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第3回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo4
ベツレヘムの星
20171229-07




あれは12月、年の瀬も迫ったころ。


東の国では、見たこともない星が西の空に現れたと騒ぎになっていた。


「あの星は何だと思う?蘭世博士」
「ポトポトポットスも見当がつきませぬ。のう、琴子博士」
「星に願いを、ってことじゃない?かりん博士」
「When you wish upon a star ♪」
「あ~歌わなくてよいから」
「蘭世博士は冷たいなあ」

三賢者として東国に名高い、かりん蘭世琴子であったが、三人寄っても文殊の知恵どころか、どんな天文の本にも書いておらず、何もわからなかった。
これは何か大きな出来事に違いない、と占いに頼ることにした。こんな時に頼りになるのは、武田様こと純奈女史。

「ケッハモルタア!ケッハモヌラタア!」

「ね、ちょっとパクりすぎじゃない?蘭世博士」
「スマホアプリも出ましたからねぇ、琴子博士」
「ま、フェアリーテイル、略してFTってことで大目に…かりん博士」
「なんで略すんだよ」
「蘭世博士は冷たいなあ」

「イエエエエエエエエイ!」

純奈の大絶叫。

「うわ!ビックリした!」
「空前絶後の!」
「琴子博士、そっち方面は止めて」

「見えた!見えたぞよ!」
「おお!何と?」
「かの星のもと、ユダヤの王生れたり、と」
「ユダヤの王、とな」
「言祝(ことほ)がねばなるまい」
「我ら、西に赴くべし」

三博士は西の空に見える星を目指して旅立つことにした。
木枯らし吹く冬の夜である。

「あれは12月の寒い夜~♪」
「かりん博士、それは『2月』だし~。がっつり昭和ネタだし~」
「琴子博士知ってんの?」
「もっちろん!『懺悔の値打ちもない』ですよ~」
「暗い暗い暗い」
「やっと十四になった頃~♪」
「その先はダメ!自主規制!」

しばらく歩いたが、明かりは遠くにはたくさん見えるものの、ちっとも次の街に着かない。
蘭世博士が弱音を吐く。

「寒い!暗い!もっとインスタ映えするとこ連れてけや!」
「仕方ないの…羽田空港から歩いてるんだから…しかも国内線ターミナル!」
「は?馬鹿じゃないの?琴子博士もなんか言ってよ!」
「いいじゃないですか、『水曜どうでしょう』みたいで!アハハハ!」
「やけくそかよ!後ろも前も何もないじゃない」
「後ろから前からどうぞ~♪」
「昭和ネタ殺す!自主規制!」
「さっき絢音ちゃんが観てた飛行機の話よ」
「嘘つけ!」

モノレールに沿ってとぼとぼと歩き続け、寒さに精魂尽き果てかけたころ、ようやく天空橋という街に着いた。

「モノレールにもう乗れる!」
「かりん博士、面白ーい!」
「ね、糞つまらないダジャレって、マジで1+1=100になるから止めて!」
「え?ホワイトキック?こりゃまた失礼いたしました!っと」
「キャハハ!モーレツゥ!」
「だ!か!ら!」

蘭世博士は、真剣にモノレールに乗ろうかと考えたが、どうやら星の方角とは違う方向に向かってしまうらしい。それに何より先に「昭和島」という駅があるのが恐ろしかった。これ以上昭和臭を放たれたらかなわない。

「仕方ないわ、環状八号線を行きましょう、琴子博士」
「そうね、かりん博士」
「え?京浜き…」
「いつも工事中だった~環状八号線♪」
「イェイ!イェイ!хорошо!」
「歌いたいだけかよ!ってか、ハラショーってロシア語表記じゃ読めないよ」

京浜急行に乗ろうとしていた、蘭世博士を置いてけぼりにして二人は進む。

「天空といえば、ビアンカとフローラよね~」
「愛がある、冒険がある、人生がある」
「そうそう、琴子博士詳しい!」
「あんたら歳いくつ?」

やがて穴守稲荷という街にやってきた。

「ここに来たから、駅前の狐のコンちゃんに会っていきましょう」
「元気ハツラツ!」
「それは崑ちゃんよ、琴子博士」
「また昭和かよ!」

ついでにお稲荷さんにもお参り。良いことありますように。

「今度こそ、京浜きゅ…」
「いつも工事中だった~環状八号線♪」
「イェイ!イェイ!хорошо!」
「意地でも乗らないつもりだな…」

寒風の中、とぼとぼと歩き続けると、大きな街道のある大鳥居という街に着いた。

「昔…お袋がシーモンキーだった頃、親父はシーマンだった…」
「今度は何っ?!」
「兄貴はアウトランで、姉貴はソニックだった」
「琴子博士まで!あ、セガってこと?!」
「わかるかなぁ…わかんねぇだろうなぁ」
「二人して声合わせるんじゃない!ってか若い人はそのネタわからないから!」

