「サ-・アダムズ三世乃木坂派」様より、妄想小説をいただきました。
今回の主人公はなんと内閣総理大臣! いやはやこの妄想力には感服いたしました。
どことなく切なく、どことなく儚く、そして、どことなく暖かい。
甘いだけじゃない、いろんな"味"が詰まった物語、ご賞味いかがですか?
いつまでも君と、どこまでも
作者 サ-・アダムズ三世乃木坂派
登場人物:高橋龍太郎
登場人物:高橋龍太郎
松村沙友理
若月佑美
白石麻衣
龍太郎「ふうっ」
俺はワイシャツの袖の最後のボタンをかけ終えた。今日は俺の晴れ舞台。なぜなら今日、俺は内閣総理大臣就任の記者会見に臨むのだ。まさか、自分が総理大臣になるなんて思っても見なかった。これからは、より一層気を引き締めていかなければいけない。俺は国民のための総理大臣にならなければいけない、そんな思いを胸に秘めつつ、秘書と慌ただしく打ち合わせをしていると、
「トゥルルルトゥルルル」
突然、電話がかかってきた。全く、誰だこんな忙しい時に?
龍太郎「もしもし」
??「龍太郎くん!元気だった?私だよ!分かる?」
龍太郎「佑美!久しぶりじゃないか!どうしたんだ急に」
電話を掛けてきてくれたのは、高校の同級生の若月佑美だった。
若月「すっかり偉くなっちゃって。ついに、日本のトップになるってワケね」
龍太郎「その偉そうな言い方、いい加減直せよ」
若月「そっちこそ、相変わらずの減らず口ね」
龍太郎「何が減らず口だよ。それで?なんか用か」
若月「特に用は無いけど、まぁ総理就任おめでとうって言いたかっただけ」
龍太郎「そうか。ありがとう」
若月「ううんいいの。それに、今日は私たちにとって、大切な日でもあるから電話したの」
龍太郎「ああ、そうか。あれから40年も経つのか」
若月「そうなの。あなたにとっては、忘れられない事だと思うけど」
龍太郎「あいつのことは片時も忘れたことはなかった。最近会えてないな…」
若月「私も。あなた今後のスケジュールびっちりなんでしょ?」
龍太郎「まあね。あっ、でも一日だけだったら時間作れるかも」
若月「本当?じゃあ時間できたら教えて」
龍太郎「わかった。あ、麻衣も忘れてないか?」
若月「そうね、まいやんも呼ばないと。きっと龍太郎くんに会いたがってるよ。」
龍太郎「麻衣かぁ…。懐かしいな。しばらく会ってないし、久しぶりに麻衣に会いたいな」
若月「そうね。じゃ、また連絡するから」
龍太郎「おう、またな」
そこで電話を切った。そして、デスクの上に飾ってある写真をふと見た。そこには、1人の少年と3人の少女が満面の笑みで映っていた。その中でも、ひときわ笑顔が素敵な少女がいた。その子の名は松村沙友理。関西出身で、いつも俺たちを笑わせてれた。そして、俺の恋人だった。しかし、もう沙友理はこの世にはいない。不治の病によって、その尊い命が失われてしまったのだ。もう、彼女は俺の手の届かない場所へと旅だってしまった。かつて父親に教わったある言葉がある。それは、
「大切なものの価値は失った時に気付く」
俺は、沙友理が死んでようやく、沙友理が俺にとってどんなに大切な存在だったのか、痛感した。
