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1: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 02:46:01 ID:lBZ9LO72
~古代~


ザザ~ン…。


今日も“彼女”は、延々と…同じ場所に留まっている。


ユレイドル(…はぁ。)


種族名は、ユレイドル。

彼女は、“あること”に…憧れていた。

2: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 02:48:58 ID:lBZ9LO72
現代にも進化前のリリーラにその名残が残っているが、この時代のユレイドルは…他の場所に自力で移動することはできない。

自身の持つ吸盤の所為である。

吸盤は地面の養分を吸い取り、彼女はそうやって今まで成長をしてきたのだ。

ただ、最近…思うことがある。


“空を、飛びたい”。


それが、彼女の願いであった。

3: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 02:51:48 ID:lBZ9LO72
ユレイドル(なんで私は、よりによって…ユレイドルなんかに生まれてきたのかしら…。)


自分の存在意義に、悩んでいた。


見上げれば眼前に広がる青き大空。

あの果てしなき空間に飛び立つことができれば、現状の自分を打破できるかもしれないが…。

前述の通り、彼女はユレイドルである。



ジレンマであった。

5: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 02:55:59 ID:lBZ9LO72
~大空~

バッサ、バッサ。


???「クエ~ッ!」


今日も“彼”は、獲物を捉え…それに襲いかかる。

…生まれつき得た先天的な力。

それを少し奮えば…食糧を容易く手に入れることができる。



──彼の名は、プテラ。

当時の大空の…王であった。

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6: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:03:00 ID:lBZ9LO72
ユレイドル(もしかしたら、自分の子孫は移動能力を手に入れられるのかもしれない。
…しかし、それはまだまだ先のことだろう。)

“私”は、これまでも、そして、これからも…ここに留まって、一生を終えるのだ。


──憂鬱であった。


ユレイドル「ハァ…。」


…………………………


プテラ「ハァ…。」


大空の王、プテラ。

彼もまた…嘆いていた。

プテラ(自分はいつまで、このような生活を続けるのだろうか?
いい加減に落ち着きたい。しかし、腹は減る。
不器用な自分は、こんなやり方でしか食糧を得ることができない。



彼もまた、己の生き方について…苦悩していたのである。

7: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:06:19 ID:lBZ9LO72
~数日後~


プテラ「ふぅ~っ…。」


彼は、つかの間の休息を傍受していた。


プテラ(一息ついたら、また獲物刈りかぁ。)


…。


プテラ(うん?
なんだ、あれは…?)


へば~っ…。


彼が見つけたのは…へばっていた、ユレイドルの姿であった。

8: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:09:07 ID:lBZ9LO72
プテラ「おい。」

ユレイドル「…。」


プテラ「…おい。」


ユレイドル「……。」



プテラ「…おいぃっ!?」



ユレイドル「…!」ビクッ



ようやく、気付いたようである。

9: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:12:10 ID:lBZ9LO72
プテラ「お前、ポケモンだよな…?
…なんで、へばってたんだ?」

ユレイドル「…。」カアァッ

プテラ「ん、どうした…?」


言葉が詰まった。


他のポケモンに話し掛けられることなど、初めての経験であったからだ。


プテラ「お前、そこが目だったんだな。」

ユレイドル「…ぁの、その…。」

プテラ「なんだぁ~っ!?
聞こえん。」

ユレイドル「だから、その…。」

聞くところによると、最近この辺りの土地が枯れていき、養分を得ることができなくなっていったのだという。

10: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:15:24 ID:lBZ9LO72
プテラ「ふ~ん、そうだったのか。
空にいる俺は、知らなかったな。」

ユレイドル「…この急激な土地の枯渇。
とても予想だにしていませんでした。何か…嫌な予感すらします…。」

プテラ「…見てられねぇな。」

ユレイドル「すぃませ~ん…。」


衰弱が激しかった。


プテラ「よし、わかった。
俺が…食べる物を取ってきてやるっ!!」

ユレイドル「…えっ?」


予想外の、言葉であった。

11: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:22:51 ID:lBZ9LO72
プテラ「お前の種族は吸盤による養分摂取の他にも、捕食ができる筈だ。試してみろ。」

