この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。


第5回ノギザカッション小説コンテスト
エントリーNo5

Secret Work of Christie

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「問題、物を荒々しくつか」
ピンポーン
「うーん、絢音の方が速かったかな」
「鷲掴み」
「はい、正解ね」
「ぐわー、やられたー」
ここは乃木坂工事中の楽屋。
『私』と葉月、珠美の3人は高校生のクイズ大会を描いた舞台の稽古、そしてそのクイズのトレーニングに余念がない。
今日は入り時間より早めに来て絢音さんと合同練習だ。
以前に舞台に出演した絢音さんは本当に強い。私たちが分かる直前で押されてしまう。
悔しがる葉月のリアクションも見慣れたものになっていた。
出題者はれなちさん。クイズに理解があるし、よく通る声で聞き取りやすい。
「おお、クイズのトレーニングかぁ」
高山さんだ。そういえば、東大生相手にクイズで戦ってたっけ。
「高山さんもやります?」
「ダメダメ。最近出てないから。」
そういいながら、カバンからスマホを取り出していじり始める。
外から大勢の話し声が聞こえ始めた。
「みんな来ちゃったみたいだし、終わりにしましょうか」
「ありがとうございました」
台本とクイズ本とをにらめっこする日々。
収録の集中力も切らさないようにするのは正直大変だ。
楽屋の外から、失礼しまーすとスタッフさんの聞きなれた声がした。
「すみません。バナナさんが押しちゃって、収録2時間ほど延びることになりました」
方々から文字にならないような声が出る。
この世界では、仕方のないことだ。諦めて本に集中する。
マネージャーさんとスタッフさんの会話の間、
「うわー、こわー」
と、高山さんの声が響いた。隣にいた花奈さんが尋ねる。
「ん、かずみん、どうした」
「いや、このニュースでさー、交換殺人ってのがあって」
「ほんほん」
「なーちゃんがね、出るさ、新しいドラマあるじゃん」
「秋元先生がプロデュースするやつ?」
「そうそう、そういうのって現実にあるんだなぁって」
「事実はトラペジウムよりも奇なりってね」
「もー」
高山さんの頬が膨れた時、マネージャーさんからお話があった。
「じゃ、今から休憩入って」
「はーい」
ゲームしたり台本を読んだり、出かけるメンバーもいる。
『私』はコートを着て出かける準備をした。
「あれ、あやてぃー出かけるの?」
「うん、珠ちゃん、ごめんね」
一緒に練習できないのを謝って『私』は「現場」に向かう。
それがみんなにも隠している秘密のお仕事だから。


「はあー、あやてぃーに会いてーなー」
ロック画面に映る彼女の笑顔はいつも眩しい。
仕事のストレスはそれで逃げていく。
ただ、彼女に会いたいという思いは募っていくばかりだ。
「この前の握手会も行けなかったしなぁ」
カランとドアが開く音がして、中年の男が一人入ってくる。
慌ててスマホを隠して、資料に目を落とした。
「すまんな、いろいろと立て込んで」
「いいっすよ、すーさん」
俺は刑事だ。
すーさんはその相棒。
相棒といっても、すーさんはかなり年上で地方の警察署から研修に来た人だ。
奥さんに、息子さん、娘さんがいるらしい。
羨ましいとは思うが、今の俺にはあやてぃーがいる。
カランカラン。
「いらっしゃいませ、1名様ですね」
女性店員の元気な声が響く。
「で、例の件だが」
すーさんが辺りを気にして声を落とし話し始める。
俺たちは都内で起きた殺人事件を追っていた。
といっても犯人の1人は検挙されている。
そこからたどって、いけないのが今回の事件の厄介なところだ。
何しろ交換殺人。そして、片方は未遂である。

