乳房 (講談社文庫)
伊集院 静
講談社
1993-09-03



物語に自分自身や家族たちの分身が出ているようだ。

「くらげ」:17歳で水難事故死した弟
「乳房」:前妻、夏目雅子
「残塁」:大学野球部時代の親友
「桃の宵橋」:父、母。子どもの頃に見た実家と周辺の光景か
「クレープ」:離婚(前々妻)で別れていた娘との再会

今までの自分の来し方を振り返り、心に深く刻まれていた光景を改めて再構築し、5つの小品に昇華させたような感じ。
その時の感性や思いや生き方だったりを蔵から出してきて大切なところの純度を損なわ ないように ことばに紡いでいって作品となった印象だ。
伊集院さんの執筆スタイルと作家人生の源流がここなのかな。

「桃の宵橋」の三業地が持つ色の世界は遠くに行ってしまった時代と場景が映ってくるようだった。
切なく愛おしい。

解説で久世光彦氏は、処女作で既に死(終着点)を意識している、といったような件があった。
芸術家は自分の命に線を引き将来をどうしようもないがんじがらめの中で生きていこうとしているのか。
抽象的だけど、覚悟は伝わってくるような話だ。