「サ-・アダムズ三世乃木坂派」様より、妄想小説をいただきました。


 男子たるもの、誰もが一度は考えるシチュエーションが、ストレートな文体で描かれています。

 あくまで妄想。しかしどことなく現実とリンクする物語。


 この作品を読み終えたとき、あなたは誰を選ぶでしょうか?


20170906-02


小説 乃木の木の下(もと)で

作者 サ-・アダムズ三世乃木坂派




登場人物
主人公:伊藤信介(しんすけ)

中元日芽香

西野七瀬

桜井玲香







出会ってしまった。


何が俺とあの子を引き寄せたのか。


運命か、それとも誰かが仕組んだのか。


いつの間にか、あの子に惹かれてしまっていた自分がいた。


癒しを求めていたのかも知れない。


あるいは、ただ現実から逃げたかっただけかもしれない。


どちらにせよ、好きなのには変わりはない。


こんなにも好きなのに。


こんなにも愛しているのに。


何故、あの子は別れを告げた?


頭が真っ白になった。


何も考えられない。


信じたくない。


君がいなくなるなんて。


「サヨナラに強くなれ」


何処かのアイドルグループの歌にそんな歌詞があった。


そうだ、俺は強くなければならない。


君を笑顔で送り出せるように。


離れたくない。


まだ一緒にいたい。


でも、これだけは言わせて欲しい。


ありがとう。


そしてさようなら。


いつかまた逢うその時まで
俺は強くなれてるかな。


君を一生護れるくらいに。






それは突然だった。

先生「実は、中元が転校することになった。」

俺は一瞬耳を疑った。中元が転校?一体どうして?

「なんでですか?」

誰かが質問した。

先生「家の事情だ。中元が転校するまで仲良くしてやってくれ。」

その日から、中元の転校について突然の事だったためか、「家の事情」と言われているのにも関わらず、色んなことが囁かれるようになった。例えば、

「お父さんの転勤説」

「親が離婚したため、家を出て行かなければいけなくなった説」

さらには「家の事情」というのは嘘で、学校でのいじめに耐えられなくなって転校するとか言った突拍子もない説まで出だした。中元に直接転校の理由を聞き出そうとした者もいたらしいが、

中元「う-ん。ちょっとお家の事情でね、お引っ越ししなきゃならなくなったの。」

こんな感じで、結局具体的な事は何も聞けなかったらしい。

「そっとしてやればいいのに…」

俺はそう思った。中元にもいろいろ事情があるのだから、あまり質問攻めしたら可哀想だと思ったからだ。そんなことを思っていると、LINEの着信音が鳴った。見てみると、なんと中元からだった。

「伊藤君、今日暇ですか?よかったら一緒に帰りたいので、学校が終わったら校門前で待ってて貰ってもいいですか?」

そんな内容だった。断る理由もないので、

「わかった。校門前でな。」

そう返した。

「ありがとう。」

一言、そう返って来た。 

何故だろう。こんなこと、今まで無かったのに。中元とはそこまで仲が良い訳ではないし、そんなに話をした事もない。なら、なんで中元は俺を誘ったのだろう。そんなことを思っていたら、