かりん博士と琴子博士に翻弄される蘭世博士である。

「説明しよう!ここ大鳥居はセガ創業の地なのである!」
「はい、かりん博士ガン無視いただきました〜」
「数々の名作ゲームの故郷と言っても、過言ではないのである!」
「仮面ライダー風のコレ要る?」

このままいくと、また電車に乗りそびれそうだ。

「ね、今度こそ電車に…」
「あ!マクドナルド!」
「ホントだ!琴子博士蘭世博士行きましょう!」
「ね、電車!」

琴子博士とかりん博士は駆け出してしまった。
お腹も空いたし、仕方ない。蘭世博士はしぶしぶ従うことにした。

ところがである。三人合わせても所持金が300円しか無かった。マッチを売ろうにも売るものが無い。

「仕方ないわね…じゃハンバーガーは諦めて、ウニのお寿司を食べましょう」
「まてーい!どこの世界に、ハンバーガー食べられなくてウニの寿司を選ぶヤツがいるんだ?」
「だって、ほら」

琴子博士の指さす先には、確かに「ウニ一貫300円 桜井寿司」と看板があった。
行ってみると、ポンコツ臭のする女大将が握ってくれた。

「いや~ダチが『夜曲』って舞台出るってんでね、観に行こうとしたんですが、連絡したらちょうど千穐楽が終わったとこでさ」
「そらいかにもポンコツだよ!」
「ダチにもそう言われちゃいましたよ、アッハッハ!はいどうぞ!」

300円とは思えない、大ぶりの上質のウニがそこにあった。

「いっただきま~す!」
琴子博士がウニだけぺろっと食べてしまった。

「いっただきま~す!」
かりん博士がシャリを頬張る。

当然、海苔しか残っていなかった。

「これがお前らのやり方かああああああ!」
「あ!蘭世博士もお笑いネタね!」
「蘭世博士も照れ屋さんなんだから」

勘定を済ませて外に出ると、中途半端に食べたせいで、余計に寒かった。
だが、ほどなく糀谷という街に着いた。

「ねーねー、かりん博士!『こうじや』ってどう書くの?」
「ん~こうじゃ!」
「……」

糞つまらないダジャレに対抗する気力も無いので、蘭世博士は電車に乗ることに注力することにした。
ふと、大事なことに気づく。

あれ?お金ってさっきお寿司になってしまったのでは?海苔しか食べてないけど。

「ね、かりん博士か琴子博士って、SuicaかPASMO持ってる?」

首を横に振る二人。蘭世博士は脱力するしかなかった。
仕方ない、星を目指して歩こう。
「なんか星大きくなったね!」
「ほんとね、琴子博士」

まだ元気な二人の声に目を上げると、確かに大きくなったあの星が見えた。
蘭世博士も、再び身体の底から力が湧いてくる気がした。

なおもしばらく行くと、京急蒲田という国に着いた。
この地を治める王がいるというので、謁見することにした。

「王様におかれましては、ご機嫌うるわしゅう」
「余がこの地を治める王の真夏じゃ。楽にせよ」
「かたじけのうございます」
「で、東方の三博士よ。この蒲田に何用じゃ」
「我が国の西方に明星を見まして、『かの星のもと、ユダヤの王生れたり』という卦により、お祝いに馳せ参じてございます」
「ユダヤの王となられるお方はどちらにおわしましょう」