検挙されたのは、南野慶五郎、28歳の会社員。
殺されたのは、雪辻綾斗、24歳のフリーター。
被害者が最後に目撃された地点で南野を写した防犯カメラの記録があり、遺棄されていた山奥に南野が向かった記録がNシステムに残っていて、任意同行を求めたところ犯行を自供したとのことだ。
ところが、署に移ってから南野は黙秘した。2人に接点はなく、動機がなかったため、証拠不十分で立件は難しいかと思われた。
しかし、家族から捜索願が出されていた、南野の元彼女・綾部こゆきが発見されてから事態は急展開していく。
南野はこれが交換殺人だと主張し始めた。
自分が雪辻を殺害する代わりに、綾部の殺害を依頼したというのだ。
しかし、その依頼者は顔も知らない誰からしい。その証拠も残っていない。
それはやり取りの方法が、喫茶店のテーブルの裏にメモを貼り付けておくというとんでもないアナログだったからだ。
始めは南野のほんの出来心だったらしい。
遊びでテーブルの裏に元カノの悪口を書き連ねたメモを貼り付けた。
誰かが読めばそれでいい。読まれずゴミとして回収されてもそれでいい。
ちょっとしたゲームのつもりだったらしい。
だが、数日後改めて店に行くと新しいメモが貼り付けてあったそうだ。
そこには
「そんなにムカつくなら私が殺してあげましょうか」
と書かれていた。驚いた南野だったが、面白半分にその計画に乗った。
そして、綾部がいなくなった。
焦った南野は計画を実行に移さざるを得なくなった。
追い詰められ殺人を犯した南野は、最終的に相手に裏切られてしまった。
さすがに腹に据えかねたのか相手の告発をしたというのが今までの経過だった。

「ったく、こんなことで人を殺めるかね」
「今の時代、ネットの掲示板やSNSで殺人依頼とかできるらしいですからね」
やれやれといった感じですーさんは首を振る。
そのやり取りの現場がこの喫茶「東洋」だった。
夕暮れ時のこの時間帯に南野は東南の端の席、奥まったところで営業の休憩を取っていたらしい。
喫茶店もこの時間は閑散としている。だから、容疑者も3人に絞られたのだ。
「ミルクティーお待たせしました」
「ありがとうございます。あの、このテーブル、変わりました?」
「そうなんです。店長が新しいのにしようって」
さっきの客は、どうやら女性だったようだ。内装が変わったことに気づいたようだ。
手掛かりはこれだった。
この喫茶店のテーブルがガタついていて買い換えた、とマスターは話してくれた。
そのちょうど前日に南野はメモを貼り付けて帰った。
当然このメモは回収されてしまっていたが、代わりに指紋が残っていた。
テーブルの裏に触る客はまずいない。加えてこの喫茶店はそれなりに清掃が行われていたようで、テーブルの裏からは南野とマスターのほかに3人の客の指紋しか見つからなかった。
「容疑者は3人ですか」
「ここからは張り込みだな。不審な動きを見せた奴は徹底的にやるぞ」
今回も長くなりそうだった。希望して刑事になったのだが、これではあやてぃーに会える時間も確保できない。
いや、確保しないといけないのは被疑者の方か、などとアホなことを考えて自分を笑う。
すると、すーさんの携帯がまた鳴った。
「今度は田舎からだ。すまん、一旦署に戻る。代わりを寄こすから少し待っててくれ」
「分かりました」
地元への報告だろう、出張も色々大変だ。
すーさんは2人分のコーヒー代をテーブルに置いて出ていった。
1人になった。代わりの人を待つことになるとは、さして重要な現場とは思われていないのだろう。
そらそうか、地方から出張してきた刑事と若手刑事のコンビに任されるくらいだ。
先輩はそれぞれの客のところに張り付いているはずだ。
などと思っていると、後ろからトントンと背中を叩かれた。
ビクッとなって振り返る。
そこには見覚えのある、いや会いたくてたまらなかった顔があった。
俺の天使、女神、いや『アイドル』。反射的に叫んでいた。
「あ、ああ、あああ、あやてぃー!」


