサンダルだけ。
富士登山口にほぼ裸の姿で放り出された僕には、公衆トイレの陰に身を潜め、彼女が来るのを待つ事くらいしかできなかった。

やがて完全に夜が明け、この駐車場にも登山客が続々と到着し始めた。
助けを求めたいのは山々だが、流石にこの格好で他人の前に出ていく勇気はない。

無間地獄のような時間を何とか耐え忍んでいると、とうとう彼女がパパの車で到着するのが見えた。
本格的な登山ルックでも、その天使のような可愛さは隠しようもない。
トイレの陰からじっと様子を窺い、パパが車で去るのをしっかり指差し確認した後、ようやく僕は彼女の前に姿を現す事ができた、と言う訳なのだ。

「と言う訳なのだ……じゃないわ!(怒)」

「申し訳ない…」

全てを正直かつ丁寧に説明したのだが、彼女の怒りは一向に収まりそうにもなかった。
無理もない。だって僕はパンツ一丁なのだから。

「ほんとムリなんですけど!(怒)」

「ですよね…」

そんな僕たちを、他の登山客たちが怪訝そうな顔でチラ見しながら通り過ぎていく。
彼女は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしているが、ほぼ裸の僕を直視する事はできないようだった。

「そもそも、そのデザイン自体あり得ないんですけど!(怒)」

「そこは見解の相違かなぁ…」

「裸になってどうするつもり⁉ このまま麓まで歩いて行くの⁉(怒) もうやだー(泣)」

「本当に面目ない…」

激おこの彼女はやがて怒り疲れたのか、深くため息をつき哀しげな表情を浮かべた。

「悲しいな…この山を登れないなんて…」

しかし、僕は既に決心していた。

「登ろう。予定通り。」

「は⁉」

彼女は恐怖と絶望の入り混じった表情で僕を見つめる。

「…狂いましたか?」

「いや、僕は本気だよ。」

僕は彼女の肩に両手を置き優しく語りかける。

「ようやく取れた休みでしょ? この機会を逃したら次に休めるのはいつになるか分からないよ。さぁ、一緒に頂上を目指そう。ね?」

「その格好で言われても一切頭に入ってきません…」

「いいからいいから!さぁ!行くよ!」

貴重な休日を僕と一緒に過ごすと決めてくれた彼女。
その優しさに応えるためにも、彼女の願いを全力で叶えてあげるのが僕の役目だ。
たとえこの身が果てようとも、必ず山頂まで辿り着いてみせる。

完全に吹っ切れた僕は、もう周囲の白い目を一切気にする事なく元気に山頂を目指し歩き始めた。
そう、ビキニパンツとサンダルだけで。
そんな僕の背中に向かって彼女が絶叫する。

「露出狂クライマーかコノヤロー!(怒)」

「大丈夫大丈夫!さぁ!行くよ!」

「…誰か…助けてください…」

しかし完全装備の彼女は、渋々ながらも僕の後をついてきてくれた。
しばらくは口も利いてくれなかったが、六合目に差し掛かる位から、ようやく僕の水着姿にも慣れたのか横に並んで歩いてくれるようになった。

「どうしてこんな事に…」

「足元に気をつけるんだよ。」

「パンイチで言うな!」

六合目を過ぎた頃、体感気温が一段と下がってきたのを感じた。
そう言えば今思い出したが、富士山って頂上辺りが何となくビジュアル的に白くなっていなかっただろうか?
しかし今さら引き返す事などできない。

「…ねぇ、何でそんな格好なのに登ろうと思ったの?」

「大切な人との約束は必ず守る。それが僕のポリンキーだからね。」

「……」

「大切な人との約束は必ず守る。それが僕のポリシーだからね。」

「……」

おかしい。確か1日に10回以上ギャグを言ってくれるような男性がタイプと言っていた筈だが、これでは話が違う。

それでも僕は自分を奮い起たせるかのように、元気に歌いながら登山を続ける。

「♪気づいたらー肌寒いーいつの間にかこれだったー♪」

「……」

「♪受け入れるしかなーいねー♪」

「替え歌うざい!(怒)」

「ごめんなさい…」

七合目を過ぎると寒さは更に厳しさを増し、とても裸では耐えられないレベルになってきた。
小刻みに震える僕を見て、流石に心配になったのか彼女が声をかけてくれた。

「…ちょっと…ホントに大丈夫?」

「全然!頂上は太陽に近いから逆に暖かくなったりして!逆に!あはは。」

「……」

もちろん冗談だが、少し分かりにくかったか。

余りにも反応が無いので、秋元さんのように派手にコケて分かりやすい笑いを獲りにいきたい誘惑にも襲われたが、この岩場でパンイチでコケれば確実に大怪我しそうである。

強烈な寒さに耐えながら更に頂上を目指していると、50m程先の岩場の上から4人の少年たちがこちらをじっと見下ろしているのに気付いた。

少年たちは全員、剃り落とした眉に黒いマスク、特攻服に木刀と言う、まるでヤンキーのようなファッションをしている。
ここは富士山だと言うのに、場違いな格好にも程があると言うものだ。
しかし山のマナーとして、僕は爽やかに大きな声で挨拶をする。

