みんなー、ザンビってるかい!!

a


前回、楓(飛鳥)と聖(与田)の妄想ストーリーを書いたら、意外と好評をいただき、びっくりしています(【ザンビ】楓(飛鳥)と聖(与田)にこんな物語があったらいいなぁという妄想)。

皆さん、ザンビ好きなのねー!いいよいいよー!もっと盛り上げていきましょうよ!


というわけで、ドラマ『ザンビ』二次創作第二弾。

ザンビのなかでも屈指の名シーンといわれる、第9話の弥生(珠美)と美琴(麗乃)のシーンから想像して書いてみました。


本編が長いので前置きはここまで!

ごゆっくりお楽しみください!






『あなたがいれば』


 わたしは、なんで生まれてきたんだろう。

 トイレの個室に閉じ込めらたわたしは、白い天井を見上げる。次になにが起きるかは想像できた。いつもこうだ。いつも放課後、トイレに連れ込まれ、言葉という凶器で心をえぐられ、そして――。

 あっという間に全身がずぶ濡れになった。個室の上と下から伸びたホースで大量の水をかけられる。外からは笑い声が聞こえた。水音に混じり、「弥生は汚いからこれでサッパリできるね」と馬鹿にしたような声も聞こえる。

 体が冷え、唇が震える。衣服が肌に張りつき、気持ち悪い。まるで水中にいるように呼吸が苦しくなる。やめて。その言葉も水の勢いにかき消された。

 わたしはただ普通に過ごしていただけ。なのに、なぜかこうなっている。心当たりはまるでない。悪いことをしたなら謝る。迷惑をかけたなら改善する。どうか許してほしい。でも、彼女たちはわたしを許しはしなかった。

 わたしは彼女たちになにもしていない。

 なのに、彼女たちはわたしを攻撃する。

 なんで?

 自分の体を抱きしめ、わたしは悟った。

 わたしは生きていることが、罪なんだ。





 濡れた体のまま、屋上へと向かう。先生に事情を話しても、助けてはくれない。それは今までの経験から知っていた。見つかって、濡れた理由を聞かれるだけ面倒なことになる。だから、いつもは誰にも見つからないよう自分の部屋へと足早に戻った。

 でも今日は別に良いと思っていた。誰に見つかってもいい。わたしはわたしの罪を償うのだから。誰にも邪魔させない。

 屋上に出ると夕方の空が広がっていた。血のようだと思った。もし心から血が流れたら、こんな色なのだろう。

 放課後に屋上にくる生徒はほとんどいない。罪を償うには最適な場所だ。わたしは迷わず、屋上の端へと向かう。恐れはなかった。このまま生きていくほうが、ずっと恐ろしい。

 そのとき、ひとりの生徒が視界に入る。向こうもわたしに気づいたようだった。その姿がはっきり確認できたと同時に、わたしの足は自然と彼女に近づいていた。彼女は同じクラスの椎名美琴さん。ほとんど話したことはない。

 そんな彼女もわたしに近づいてくる。

 きっと同じものを感じたのだろう。

 美琴さんは、わたし同様、全身ずぶ濡れだった。

 話さなくても、なにがあったかわかる。お互いに顔を見合わせ、吹き出してしまう。ひどい格好だ。血の色をした空のもと、ずぶ濡れの女子生徒ふたりが向かい合っている。まるで地獄だ。笑ってしまうぐらいに、地獄だ。

「わたしたち、なにか悪いことしたのかな」

 美琴さんはそう言って、寂しく微笑む。

 わたしは笑って答えた。

「生きてることが罪なんだよ。だから、生きてることが悪いことなの」

 そっか。美琴さんはそう言って頷くと、笑いながら聞いてきた。

「それじゃ、どうしよっか?」
「罪は償わなくちゃいけないんだよ」
「そうだよね。罪は、償わなくちゃね」

 美琴さんは笑って、泣いていた。わたしの目からも涙があふれる。自分の体なのに、自分でコントロールできない。その涙を見られるのが恥ずかしくて、美琴さんを抱きしめた。

 この世界に未練なんてなかった。自分ひとりが消えても誰も悲しまない。惜しまない。だってこの世界に生きているのは、わたしひとりだったから。でも、わたしと同じ世界を生きる人がいた。生きる人を見つけた。ひとりぼっちの世界じゃないと知った。

 だったら、生きる意味があるのかもしれない。

 わたしは、生きていても良いのかもしれない。

「美琴さん」

 彼女を抱く手にギュッと力を込める。

「罪を償う前に、友だちになろう」
「……友だち?」
「そう。わたしたちきっと、友だちになれる」

 わたしは運命なんて信じていなかった。もし運命があるなら、なんでわたしばかり不幸な目にあうのか。なぜそんな運命の元に生まれてきたのか。だれを恨んでいいのかわからない。その理不尽さに耐えられない。だから信じなかった。

 でも今は、信じたいと思った。

 きっとここで、美琴さんと出会えたのは、運命だ。

「ふたりでなら、乗り越えられると思うの。わたしたちはもう、ひとりじゃなくなるんだよ」

 しばらくして。

 美琴さんがつぶやくように言う。

「あなたにここで出会えなかったら、わたしきっと……」
「わたしもそうだよ」

 美琴さんはそっと頷き、わたしの腰に回した手に力を込めた。

「弥生さん、あったかい」
「弥生でいいよ。美琴」
「うん。ありがとう、弥生」

 お互いの体温が混ざり合い、その日、わたしたちは親友になった。空は血の色から、すべてを包み込む闇に変わっていた。





 美琴とわたしは漫画研究会の部員となった。あとから知ったことで、美琴は大の二次元好きだった。わたしも同じだ。ここでも共通点があった。こんな素敵な運命を用意してくれた神さまに感謝したい。

