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第3回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo8
サンタ以上、恋人未満
20180102-01



僕が22歳の時のクリスマスイブだった。例年よりも冷え込み、夜には雪が降るという予報通り、パラパラと雪が降っていた。街はキラキラと輝く装飾が施され、クリスマスムード満載。手を繋ぎながら歩くカップルばかりで、一歩店の中に入れば、定番のクリスマスソングが流れており、世の独身男女を煽ってるのかとさえ思えた。

僕は今年の春に滋賀から上京をし、社会人として大手食品メーカーの商品開発部で仕事を始めた。様々な仕事に追われる日々で、うまくいかないことばかり。今日も先輩から怒られヘコみながら帰っていた。

明日はクリスマスだ。しかし、僕は一人で過ごす現実と向き合いながら、帰りにコンビニで小さなケーキを買った。220円ほどの小さなショートケーキは、寂しい心を埋めるにはちょうどいいサイズだった。しかし、家で食べるはずだったのだが。

「痛った!」
路面が凍って滑りやすくなっており転んだ。買ってきたケーキは潰れてしまい、見事にぐちゃぐちゃになった。
「はあ…、今年のクリスマスもついてないな」
クリスマスはいつも不幸だ。いや、正確には24日と25日の2日間、不幸が続く。一昨年は彼女にフラれた挙句、なんと以前から別の男と付き合っていることも発覚。昨年はバイトに行く途中に交通事故に遭い、全治2ヵ月のケガをした。小学生のころは、クリスマスプレゼントはすぐ壊れるわ、失くすわで何度も泣いた。そして極めつけが、僕の誕生日が12月25日生まれということだ。

 何事もなかったかのように立ち上がり、家路についた時は23時半だった。
「ただいまー」と、誰もいない真っ暗なリビングに挨拶を済ませ、電気のスイッチを入れた。そしてぐちゃぐちゃになったケーキを一旦記憶から消すために、自分の見えない場所に置き、奇跡的に潰れなかった弁当を袋から救出した。
「今年も不幸な一日になりそうだ」
この言葉どおり、人生最大の不幸が訪れるということを、この時は知るよしもなかった。


時刻は12月25日、深夜0時。僕こと、朝比奈冬馬(とうま)は、23歳の年を迎えた。こんな時、祝ってくれる人がいてくれたら…
「サンタさん、こんな僕にとびっきり可愛い彼女をください」
天井に向かって、虚しい思いを告白した。誰でもいいから祝ってほしい、そう思った時だった。

『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。夜中の24時、絶対にヤバいやつだ。玄関の鍵がちゃんと閉まっていることを確認した。鍵がかかっている以上、入られることはない。いなくなるまで無視しようと、部屋に戻ったのだが。

『ガチャ』

「えっ!?」
玄関のドアが開いた音がした。
「鍵をしているのになぜ!?」と心の中で思ったと同時に、それはこの世の者ではない何かがいるという恐怖が僕を襲った。怖くて後ろを振り向けない。
『バタン』とドアが閉まり、得体の知れない何かが家の中に入ってきた。僕は恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはサンタの格好をした…?

 しかし、僕の目の前が突然フェードアウトし暗くなっていく。最後に聞き取れた言葉が「メリークリスマス」と言う、可愛らしい女の子の声だった。ここからの記憶が全くないまま、僕は深い眠りについた。


 気づくと、僕はベットで寝ていた。昨日の出来事は何だったのか。寝ぼけながらも必死に思いだそうと起き上がろうとしたが、僕ともう一人がベットで寝ていることに気づいた。

それはサンタの格好をした女の子で、スヤスヤ寝息を立てて、僕に抱きつくようにして眠っている。しかも抱きついて寝ているせいか、僕の右腕が女の子の胸に当たっているではないか。突然の出来事に、頭が追いつかない。
「でも、これはこれで幸せかも」
僕は一旦ベットから起き上がることをやめ、今起こっている、この不可抗力な時間を楽しむことにした。そして僕の脳裏には一つの欲が生まれた。
「左手で、もう片方の胸を…」
意を決して手を伸ばそうとした、その時だった。

「んー」
女の子が目を覚ましたのだ。僕はすぐさま手をひっこめ、何事もなかったかのようにした。
「あれ、もう朝?」
その子はゆっくりと起き上がった。
「よく寝たー」と言い、伸びをした。その姿はまさに天使、いやサンタ。上は両肩を出した服で、下はミニスカートで、丈は膝より高い位置まで上げている。