「お早うございまーす!」

「……」

はて?返事がない。本物のヤンキーのようだ。
もう一度挨拶してみる。

「お早うございまーーーす!」

ようやくリーダーらしい少年が口を開いた。

「あの…ちょっとよろしいですか?」

「いいですよ。」

「僕たちは見ての通りヤンキーなんですが、15で不良と呼ばれて以来、触るものみな傷つけてきたんです。」

「なるほど。」

「だけど、いつまでも悪さばかりしている訳にもいかないので、社会の役に立つ人間になろうと全員心を入れ替えて、そのケジメのために本日富士登山に挑んでいるのです。」

「それは良い話ですね。」

「しかし…そんな僕らでも、どうしても絡まずにはいられない状況と言うものがあります。」

「なるほどなるほど。」

「なのでやむを得ず、今から因縁をつけさせて頂きます。」

「なるほ…え?」

「テメーそのカッコふざけてんのか!金の海パン一丁って富士山ナメてんだろ!しかも超可愛い子連れやがって!殺すぞ!ぶち殺すぞ!」

「きゃあー!」

彼女が怯えている。
仕方ない、話して分かる相手ではなさそうだ。

パンツ以外なにも身に付けていない僕ではあるが、思えばあの李小龍も成龍も、ほとんど裸と言って良い格好で数々の敵を倒してきたのではなかったか。
まぁ僕ほど露出度は高くなかった気もするが。

僕は彼女を自分の後ろに下がらせると、覚悟を決め4人のヤンキーと対峙した。
そして、蛇鶴八拳と少林寺木人拳をふんわりイメージミックスして、たった今編み出したばかりのオリジナルポーズを静かに構える。

「さぁ、どこからでもかかってきなさい。」

その時、

「こらー!お前たちー!やめんかー!」

振り返ると登山道を初老の警官1人が必死に上ってくるのが見えた。

「ちっ、マッポか。お前たち、ずらかるぞ!」

4人のヤンキーたちは素早くその場から立ち去った。

「ハァ…ハァ…お嬢さん、大丈夫か?」

山の駐在さんらしきその警官は、かなり急いで上ってきたのだろう、肩を大きく上下させ息を切らしている。
そして在りし日の伴淳三郎に良く似ている。

彼女が警官に礼を言った。

「助かりました!ありがとうございます!」

「いやー、登山者から緊急通報があって慌てて駆けつけたんだが、お嬢さんに何事もなくて良かった良かった。」

僕も警官に礼を言う。

「ご迷惑をおかけしました。でもあの少年たちも決して悪い子たちではないんです。出来れば捕まえたりしないで欲しいのですが…」

「は? なに言ってんだ? 通報されてんのはアンタだよ!」

「え?」

「ほとんど全裸の変質者が登山道をうろうろしてるって通報が殺到してんだよ!さぁ、駐在所でじっくり話を聞かせてもらうべ!」

僕は危うくそのまま連行されそうになったが、彼女が必死に状況を説明してくれたお陰で何とか事なきを得た。

「ご迷惑をおかけしました…」

「山頂は雪も風も強いみたいだから、その格好だと確実に死ぬべ!わはははは。」

そう言い残すと、駐在さんは笑いながら山を下りていった。
遠くへ行ったのを確かめて彼女が僕に近づく。

「…守ってくれて…ありがと。」

「当然の事をしたまでさ。」

「…ねぇ、どうして? どうしてそこまでして頂上を目指すの?」

「どうして山に登るかって? それはそこに…いや、とにかく僕を信じて一緒に登ろう。」

「…わかった♡」

その後も僕らはひたすら頂上を目指したが、八合目、九合目と予想を遥かに上回る過酷な環境が続いた。
天候は急変し、激しい風雪に加え雹(ひょう)までが僕の裸身に容赦なく叩きつけてくる。
パンツ以外の全露出部分が霜焼けから凍傷へと変わり、実は駐車場に着く前から症状の出ていた高山病も悪化、そしてボウリングの球ほどもある大きな落石が何度も僕の頭を直撃した。