「ちょっと、声、大きいですよ」
「す、すみません」
彼女はいつもの笑顔を浮かべる。この笑顔にどれだけ癒されてきたか。
ああ、今、世界のあやてぃー推しに恨まれてんだろうな。
「かねみんさん、刑事さんだったんですね。」
「そっ、そうです」
握手会の時は公務員みたいな、と言ってごまかした。さすがに刑事は言いづらかった。
ちなみにあやてぃーにはかねみんと名乗っている。
「しばらくお顔を見ないなぁと思っていたら、刑事さんなら仕方ないですね」
「あ、ああ、す、す、すみません」
彼女の少し寂しそうな顔に思わず謝っていた。というか、あやてぃーから認知されている。なんて果報者なんだ。
眼鏡姿もかわいらしい。変装をしているのだろう。芸能人なら当たり前か。
「あやてぃー」
「はい」
「あの、どうしてここに」
「実は」
少し、言葉に詰まった。え、言いにくいこと。まさか、自分に…。
「この交換殺人、調べてるんですよ」
「へっ?」
なんてことを言い出すんだ、この人は。
前から少しおかしなことをする人だとは思っていたが、まさか。
「いやいや、御冗談を」
「本気です」
その顔はまさに「本気」だった。いつもの優しい瞳に力がこもっている。
「でも、どうして」
「実は、こゆきちゃんから相談を受けてて」
「誘拐事件の被害者とお知り合いだったんですか?」
「それもこの喫茶店でお話を聞いたんです」
危うくあやてぃーが巻き込まれそうだったことに絶句した。
「それでこゆきちゃんの力になれたらなって」
なんて優しいんだ。でも刑事としてそれは止めないといけない。
「そういうことは僕たちにおまかせください。これでも刑事ですから」
「そうなんですけど、私、犯人分かりそうなんです」
「はぁ?」
「こゆきちゃんから話を聞いてピンとくるものがあって、今日ここに来ました」
名探偵あやてぃーを想像して微笑ましくなる。猫探しとか得意そうだ。
いや、でも今はリアルな事件の捜査だ。
「いやいや、困ります。いくら、あやてぃーでもそれは」
「えー、かねみんさんも事件を解決したいんですよね」
「それはそうですけど」
「私も『一緒に』解決したいなって」
『一緒に』が気になって頭の中でリピートする。
あやてぃーと事件を解決する、こんなスぺイベ二度とない。
いやしかし、刑事の本分は全うしなければならない。
自分の中の天使と悪魔がささやいてくる。
そして自分は「天使」に従うことにした。