驚いたのは、真夏王である。
ユダヤ…心当たりがない。ユダヤ…ユダヤ…ユバヤ?湯葉屋!
湯葉の王となれば、譲るわけにはゆかぬ。

「そなたたちが言うのは、ユダヤではなく湯葉屋の王じゃな。すなわち豆乳鍋女王じゃ。それこそこの真夏じゃ!」
「(またダジャレかよ!)」

蘭世博士は心の中で舌打ちした。

「ん?何か言ったか?まあよい。この真夏を脅かす者であれば、見過ごすわけにはゆかぬ。みり愛大臣、何か知っておるか?」
みり愛大臣は首を振る。

「伊織大臣はどうじゃ?」
伊織大臣も首を振る。

「東方から帰ったばかりの絢音大臣は何か聞いておるか?」
絢音大臣は、卦の中身は知らないものの、確かに明るい星をこの国の方角に見た、という。

「う~む、仕方ない。東方の三博士よ、そなたたちがその者を見つけたら、この真夏王に知らせるように。褒美は期待して良いぞ」
「はは!かしこまりました」

京急蒲田城を出た三人は顔を見合わせた。

「どうする?」
「まあいいか?」
「まあいいか!」

真夏王からの命令はスルーすることに即決した。
目の前に見えてきた星に向かって歩みを進める。

話を聞いていくと、星の辺りでマリアという女が子をなしたらしい。
星の真下とおぼしきところで、とある城に着いた。

「この城の中に新しき王がいらっしゃるみたいね」
「東急プラザ城」
「なんかどこかで聞いたことあるような」

エレベータで屋上庭園に上がってみると、確かに燦然と輝く星があった。

「え~今時アドバルーンって!」

驚くのもつかの間、小屋のようなところにいる美しい女が赤子を抱いていた。
あれが新しき王となる幼子に違いない。

「おお!この子が新しき王!」
「では、そなたがマリア!」
「マリア?いいえ、私はまいやんよ」

その時、赤子が目を覚ました。なんだかお尻の大きい女の子である。

「つか、お尻でかい」
「お尻の大きな女の子?」
「このごろ流行りの女の子?」
「キューティーハニーじゃねえし、お尻の小さな女の子だし」

女の子はくりっとした目でこちらを向いてしゃべる。

「わたし、さゆりんごって言うの」
「しゃべった!」
「ここにさゆりんご軍団結成を宣言するわ!」

その時、三博士に遠い記憶が蘇ってきた。
東急プラザ。お花の観覧車。特設ステージ。

「約束の地!」
「そうよ、ここはさゆりんご軍団約束の地」

軍団長を名乗る女の子はにっこり笑った顔がとても可愛かった。

「意外っていうか…」
「前から…」
「可愛いと思ってた!」

その時、アドバルーンにパッと照明が点いた。『意外っていうか、前から可愛いと思ってた』

「宣伝かよ…」
呆れる蘭世博士こと蘭世の目の前に、なぜか大階段があった。

いつの間にか、大階段の上で構えるさゆりんご。階段を這い上がるかりん博士ことかりん。手を合わせて見守る、琴子博士こと琴子。

「ヤス!上がって来いよ!」
「ヤス?誰?!」
「銀ちゃん、かっこいい…」
「銀ちゃん?!」

階段を転げ落ちるかりん。

「アンタアアアアアアアア!うっうううう…」
絶叫とともにお腹を押さえて倒れる琴子。

訳がわからず、戸惑う蘭世。

とそこに、まいやんの大声が響く。
「はい!カットォォォ!」

♪虹の都 光の港 キネマの天地
♪花の姿 春の匂い あふるる処
♪カメラの眼に映る 仮染めの恋にさえ

途端、真夏軍団の四人を先頭に、乃木坂46のメンバーが歌いながらぞろぞろ出てきた。

「『蒲田行進曲』オチ…最後まで昭和っ!」

「ま、良いじゃん、蘭世!今日はクリスマスだし、みんなで余興ってことで」
寿司屋の大将こと、キャプテンが肩を叩いた。

「さぁ!行くよ!せーのっ!努力!感謝!笑顔!うちらは乃木坂上り坂、46!メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」

一斉にクラッカーが鳴って、歓声があがる。


星の綺麗な夜であった。
みんなの頭上に本当に明るい星が輝いていることに、誰も気づいてはいなかった。





蘭世は疑問に思った。
「ところでベツレヘムって何よ?」

さゆりんごが答える。
「あれな〜!東急プラザとグランデュオ蒲田西館ことサンカマタは、棟続きやけど、同じフロアでも高さが違うから、段差があんねん。だから変な別棟やねんな。別棟変、別棟変、でベツレヘムや!」
「……そんなのわかるかっ!!」

(完)

20171229-08