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第3回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo5
Amazing Grace
20171230-01




私はふと、隣で寝息も軽やかに眠る日芽香の頭を撫でていた
多分寝ているのに、少しだけ笑ったような気がしたのは私だけだろうか

いや、どうやらそうでもないみたい

日芽香のさらに隣にいる万理華が嬉しそうに日芽香の顔を覗き込んでる

その可愛らしい顔を後何回見ることが出来るのだろうか…ふと考えると少しだけ寂しくなる

「ねえさゆ」

「なに?」

「日芽香ってさ…幸せ……なのかな?」

「なんで?」

「だってさ?今もなんとなくそうだけど…乃木坂にいるときだって辞めてからだって、ずっとニコニコしてるじゃん?でもたまに見せるあの闇のある顔もある…どっちが本物なのかなって
ニコニコが本物なら多分幸せだろうけど、あの闇の顔が本物なら幸せじゃないだろうな~って」

「両方中元日芽香…だと思うけど」

「両方?」

「そ、ニコニコしてる時は心から楽しめてる時
闇のある顔をしてる時は何かしら負の感情が湧いてるだけ
別に、おかしいことではないでしょ?」

「まぁ…確かに」

「だから…きっと日芽香は幸せだと思うよ」

「なら…いいけど」

「不安?」

「うん…ほ、ほら!私たちが富山に行っちゃった時だって……」

「あぁ~…笑
でも、アレだって今では笑えるいい思い出じゃない?」

「そうだけど…」

「大丈夫、きっと幸せだよ
じゃなきゃ…こんな顔でスヤスヤ寝ないでしょ?」

「そうかもしれないけど…」

「しっかし……可愛いよねぇ、日芽香」

「うん…こんな顔に生まれたかったよ」

「万理華だって可愛いじゃん」

「さゆの方が…」

「私は可愛いのが嫌なの!」

「そうだった笑」

「ねぇ、人形くらいちっちゃくなってさ、日芽香の身体を探検してみたくない?」

「え………」

「ちょちょちょ!そんな変な意味じゃなくて!」

「わかってるよ笑
でも、せっかくならもっと小さくなってみたいかも」

「もっと?」

「うん、ミドリムシとか」

「微生物かぁ……何が出来るかな?」

「ミドリムシくらい小さくなったらさ、日芽香の心とか覗けないかな?笑」

「心?笑」

「そう!さっきも言ったじゃん?日芽香って幸せかな?って
もし小さくなって心を覗けたら分かるじゃん!」

「まぁ…そうだけど
いくら小さくても心は覗けないんじゃない?」

「そっかぁ……さゆは?」

「私?私なら、毛根。」

「毛根!?笑  なんで!?」

「私、日芽香は長い髪の時の方が好きだからさ
毛根とか刺激したら早く髪伸びるんじゃないかなぁって笑
あとほら、薄いところもちょっと伸ばしてあげないと笑」

「あぁ~、なるほどね~
気にしてないようで薄いところ気にしてるもんね笑」

「そうそう笑
あとなんかある?」

「あとね…手のひら…とか…」

「それまた変なところ」

「うん……気付かれないようにちょっとずつ生命線長くしてあげたい」

「でも、長さってあんまり関係ないらしいよ?」

「え?!」

「島田さんが言ってたよ」

「そーなのー?!」

「うん、カーブが大事らしい、カーブ。笑」

「そうだよね…日芽香…生命線長いもんね」

「うん…」

「あと……私………頭の中に入りたいよ…」

「……そうだね」

「この際だから…相討ちでもいいや…」

「2人いれば……ちょっとはマシかな?」

「どうだろうね…どれぐらい強いんだろう……」

「そりゃあ強敵でしょ……日芽香が勝てなかったんだよ?」

「そうだね……」

「あーあ………ちっちゃくなりたいなぁ…」

「うん………」

「ねぇ……日芽香ってさ…もう無理なのかな…」

「そんなこと聞かないでよ…」

「昨日のうちに今日が峠だって言われたから心の準備してきたのにさ……さっきから涙が止まらないんだよね…」

「泣かないって約束じゃん…」

「そんなの…無理じゃん……」

「万理華…しっかりしてよ!」

「さゆだって……顔ぐちゃぐちゃだよ?」

「だから……私が無理だから…せめて万理華だけでも…」