 いじめは続いたが、辛いときは、ふたりでハグをした。そうすることで心が救われた。だれかの温もりが傷ついた心を癒してくれる。ひとりのときにはない発想だった。

 間違いなく、わたしは美琴がいるから生きていられた。

「ねえ、美琴」

 ある日、わたしは美琴にこう言った。

「美琴がいない学園生活なんて考えられないよ」

 美琴は嬉しそうに笑い、飛びついてくる。

「わたしもだよ。弥生。いなくならないでね。ずっと側にいてね。約束だからね」
「うん。なにがあっても」

 わたしと美琴は抱き合い、笑い合った。










 なのに……。










 わたしは暗い部屋で膝をかかえる。

 あのとき、わたしは美琴を助けられなかった。美琴の伸ばした手をつかむことができなかった。美琴がいたから、今、わたしはこうして生きている。美琴がいなかったら、もうこの世界にいなかった。そんな恩人を見捨てて、なんでわたしは生きているんだろう。

 もし、自分に力があれば、美琴を守れる力があれば……。悔しくて涙が出そうになる。わたしが強ければ、美琴を助けられた。もし今度があるなら、必ず助ける。その手を、必ずつかむ。

 しかし、そんな機会が二度とないことぐらい、わかっている。美琴を救えなかった。美琴はもうこの世にはいない。二度と、その手をつかむことはできない。

 窓を見る。そこにはザンビの大群。いっそのこと窓を開けてしまおうか。そうすれば、美琴と同じ場所に……。

「……美、琴?」

 そのとき、ザンビの集団のなかに、美琴の顔を見つけた。ザンビになった美琴は、威嚇するように窓を叩く。

 でも、怖さは感じなかった。わたしは、はじめてあったあの日のように、自然と美琴に近づく。

 ごめんね、わたしのせいで、ごめんね。心でつぶやく。

 ザンビとなったはずの美琴は、あの日の美琴の姿で言う。

「わたしのいない学校で、生き延びる意味なんてある?」

 それはだれの言葉だったのか。ザンビになった美琴が喋れるはずがない。きっとわたしが生み出した幻想。でも、その言葉は、わたしの心を深くえぐりとる。

 そんなの、あるわけない。美琴がいない学校なんて、人生なんて、なんの意味もない。

 美琴は笑顔で続ける。

「ハグして。いつもみたいに、強く、ギュッと」

 ああ、美琴。美琴を感じたい。あの日のように、今までのように、強く抱きしめて、その体温を感じたい。美琴と一緒にいたい。美琴と一緒にいれるなら……。

 そしてわたしは、鍵を開ける。

 そのあとに起きた惨劇を、わたしは知らない。

 ただあの日のように、美琴の体温を感じて、幸せな気持ちのまま、意識を失った。





 神さま。

 ひとつだけお願いを聞いてください。

 わたしの罪は、生きていることではありませんでした。

 わたしの罪は、大事な人を見捨ててしまったことです。

 どうかお願いです。

 もう一度、チャンスをください。

 次は必ず、助けます。

 助けるために、強くなります。

 生きることを諦めない、強いわたしになります。

 大事なあの人と一緒に過ごす世界を守りたい。

 だから、もう一度だけ……。
 









☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 
 




 命からがら廃屋へと逃げ込んだわたしは、壁に背中をあずけ座りこむ。いま、この周りをザンビが取り囲んでいる。すぐにここも見つかるだろう。

 なんだ、またザンビになっちゃうんだ……。

 わたしは自嘲する。せっかく「歌に込められた力」でザンビから人間になれたのに、これでは前と同じではないか。

 あーあ、伝えられなかったなぁ。

 親友の……弥生の顔を思い浮かべる。きっと彼女は後悔しているだろう。わたしを救えなかったことを。でも、そんなの気にしなくていい。わたしは彼女が生きていれば、それで良いのだから。

 でも、もし願いがひとつ叶うなら、また弥生とハグしたかったな。あったかくて、優しくて、すごく幸せな気持ちになれるから。

 こんな絶望的な状況でも、弥生と一緒ならだいじょうぶだと思う。

 だってわたしたちは、あんな地獄のような日々を乗り越えてきたんだもん。ザンビなんて怖くない。弥生と一緒なら。 

 わたしは右手を伸ばす。だれも助けてくれなくても、手を伸ばした。

 扉が開く。わたしは覚悟を決めて、目を閉じる。またザンビになる。今度は戻れるかわからない。もう二度と、弥生に会えない。

 ……しかし、痛みも衝撃もやってこない。

 ふわりと、柔らかな風が吹いた。

 伸ばした手を、力強くつかまれる。

 わたしはゆっくりと目を開く。


「もう二度と、離さない」


 願いは、叶えられた。

 懐かしさと優しさと愛しさを秘めた胸へと、わたしは飛び込む。

 弥生は強く抱きしめてくれた。

 いつもと、同じように。



 わたしたちの絶望は、ここで終わる。

 わたしたちの希望が、ここで始まる。



 Next is Otome-Kagura(?)

54446929_277366883193574_2450284635342140149_n