「それじゃあ、テーブルの指紋から容疑者の方を絞ったんですね」
「まあ、そうですね」
あらかたの説明を終えて、あやてぃーはメモを見ながら質問した。
刑事としての後悔はあるが、男として、オタクとしては何も間違っていない。
真剣に課題に取り組む彼女を見ているとそう思う。
「容疑者の方についてできる範囲で教えていただけますか」
「あー、分かりました。」
捜査資料を探す。さすがに資料そのものを見せるのは止めにした。
「まずは、Aさんにしますね。60代の男性、被害者とはご近所トラブルがあったみたいです」
Aは張本清十郎という老人で警察の捜査にかなり非協力的だった。あの性格ではトラブルも起きるだろう。
あやてぃーのメモが終わったところで、次の資料を見る。
「次に、Bは40代の男性、被害者と同じ会社に勤めていて、仲が悪かったようです」
Bは京村正太郎という中年男性。会社をリストラされて被害者と同じコンビニで働いていた。被害者からは実質いじめられていたようだ。
「最後のCは30代の女性ですね。これはけんか別れしたばかりの元彼女ですね」
Cは夏野霧というOL。最初は優しい言葉をかけてきていた雪辻が二股をかけていたということで別れたらしい。
3人とも特定できないようにあやてぃーに伝えることができた。内心満足していると、さらに質問が飛んでくる。
「アリバイは調べましたよね」
「当然です。綾部さんが失踪したとき、AとBにはアリバイがなく、Cは友人と飲み会でアリバイがありました」
「えっと、それだけじゃなくって。殺人事件があった方のアリバイはどうですか」
何か本格的だ。少し戸惑いを覚えつつ彼女の疑問に答える。
「これも、同じですね。AとBにはアリバイがありませんが、Cにはアリバイがあります」
「なるほど、ふーん」
彼女のペンがすらすら進んでいく。何かわかったことでもあるのだろうか。
「本部はAかBかが怪しいと思っているようですが、Cもあると思うんですよね。また誰かに依頼した可能性もありますし」
「そうですか」
彼女の気を引こうと思ったが、興味はなかったようだ。手ごわい。
「テーブルの件なんですけど」
「はい、なんですか?」
彼女の顔が上がる。食いついてきた。喜びが顔に出ないように続ける。
「手袋をしていたら正直、指紋はつかないと思うんですよね」
「それは、ないと思います」
バッサリだ。あやてぃーは笑顔で切り捨てた。
「喫茶店の中で手袋してたら変じゃないですか」
「そうですけど、あのテーブルは死角にもなりますし」
やべ、言い過ぎたか。さすがにメモが張り付いていたテーブルの場所までは知らないだろう。
それでも、あやてぃーは続けて質問をぶつけてくる。
「そうだ。メモはどうやって張り付いていたんですか?」
「セロハンテープですよ、それが何か?」
「なら手袋をしたままセロハンテープごと取るのは難しいですよね。跡を残さないようにしたいなら余計に」
それもそうだ。彼女の頭のキレに驚かされる。
あやてぃーは自分のとったメモを見ながら、ぐらぐら、こうかん、ありばいなどとつぶやいている。
言葉は物騒だが、こんな近くで推しの表情を見れるなんて。思わず、時間を忘れて見とれた。
ふと、自分のスマホが鳴る。すーさんからもうすぐ交代の人員が行くとのことだった。
このあやてぃーとの甘いひと時も終わりかと落胆した。そのことを彼女に告げなくてはならない。
すると、彼女の目がこちらに向いた。目と目が合う。
思わず動揺していると、彼女は屈託のない笑顔で言った。
「分かっちゃいました。犯人さん」

「ほ、本当に?」
「はい。状況証拠みたいなものもあります」
状況証拠を言い慣れていないのだろう、たどたどしさが愛らしい。
「えっと、じゃあ、3人のうち誰か、AかBなのかな」
「二人ではないですね、AさんもBさんも殺人事件があったときにアリバイがありません。交換殺人ならこういう時にアリバイを作るはずです」
「じゃあ、まさかのC?」
「Cさんもたぶん違うと思います。Cさんはどちらにもきっちりアリバイがあります。それなら自分で計画を実行したほうが確実なんじゃないでしょうか」
本部の推測はあっさり否定されてしまった。ならばとあやてぃーに自分の意見を提案する。
「それなら、交換殺人は容疑者の狂言だったとか」
「それは、警察の方が調べれば分かることですよね」
まるで弟の宿題の面倒を見る姉のように苦笑しながら諭された。
慌てて資料に目を落とす。容疑者・南野には綾部誘拐は不可能の文字。
あやてぃーの目の前でこんなバカをするとは、顔から火が出るほど恥ずかしい。
「そうだ、お水もらいましょう。すみませーん」
彼女のリズムに振り回されている。慌てて資料を店員から隠した。
店員がやってきて、注文を聞こうとしたその時、
「こちらがこの事件の犯人さんです」
と、あやてぃーはあっさりと衝撃の一言を言ってのけた。
その店員も思わず「えっ」と言ったまま固まる。
「なっ、え、あの、一ついいですか」
言葉を絞り出してあやてぃーに尋ねる。
「この店員さんの指紋は事件で利用されたテーブルから発見されていないんですよ。もちろん表面や持ち運んだときに付いたであろう足の部分からは発見されましたが、メモが貼り付けてあった裏にはなかったんです」
「それが、おかしいんです」
「え?」
予想外の切り返しに戸惑いを隠しきれない。
「テーブルを拭くときに裏面に付かないとおかしいんです」
「それはどういう…消えるなら分かりますけど」
「このお店のマスターがテーブルを変えた理由はなんでしたか」
「テーブルがガタつくからですね」
「それなんです。ぐらぐらするテーブルを拭くときは手で支えないといけないんです」
「あっ」
なるほど、表だけを抑えてガタつくテーブルを拭くことは難しい。裏にも手を添えて拭く方が圧倒的にやりやすい。
そのテーブルの裏に店員の指紋が一切ないのは確かにおかしな話だった。
「自分の指紋が証拠になるテーブルに付くのは嫌なんだと思います」
店員は床の一点を見つめたまま、黙って動かない。あやてぃーの推理が間違えてはいないのだろう。
「それと」
あやてぃーはぽつりと言葉をつないだ。
「これは、誘拐された人から聞いたのですが、誘拐された時、犯人の腕をひっかいたらしいんですよね」
あやてぃーの言葉を確認しようと俺は資料をめくった。
「確かに証言にもあります」
「店員さん、ずっと腕まくりの長さが違うんです。水を使うお仕事だから、その辺り気にされるはずなんですが」
「ちょっと失礼」
俺は店員の長めに残っている右腕の袖をまくる。ガーゼが貼ってあった。
「こちら、剥がしてもよろしいですか」
「その必要はありません」
ついにその店員は顔をあやてぃーの方には向けなかった。
「申し訳ありません。私がやりました」

