「サマツリ」様より、妄想小説をいただきました。


 これは小説の形を借りた未来予想図なのかもしれません。

 大切な人を大切に想うからこそ書ける、まさに"妄想小説"にふさわしい作品。


 純粋、純真、純情を形にした物語に触れ、心が暖まる瞬間を感じてください。


20171111-02



恋をしている
作者:サマツリ





「今夜も始まりました。衛藤美彩の『Last 30』金曜最後の30分、あなたのお耳と心を私に預けてみませんか?お仕事終わりのあなたも。土日を過ごすため頑張ってるあなたも。わたくし衛藤美彩が声とリクエストで癒します…」
5日ぶりに貰えた1日休み最後の30分が始まった。明日も明後日も出勤だという僕のシフトは、世間一般からみるとあべこべなシフトなんだろう。仕方ないのだ。接客業の書き入れ時は決まって週末や連休なのだから。
「それでは、最初のお便り。山口県のRNボルビックさんから。
衛藤さん!!僕は明日も明後日も仕事です!!GWもお盆も仕事でした!!こんな僕に励ましのエールを!!
なるほどねえ…皆がお休みの中、自分がお仕事してるのってしんどいよね。でもそういう貴方がいるから、皆楽しく休日が過ごせてます!!貴方はエライ!!だから、お仕事頑張ってね!!」

相変わらずのトーンで、でも決してうるさくなりすぎないその声がイヤホン越しに心地よい振動を鼓膜に届ける。
彼女だって、今も土日の無い生活だろうし、かつては今よりももっと多忙だったろう。そんな中でも、何千人ものファンを相手に笑顔を振りまく彼女の姿に、一体どれだけの人が救われたのだろう。自分もその一人だった。だからこそ、彼女のこのエールが、本人に届いたのなら、きっとボルビックさんは明日からも少しだけ頑張れるということを、僕はよく知っている。
アイドルとして10年弱活躍、その後もタレント、女優、歌手…どのジャンルでもそれなりに活躍し続ける衛藤美彩の存在は、かつてに比べると爆発的な知名度だったりファンだったりの獲得はしていないのかもしれない。だが僕のようなアイドル時代からのファンの多くはついてきたし、彼女の武器である声が存分に発揮されるラジオでも、確実に固定のファンが増えて来ている。さっきのボルビックさんも、本来放映されてない山口県から、アプリを使って聴いて、毎週のようにメールを送り、読まれている。コンスタントに読まれる、ということはメールをそこそこの本数送っているということだ。そういう「職人」がこの番組にも数人ついている。
 彼女はアイドル時代から、何も変わっちゃいない。心底そう思う。勿論、それなりに年を取り、20代の頃のような眩い美しさよりも、円熟味のある落ち着いた美しさに様変わりしてはいる。けれど、こんなメール一通一通にも、しっかりと全力で、ファンの喜ぶことをやろう、という姿勢は変わらない。今でも、出待ちや入り待ちのファンには必ず笑顔を振りまき、時間が許せば握手もサインも応じているらしい。流石に投げキスは、世の男性が多数惑うことになるのでやりすぎたとは思うが。
 「今週もあっという間に土曜日になろうとしています。お別れのリクエストナンバーはこちら。千葉県のRN…」
 ほんの少しの間に、思わずニヤついてしまう。今頃、面食らってるか、あきれてる頃だろう。
「RN サマーブリーズさん。
日に日に寒くなって、冬のナンバーが恋しくなる季節ですね。僕もそんな一人です。僕はこの曲のような恋愛が衛藤さんと出来たらいいな、って思います…ごめんなさい冗談です。Every Little Thing feat.槙原敬之で『冬がはじまるよ』
それでは、皆さん、よい週末を。お相手は衛藤美彩でした~」

学生時代からよく聞いてた曲を、ラジオで久々に聴く。しかし、衛藤さんと「そんな」恋愛がしたくっても、彼女は…

「ちょっと!!何よ!!あのリクエスト!!恥ずかしいじゃない!!大体あたし1月生まれだし!!

「びっくりしただろ?言っとくけれど、実力だからな。」
「そうでしょうね!!だって私がびっくりした時、皆『どうしたんだろ』って顔してたもん!!

「…というかよく俺だってわかったな。」
「だって、あのRN、昔から使ってたでしょ?

「…覚えててくれたのか。一回しか俺のRN教えなかったのに。」
「わたしが記憶力良いっての、昔から評判だったでしょ。」
インターホンを鳴らしてからずっと慌て気味だった彼女の表情が、少し誇らしげに変わった。そうだ。彼女はアイドル時代から何も変わっちゃいない。
「はい。」
「明日仕事なんだけれど。」
「朝早くはないでしょ。一杯ぐらい付き合ってよ。」
缶ビールのタブを引き上げると、爽快な音が響きあう。
「お疲れ様でした。」
「はい、お疲れ様。明日も頑張ろうね。」
お互いに、明日も仕事だ。忙しい中、次に休みがいつ被るのか分からない。けれど、休みじゃなくても、嬉しそうにビールを飲む彼女が横に居るのなら…
「ああ~幸せ!!」

この笑顔が見れるのなら、それで構わないと思う。
もうすぐ、冬がはじまる。

20171111-03










<ノギザカッションでは、皆さまからのレポート、エッセイ、小説、イラスト等を募集しております。詳しくはこちらをご覧ください。>

 
乃木坂46 ブログランキングへ