ユレイドル「えっ?」グチュチュ

プテラ「お、おいっ!
待て…俺で試すんじゃないっ!!」

ユレイドル「あっ、駄目でしたか…?」

プテラ「…俺、気まぐれで変な奴に関わってしまったのかもしれねぇ。
まぁいい、約束したんだ。
…すぐ、取ってきてやるっ!!」


バササッ…。


プテラは、空に飛び立っていった。

12: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:26:25 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「…凄い。」

彼女は、目を奪われた。
華麗に飛び立ち機敏な動きで獲物を捕らえるその勇姿。

私にはとてもできないものだ、と感じた。
それと同時に…“憧れ”も抱いた。

…………………………

プテラ「…なんか。」

なんか見られてるな…。
彼は、そう思った。

怖れられるのならわかるが、その視線は憧れと羨望の意を含んでいたのだから、戸惑う。


こんな感覚…初めてだ。

13: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:31:36 ID:lBZ9LO72
~空のどこか~


アーケオス「…生意気じゃな。」


かつての空の王、アーケオス。

自分が最古よりの天空の支配者であると言うのに、最近現れたプテラとか抜かす青臭い新参者。

偉い顔をし出し、我が領空にて好き勝手に暴れ呆けている。

若さに嫉妬しているのではない。

単純に、気に喰わないのだ。


だが、自分は年老いた身。まともに殺り合えば負けはしないだろうが…苦戦は必須であろう。


──どうするべきか。

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14: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 03:35:05 ID:lBZ9LO72
──そして。

プテラ「お~い、取ってきたぞ~。」

ユレイドル「わぁっ。
…うわぁ。」


よくわからないもの『キイィ~ッ!』


えたいのしれないもの『ギャアァ~スッ!』


…気持ちは嬉しかった。

15: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 04:02:41 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「」パクパク

プテラ「…結局食うんだな、お前。」

ユレイドル「」パクパク

プテラ「夢中で聞いちゃいねぇ、か。」


──その時。


タタッ。


プテラの元へ、二匹のポケモンたちが駆けつけた。


オムスター「兄貴~。」

カブトプス「お帰り~。」

プテラ「おう、お前たちか。」


彼らは、プテラを兄貴と慕っているポケモンたちである。

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16: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:23:48 ID:lBZ9LO72
オムスター「兄貴…そこにいる、緑のポケモンは誰ですか?」

オムスターが、プテラに尋ねる。

プテラ「ああ、コイツはな…。
俺もたった今知り合ったばっかりなんだが…。
でもって、少し変わり者で食いしん坊な野郎なんだが…。」

ユレイドル「なんか酷いことを言ってるってことはわかります。
あと、私は女です。」

プテラ「種族名はユレイドルと言って…この海岸を住処としている奴だ。
まぁ、お前たちとは当然初対面だろうがな。」

ユレイドル「こんにちは~。」

プテラ「おいお前、こいつらは食べないでくれよ?いくら食い意地張ってるとは言え。」

ユレイドル「食べたくもないです。」

17: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:28:27 ID:lBZ9LO72
プテラ「まぁ、もっと食べる物を持ってきてやるから…ここで待っとけよ。
てか、待つことしかできないだろ?」


バササッ。


再び、プテラは空へと飛び立つ。


ユレイドル(…申し訳ないです。)


ユレイドルも、本当はプテラに申し訳なく思っていた。

しかし、この状況では致し方がない。

食べなければ死んでしまう。それは当然の摂理。

しかし、その食べる物も無いのだから、必然的に…彼、プテラに頼むしかないのだ。


──再び大空へ消えてゆくプテラの様子を、重い首を上げながら黙視していた。

18: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:34:36 ID:lBZ9LO72
プテラが飛び去ってから、ユレイドルとカブトプスたちは…いつの間にか、意気投合を果たしていた。


