「ねこなべ」様より、妄想小説をいただきました。


 映像が頭に浮かび文章、淀みのないストーリーは、まさに「ねこなべ節」と言えるでしょう。今回も素敵な物語に仕上がっています。


 これまでねこなべ様からいただいた小説をまとめました。ぜひこの機会に過去の作品もご覧になってください。

ねこなべ様の過去の投稿記事



 20171128-03



誰かを好きになるということ

作者 ねこなべ






主人公:堀未央奈
大嶽佑樹 


「お互いが向き合えるまで、別れましょう」
彼が最後に言った言葉が、すべてを物語っていた。


 今年で大学2年になる私は、都内の大学に通っている。今は2年の後期で、勉強はそこそこ頑張って、とりあえず大学卒業を目指して日々を送っている。そんな私には、ある親友がいる。
「ねえ、私、この前彼氏と喧嘩しちゃってさ。もうほんと彼ってデリカシーないっていうか」
「それ彩香の見る目がなかっただけとか」
「未央奈ってすぐそういうこと言う。でも私が選んだ彼だし、なんだかんだ好きなんだ」
彼女は彩香。大学1年の頃から、同じ学部の親友だ。

「私の話しも聞いて。この前、付き合いたての彼と初デートしてきたの!」
彼女は桃子。大学1年の終わりに、同じ授業を受けてる時に友達になった。
「どうだったの初デートは」
「これがデートは私の行きたいところについて来てくれて。そういう気遣いが好き」
「未央奈はどうなの。付き合ってる彼氏ともう数ヶ月は経つんじゃない?」
「もう半年かな。この前はディズニーデートしてきちゃった」
「いいなー。イケメンでお金も持ってる、年上の彼なんて理想的すぎる」
「ほんと羨ましい」

 そう、私にも大好きな彼氏がいる。付き合って半年が経ち、イケメンで年上の彼…
というのは嘘だ。そんな彼氏は存在しない。

 私は高校時代、クラスの女子からいじめられていた。原因は、同じ学年の女子から人気の男子が、私を好きだったところから始まる。私はそんな気もなかったし、むしろほかの男子が好きだった。なのに女子の妄想が膨らみ、あることないことを言われてきた。

 私は勇気を出して好きだった男子に告白をしたが、「堀は俺より、あの男子のほうが似合っている」と、断られた。そして私は学校が嫌になり、引きこもり、転校をすることを決めたのだ。

 今、私がこうして偽りの彼と付き合っているのは、高校時代に経験しなかった『親友の作り方』がわからないためであり、皮肉な話しだが、こうすることでしか親友との会話のネタを作ることができなかった。

 恋愛で傷ついた心のダメージは大きかった。私は、男性を好きになるということが怖くなり、誰かを好きになることで、迷惑をかけないか、本当に好きになってもらえるか不安だった。だが、そんな私が密かに気になっている人がいる。見た目はひ弱で、自分に自信がなさそうで、いつも一人でいる彼。

 彼の名前は、大嶽佑樹。1年前、上半期の授業で同じクラスになって以降会っていなかったが、私がたまたま図書館に用があった時に、偶然にも彼を見つけ、なぜか図書館から逃げ出してしまった。その後も、彼にバレないように通い続けてわかったのは、彼はほぼ毎日図書館に来ることだった。

 今日も彼はいるだろう。図書館までのイチョウ並木に秋を感じながら、私は足を運んでいた。
「好きな本とか聞けばいいのかな。今は10月だし、読書の秋ですねとか言ってみるとか…」

 そんなことをつぶやきながら、図書館の前に到着した。一度、深呼吸をしてから、扉に手をかけ中に入る。入り口から物静かな雰囲気があり、私のドキドキしている音が、聞こえてしまうのではないかと心配になった。

中に入ると学生が十数名ほどおり、各々が勉強をしていた。私は、いかにも勉強をしに来ましたよという姿を装いながらも、彼の姿を探した。しかし、彼の姿は見当たらなかった。

「今日はいないのかな…」
私は少し気落ちしたが、せっかく図書館にも来たのだからと思い、どんな本があるか辺りを回ってみることにした。私は小説を読むことは好きなほうだった。というか、友達がいなかったので小説を読んでは、一人で過ごすことのほうが多かった。