観念した店員・小湊えな子は素直に警察車両に乗って署へ向かっていった。
それを見届けて、俺は喫茶店のマスターから事情を聴いている。
マスターは憔悴した表情で答えていた。
それはそうと、あやてぃーは事件解決後すぐに鳴ったアラームを合図に風のように去っていった。
「今日のことは秘密にしておいてね」
と念押しされたが、当然だ。アイドルとファンの密会などはご法度だろう。
それに、2人だけの秘密。なんて甘美な響きだろう。
こんな贅沢な時間を職務中に過ごせるとは、近々命の危機でもあるのではないかと思うほどだ。
いや、テレビにライブ、握手会、あやてぃーと過ごせる時間はまだまだある。
それまでは死ねるか、と固く心に誓う。
「おう、お手柄だな」
事情を聴き終わると、背後からすーさんが声をかけてきた。事件解決に表情も少し和らいでいる。
「すーさんもお疲れ様です。わざわざありがとうございます」
「外ですーさんは止めろって」
笑いながら答える。
「それで、東京で働いている娘さんには会えたんですか」
「お前のおかげでな、連絡はつけたんだが、仕事だそうだ」
「残念ですねぇ、鈴木警部補」
「くすぐってぇな、それ」
お互いに笑いあう。
今日はいい一日だった。
いつまでも記憶にとどめたい一日。
夜空には星がきらめいていた。


「絢音さん、お疲れ様です」
「あ、あやちゃん、お疲れ様」
「電話、大丈夫でしたか」
「うん、お父さんが仕事終わったから会えないかって。東京に来てるんだって」
秋田出身の絢音さんはご家族と会える機会も少ないはず。自分も気持ちが分かるだけに残念に思う。
「外に出てたの?」
「ちょっと用事で」
絢音さんの質問をはぐらかして、控室に入っていく。
琴子さんの隣に腰を下ろした。大好きな探偵マンガを読んでいる。
ふと琴子さんが呟いた。
「A secret makes a woman woman.」
「え?」
「なんでもない」
マンガから顔も上げず返事をする。いつものことだが、今日はドキッとした。
意味は確か、「秘密は女を女にする」
もしかして知ってる?でも、琴子さんならそれもいいかもしれない。
舞台の台本を出して、芸能の世界に戻っていく。
秘密の仕事はもう終わり。
控室の空気を目いっぱい吸った。
『アイドル』に戻れた気がした。

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