カブトプス「プテラ兄貴とは、どこで知り合ったんスか?」

ユレイドル「なんかチャラい雰囲気だね。
えぇと…海岸で私がへばっていたところを、偶然彼が通りかかったの。」

カブトプス「へー。あのですね、一つ言いますよ。
あのプテラ兄貴が出会い頭のポケモンに心を許すなんて、本当に…滅多にないことなんスよ!」

ユレイドル「え、そ、そうなの~?」

オムスター「そっスよ。意外意外。」

カブトプス「その“グウゼン”を、神様に感謝しなきゃいけないっスねっ!!」

ユレイドル「フフ…。
…確かに、そーね。」

19: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:39:06 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「…今日は良い日だ。」

オムスター「え?」

ユレイドル「こうして海岸にぽつんとしてた私に、話しかけてくれた“友だち”ができた。
『私ってなんなんだろ』って思っていた時によ。」

カブトプス「な、なんか照れるッスよ~、
姉貴。」

ユレイドル「ア…“アネキ”?」

カブトプス「そっス、プテラの兄貴が兄貴だから、ユレイドルの姉貴は姉貴って呼ぶっスっ!!」

ユレイドル「…言い回しが変だけど、気持ちは伝わるよ。」

オムスター「ユレイドル姉貴…俺らも姉貴に協力するっス!
土地の枯渇が治まるまで、俺らも姉貴に食べ物を持って来るっス!!
…いつ治まるのかは、わからないっスけどっ!!」

ユレイドル「み、みんな…。
あ、ありがとう…!!」グチュグチュ

オムスター「わわっ、何俺を食べようとしてるんスか!」

ユレイドル「えっ、いやこれはその…感謝の意を伝えたくて…。」

カブトプス「アハハ。不器用なんっスね、姉貴。
そこもまた、なんか兄貴に似てるような気がします。」

20: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:42:34 ID:lBZ9LO72
…バササッ。


やがて、プテラが帰って来た。


プテラ「ふ~、疲れた。」

ユレイドル「あ、あの…。」

プテラ「なんだ?」

ユレイドル「良かったら、また…。
…来てください。」

プテラ「…食べ物が欲しいからか?」

ユレイドル「い、いえ、違います!
ただ…。」

プテラ「ただ、なんなんだ?」

ユレイドル「…。」カアァッ

プテラ「…うん、変わった奴だ。」

また、言葉に詰まった。


こうして、プテラとユレイドルの交流は、持ちず持たれず続いていくことになる。

21: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:50:13 ID:lBZ9LO72
──それから、幾ばくかの月日が過ぎ去った。


プテラ「今日もアイツのために、食糧を狩ってこないとな。」

オムスター「…兄貴。」

プテラ「なんだ、オムスター?」

オムスター「俺らは、かつて行き倒れたところを兄貴に救われ、それ以来…兄貴のことを慕い続けています。
でも、最近の兄貴は勢力を拡大することに血眼になっていて、俺らを助けた時のような感情は…もう残ってはいないのかと思っていました。」

プテラ「急になんだというんだ、お前たち?」

カブトプス「けれども今回のユレイドル姉貴の件で、まだ兄貴にはそういった感情が残っているんだってことを…再確認しましたっス。
やっぱり、兄貴は兄貴だったんスッ!!」

プテラ「フフ、よせよ…照れくさい。」

カブトプス「ハハハハ。」


──そんな時。


プテラ「…ん。」


プテラは、いち早く…その“気配”に気づいた。

22: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:53:18 ID:lBZ9LO72
プテラ「…おい。」