 私は小説が置かれている場所へ来ていた。
「この小説懐かしいなー」
私がその小説に手を伸ばそうとした時だ。隣から、別の人物の手が同じ小説に手を伸ばし、お互いの手が触れてしまった。
「あっ、すみません」私は咄嗟に謝った。
「いや、僕のほうこそすみません」
「いえ、以前に私が読んだので大丈夫…」

 私は目の前にいる人物を見て、一瞬、時が止まった。
「どうかしましたか?」
そこに立っていたのは、大嶽佑樹だった。
「何でもないです!」
 あまりの出来事に逃げ出しそうになった。しかし、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。私は意を決して話しを続けることにした。
「この作家さん好きなんですか?」
「はい。今週はもう3冊も読んでしまって」
「そうですか」
「そういえば、以前、僕と同じ授業受けてましたか?」
「えっ?はい、1年前にですけど」
「やっぱり。いつも大人しそうにして、後ろの隅っこの席に座ってましたよね」
「はい…」
 どうしてそんなことを覚えているのだろう。私は不思議に思った。

「僕も一番後ろの席に座ってて。人付き合いがあまり得意じゃないので、後ろの席で影を消してました。それに比べて、図書館は居心地がいいので毎日来ちゃいます」
私がイメージしていた通りの人で安心した。こういう人といるのが落ち着くし、お互い気楽に過ごせる気がした。

「あの、私も小説好きなんです。今度、私が持ってるお気に入りの小説持ってきてもいいですか?」
「えっ?」
「いや、その急に変なこと言ってすみません」
「いえいえ。じゃあ、お言葉に甘えて」と笑顔で答える彼。

「一つ、聞いてもいいですか?」
「はい」
「名前は何て言うんですか?」
「私は、堀未央奈。今は2年生」
「僕は、大嶽佑樹。同じく2年生だ。よろしくね」
こうして、彼との小説繋がりの関係が始まった。


 その日から私も図書館へ通うようになり、彼との時間を共有するようにした。そして不定期だが、自宅から小説を持って彼に薦めた。
「カート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』か。僕が読んだことのない本だ」
「私の好きな言葉があって、人間の言葉は数々あるなかで最も悲しむべきなのは『だったはずなのに』って言葉なの」
「わかった、そこに注目して読んでみよう。ありがとね」
彼は嬉しそうに答えると、その本を鞄の中へしまった。
「堀さん、授業終わった後、時間あるかな?」
私は鞄から手帳を取り出し、スケジュールを確認した。
「今日は時間あるから大丈夫」
「ちょっと付き合ってもらいたいところがあるんだ」
「うん、わかった」
「じゃあ、また後で」
「ちゃんと待っててね」
「もちろん」
彼が初めて図書館以外での場所で集合する機会に、私は少し期待した。

 私は授業が終わり、校門へと向かうと、彼が本を読みながら待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、今僕も着いたところだから大丈夫」
「それで、どこ行くの?」
「まずは近くのカフェに行こう」
彼の一言で、私たちは大学から近いカフェへと向かうはずだったが、私は一つ懸念していることがあった。それは、いつも話している親友と鉢合わせたりしないかということだった。もし、彼と一緒にいるところを見たら、何かしら言ってくるだろう。それを避けるべく、私は大学から少し離れたカフェに行くことを提案した。
「ちょっと大学から離れたところにしない?」
「うん、むしろ僕もそっちのほうがいいかな」
「じゃあ、そうしよっか」
と言うと、私たちは大学から少し離れたカフェと向かった。

 店に到着し中に入ると、同じ大学の生徒は少なかった。
「いらっしゃいませ。お客様2名でよろしかったでしょうか?」
「はい」
「では、こちらへどうぞ」
店員に席を案内された場所に着き、私はメニュー表を手に取った。
「私はホットコーヒーで、大嶽君は何にする?」
「じゃあ同じもので。店員さん呼ぶね」

 店員を呼び、注文を済ませると、彼は何か話したそうな雰囲気で私の顔を見つめていた。
たぶん、私から話し始めたほうがいいのだろう。
「話したいことって?」
「うーん…」
彼は少し悩ましい感じで、自分の鞄からある原稿を取り出した。
「実は、読書好きが高じて、書いてみたくなって。堀さんにも読んでもらいたいなって」
と、彼が書いた小説を渡された。
「まだ書いてる途中だけど…」