??「なぁに?誰とLINEしてるん?」

誰かがいきなり後ろから声を掛けてきた。

伊藤「わっ!なんだ七瀬か」

西野「何だって何やねん。うちで悪かったな」

伊藤「別に悪いとは言ってないよ。てか、人のLINE勝手にのぞき見するな」

西野「ええやん。別に」

西野七瀬。俺と同じクラスの関西人で、人との争いを好まないお人好し。そのくせ、たまに俺にちょっかいを出してくる変人でもある。

西野「…」

伊藤「何だよ。言いたいことあんならさっさと言えよ」

西野「あのな」

伊藤「うん」

西野「あのな」

伊藤「何」

西野「…」

伊藤「…」

西野「誰とLINEしてるの?」

俺は思いっ切りずっこけた。

伊藤「そんなに気になるか?」

西野「コクリ」

七瀬が頷く。

西野「だって気になるやん。もしかしたら、うちに言えんような人とLINEしてるの?」

伊藤「何でお前に言えないような人とLINEしなきゃいけないんだよ。というか、お前は何なんだよさっきから」

西野「伊藤君の恋人」

伊藤「ふざけるな」

そう言った途端、七瀬が下を俯き、

西野「うっ…うっ…」

なんと泣き始めたのだ。

伊藤「おい。何で泣いてんだよ」

そう言っても

西野「うっ…うっ…」

まだ泣いてる。泣いてるって言っても嘘泣きなんだけどね。

その泣き声に段々周りが気付き始めた。そして周りが一緒にいた俺を一斉に睨み始めた。どうやら、俺が泣かしたと勘違いしているらしい。どうしようか困り始めたその時、

??「ちょっとちょっと。一体どうしたの?」

俺は顔を上げた。そこにいたのは学級委員長の桜井玲香だった。

桜井「七瀬どうしたの?」

西野「あのな、伊藤君がななにひどいこと言ったの」

桜井「ひどいこと?」

西野「うん。」

桜井「伊藤君、あなた何言ったの?」

玲香が俺を問い詰める。

伊藤「特にひどいことは言ってないと思うけど」

その時、

西野「嘘や!!」

いきなり七瀬が叫んだ。
これには俺も玲香も周りもびっくりした。そんなこともお構いなしに七瀬が言った。

西野「あんた、うちと別れてもないのにもう恋人じゃないってどういうこと?うちがどんだけあんたに尽くしたと思ってんの!」

なんて言い始めた。

伊藤「おい待て!!俺がいつお前と付き合うなんて言った?」 

西野「なんで覚えてないの?おかしいやん!」

伊藤「覚えてないも何も俺、お前に告ってないぞ」

西野「じゃあ、あれはなんだったの?」

伊藤「あれって?」

西野「あんたがうちに告る時、『お前のこと愛してる。一生大切にする』って言ってくれたやん!」

伊藤「だからそんな事言った覚えないって!」

桜井「ちょっと待って!」

玲香が俺らの口喧嘩を止めた。

桜井「来て!」

そう言って玲香は俺と七瀬の手を引っ張り、俺らは何処かへ連れて行かれた。

「面倒な事になったな。中元との約束、遅れないようにしないと…」

そう思っている内に連れて来られたのは、3階にある空き教室だった。中に入り、玲香が

「座って」

と椅子を俺と七瀬に出してくれた。俺らが座るなり、玲香がこんなことを言った。

桜井「一体何があったの?」

西野「あのな、伊藤君がうちと別れてもないのに恋人じゃないって言ったの」

桜井「そうなの?てか、あなたたち付き合ってたの?」

伊藤「いや、俺は付き合った覚えはない」

西野「まだそんな事言うの?ななのこと嫌いになったん?」

伊藤「いつお前を好きになったって言うんだよ」

西野「ずっと前から好きだったって言ってくれたやん」

伊藤「玲香、切りが無いからもう帰ってもいいか?」

桜井「だ-め。ちゃんとお話ししないと」

伊藤「はぁ~。分かった。何があったか話すよ」

俺はとうとう観念した。

伊藤「実は、七瀬が俺に送られて来たLINEをのぞき見したんだよ」

桜井「ふ~ん。ってそれだけ!?」

伊藤「そうだよ」

桜井「たったそれだけ?」

伊藤「うん」

桜井「な~んだ。だったらなんで見せてあげなかったの?」

伊藤「だって…」

西野「あっ!わかった。浮気相手やろ」

七瀬がつかさず言った。

伊藤「いつまでその設定続けんだよ」

俺も言い返す。

桜井「まぁまぁ二人とも」

玲香が俺らを押さえる。

桜井「で、誰からのLINEだったの?」

伊藤「中元から」

桜井「えっ?ひめたんから?何で?」

伊藤「分からない。」

桜井「どんな内容だったの?」

伊藤「一緒に帰りたいから校門前で待ってて欲しいんだってさ」

俺は中元から送られて来たLINEを見せながら言った。