しかし、幸いな事に彼女には一切被害がなく、元気に登山を楽しんでくれているようで僕はホッとしていた。

鳥居をくぐり遂に頂上へ。

先程までの荒天が嘘のように、標高3,776mの頂は藍より青く晴れ渡っていた。

「着いたね。」

「うん♡」

日本一の富士山頂から二人並んで絶景を眺める。

「じゃあ、お願い事を。」

「え? 何お願いすればいいの?」

登山の目的自体すっかり忘れてしまっている彼女。
しかし、そんなところも堪らなく可愛い。

「じゃあ、僕がお願い事をするよ。」

僕は遥か下界を望む山頂の崖の上で、両足を大きく開き仁王立ちになる。
目の前には壮大な空と大地と雲海がどこまでも広がっている。
彼女もきっと、陽光に煌めくビキニ姿の僕の背中を眩しそうに見てくれているに違いない。

僕は大気の薄さに負けないよう、この素晴らしい世界に向かって大声で歌い始める。

「♪校庭の端でー顔射してたー♪」

「死ね!(怒)」

彼女の全力跳び蹴りを背中に食らい、崖からスカイダイブした僕は、切り立つ急斜面を激しく回転しながら滑落し、山頂から九合目までを僅か1分程で下山する事となった。

ようやく大きな岩に引っ掛かり回転と滑落が止まる。
奇跡的に積雪がクッションとなり、致命的な怪我は無さそうだった。

真っ白な斜面にパンツ一丁で大の字になったまま、独り静かに青空を眺める。
何故か不思議な事に、もう雪の冷たさもあまり感じない。

その場に1時間ほど横たわっていると、やがて頭上の方向から「あ゛ー!」「ぎゃー!」「もうムリ!」という絶叫が徐々に近づいてきた。
そして、必死の思いで下山してきたと思われる彼女が、泣きながら僕の所まで駆け寄ってきてくれた。

「ごめーん!強く蹴りすぎた!大丈夫?(泣)」

「うん!ちょっと両手と両足が折れてる感じだけど全体的に大丈夫!」

「良かった~(泣)」

ピクリとも動かない僕の傍らにしゃがみ込み、涙を浮かべ心配そうに手を握ってくれる彼女。

「首もあり得ない方向に曲がってるけど…本当に大丈夫?」

「大丈夫!それより頂上でのお願い事…できなかったね…」

「ううん、私の願い事は…もう叶ったよ♡」

僕の目を真っ直ぐに見つめる彼女。
登山ルートを大きく外れた富士九合目付近の斜面で過ごす二人だけの時間。
そして僕は彼女にずっと気になっていた質問をした。

「ねぇ、このビキニ…どうかな?」

「うーん…作った人たちを一族郎党、女子供まで皆殺しにしたくなるデザインだけど…」

彼女は満面の笑みで答えた。

「これが、みなみのナンバーワンパンツだよ♡」

そして自分の顔を僕の顔に近づけ、ゆっくりと瞼を閉じた。
首と手足が全く動かせない僕もゆっくりと瞼を閉じる。

しかし次の瞬間、轟音と共に周辺の雪が激しく舞い上がり、山岳救助UH-60JA多用途ヘリコプターが僕たちのいる場所に舞い降りてきた。

UH-60JAはアメリカのシコルスキーエアクラフト社が開発したUH-60ブラックホークを日本が救難目的に独自改良した高性能ヘリコプターであり、三菱重工業がライセンス生産を行っている。
全長は19.76m、最高速度は時速295kmで700-IHI-401Cターボシャフトエンジンを2基搭載している。

僕はホバリングするUH-60JAから降ろされたホイストと呼ばれる救助用ウインチに、パンツ一丁の姿で吊り上げられ無事に機内へと収容された。

「私のおかげよ!みなみのおかげ♡」

どうやら現場に着く前に、彼女が救難ヘリを呼んでおいてくれたらしい。

さっきは何となくいい雰囲気になったところで邪魔をされてしまったが、車も無い僕たちにとって、麓の病院まで一気に運んでくれるヘリは本当に有り難かった。
そして何より、二人寄り添って高度3千メートルの上空から霊峰富士の絶景を眺めるのは本当にロマンチックで贅沢な体験だった。

僕は彼女に優しく語りかける。

「いつか…また来ようね。」

「もう…いや♡」

彼女と僕を乗せたUH-60JAが幸せな未来へ向かって飛翔する。
眩しい太陽の光は眼下に広がる青木ヶ原樹海を隅々まで照らし出し、まるで僕ら二人の門出を祝福してくれているかのようだった。

そう、それはテーマに『水着』を指定してくるような、不埒で邪なノギザカッションには勿体ない程の美しく感動的なエンディング。

そして、雄大な富士山をバックに大きな手書き風文字がスーパーインするのだった。

『終』

20170901-02