 私はその原稿を少しだけ読み進めた。話しの内容は、主人公が死者と会うことができる話しで、その死者というのが主人公の最愛の人というお話しだ。設定としては普通なのだが、彼の優しさが文面にも出ており、主人公の一途な感じが彼と似ている気がした。
「私は好きだな、こういう恋愛小説」
「ほんとに!?良かった、堀さん小説たくさん読んでるからダメ出しされるかと思って」
「なんで恋愛小説を書こうと思ったの?」
「僕、見るからに女性苦手そうな感じでしょ。確かに女性恐怖症っていうのもあるんだけど、高校の時に好きな人がいたんだけどフラれちゃって」
「そうなんだ」
「その後が大変で、僕が告白したことを、他の女子にも話して。高校の時からおどおどしてたから、すぐに馬鹿にされて。それで人と話すことも怖くなって、文字だけの世界に逃げ込んだというか」

私と少しだけ似ているかもしれないと、ふと思った。人を嫌いになるタイミングもきっかけも。
「だから、小説の中でもいいから、主人公には幸せになってもらいたくて。そんな思いで今は書いてる」
「完成したら、見せてくれる?」
「もちろん。堀さんには最初の読者としてお願いしたいな」
彼は笑顔で答えてくれた。

「じゃあ、僕の話しはここまで。なんかごめんね、くだらない話ししちゃって」
「ううん、ありがとね。そういうことって、なかなか話しづらいことだと思うし」
「堀さんならいいんじゃないかなって。こちらこそありがとう」

 その後も、彼が書いている小説に、アドバイスや提案してみた。その時間はとても楽しかった。初めて会った時よりも、彼は私に対して心を開いてくれるようになり、私は彼に惹かれていた。

 「うわっ、もうこんな時間か」
店内の時計を見ると午後7時。いつの間にこんな時間が経ったのだろうか。
「ごめんね、長いこと僕の話しに付き合わせちゃって」
「大丈夫、楽しかったから」
「じゃあ、お店出よっか」
「うん」

 私たちは鞄を持ち、お会計を済ませカフェを出た。外は暗くなっており、冷え込んでいた。11月といえどさすがにもう冬だ、外にはダウンを羽織っている人もいる。
「おお、冷えるなやっぱ」
「これからどうしよっか」
「本当は駅まで送りたいところなんだけど、もう一つ付き合ってもらいたい場所があるんだ」
「全然いいよ」
「ちょっと歩くけどいいかな?」
「うん」
そう答え、私は彼の後についていった。


 10分ほど歩いた場所で、彼は足を止めた。
「着いた」
 そこは、毎年イルミネーションがされる大通りだった。周囲には木々が生えており、若者から大人までが、食事や買い物ができる大通りで、今はイルミネーションの準備をしている最中だった。
「連れて来たかった場所って、ここ?」
「正確には、もう一度来たい場所かな」
「どういうこと?」
「堀さんは、ホーキング博士の『子どもたちに伝えたい3つの言葉』って知ってますか?」
「ううん。教えてほしいな」
「1つ、足元を見ないで星を見上げろ。2つ、絶対に仕事を諦めるな。そして3つ目」
「うん」
「もし幸運なことに愛を見つけることができたら、それは稀なことであることを忘れず、捨ててはならない」
私は、彼が今話したいことが何なのか、そしてこの後伝えられることがどんなことなのか。

嬉しい予感がした。

「堀さん、好きです。話してる姿も、笑ってる姿も全部。だからその・・・」
「いいよ、付き合うっちゃおっか、私たち」
「えっ?」
「私も大嶽君のことが好きです」
 お互いの好きという気持ちを伝えると、彼は固まってしまった。なんて純粋なのだろうか。私が求めていた人は、こういう人だ。
「これからは、私のことは未央奈って呼んでほしいな。だから、私は佑樹って呼んじゃおっかな」
「・・・み、未央奈」
「なーに、佑樹」
「なんだか夢みたいだなって」
「何言ってんの、ほっぺでもつねってあげよっか?」と私が言うと、彼のほっぺをつねった。彼は少し痛そうな顔をしながらも、恥ずかしさのあまり顔を赤くした。
「ふふふ、顔赤くなってる。恥ずかしいんだ」
「未央奈が近づいてくるから…」と彼は、顔を赤くしたまま答えた。