カブトプス「な、なんスか、兄貴?」

プテラ「いや、お前たちじゃない。それより、コソコソしてないで早いところ出てきたらどうだ?
なぁ、そこの物陰に潜んでる奴よっ!!」

オムスター「なっ…!!」


そして、物陰より声が響いた。


???「…お見事、と言ったところだな。
流石はこの時代の空を統べる王。
私としても…そうこなくては張り合いがない。」

プテラ「貴様…一体何者だ?」

23: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 09:58:31 ID:lBZ9LO72
???「良いだろう。私も正体を現し、正々堂々とお前を倒すことを宣言しよう。」


そして、物陰より一体のポケモンが姿を現した。


プテラ「…貴様は…。」

ゲノセクト「ゲノゲノ、私は未来の化学兵器…ゲノセクト。
とあるポケモンの命により、貴様を抹殺する!!」

プテラ「なにっ…!」


その姿はポケモンと言うよりは、この時代には存在などしない筈である…“機械”によく似通っていた。


カブトプス「な…ミライ、カガクヘイキ…。
…トアルポケモンッ!?
さ、さっぱり訳がわからんぞっ!!?」


事実、その通りであった。

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24: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 10:01:45 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「貴様には、用はない…。
…ふんっ!」バシィッ

カブトプス「うわっ…。」


ゲノセクトは、カブトプスの身体を掴み上げ…勢い良く投げ飛ばした。


カブトプス「…ゲホッ!」

プテラ「…カブトプスッ!!」

ゲノセクト「どうだ?
私の力…これで十分に伝わったかな?」

オムスター「アワワ…。」

プテラ「き、貴様…許せんっ!
俺が、今すぐに…貴様を料理してやるっ!!」

ゲノセクト「そう来なくては面白味がないからな。
さあ…全力で来い!!」


かくして、プテラとゲノセクトの戦闘が…幕を開けた。

25: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 10:07:40 ID:lBZ9LO72
プテラ「うおぉぉっ!!
いわ…なだれえぇぇぇっ!!」ドドドド

ゲノセクト「…。」


間髪入れず、プテラは自身の得意技を放つ。


シュウゥゥ…。


オムスター「や、やっぱ凄い、兄貴!
これはやった…。」


しかし。


ゲノセクト「なにが、『やった』んだ…?」


シュウゥゥゥ…。


プテラ「…!」


彼は、プテラの攻撃を…完璧に防御していたのだ。

26: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 10:11:48 ID:lBZ9LO72
プテラ「そ、そんな馬鹿な…。
う、うおぉぉぉぉぉぉっ!!」ドガァッ

ゲノセクト「…ふん。」


キィ、キイィン…。


しかしゲノセクトは、プテラの攻撃を容易に全て受け止める。


プテラ「な、なぜ、なぜなんだ…。」

ゲノセクト「やれやれ、これでは勝負ではなく…一方的な虐めだな。
私の気配を察した時は、そこそこやれるかと期待したのだが…この時代のポケモンは、やはりこんな野蛮な攻撃しかできないか。」

プテラ「こ、この…“時代”、だと…?」


プテラは、その“違和感”を察知した。

27: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 12:34:37 ID:lBZ9LO72
プテラ「貴様、何者だ…?
この世界の出身では、ないというのか…?」

ゲノセクト「いや、確かに私はこの世界の…この『時代』で産まれ落ちた。
懐郷の念すら感じる程だ。」

プテラ「では、なぜ“ミライ”だの“カガクヘイキ”だの…先刻語ったのだ?
…この時代の出身と言うのなら、明らかにつじづまが合わないことになるが。」

ゲノセクト「…貴様が知る必要はなかろう。
ここで、貴様は私に倒され…滅する。死にゆく者にそのようなことを話して、どうなると言うのだ。」

プテラ「思い上がるなよ…。
踏み潰される…虫如きがっ!!」

ゲノセクト「その虫が、今こうして食物連鎖の上位に立つ貴様を打ち倒そうとしている。
…皮肉なことだ。
クク、精神的に動揺している貴様など…もう既に私の敵に非ず、だからな。」

プテラ「貴様っ…!!」

28: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 12:48:31 ID:lBZ9LO72
確かに…彼は“動揺”をしていた。

