「ふたり」様より、妄想小説をいただきました。


 これはあくまで妄想であり、想像のおはなしです。それでも溢れ出すリアリティは、作者のふたり様が白石麻衣さんを心から推しているから……。

 自分はそう受け取りました。そして感動しました。深い部分で応援しているからこそ、この物語を紡げたのだと思います。


 どうか「現実」と「想像」の境界線を強く心に引いてご覧ください。



ふたり様の過去の投稿記事) 


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ふたりのセンター


作者 ふたり





笑顔が弾けるとは、まさにこのことを言うのだろう。

乃木坂46の新曲、その選抜メンバーの発表。Wセンターのもうひとりが白石麻衣だとわかった瞬間、大園桃子が邪気のない笑顔で、抱きついてきた。

「まい姉さんで、良かった…」

ちょっとかすれ気味の、甘えるような声。白石は口元に微笑みを浮かべながらも、これから告げなければならない大きな決断に、桃子の体をそっと引き離す。

えっ?と、きょとんとする桃子。そこに、今野義雄の事務的な声が重なった。

「――ここでもうひとつ、白石から発表があります」

静まり返る会議室。乃木坂のメンバーとスタッフが揃っている。これまで何度、同じような光景を繰り返してきたことか。ついにきたか――。誰もが拳をぎゅっと握りしめた。

「このシングルでの活動を最後に、私・白石麻衣は……乃木坂46から卒業します」

視線の端に、表情をなくしたまま固まっている、桃子の姿が見えた。ごめんね、と頭をなでてあげたい想いを飲み込んで、白石は平静を装いながら、用意してきた言葉を、メンバーに告げていった。



「最近、桃ちゃんとはどんな感じなの?」

高山一実の言葉に、白石は手にしていた映画の台本を机に伏せた。近くにいた松村沙友里が、ちらりと視線を向けてくる。

「ふつうに話すよ。」

「ふーん……。ならいいけど」

周りが聞きづらいことも、さらっとした感じでタイミングよく聞けるのが、高山のいいところだ。彼女が聞いてきたということは、周りのメンバーもみんな気にしているということだろう。

選抜発表で卒業を告げて以来、桃子の白石に対する態度は、小さな変化を見せていた。それまでの、大好きなお姉さんに甘えるような、ストレートな感情表現は影を潜め、代わりに、言葉を選ぶような、一瞬の躊躇を感じることが多くなっている。

それでも普通に話をするし、時には笑顔を向けることもある。Wセンターとしてのコミュニケーションはしっかり取れているので、表向きには大きく変わっていないはずだ。


乃木坂46にとって、激動の、そして躍進の一年となった2017年。

2月に盟友の橋本奈々未が卒業し、一度は卒業を決意していた白石を、グループに押しとどめたのは、まぎれもなく大園桃子の存在だった。


橋本の卒業コンサートの2日後に開かれた、バースデーライブ千穐楽。

そのダブルアンコールで、行き場所がわからなくなり、ステージ上で迷子のように泣きじゃくる桃子を見て、この子が一人前になるまでは…と決意したのである。


以来、純真に自分を慕ってくれる桃子の存在は、これまで白石が見せてこなかった、母性という新たな要素を引き出し、多くのファンやメンバー、スタッフを驚かせることとなった。そして、夏の全国ツアーを通じて、二人の絆は、いっそう深まっていったのである。


「ほんとはね、今のシングル、単独センターでって言われてたんだ」

思わずぽろっと口から出てしまった。高山が、ぐっと身を寄せる。

「やっぱそうだったんだ。まいやん卒業なのに、なんでWセンターなんだろう?って」

「うん。私の方から断ったの。これからの乃木坂を考えると、若い子にチャンスあげるべきだと思うし」

そうだねーと松村がうなずく。うんうんと同調する高山。

「何度も断ったんだけど、どうしてもっていうので、条件出したの。桃子とのWセンターなら、やってもいいよって」

私を忘れてない?と言いたげに、自分を指さしながら頬をふくらませる松村に、白石は思わず噴き出して軽くあしらいながら、

「桃子は成長してるけど、本物の一人前になるには、最後のひと押しがいるなって、ずっと思ってて」

「そのひと押しが、まいやんの卒業ってこと?」

「そう。私がいると、甘えというのかな。それがどうしてもなくならないからね」

「まいやんはすごいなー」

高山の声が一段と高くなる。松村は、その話をすでに白石から聞かされていたのか、いつも通り、白石に細かいちょっかいを出し続けていた。

「確かに、最近の桃子は成長してるよね。人懐っこいのは変わらないけど、ここ一番での集中力がすごくなったというか」

高山の言葉に、白石はうなずいた。自分がしっかりしなければならない。そんな思いが、桃子の中に芽生えて育ってきているのが、白石の目からもよくわかった。

「かずみんも、すっかりお婆ちゃん目線だもんね」

「そうなのー! かわいくてかわいくて。なので、ちょっと寂しい面もあるかな」

「そうだね」

自身の卒業が、甘えん坊だった彼女を成長させている……。期待に応えてくれる桃子には、感謝の気持ちが一番強いが、一抹の寂しさも感じずにはいられなかった。自らが招いた状況ではあるけれども。