桜井「なるほどねぇ。で、その誘いを受けたっていうワケね。」

伊藤「まぁ断る理由が無いからね」

桜井「う~ん」

玲香が顎に手を当て、何やら考え始めた。

伊藤「どうした玲香。急に考え事なんか初めて」

桜井「不思議なのよねぇ」

伊藤「何が不思議なんだ?」

桜井「だから、なんでひめたんがあなたと一緒に帰ろうとしてるのかよ」

伊藤「ああ、確かに」

桜井「だってそんなに喋ったことないでしょう?」

伊藤「そうなんだよ。だから何でだろうって」

西野「もしかしてやけど」

伊藤「何だよ」

西野「ひめたん、伊藤君のこと好きちゃうの?」

伊藤・桜井「え~~~~~~~っ!!!!」

俺と玲香は二人して絶叫した。

伊藤「何でだよ!だって今までまともに喋ったことないんだぞ?」

桜井「そうだよ!喋ったことない人と何で帰ろうとするのよ。おかしいじゃない!」

西野は落ち着きを払ってこう言った。

西野「ひめたんは転校するやろ」

伊藤・桜井「うん」

西野「転校する前に自分の気持ち、伝えようとしてるんちゃうかな。多分、一緒に帰ろう言うたのはその為の口実だと思う」

桜井「だとしたら、とてつもなく大胆ね。ひめたんは」

伊藤「確かに。まともに喋ったことない人間を誘うんだからな」

西野「どちらにせよ、行くんやろ。ひめたんの所に」

伊藤「もちろん。約束したからな」

西野「じゃあ早よ行き。その代わり…」

伊藤「その代わり?」

七瀬は意を決し、

西野「今度は、ななと一緒に帰ってな」

と、少し照れながら言った。

俺は少し考えてから

伊藤「わかった。今後はお前とだな」

と言った。

それを聞いた途端、七瀬の顔は一気に花開いたかのように笑顔になった。

西野「絶対やで」

伊藤「おう。絶対だ」

西野「絶対に絶対やで!」

伊藤「絶対に絶対だ」

西野「もし、忘れたら…」

伊藤「ん?何だ。言ってみろ」

西野「伊藤君の事、煮込んだるからな。覚えておいて」

伊藤「しつこいなぁ。七瀬は」

桜井「あのぅ」

玲香が遠慮がちに言った。

桜井「いい雰囲気になってる所申し訳ないんだけど」

伊藤「何だ?」

西野「どうしたん?」

桜井「伊藤君、そろそろ行った方がいいんじゃない?」

伊藤「まずい、行かなきゃ。二人ともじゃあな」

桜井「バイバイ」

西野「ちゃんとうちの所に帰ってくるんやで」

伊藤「おう。帰ってくるぜ」

桜井・西野「いってらっしゃい!!!」

玲香と七瀬が力強く送り出してくれた。

勢いよく教室を飛び出した俺は階段を駆け下り、あっと言う間に学校の昇降口に着いた。急いで靴を履き替え、校門へと急ぐ。校門には、少し待ちくたびれた様子の中元がいた。

伊藤「ごめん中元。遅れた」

中元「も~う。中々来ないから心配したんだよ」

中元がプク顔で言った。これには俺もクラッと来た。

伊藤「悪ぃ。クラスのヤツと喋ってたら、楽しくなっちゃって」

中元「クラスのヤツって?」

伊藤「桜井と西野。知ってるだろ」

中元「西野さんと喋ったの?」

中元が何やら不安げな顔で聞いた。

伊藤「そうだよ。それがどうかしたか?」

中元「ううん。気にしないで」

伊藤「わかった。じゃあ行こっか」

中元「うん!」

二人で校門を出、歩き始めた。でも、中々話が出来ない。今までまともに喋ったことがない人と喋れる訳がない。それでも、俺には聞きたいことがあった。

伊藤「なぁ、中元」

中元「うん?なぁに?」

伊藤「中元って転校するんだよな」

中元「そうだよ」

伊藤「どこに引っ越すんだ?」

中元「広島」

伊藤「広島!?何でまたそんな遠い所に」

中元「小さい頃住んでたの」

伊藤「じゃあ地元に戻るって訳だ」

中元「そうなるね」

俺はこれも聞いていいものか迷った。が、敢えて聞いてみることにした。

伊藤「中元」

中元「ん?」

伊藤「何で引っ越すんだ?」

中元「う~ん、どう説明したらいいのかなぁ」

伊藤「複雑なのか?」

中元「少しだけね」

俺はいよいよイヤな予感が当たりそうな気がした。

中元「実はね…」

伊藤「…うん」

中元「私、さっき広島に住んでたって言ったじゃん」

伊藤「言ったな」

中元「実は住んでたのは赤ちゃんの頃の話なの」

伊藤「?」

中元「住んでたのは1歳の時までで、その後お父さんが転勤になったの。それで家族でこっちに引っ越して来たわけ」

伊藤「で、何で広島に戻るんだ?」

中元「お父さんの会社から広島の本社へ戻ってこいって言われたみたい。だから戻るの。広島に」