…無理もない。
今までに自身の攻撃が通用しなかった相手など…存在しなかったのだから。


──そして。


ゲノセクト「…。」スタン

プテラ「なっ…。」

なんと、突然…ゲノセクトは屈み込んでしまったのだ。

戦闘では油断は死へと直結する。
だからこそ、彼にはこの行為の意味が全く理解できなかった。

今踏み込めば…間違いなく勝利を収めることができるのであろう。
…しかし、これは何かの“策”なのかもしれない。


「「う…うおぉぉぉぉぉぉ~っ!!!!」」


数秒の間迷った挙句、プテラはゲノセクトの身体へと突っ込むことになるのだが…。


──たかが数秒、されど、数秒。
…少々、判断が遅かった。

29: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 12:59:43 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「…気付かなかったか…?」

プテラ「…なに…?」

ゲノセクト「私の背中には…砲台が装着されていたということにっ!!」

プテラ「ほ、ほーだい…!?」


『砲台』


古代に生きるプテラには、その単語の意味がわからなかった。


プテラ「な、き、貴様…もしや…!?」

ゲノセクト「例え意味こそはわからなくとも、流石に戦闘の勘が働くか!
そうだ、既に…発射準備は整ったっ!!」ウィーン

プテラ「な、なんだとっ!?」

ゲノセクト「そして、喰らうが良い…。
我が…最大最凶奥義っ!
『テクノ・バスター』ッ!!」

プテラ「…!」

30: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:14:16 ID:lBZ9LO72
そして、ゲノセクトは自身の最大の技…。

砲台からエネルギー弾を放出する、『テクノバスター』を繰り出した。


ズガガァン…。


カブトプス「兄貴…危ないっ!!」


ボシュゥ…。


カブトブス「…うおぉぉ!」

プテラ「ぐっ、ぐはぁ…。」

カブトプス「あ、兄貴っ!!」

…………………………

モクモクと、白煙が立ち込む。 


──やがて…。


ゲノセクト「ほう、これは…。」

31: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:22:48 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「穴…。」


プテラが居た場所には、深き穴が広がっていた。


ゲノセクト(あのカブトプス、まだ生きていたか。
奴らを連れ、穴を掘り…どこぞやへと落ち延びたようだな。)

…。

ゲノセクト(フフ、面白い。
穴の先へと渡り、追うのは簡単だが…それでは、楽しめない。)


ゲノセクト(…焦ることはない。いずれまた、相まみえることへとなるだろう。
その時こそ…始末してやることにしよう。
ゲノゲノ。)

…………………………

プテラ「あ、あぐ、げほっ…。」

カブトプス「あ、兄貴ィ…大丈夫ですかぁ!?
くそ、勢いで来たのはいいが、ここは…。
…!
そ、そうだ、ここなら!!
…ここ、ならばっ!!」

32: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:35:10 ID:lBZ9LO72
偶然か必然か、彼らが辿り着いたのは…。


…ユレイドルの棲む、海岸であったのだ。


カブトプス「あ、姉貴~っ!!」

ユレイドル「ん、どうしたの…?
カブトプス、オムスター。そんなに慌てて。
今日は…プテラは一緒じゃなかったの?」

オムスター「それが…今すぐ来てくださいっ!
あ、無理でしたね…。
とにかく、今運んで来ます。
…兄貴が重症なんですっ!!」

ユレイドル「えっ…?
プテラが…重体…!?」


想定外の事態に、彼女は慄くことになる。

33: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:38:50 ID:lBZ9LO72
プテラ「う、うぅ…。」

ユレイドル「…!
なんて、酷い傷なの…。
あのプテラが、一体…誰に…?」

オムスター「実は…。」


彼らは、ユレイドルにこれまで起こった全ての事情を打ち明けた。


ユレイドル「そんな、ことが…。」

オムスター「何とかなりませんでしょうか。アイツが居る以上、むこうには渡れねぇ。」

カブトプス「…姉貴がもう、唯一の頼み綱なんです。
無理を言っていることは、重々理解しているつもりです。」

ユレイドル「…。」

34: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:41:15 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「…プテラを救う術、ないこともないわ。」