「ああ、おはよう冬馬。昨日はぐっすり寝とったなぁ」
「なんで僕の名前を?」
「なんでって、あんたが、ななのこと呼んだから」
「いつですか?」
「天井に向かって言っとったやん。可愛い女の子が~って」
「あれは冗談というか」
「まさか、冗談で女の子呼び出したわけ?あんた最低やな」
「すみません…」
「まあ、細かいことは置いといて。今日一日よろしくな」

 いまだに状況が掴めないでいる僕は、いろいろ聞いてみることにした。
「あの、お名前は」
「西野七瀬。職業は願いを叶えるサンタさん。まあ簡単に言えば一日彼女みたいな」
「どんな願いでもいいんですか?」
「ええで」
「じゃあ、もう一度ベットに戻ってもらってセッ…」と言いかけた時だ。西野から強烈なボディーブローをくらった。
「グフッ!」
正確にみぞおちを捉えたグーパンで、その場に倒れ込んだ。
「それ以上はサンタ手帳第4条第3項によって禁止されてるの」と言うと、『サンタ手帳』と書かれた手帳を見せてきた。
「残念でしたー」
「じょ…冗談で言ったのに…」

「それでな、ここからが大事な話しなんやけどな」
「はい」
「あんたは今日死ぬ」
「ちょ、ちょっと待ってください。今なんて?」
「自分の幸せを叶えたかわりに、あんたは死ぬ」


 それは、人生最悪なクリスマスの始まりだった。


とにかく落ち着こう。まず超可愛い女の子が、僕の一日彼女としている。だが、僕はその幸せを叶えた代償として今日死ぬ。
「ちなみに、なな、今年で300歳になるの」
「300歳!?どう見ても20代にしか見えませんよ。もしかして生き霊的な?」
「そんな感じやな。実際、ななはもう死んでるし。あと、出身はアメリカなの」
「なんで関西弁なんですか?」
「方言女子、可愛いやろ?勉強したんやで」
「いや、方言使わなくても十分可愛いです」
「またまた、冬馬は褒めるのが上手なんやから」
その後も話しを聞いてわかったことは、何でも10年に一度、自分のことを求めている人に会って、幸せにすることが仕事らしい。
「で、僕はどんな感じに死ぬんですか?」
「それは秘密」と満面の笑みで答える西野が、なんだか怖く感じた。

「じゃあ改めて、ななと何したい?」
これと言って思いつかなかったが、とりあえず街に出かけたいと思った。しかし、僕には一つ気になることがあった。
「あの、すごいサンタ服似合ってるんですけど、着替えてもらうことできませんか?外を歩くにも恥ずかしくて」
「それ、30年前にも言われたんやけど、サンタ手帳第2条第5項によってできないの」
 それを聞いて僕は仕方なく外を出ることにした。

「なあ、手繋いでもいい?」と西野が聞いてくる。その聞き方は顔を覗き込んでくるような聞き方で、顔を近づけてくる仕草が可愛すぎる。そして物欲しそうな表情が何にも例えられないくらい可愛い。
「いいけど」と、僕は恥ずかしさを隠すために少し強がった。
「やったー。今日一日、ななのこと好きでおってな」と言うと、くっつくように腕に抱きついてくるし、これは手を繋ぐとは言わないと思うのだが。なんで今日一日だけなんだと心の底から思った。できるなら、死後のお世話もしてもらいたいくらいだ。

「渋谷行きますか?」と西野に提案してみる。
「渋谷より、もっと日本っぽいところがいいな」
「じゃあ、浅草行きますか?」
「詳しいの?」
「僕、おばあちゃん子でさ、昔よく行ったんだよね」
「浅草かー。いいね、40年ぶりに行ってみようかな」
ということで、僕と西野は浅草へ向かうことにした。

 浅草までの道のりは恥ずかしいものだった。まるで僕が「彼女にサンタコスをさせてデートをさせているのでは?」と、周囲の視線を感じながら浅草寺に着いた。浅草寺に着いても、周りの外国人観光客や若者に写真を撮られる始末。もう周囲からの「あのサンタコスした子、めちゃくちゃ可愛くないか?」という声にも慣れてしまった。