伊藤「そうなのか…。あっ、それからもう1つ聞きたいことがあるんだけど。」

中元「?」

伊藤「まともに喋ったことがない俺と、何で帰ろうなんて言ったんだ?」

中元「やっぱ迷惑だった?」

伊藤「いや、全然」

中元「あのね」

そう言うなり、中元はいきなり立ち止まり、俺の方を向いた。

中元「伊藤君」

伊藤「なに?」

中元「…」

伊藤「何だよ。言いたいことあんなら早く言えよ」

中元「実は…」

伊藤「…」

中元「伊藤君のこと、ずっと前から好きでした!」

伊藤「え?俺のことが…好き?」

中元「うん」

伊藤「ずっと前から?」

中元「うん」

俺は軽くショックを受けた。まさか、中元からそんな目で見られてたなんて思いもしなかった。

中元「伊藤君」

伊藤「何だ」

中元「別にね、付き合って欲しい訳じゃないんだ。ただ、『好き』って気持ち伝えたくて」

伊藤「そうか。ありがとう。こんな俺に好きになってくれて」

中元「そんな、『こんな俺』なんて言わないで。伊藤君、とっても素敵だよ」

何だか、恥ずかしくなった。そんなこと、初めて言われたから。

伊藤「そうかな。何だか照れるな」

中元「その照れてる顔、かわいい」

伊藤「やめてくれよ恥ずかしいから」

中元「ふふっ」

中元の笑顔が夕日に照らされ、輝いていた。目が涙で潤んで見えたのは気のせいだろうか。

暫く歩き、曲がり角に差し掛かった。

中元「じゃあ、この辺で」

伊藤「うん。じゃあな」

中元「バイバイ」

そう言って、中元は行ってしまった。

伊藤「俺の事、好きになってくれた人がいたんだ」

何だか、何とも言えない気分になった。

その夜、家でゆっくりしていると、七瀬から電話がかかってきた。

伊藤「どうした七瀬。こんな時間に」

西野「ひめたんどうだった?」

伊藤「どうだったって?」

西野「転校の事、何か聞いた?」

伊藤「う-ん。やっぱ家の事情みたいだよ」

西野「そう。」

七瀬が妙にホッとしたような声で言った。

西野「なぁ、伊藤君」

伊藤「どうした?」

西野「他に何か話した?」

伊藤「うん。まぁ」

西野「何話したん?ねぇ、何話したん?」

あまりにも食い気味に聞いて来たことに驚きながらも、七瀬に正直に話すことにした。

伊藤「実は、中元に告白された」

西野「えっ…ひめたんに告白された?」

伊藤「うん。」

西野「好きって言われた?」

伊藤「言われた」

西野「ライバル登場やな」

伊藤「えっ?」

七瀬が慌てて

西野「ううん。何でもない」

と言った。

西野「なぁ、伊藤君」

伊藤「何だ」

西野「実は、電話したのはひめたんのことが聞きたくて電話したんじゃないの」

伊藤「どういうことだよ」

西野「伊藤君に言いたいことがあって電話したの」

伊藤「言いたいこと?」

西野「うん」

伊藤「何だよ。言ってみろよ」

七瀬は意を決したようにこう言った。

西野「伊藤君、いや信介君。君のことが好きです」

伊藤「え?」

西野「付き合って下さい!!」

伊藤「え~~~~~!?」

まさか、1日で2人に告白されるなんて。とてもじゃないけど信じられない。皆、そんな経験ある?

伊藤「俺のこと、好きなのか?」

西野「もう、好きって気持ちが止まらへん。」

伊藤「止まらないのか?」

西野「走り出した恋は、止まらへん。フルスロットルで爆走するんやで恋は」

伊藤「ふっ。何言ってんだお前は」

俺は思わず笑ってしまった。

西野「で、どうする?」

伊藤「何が?」

西野「もう!本当伊藤君って鈍感やね」

伊藤「悪かったな鈍感で」

西野「うちと付き合うのか、付き合わないのか、はっきり言って」

伊藤「急に言われてもなぁ…」

西野「ひめたんとは付き合わないんやろ。ならええやんうちと付き合って」

俺は迷った。いくら中元と付き合わないとは言え、七瀬と付き合うことになると中元の気持ちを裏切ってしまうかも知れない。

伊藤「一日だけ時間をくれ。じっくり考えさせて欲しい」

西野「も-う。しょうがないなぁ。ええで、じっくり考えて」

伊藤「ありがとう」

俺はそこで電話を切った。

伊藤「『考えさせて欲しい』とは言ったものの、どーすりゃいいんだ」

俺はひとりそう呟いた。実は、七瀬の事は前々から気になってはいた。中元のことがなければ付き合ってもいいと思ってた。でも今は、状況が違う。中元を振れば転校し、会えなくなるとはいえあまりにも後味悪くなるし、七瀬を振るにしても、同じクラスだからこれまた気まずくなってしまう。『絶体絶命』とはこのことを言うのか。俺は暫く何も考えたくなかった。