「だから、クリスマスの日。もう一度、この場所でイルミネーション見に来よう」
「うん、そうしよ。佑樹と一緒に見に来るの楽しみだな」
「僕も未央奈がいるから、楽しみ」
「あっ、そういうこと言えるようになったんだ、佑樹のくせに」
「別にそれくらい言ったっていいじゃん」と彼は少し強がった。
この幸せな時間が、これからも続くのだろうと私は思った。

「今日はありがとう。駅まで送るよ」と彼が言い、最寄駅まで向かうことにした。
少し歩き駅に着くと、彼とは別々の電車のため、お互いが別れた。
「佑樹、また明日も会おうね」
「図書館で待ってるね」
こうして、私に本当の彼氏ができた日になった。



 「2組の佑樹が、華奈(はな)に告白したんだって」
「あの目立たないあいつが?」
「友達も少なさそうだし、関わんない方がいいんじゃない?」
「それにしても、華奈に告白するなんてとんでもないやつね。華奈が相手にしてくれるわけなんてないのに」

 僕の高校時代は、とても暗いものだった。自分の好きだった人に告白したら、クラス中に広まり、それだけでイジられるようになった。そのいじめは一年の頃から始まり、2年の夏頃まで続いた。他人からの言葉は怖いし、何より、自分を助けてくれる人がいなかった。僕は、その苦しみから逃げる手段として読書を始めた。本は僕を責めないし、傷つけることはない。僕は図書委員になり、放課後は学校の図書室でひたすら読書をしていた。

 恋愛といえばもう一つ。僕のクラスには同じ学年の女子に人気な男子がいる。彼に何人もの女子が告白をしてきたが、決まって言うのが「他に好きな人がいるから」と断るらしい。

 恋愛で一生の傷を負った僕には遠い存在のような話しだが「大変そうだな」と、少しだけ同情をした。だが、その男子が好きな女子とは一体誰なのか。
「気になっても仕方ない。女子は怖いから関わらないでおこう」
僕はその疑問を持つことを、早々に諦めることにした。


 とある日の放課後。僕はいつも通り図書室に向かっていたのだが、その道中、人目につかない場所で、女子が数名集まっているのを見かけた。最悪なことに、どうしてもその道からでないと図書室へは行けない。僕は目立たぬように通りぬけようとした。その現場に近くにつれ分かったのは、一人の女子が囲まれていたことだ。
「また、いじめか」
僕はいまだにいじめられている身だったので、頭が痛くなった。早くこの場所から抜け出そう。

 「あんたのことが好きなんだって、相川くん」
僕はその言葉を聞いた途端、体が反応した。学年の女子に人気の男子の名前だった。
「まさかこの人が」
僕は、身を隠して話しを聞くことにした。

「その人は私のことが好きかもしれないけど、私は違います!他に好きな人がいるので、こういうのやめませんか」
「へー、誰のことが好きなの?」
「それは…」
「教えてくれたら、もう関わらないであげる」
「・・・同じクラスの近藤君です」
「まさか、あんな地味なやつが好きなの?そりゃ、損してるよあんた」
「好きな人を損得勘定で見ないでください」
「相変わらず腹が立つわね。つまんないから行きましょ」
集団でいた女子たちが一斉にいなくなった後、その女子が泣き出してしまった。僕は駆け寄り声をかけた。
「大丈夫ですか」
ずっと泣いたままで返事がないので、とりあえず図書室まで一緒に行くことにした。

 「あの、大丈夫でしたか?女子に囲まれて何か話してたみたいですけど」
僕はその場にいたことを、あくまでも隠すつもりでいた。
「私のことが気に食わなくて、文句を言ってきて、それが怖くて」と話す声は震えていた。

「落ち着くまで、ここにいてください。今日は僕とあなたしかいないみたいですし」
「ありがとうございます」
「では、僕は仕事があるので」
 僕はその場を離れ、本の返却物や、貸出の延滞がないかチェックを始めた。時折、その女子を見てはいたが、外の景色を眺めているだけで一歩も動かなかった。
 