 雷門を抜け仲見世に入ると、たくさんの観光客がいた。和傘やかんざしなど、和風な小物を見る外国人。お年寄りに家族連れもいて、和菓子を専門に出す店、お箸や食器などの家庭で使うものを見ている。
「人多いから、はぐれないように手離さんといてな」と心配そうに言う西野。
「わかった、離さないよ」と言い、僕は西野の手をキュッと握り返した。
「ありがと」と笑顔で答える西野が、これまた可愛い。

本堂の前まで行き、線香の煙を浴びるというお馴染みの行動も終えたところで、僕と西野で参拝することにした。僕らの順番が回ってきて、隣合わせでお願い事をした。

「西野は、どんなお願い事したの?」
「冬馬と楽しく過ごせますようにって。冬馬は?」
「西野が本物の彼女になってくれますってお願いした」
「えー、嬉しいなぁ。じゃあ…」と言うと、僕に抱きついてくる西野。
「ちょっとやめろって、こんなところで」
「だって冬馬のこと好きだし」
「だからって」
「サンタやってて、一日限りの付き合いだから、いつもななのこと思ってくれる人がいないの。でも冬馬は優しいから」
「それ、サンタ手帳に書いてあるマニュアル?」
「もしかしてバレた?」
「めっちゃショックなんだけど」
「冗談やって。冬馬は、ななのこと大事にしてくれるって信じてる」
そう言うと、またも西野にくっつかれた。

本堂を離れ、僕らは一軒の店に入った。そこは、昔おばあちゃんと行った和食料理店で、少し行かなくなったうちに内装は綺麗になっていた。
「お腹すいたし、ご飯にしよう。ここの和食美味しいんだ」
「へー。和食食べるのも40年ぶりや」
「好きなもの頼んでよ、奢るからさ」
「やったー。何がいいかな」と嬉しそうにメニュー表を開き、食べたいものを選ぶ姿も可愛い。可愛いしか言ってないな自分。

 少しして店員を呼び、僕はとんかつ定食を、西野は親子丼を頼んだ。
「冬馬は、今までどんなクリスマス過ごしてきたの?」
「毎年不幸続きでさ、昨年は事故にあって全治2ヵ月の大けが。その前の年は彼女にフラれるっていう」
「そうなんや。私は、毎年家族と過ごしてたかな。クリスマスって本来は家族が集まって過ごす日だし」
「いいな、家族と過ごすの」僕は少し悲しそうに言った。
「冬馬どうしたん?」
「いや、なんでもない」

「お待たせしました」と店員が料理を持ってきた。西野が注文した親子丼は出来立てで、湯気が立っていた。
「美味しそう。いただきます!」と言い、親子丼を食べ始める。
「冬馬、親子丼、一口あげよっか」
「いいの?」
「うん。じゃあ、あーんってして」
親子丼をスプーンで一口サイズにすくうと、僕の口元近くまで出してきた。
「はい、あーん」
僕は一口で親子丼を食べた。夢にまで見た行動を、こんな可愛い子にしてもらえるなんて幸せすぎる。


 ご飯も食べ終えたので、会計を済ませ店を出た。
「ちょっと買い物したいんだけど」
「冬馬の行きたいところならどこでも」
今度は僕から西野の手を握り、近くのスーパーに向かった。そこでお酒とお弁当を買った。そして近くの花屋にも寄り、ちょっとした花束を買った。
「これでよしと」
僕は必要なものを購入し終えると、スマホで電車の時刻表アプリを開き、路線のルートを調べ始めた。
「ここから30分か」
「冬馬、どこ行くの?」
「久しぶりに、両親に会いに行こうと思うんだけど、付き合ってくれないか?」
「ななが行ってもいいの?」
「大丈夫、うちの両親優しいから」
「冬馬がそう言うなら」
「じゃあ決まりだね」

 僕は時刻表通りのルートで、両親のいる最寄駅まで向かったのだった。


 30分後、最寄駅に着き、そこからバスで20分かけて到着した。
「ここが、冬馬の」
「昨年はケガで来れなかったから、2年ぶりか」
そこは、僕の両親のお墓だった。
「ちょっと掃除でもしようかな」
僕はほうきとちりとりを持って、掃除を始めた。
「ななも手伝う」
「じゃあ、桶に少し水を汲んできてもらおっかな」
「うん」