カブトプス「えっ、なにか方法があるんですか!?
兄貴を救う…術がっ!!」

オムスター「さすが、姉貴っス!!」

一同は、思わず感激する。

ユレイドル「二匹共、ちょっと黙ってて。」

オムスター「は、はい。」

ユレイドル「私はプテラに限りない恩がある。その恩をここで返せること…とても嬉しく思うわ。」

カブトプス「…姉貴?」

ユレイドル「じゃあ、いくわよ。
…プテラ、私の力を…あなたにわけるわ。」

35: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:43:03 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「っ…!」ボコッ

カブトプス「えっ?」

オムスター「あ、姉貴っ!?」


なんとユレイドルは、自身の吸盤を一つ…地中より無理やりに引っ剥がしたのだ。


オムスター「姉貴、なんてことを!
そんなことをしたら、姉貴がどうなるか…わかってるんですかっ!?」

カブトプス「姉貴は、生命エネルギーを吸盤を通して地中から取り入れ…生命活動を続けている。
一歩、間違えれば…。」

ユレイドル「いいから、早くプテラの口に私の吸盤を含ませてっ!!」

カブトプス「え、姉貴…なにを?」

36: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:45:59 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「私の吸盤には、今まで培ってきた栄養分が含まれている。
だから、プテラにその栄養分をわけることさえできれば、彼はなんとか持ちこたえることができると思うわ。」

オムスター「しかしこれは、姉貴にとって諸刃の剣とも言えます。
先ほど俺たちが言ったように、姉貴は地中のエネルギーを頼りに今まで生きてきた。」

カブトプス「だから、少しでもタイミングが遅れてしまうと、地中から得た姉貴自身の栄養源が切れてしまうと…。」

オムスター「恐らく…姉貴は成すすべなしに、死んでしまうことになるっ!!
なぜ、命を張ってまで…兄貴に、そこまでのことを…?」

ユレイドル「借りを返すのは、建前かもね。
本当は、単に…嬉しかったからよ。」

カブトプス「う、嬉しかった?」

37: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:48:15 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「…今は、良いわ。
さぁ、早く…プテラに私の吸盤を!」

オムスター「へ、へぃっ!!」


キュプ。


彼らは、プテラの口に彼女の吸盤を含ませた。


ゴキュ、ゴキュ。


カブトプス「おぉ、これは…姉貴が兄貴に対して栄養分を送り込ませているんですね!」

ユレイドル「う、うぅ…。」

オムスター「あ、姉貴…大丈夫ですか?」

ユレイドル「だ、大丈夫…。
慣れないことでちょっと目眩がしただけよ。」


──そして。

38: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:50:21 ID:lBZ9LO72
プテラ「う、うぅっ…。」

オムスター「あ、兄貴っ!」

カブトプス「よかったぁ、姉貴!
兄貴が…兄貴が目覚めましたぁっ!!」

ユレイドル「よ、良かったぁ…。」グッタリ

プテラ「…お前が助けてくれたのか。
ありがとう…恩に切るよ。」

ユレイドル「うぅん。私は一つ、借りを返しただけよ。」

プテラ「ここは、海岸…か。
俺は、俺は…敗れたと、いうのか…。
戦闘で敗れたこと、今まで負けたことなんか、なかったと、いうのに…。」

カブトプス「兄貴…。」

ユレイドル「…悲しまないで、プテラ。」

プテラ「…?」

オムスター「姉貴…?」

39: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:52:55 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「私は、初めてあなたに会ってから…ずっと、あなたに憧れていた。」