結局、結論が出ないまま朝を迎えた。一人でとぼとぼ歩いていると、

桜井「おっはよー」

桜井が俺の隣にすっとやって来た。

桜井「どーしたの?元気ないよ」

伊藤「あぁ、そうかな」

桜井「うん。なんだかショボ-ンって感じ」

伊藤「はぁ~」

桜井「まったく、ため息まで出しちゃって。何かあったんなら、遠慮なく言いなよ」

伊藤「いや、大したことじゃないんだ。」

桜井「いいから言って。気になってしょうがないじゃない」

伊藤「うーん」

桜井「何よ。さっさと言いなさいよ」

伊藤「そんな大したことじゃないぞ」

桜井「うん」

俺は意を決して言った。

伊藤「俺、昨日中元と帰っただろ」

桜井「うん」

伊藤「最後、別れ際に告白されたんだ」

桜井「告白!?」

伊藤「そう」

桜井「伊藤君告白されたの?」

伊藤「そうなんだよ」

桜井「よかったじゃ~ん。おめでとう」

玲香が俺の肩をポンッと叩いた。

伊藤「玲香」

桜井「何?」

伊藤「お前が思ってるより、事態は深刻なんだよ」

桜井「えっ?どういうこと?」

伊藤「昨日の夜、七瀬から電話がかかってきてな」

桜井「ほう」

伊藤「中元のこと、色々聞かれてな」

桜井「そらそうでしょうね。一緒に帰ったんだから」

伊藤「まぁ、嘘つくようなやましいことはしてないから全部話したんだよ」

桜井「それで?」

伊藤「中元から告白されたことも言ったんだけどね」

桜井「ほうほう」

伊藤「そしたらさ」

桜井「そしたら何?」

伊藤「七瀬からも告白されたんだよ」

桜井「え~~~~~~!?マジ?」

伊藤「マジ」

桜井「あんた、どんだけモテモテなのよぉ~~。羨ましい…」

伊藤「で、こっからが問題なんだ」

桜井「どこか問題なのよ。」

伊藤「中元は、『付き合って欲しい訳じゃない、好きって気持ちを伝えたいだけ』と言ってるわけ」

桜井「で?」

伊藤「で、仮に七瀬と付き合うことになったとしたら、これって中元の気持ちを裏切ることになるんじゃないかって」

桜井「難しいねぇ」

伊藤「真面目な話、どーすればいいと思う?」

桜井「私に聞かれてもなぁ…」

伊藤「だよなぁ。そうだよなぁ」




その日、とてもじゃないけど授業に集中出来なかった。中元を取るか、七瀬を取るか。俺は今までにないクライシスに直面していた。やっとつらい一日が終わり、帰り支度をしていると七瀬がやって来た。

西野「なぁ。今日一緒に帰らへん?」

伊藤「ああ、そうか。約束したもんな」

西野「そうよ。だから早く行こう」

伊藤「ちょっと待ってて」

俺は帰る準備を済ませ、

伊藤「七瀬行くぞ」

と、声を掛けた。

西野「うん!」

なんだか、七瀬がいつもより可愛く見えた。

二人で昇降口を下り、靴を履き替え、並んで帰ろうとしたその時、

中元「伊藤君」

なんとまあ絶妙なタイミングで中元が来た。なぜか七瀬が身構える。板挟みになる俺。

中元「伊藤君、やっぱり付き合って欲しい。西野さんより私の方が好きって気持ち強いもん!」

西野「ちょっと待って。そんなんセコくない?」

中元「セコいかどうかなんて関係ないよ」

西野「なぁ、伊藤君こんなセコセコ女と付き合うんか」

伊藤「え?」

中元「私と付き合ってくれる?」

西野「うち何でもするで。そうや、毎日弁当作ってあげる。どうや、こんないい彼女他におらへんで」

伊藤「いや彼女なら弁当作るぐらいだったらするだろう」

中元「私本当に何でもするよ。伊藤君の言いなりになってもいい」

伊藤「おいおい、言いなりって」

西野「そうや。伊藤君は私を言いなりにしたいんや」

伊藤「んなわけあるか。てか、言いなりになるって何されたいの君たちは」

中元「じゃあ、伊藤君」

伊藤「何?」

中元「好きな方にチューして」

伊藤「へ?」

西野「うちの唇の方が潤いがあって気持ちいいで」

そう言って、二人がどんどん俺に迫ってくる。俺は七瀬のことが好きだ。でも、中元の気持ちも裏切りたくない。皆なら七瀬と中元、どっちを選ぶ?

-END-




エピローグ

桜井は伊藤、西野、中元が校門前で何やら言い合いしているのを遠くから見ていた。

桜井「もう。七瀬とひめたんにデレデレしちゃって伊藤君ってば」

そして一言呟いた。

桜井「少しは私のことも見てよ。伊藤君のこと、私も好きなんだから」                                       

 終

20170906-01








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