 掃除は一通り終わり、線香を炊いた。袋からはお弁当と父親が好きなお酒を出して置き、僕は手を合わせ黙祷した。

「実は小さい頃、家族でクリスマスの日にプレゼントを買いに行ってさ。その帰りに交通事故にあって。その次の日に両親を亡くしたんだ」
「そうだったんだ」
「僕は奇跡的に助かって、こうして生きてるわけだ」
「冬馬…」
「明日来ようと思ったけど、僕も死ぬみたいだし今日のうちに行っとかないとなって」
隣にいる西野は黙ったままだった。
「よし、帰りますか。帰りにイルミネーションでも見に行こうよ」
「うん」
僕らは、また最寄駅へと戻るために歩き始めた。


「冬馬」
「なに?」
西野の方を見ると、なぜか涙を流していた。
「どうしたの?」
「ななも昔のこと思い出して」
「生きてたころのこと?」
「うん。ななの家、ものすごく貧しくて生活するのが精一杯で。でもお父さんもお母さんも優しくて、辛かったけど毎日が楽しかったの」
「そっか」
「でもね、クリスマスイブの日、家が火事にあったの。家も家族も思い出も。そこで全部無くなっちゃったの」
淡々と話す西野だったが、とても悲しそうな表情をしていた。
「寂しいの、クリスマスって。だから、ななもこうやって誰かと一緒にいたかったのかな」
「西野…」
「会いたいな、家族に…」


 空を見上げる西野の顔が、泣くのを我慢しているように見えた。
それを見た僕は、無言で、衝動的に西野のことを抱きしめた。

 西野は僕の胸を借りるように、今度は声をあげて泣き始めてしまった。
明るく気丈に振る舞っていても、抑えられなくなる時もある。お互い、本当の別れを知っているからこそ、わかってあげられるのかもしれない。この時だけは、西野が普通の女の子に見えてしまった。


 僕と西野がイルミネーションを見に来たのは、夜の9時ごろだった。二人とも夕飯を食べ終え、本日最後の締めくくりとして、有名なイルミネーションを見に来たわけだ。
「冬馬ったら、奮発しちゃって高いレストランでご飯食べるなんて」
「女の子はこういうのがいいのかなって」
「背伸びしちゃって。お会計する時、金額見て手震えてたよ」と笑顔でイジってくる西野。
「べ…別に震えてないし」と強がる自分。
しかし、会計で2万もするとは。女の子を楽しませるには、それ相応なお金がいるんだなと改めて実感した。

「イルミネーション綺麗だね」
「こんなに綺麗に見えたのは初めてだな」
「それって、ななのおかげ?」
「七瀬のおかげだよ」
「あー、どさくさに紛れて名前で呼んだ」
「いいじゃん、別に。好きなんだから」
「ななも、冬馬のこと好きだよ」
西野が僕の右腕にしがみつき、頭を肩にもたれかけてくる姿は、本当の彼女のようだった。明日も明後日も。ずっと七瀬と過ごしていたい。

「じゃあ帰ろっか、冬馬の家に」
「うん」
このまま終わっていいのか。どうにか好きな気持ちを伝えることはできないのか。
「冬馬さ、家帰ってから何する?」
「こたつに入って七瀬とケーキ食べて、大人しく死ぬのを待つ」
「ほかは?」
「ほか?うーん…」
「じゃあ、ななから一個お願いしてもいい?」
「いいけど」
そう言うと七瀬は小走りをし、僕から少し距離をとった。そして僕の方を向き、笑顔で話し始めた。

「冬馬が朝言ってたこと覚えてる?」
「えっ?」
「ケーキ食べ終わったら、ななとセックスしよ!」

 僕は呆然とした。ただ覚えているのは、七瀬が笑顔で僕の手を引っ張り、家まで帰ったということだけだった。


 僕は家に帰る前に、コンビニで小さなショートケーキを2つ買った。
「ただいまー。冬馬の家は落ち着くなぁ」
僕はケーキが入った袋をテーブルに置き、こたつの電気を入れた。
「早くケーキ食べよ!」
「あっ…うん、そうしよっか」
依然として気持ちの整理がつかない僕は、ただ上の空でしか返事ができなかった。
「いただきまーす」元気よく言う七瀬。
「いただきます…」緊張しながら言う自分。