 しばらくして仕事を終えたので、いつもの席で本を読み始めたのだが「何て話しかけたらいいのだろう」と考えてしまい、集中して読書ができない。
「何か本でも読みますか?」
僕はこのことでしか会話ができなかった。
「本には興味がなくて」
「そうだな…じゃあ、これなんてどうですか」
僕は本棚から一冊の小説を取り出し、その子に渡した。
「星の王子さま。って知ってる?」
「タイトルだけは」
「じゃあ、これあげます」
「えっ、だって貸出じゃないと」
「一冊くらい紛失したって適当に言えば何とでもなります」
「でも…」
今思えば我ながら何やってんだろうとは思うし、人気の小説だから、紛失したって話しをしたら地味に怒られたのは今でも覚えている。でも、元気になってくれるなら僕はそれで良かった。こうして少しの時間、僕とその子は席に着いて本を読み始めた。


 しばらくして、僕が集中して読書をしたせいか、気づいた頃には午後6時と閉館時刻だった。
「ごめんなさい。もう閉館時間なので」
「そうなんですか、じゃあ家で読みますね。すごい面白かったです」
僕はその子が笑顔を見れて、嬉しかった。
「私、明日好きな人に告白してきます」
「えっ?」
「同じクラスに好きな人がいるんですけど、好きって言えなくて」
「陰ながら応援してますね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、戸締りがあるので、先に帰ってもらってもいいですか?」
「わかりました」
そう言うと深く頭を下げ、僕にお礼をした。
頭を上げると、こう言った。
「私、堀未央奈って言います。今日は本当にありがとうございました!」

 僕はその日以来、あの子のことが気になってしまった。好きになってしまったのだ。また来てくれないか、心のどこかで願っていた。しかし、それは僕が見た最後の姿だった。


 その後、その子は図書室にも学校にも来なくなり、転校してしまった。
後からわかったことだが、あの女子集団が、近藤君に「堀さんがあなたのこと好きみたい」と、堀さんが告白をする前に言ってしまったのだ。それと同時期に、堀さんが相川君を好きだという嘘の情報が流れた。それを聞いた近藤君は「自分なんかより、相川君と付き合った方がいい」と、堀さんの告白を断った。その後も生徒間で様々な出来事が重なり、堀さんは転校してしまったのだった。

  月日は流れ、僕は都内の大学に進学、文学部を専攻した。
ある授業の始めての講義。僕はいつも通り、後ろの席に着いた。すると近くに数名の女子が座った。とにかくうるさい。その印象しかなかった。僕は鞄から筆記用具を出し、講義の準備を始めた。
「未央奈、この講義って簡単に単位くれるやつだよね?」
「とりあえず出席しとけば問題ないって先輩が言ってたし、大丈夫でしょ」

「未央奈?」
 聞き覚えのある名前だった。僕はその声がする方を見て、言葉を失った。
奇跡とは本当にあるようだ。僕は大学2年になった時、大学の図書館で偶然にも堀さんと再開した。この時、堀さんは僕のことを覚えてないだろう、そう悟った。それから、堀さんと会う機会が増えた。図書館で見たこともない堀さんが、毎日足を運んできてくれたのだ。何より「小説を読むのが好きだ」と言ってくれた時は嬉しかった。そして、お互い打ち解け合うことができ、なんと付き合うことができた。奇跡と言っても過言ではない。

「未央奈に、あの時のことを伝えないと」
そして今日は、12月25日。時刻は朝9時。僕は未央奈に会うために家を出た。


 私は今日が楽しみで、寝れなかった。彼とはいつも大学で会ってはいるが、それが親友にバレないように付き合ってきた。大学で会うことは制限されるけど、今日は気にせず、彼と一緒にいられる。それだけで幸せだ。

 仕度を済ませ、家を出た。集合時間は10時、少し早めに着くくらいだろう。私は足取りを軽やかに駅へと向かい、彼との待ち合わせの場所へ向かった。

 電車移動の時間は、楽しみで仕方がなかった。今日は私が行きたいところを巡るデート。買い物にご飯。私好みのデートに彼は「未央奈と行くなら、どこでも楽しいし、そういうの一人で楽しくなっちゃう人でしょ」という返事のもとプランは決まった。そして、ゴールは約束したイルミネーションだ。

 電車から降り、集合場所に行くと、彼は本を読みながら待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「大丈夫、今来たところ。じゃあ行こっか」
「うん!」


 私は彼を、ただ行きたい場所へ連れて行っては楽しんだ。これからもいろんな場所に行って、楽しみたい。そう思わせてくれる彼が、私は好き。心の底からそう思った。彼と過ごす時間はあっという間で、私たちはイルミネーションが開催されている場所に向かっていた。好きな人と過ごすクリスマスは初めてだ。おそらく彼も。

