憂いなき街 (ハルキ文庫 さ 9-8)
佐々木 譲
角川春樹事務所
2015-08-18



故買屋が絡む殺人事件 と ジャズマンが絡む殺人事件。

道警内の部署は違えど、いつもの裏捜査メンバーの仲間たちが、2つの事件を接点につながっていく。
発端となる接点は、今回主役の機動捜査隊の津久井卓が故買屋の事件を追って入ったホテルのラウンジで生まれた。
そこでピアノを弾いていた安西奈津美との出会い、その夜 ブラックバードでの再会から、
ジャズを底流にした話の展開が動き出し、2人の「大人の恋」も始まる。

これまでのシリーズの中で異色のムードを持った作品ですね。
津久井と安西の「通りすがりの恋」だけでなく、なんと、佐伯と小島の「確かめ合う恋」も描かれている。

‶札幌がジャズの街になる″
日常の中に非日常が入って生まれる解放感か。
夏の風物詩”サッポロ・シティ・ジャズ”に集まってきたミュージシャンたちやファンたちの人生にジャズは良くも悪くも影響を与えている。
インスピレーションが大事な要素のジャズにはドラッグの噂が絶えないのが負の側面だ。
安西奈津美と津久井卓の揺れる想いは、自分たちの職業人魂がどうしようもない壁となっていて、やるせない悲哀感が漂う。

「津久井の純情を応援するんだ」
佐伯の深い絆で結ばれた友情が素敵だ。
津久井のなんとかして安西の夢を叶えてあげたい一生懸命さにこちらも気持ちが入った。

物語のラスト、事件解決の祝宴には参加せず、一人喪失感のなかでピアノを弾く津久井が印象的だった。
気持ちを静かに鍵盤に打ち込んでいるような場景が浮かんできた。

タイトルは「自分は愚か者である」。

ビルエバンスの名演奏が流れてくる。
What Kind of Fool Am I? だろうか。
My Foolish Heart だろうか。

[付記]
クライマックスに向かう時限捜査のゾクゾク感も印象に残った。
コンサート開演時間と任意同行の可能性のせめぎ合い。
任意同行を拒否した場合、警察はぎりぎりのやりとりをしてくることは必至である。
それがスキャンダルとなり、たとえ不起訴になったとしても、彼女の社会的人生はそれで終わりになるところだった。
(参考: 拘留期間は最大23日)