 ケーキも食べ終わり、僕はケーキのカップを片付けた。
「はぁー美味しかった。やっぱクリスマスはケーキ食べておとかないと」
「七瀬、あのさ」
「どうしたん?」
「さっき言ってたこと…」
「あー」
「・・・」
「冬馬、先待っててくれない?女の子にも準備ってものがあるの」
そう言うと七瀬はリビングから姿を消した。


 僕はリビングの電気を消し、ベッド入り、その時が来るのを待った。
すると真っ暗で何も見えない中に、静かに物音がした。そして七瀬がベッドに入ってきたのがわかった。僕は背を向けるようにして寝ており、七瀬が後ろから抱きつく。
「冬馬わかる?」
「七瀬、やっぱりこういうのは…」
「寒いの。ななのこと温めてほしいな」さらに抱きしめる七瀬。体が冷えるのだろう、少し震えていた。ただ、その気持ちに応える踏ん切りが、なかなかつかない自分。どうしたらいい。

「冬馬、もうななのこと一人にしないで」
その言葉にハッとさせられた。自分も一人で寂しかった。同じ思いをさせてはいけない。背を向けていた僕は、七瀬の方に体を向けた。

「七瀬」
「冬馬、ごめん」
「こっちこそごめん」
「そうじゃないの」
「七瀬?」
「もうお別れの時間がきちゃった」
ベッド近くの時計を見た。時刻は23時59分だった。

「セックス、できなかったね」
「もうそんなことどうでもいいよ」
「なな、2つも規則破っちゃった」
「2つ?」

 僕がそう言った瞬間、七瀬に口を塞がれた。
「これが2つ目」
「もう悪いサンタだな」
「小悪魔サンタって言ってほしいな」

「ななと会えて、幸せだった?」
「幸せだった」
「良かった。もし天国でななの家族に会ったら、よろしく伝えといてな」
「わかった」
「じゃあね、冬馬。大好き」
「じゃあな、七瀬。好きだったよ」


 この言葉を最後に、僕の目の前が暗くなっていった。


 僕は長い夢から解放されたかのように目が覚めた。
「あれ?いつものベッドだ」
僕は時計を見た。
「12月26日」
ここは天国なのか?よく分からないまま起き上がり、ベッドから出た。するとテーブルには一枚のメモが残されていた。

「冬馬は意気地なしだから、ななとできないことは知ってたで!あと死ぬ設定はごまかしといたから感謝しいや!」と書かれていた。こう言ってる七瀬の姿を想像してしまい、つい笑ってしまった。

 こうして、幸せなクリスマスが幕を下ろした。


1年後。


 僕は会社帰りにコンビニでケーキを買った。
「ただいまー」と誰もいない真っ暗なリビングに挨拶を済ませ、電気のスイッチを入れた。テーブルに弁当とケーキを置いた。今年のクリスマスイブは違う。昨年はケーキを潰したが今年は無事だ。

 時刻は12月25日。深夜0時。僕はまた一つ年をとった。今年のクリスマスも一人での祝いとなった。そんなことを思っていた矢先だ。

『ピンポーン』

 玄関のチャイムが鳴った。夜中の24時、絶対にヤバいやつだ。玄関の鍵がちゃんと閉まっていることを確認した。鍵がかかっている以上、入られることはない。いなくなるまで無視しようと、部屋に戻ったのだが。

『ガチャ』

「えっ!?」
玄関のドアが開いた音がした。
「鍵をしているのになぜ!?」と心の中で思ったと同時に、それはこの世の者ではない何かがいるという恐怖が僕を襲った。怖くて後ろを振り向けない。『バタン』とドアが閉まり、得体の知れない何かが家の中に入ってきた。僕は恐る恐る後ろを振り向いた。

「冬馬、メリークリスマスやでー」
それは聞き慣れた声の、関西弁を使うサンタが立っていた。
「どうして…」
「会いたくなっちゃった」
「じゃあ、これからもずっと…」
「そう、冬馬の幸せを叶えて、今度こそ死んでもらう!」
「わかった。じゃあ、早速なんだけど、セッ…」と言いかけた瞬間だ。僕に一発のボディーブローが入った。
「グフッ!」
「意気地なしの冬馬とは、できません!」と満面の笑みで答えるサンタは1年前と変わらなかった。そして、今年もこの可愛いサンタに振り回されるのかと思うと、僕は楽しみで仕方がなかった。

20180102-02