俺は、沙友理の死によって絶望の淵に立たされた。後を追って自殺を図ろうとし、俺は高校の屋上で一人立っていた。下を見れば、辺り一面コンクリート。頭を打ちつければひとたまりもないだろう。いざ飛び下りようとしたその時、
??「待って!」
誰かが後ろから叫んだ。振り返ってみると、そこには親友の白石麻衣がいた。
白石「何してるの!まさか、死のうとしてるんじゃないでしょうね?」
龍太郎「悪いか?」
白石「悪いに決まってるじゃない!なんで死のうとしてるの?」
龍太郎「何でって…。沙友理がいない人生なんて、堪えられないよ」
白石「…」
麻衣は黙ってしまった。俺が沙友理のことをどれだけ愛していたか、麻衣が一番分かっているからだ。そもそも、俺と沙友理が付き合うきっかけを作ってくれたのが麻衣だった。入学したての頃、同じクラスになった麻衣から沙友理を紹介して貰った時が、沙友理との最初の出会いだったと記憶している。
白石「こちら松村沙友理ちゃん。部活の大会で知り合ったの」
龍太郎「俺、高橋龍太郎。よろしく」
松村「こちらこそよろしくね」
その笑顔に、一瞬で心を奪われた。それから佑美も誘い、何度か4人で遊びに行くようになった。その中で、俺は沙友理にどんどん惹かれていった。周りへの気遣いはしっかりしてるし、一緒に喋ってて楽しいし、何より可愛い。特に笑顔が素敵だった。俺は、いつしか沙友理ともっと一緒に居たくなった。恋愛経験が全く無い俺は、麻衣と佑美に告白の極意を教わることにした。
白石「いい?女の子に告白する時はね、モジモジしたり、回りくどく好きな所を言うんじゃ成功しないの」
龍太郎「じゃ、どうすればいいんだ?」
若月「簡単よ。素直に『好きです』って言えばいいの」
龍太郎「しかし、恥ずかしくないか?ストレートに気持ちを伝えるのって」
白石「な~に恥ずかしがってんの!そんなこと言ってたら、いつまでたってもさゆりんと結ばれないよ?それでもいいの?」
龍太郎「いや、よくはないけどさ…」
白石「よくはないけど何?」
龍太郎「ストレートに気持ち伝えて理解して貰えるか、それが心配なんだよ」
若月「絶対に伝わるって。大丈夫、女の子はストレートに『好き』って言って貰うのが一番嬉しんだよ?」
龍太郎「そーゆーもんか?」
白石・若月「そういうもんなの!」
二人の勢いに俺は圧倒された。
龍太郎「わかった。やってみる。成功するかわからんが」
若月「ぜ~ったい成功するから!頑張って!」
白石「うん!龍太郎くんなら、きっとうまくいくから」
龍太郎「んじゃ、行ってくるよ」
白石「頑張ってね!」
若月「幸多かれ~!」
白石のまともな応援と、若月のよく分からん応援を背に受け、俺は沙友理の元に向かった。沙友理がどこにいるのか校舎を探し回っていたら、中庭のベンチに一人で座っている沙友理を見つけた。
松村「あ~、キタキタ。待ってたよ。もう、どこ行ってたん?」
龍太郎「ごめん、ちょっと部活の用事でさ」
松村「ふ~ん。大変やなぁ龍太郎くん」
龍太郎「まあね」
松村「それじゃ、行こか」
龍太郎「待ってくれ」
松村「ん?なに?」
龍太郎「実はお前に言いたいことがあって」
松村「言いたいこと?」
龍太郎「ああ。とても大切なことなんだ」
松村「…」
俺は深呼吸した。さぁ行け!龍太郎!