 午後7時。イルミネーションが彩られている場所に着くとたくさんのカップルがいた。
「私、こんなに綺麗なの初めて見た」
「それに好きな人と見れるから、もっと綺麗に見える」
「また、そんなこと言っちゃって」
「ムードを出したの。キャラに似合わないけど」
「ほんと、似合ってないよ。ふふふ」と私は彼を少しイジった。
「絶対バカにしてる。でも、未央奈と来れて本当に良かった」
「私も、佑樹と来れて良かった」


今日一番の幸せな時間だ。


 すると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「あれ?未央奈じゃん」
その声は彩香だった。どうやら彼氏と一緒にイルミネーションを見に来ていた。
「彩香も来たんだ、彼氏と一緒に」
「私が見たいって話してさ」
「そっか」
「あれ?未央奈は彼氏と一緒じゃないんだ。隣の人はお友達?」
「うーん、ちょっと待ち合わせてるっていうか」
マズい、彼には私と親友の間で話している架空の彼氏のことを知らない。私はその場から立ち去るべく、別れることにした。
「じゃあね彩香。そっちも楽しんできてね!」
「未央奈もね!」

 彩香と別れ、私は彼に本当のことを話すことにした。
「佑樹、違うのさっき彩香が言ったことは誤解で」
「他に好きな人がいたんだ」
「それは私の架空の彼氏で」
「今まで黙ってその人に会ってたりしたんだ」
「違うの!お願い信じて…」
「やっぱ、人を好きになるのは僕には辛いみたいだ」
「私は本当に佑樹が好きなの」
「ごめん。それが本当でも嘘でも、今すぐに受け止められる自信がないから、一人にさせてくれないかな」
「私も苦しかったの、嘘をついてることが。いつかは言わなきゃいけないってわかってたのに」
お互い、しばしの沈黙が続いた。

「じゃあ、1年後。同じ日、同じ時刻に会いませんか。お互いまだ本当に好きだったら」
「えっ?」
「僕は未央奈とちゃんと向き合えるように。未央奈が、もし1年後も僕のことが好きだったら、ここで会いましょう」
私は、言葉が出てこなかった。

「それと未央奈へ、僕から小説をあげます」
彼が鞄から取り出した小説は、紙袋に包まれていた。
「僕と別れた後に、開けてみてください。それじゃあ」
彼が去ってしまう。もう会えないかもしれない。
「待って!私はまだ…!」


「お互いが向き合えるまで、別れましょう」


 そう言って彼はその場から去っていった。そして、私はその場で泣きだしてしまった。ようやく好きな人を見つけたのに、こんな形で別れてしまうなんて。泣きながら近くのベンチに座り、彼から受け取った紙袋の中を見ることにした。

「まさか、あの時の人…」
紙袋に入っていた小説を見て懐かしい記憶とともに、私は彼への感謝の気持ちが溢れてきてしまい、また泣いてしまった。


1年後


 時刻は午後7時。カップルがたくさん歩いている中を一人で歩いていた。約束を果たすために。

待ち合わせの場所に着いたが、人が多くて見つけられそうにない。周囲を見回してもカップルだらけだ。
「それか、来てないだけで、違う女の子とクリスマスを過ごしてるのかな」
私がそうつぶやいた時だった。

「堀さん」と、聞き覚えのある声がした。
私は、声のする方を振り向いた。
「待たせちゃったかな?」と、息を切らして言う彼に、私は答えた。
「1年間、ずっと待ってたよ。この本を読みながら」と言い、鞄から一冊の小説を取り出した。
その小説を見た彼は、笑顔で答えた。
「思い出してくれましたか?」
「あの時、私に小説を読むことを教えてくれたのは佑樹だったんだね」と、私は笑顔で答え、自分の鞄から、彼からもらった『星の王子さま』を見せた。

「小説は好きですか?」
「大好きです」
「今まで、ごめんなさい」
「ううん、私もごめん」
「僕のこと、また好きになってくれますか?」
「私のこと、また好きになってくれますか?」

私の質問に対し、彼は何も言わず私のことを強く抱きしめ、こう答えた。
「寂しい思いをさせてごめん。未央奈のこと、これからもずっとずっと愛してます」

私たちの小説繋がりの関係が、また始まった。

20171128-04




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