「自分勝手………」

「ごめん…」



日芽香……ごめん
約束だったのに…笑顔で送り出せないや…顔が涙でぐちゃぐちゃ…

少しずつ弱くなる呼吸音が今か今かと終わりを告げようとしている

そう考えるだけで、涙がダラダラと零れ落ちる

目を瞑っていないと目が痛くなってしまうほど

多分…万理華も同じ
日芽香の頭に乗せた私の手の上にさらに手を乗せた万理華からは微かな振動が伝わってくる
必死に涙をこらえているだと思う

ミドリムシになりたい……身体中を駆け巡りたい…頭の中にいるガン細胞1つ残らずぶっ殺してやりたい…!!!
全部…全部…全部…!
私から好きな人を奪ったあの憎い悪魔を1匹残らず殲滅したい…

でも……きっとそんなこと出来ない……次に目を覚ます時…
一定のリズムを刻む電子音が冷徹に終わりを告げ騒ぎ出した時

私も…万理華も……

夜中か…それともまだ外が暗い朝方か…

きっと、太陽は昇らない

私も、万理華も直感的にそう思ってしまった






Amazing Grace

なんて素晴らしい響きだろうか
明日はクリスマス…神が生まれた日

ならば信じれば救われるのか?神よ。

なら、信じてやる。

貴方様の存在を。

だから……助けてくれ

隣で寝ている彼女を蝕む悪魔を消し去ってくれ…

もしくは…私を小さくして日芽香の頭の中に送り込んでくれ…

ガン細胞を殲滅できるくらい…

なあ…頼む。

私は相討ちでもいいんだ……

ダメならクリスマスプレゼントでもいい……日芽香の頭の中にいる悪魔を全員追っ払えるような薬をくれ…
そのためなら…私の身体の1つや2つ…くれてやる…

この子は…まだ死んじゃいけない人なんだよ!!















いつのまにか私は寝ていた
次に目が覚めたとき…それは冷徹な機械音が終わりを告げたとき…

「えへへ…」

「「日芽香?!」」

2人して飛び起きると隣にいたはずの中元日芽香はいなかった


「もう…いなくなっちゃったんだね…」

「最期は…見られたくなかったのかな」

「かもね……」

私たちはそのまま抱き合い眠りに落ちた

頭の隅で響き渡る美しい賛美歌に気がつくことなく





















「あ、起きた?ちょっと長湯しすぎちゃった~あつーい」

「ひめ……か?」

「だよね……」

「2人ともどうしたの?しかもすっごい目真っ赤で超泣いてるし…笑」

「日芽香が…生きてる……」

「髪が長い……」

「日芽香が……」

「ちょちょ…2人とも怖いよ?」

「「日芽香!!」」

「わわっ!どうしたの?」

「大好き…大好きだよ!」

「私も!私も大好き!」

2人で叫びあった愛の告白は日芽香に届いたか分からない

「えへへ…なんか照れちゃうな笑
私も2人が大好きだよ!ほら!温泉にも入ったしさ、イルミネーション!見に行こ!」

「「うん!!」」



私は日芽香が大好きだ
日芽香の隣で腕を組んで歩いている万理華にだって負ける気は無い



「Amazing Grace~♪」

「あ!日芽香それ!」

「ね!私も思った!」

「アメイジング・グレイス?」

「うん…なんか、夢の中で頭の中にパッと思いついたの」

「私も!なんか、明日はクリスマスだから神を信じてやろう!だから助けてくれ!みたいな!」

「そうそう!」

「2人とも何言ってんの…?笑」

「とにかく、なんかすっごい聞き覚えがあるの!」

「そうなんだ笑
これね、神様は私みたいな人でも救ってくれますよ~みたいな歌だった気がする!
音がいいから覚えたけど、あんまりよく知らなーい笑」

「へぇ~」

「私も覚えたいかも」

「3人で歌えたら楽しいかもね!」

「だね!」









きっと私は今年のクリスマスを忘れることはない
万理華と2人で見たイタズラ好きな神様のクリスマスプレゼント

私の気持ちに気付かせてくれた大切な宝物

ずっとずっと忘れない


「日芽香!」

「んっ…!!」

「ちょ、さゆ!!」

「ファーストキス……ありがとう」

「え?え?え?」

「日芽香!」

「んっ?!」

「私とも!ファーストキスは取られたけどね」

「ど…どーゆーこと??」

「「日芽香、大好きだよ!!」」


20171230-02