龍太郎「ずっと前から、出会った時から、沙友理、君のことが好きです。いや、大好きです!だから…」
松村「だから?」
龍太郎「俺と、付き合って下さい!」
松村「…」
俺は、この不自然な間がどれだけ恐ろしかったか今でもよく覚えている。これほど手に汗かいた瞬間はなかった。
松村「…なぁ、龍太郎くん」
龍太郎「なに?」
松村「なんで?」
龍太郎「は?」
松村「なんでそれもっと早く言ってくれへんかったの?うちだって…」
龍太郎「…」
松村「うちだって、龍太郎くんのこと好きなんやで。もう、どうしたらええんやろうってくらい好きなんやで。だから…ええよ。付き合っても」
その瞬間、俺は何がなんだかわからなくなっていた。まさか、成功するとは思わなかった。それから、二人だけでいろいろな場所へと行くようになった。遊園地、海、オシャレに美術館。とにかく楽しかった。でも、その楽しさが長くは続かないとは、その時はこれっぽっちも思ってなかった。ある時、沙友理と二人で話題のテーマパークに行ったときだった。昼食を食べていた時、沙友理が腹痛を訴えた。最初は、沙友理の食べ過ぎだと思った。だが次の瞬間、沙友理は激しい痙攣を起こし、その場に倒れた。あまりにも突然のことだったため、俺は頭が真っ白になり、何をすればいいかわからなくなっていた。誰かが救急車を呼んでくれたみたいで、すぐに沙友理は大学病院に搬送された。そして、そのまま沙友理は帰らぬ人となってしまった。医者によれば、『アナフィラキシーショック』が原因だったという。沙友理の両親によれば、沙友理は自分が何を食べたらアレルギー症状が出るのか知っていたという。だとしたらなぜ、アナフィラキシーショックになってしまったのか。俺は、もう太陽のように輝く笑顔を見せることのない沙友理遺体に向かって問うた。
龍太郎「なあ沙友理。お前アレルギーあったんだって?何で言ってくれなかったんだよ。もしかして、アレルギーのこと忘れるくらい、俺とのデート楽しかったのか?なあ、教えてくれよ…なあ…」
俺はその場で泣き崩れた。
俺は何もかも失った気分だった。沙友理のいない人生なんて、つまらないし、生きている意味ないと思った。だから、俺は高校の屋上で自殺を図ろうとした。それを運が良いんだか悪いんだか、麻衣に止められた。
白石「どうしても、あなたに見て欲しいものがあるの」
龍太郎「何だよ今から死のうって時に。まさか、そうやって俺に自殺させないつもりか?」
白石「違うわよ!さゆりんが、どうしても龍太郎くんに渡しがっていた物を、さゆりんのご両親から預かって来たの」
龍太郎「渡しがっていた物?何だそれ」
白石「見たかったら、こっち来て。お願い…」
どうせ死ぬからいいやと思い、俺は麻衣へ近づいた。俺と話している間に相当泣いたようで、目が真っ赤になっていた。
白石「…これ」
と言って麻衣が差し出したのは、小さな箱だった。
龍太郎「これが渡したがっていた物か?」
白石「うん。さゆりん相当苦労したみたいよ」
麻衣の言っていることが理解出来ぬまま、その小さな箱を開けた。そこには…
龍太郎「カフスボタン?」
麻衣「さゆりんの手作りだって。『作るのたいへんだったんだ~』ってさゆりんが言ってたのを、さゆりんのお母さんが教えてくれた」
カフスボタンとは、シャツの袖のボタンに付けるものだと聞いたことがある。沙友理の作ってくれたカフスボタンは、男物とは思えないリンゴが形取られたものだ。
龍太郎「さすがに男にリンゴのカフスボタンって。そういえば、アイツ自分のこと『さゆりんご』って呼んでたっけ」
白石「そうね。でも、手作りをあげるくらいさゆりんは龍太郎くんのこと、好きだったんだよきっと」
龍太郎「そうみたいだな…」
いつの間にか、涙が溢れていた。もう、止められなかった。
龍太郎「ごめん…麻衣。死ぬなんて言って」
白石「本当だよ。どれだけ心配したと思ってるの!
もう…龍太郎くんの、龍太郎くんのバカァ~」
そう言って、麻衣は大泣きしながら、俺の胸の中に飛び込んで来た。俺は、ただ麻衣の頭をそっと撫でた。
秘書「総理、お時間です。行きましょう」
俺は、秘書の一言で回想から目を覚ました。
龍太郎「少し待ってくれ」
俺は、デスクの中から小さな箱を取り出した。その箱の中から沙友理が作ったリンゴのカフスボタンを取り、そっとシャツの袖に付けた。
龍太郎「沙友理、見てるか。俺総理大臣になったぞ。これから就任会見だよ。見ててくれるか?」
俺は一人呟いた。そして、秘書の後に続き歩き出した。俺は何も怖くない。だって、沙友理がいつも傍に居てくれるから。いつまでも君と、どこまでも一緒にいたい。本当に死ぬまで。いや、死んでも一緒に居たい。ただ、それだけが俺の願いだ。
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