歌番組で、司会者から話を振られた際、これまでは白石がマイクを持つことが多かったが、最近は桃子が率先して話すことも増えてきた。桃子はそのキャラクターとも相まって、いったんハマると話がどんどん面白い方向に転がって、それがなんとも温かな雰囲気を生み出していく。白石はその様子をニコニコ眺めつつも、彼女が少し行きすぎた時にはしっかり手綱を引き締めていた。そんなWセンターの絶妙なバランスが、今回の表題曲をより魅力的に輝かせているのかもしれない。


新曲が発売されて2か月くらいの間は、歌番組に呼ばれる機会も多いが、それを過ぎるとめっきり少なくなる。グループ全体も次のシングルに向けて動き始め、事実上、今回の表題曲に関する活動は終わりを告げようとしていた。それはまた、白石の卒業が近づいてきたことも意味していた。


そんなある日。


桃子からLINEで連絡が入り、夜空いている時間はないかと尋ねてきた。

白石は、グループLINEで送られてくるメンバー全員のスケジュール表から、桃子のスケジュールを表示させ、それを自身の手帳と見比べてみた。手帳には、転記した仕事のスケジュールと、プライベートのスケジュール両方が書かれている。

桃子が空いていそうな日を指定して返事すると、すぐに返信があった。時間と、待ち合わせ場所が書いてある。

銀座?

白石は驚いて、二度見した。「ほんとに銀座で合ってる?」と返すと、間違いないという。

とにかく来てください!と、いつになく強引な桃子の勢いに押されて、白石はOKした。



待ち合わせ場所は、銀座にあるソニーパークという公園の一角だった。かつてはソニービルが建っていた場所で、現在は取り壊されて公園となっている。

いつになく、きちんとした服装に身を包んだ桃子の姿を見かけて、白石は微笑んだ。

白石を見つけた桃子の表情も、白石が卒業を発表する前の、邪気のない笑顔に戻っていた。

「なんかうれしそうだね」

桃子にリードされるまま並んで歩きながら、自分もうれしくなって、桃子の顔を覗き込むように言うと、桃子は素直にうなずいた。

「今日は、乃木坂に入って、一番うれしい日だよ」

「そうなの? 楽しみだな」

心の底から、白石はそう言った。


夕暮れが包む銀座の中央通りを、二人並んで歩いていく。行き交う車の列、どことなく上品さを漂わせる人々。

通りが、高架で途切れる寸前のところで、桃子は路地へと折れ曲がった。


慣れた調子で、桃子に案内されたのは、一軒の寿司屋の前だった。

「桃子、ここって」

白石は、まさかと見上げた。名前を見たことがある。ミシュランで星3つの評価を得ている名店だ。値段もさることながら、若者二人で入るには敷居の高い店だ。

「任せてって!」

言って、桃子はスタスタと入口に向かう。白石はあわてて後を追った。

憶することなく入店し、手順どおりに名前を告げ、席に案内される。白石も高級店の経験がないわけでないが、庶民的な店を好むため、プライベートで入るのは初めてだ。

オーダーもしっかり済ませた桃子を見て、白石は目を丸くした。

「桃ちゃん、すごいね。いつのまに」

「一度ここに来て、練習したんだよ」

「そうなんだ!」

「――嬢ちゃん、一度だけだったかな?」

カウンターの大将が、笑いながら横から茶々を入れる。桃子はふくれて、「もう!」と大将に向けてふくれっ面をした。

「これは失礼。怒られるな」

笑いながらカウンターの奥へ引っ込む大将。白石は、二人を見比べた。

「今日で2回目、ほんとだよ。練習は一度だけ」

「そう。わかった」

得意げな桃子の振る舞いに、白石は微笑んだ。すべてがかわいらしい。抱きしめたくなる。

「桃子ね、思ってたんだ」

カウンターに並んで座る二人。桃子が正面を向いたまま、横の白石に声だけで話しかけた。

「初めて、まい姉さんに焼き肉に連れていってもらった時、あったでしょ?」

「ああ……あったねー」

 遠い記憶。実際にはそんな昔でもないはずなのに、濃密な時間を過ごしているせいで、とてつもなく遠く感じる。

「その時にね、誓ったの。このお礼に、いつか必ず桃子がまい姉さんをお寿司屋さんに連れていくんだって」

「そうだったの?」

「うん。それも、ただ連れていくだけじゃないよ! ちゃんとお寿司屋さんが似合う大人になって、まい姉さんを連れてきたいって。そのために、お仕事がんばろうって」

「……そっか」

「桃子、ほんとにがんばったんだよ?」

顔を上げると、純真な瞳が、じっと白石を見つめている。

白石は何度もうなずいて、そしてゆっくりと、桃子の頭に手を置いた。

「うん、よくがんばったね」

瞬間。

じわっと、桃子の瞳から涙があふれ出した。

Wセンターの時もたくさん助けてもらったし、もう安心して、乃木坂を任せられる」

白石は、桃子をぎゅっと抱きしめた。

「素敵な想い出を、ほんとにありがとう。私にとっても、今日は乃木坂に入って、一番うれしい日になったよ」

「やった!」

泣き笑いの桃子。白石の目も、涙でうるんでいた。


カウンターで寿司を握っていた大将が、すっと持ち場を離れた。そして、手ぬぐいで汗をぬぐうフリをして、そっと目じりのあたりをぬぐっていた。



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