オムスター「姉貴?」

プテラ「…敗者への慰めのつもりか?
お前。」

ユレイドル「…慰めなんかじゃ、ないっ!」

プテラ「なんだと…。」

ユレイドル「私はこの場を動くことすらできない孤独の身。
先の見えきったこの先の生活、自身の存在意義、疎外感、全てにうち潰されそうで…とても怖かった。」

カブトプス「姉貴…。」

ユレイドル「だけどそんな時に、私は…あなたに出会ったのよ。」

プテラ「だから…なにが、言いたいんだ?」

40: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:55:49 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「あなたに出会ったことで、私の心に一筋の光が差し込んだ。私にも友だちができたという、希望の光が。
私の中の“闇”は、“光”へと、変わった。」

プテラ「…。」

ユレイドル「あなたと話していると、心が安らいだ。あなたの大空を飛ぶ姿を眺めていると、私まで空を舞っているような感覚を覚えた。」


カブトプス(姉貴…。
…そこまで、兄貴のことを…。)


ユレイドル「つまり、あなたは私にとって、掛け替えのない…とても大切な存在なの。
だから…。」

プテラ「だから、戦闘で敗れ去ったからって…それでも良いとでも言いたいのかっ!?」

ユレイドル「…プテラ。
違う、そうじゃないっ!!」

41: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 13:58:22 ID:lBZ9LO72
オムスター「兄貴、なにも姉貴はそんなつもりで言ったわけじゃ…。」


プテラ「お前たちは黙っていろっ!!」


カブトプス「は、はいぃっ。」

ユレイドル「プテラ。私は、ただ…。
ずっと、私の側に…居てもらいたいだけなの…。」

プテラ「俺の命を救ってもらったことには感謝する。お前と出会えて本当に良かったと思っている。
だが…これでお前との関係は、もうご破産だな。」

ユレイドル「プ、プテラ…!?」

42: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:00:41 ID:lBZ9LO72
プテラ「じゃあな、今まで楽しかったぜ。
…もう、会うこともないだろうがな。」


バササッ…。


プテラはそう言い残し、空へと飛び去って行った。


ユレイドル「プ、プテラ…。
…どうして…。」

オムスター「…兄貴自身、感情の整理ができていないのかもしれません。」

ユレイドル「ど、どういうこと…?
それって、どういうことなの…?」


そして彼らは、ユレイドルに語りかける。

44: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:08:53 ID:lBZ9LO72
カブトプス「兄貴は、こんなに他ポケモンに頼られたことは初めてなんです。
俺らに対しても当初はそっけなかった兄貴、その兄貴がここまで心を開くのは…今までに、決してなかったことでした。」

オムスター「だから、俺たちは思うんです。
兄貴も本当は、姉貴のことが好きで好きで堪らないはずだって。」

ユレイドル「!」

オムスター「だったら、どうしてか。
そこなんです。兄貴はきっと…かつての自分を捨て切れていない。
頼られている今の自分、最凶の存在だったかつての自分、どちらの“自分”にも…甘んじてしまっている。」

オムスター「どっちつかずなんです。本当に不器用なんです。だから、あんな行動に出てしまった。
兄貴に…悪気はないんです。」

ユレイドル「プテラが、不器用…。」

45: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:13:48 ID:lBZ9LO72
カブトプス「今は、兄貴の心が落ち着くのを待ちましょう。
あんなことを言いましたが…きっと、兄貴は戻って来る。俺たちは、そう確信しています。
そうだろ、オムスター?」

オムスター「あ、あぁっ、そうだぜ!!」

ユレイドル「カブトプス、オムスター…。」

オムスター「元気出してください、姉貴。
俺たちが、付いてます…。
あっ、お腹が空いたからと言って…俺を食べないで下さいね。アハハハッ!!」

46: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:21:25 ID:lBZ9LO72
──その頃


ゲノセクト(先程の攻撃で体力を消耗してしまった。
なにか取り入れなければ、栄養を…補給しなくては…。)


…。


…“あのポケモン”が良いな…。

ゲノゲノ…。



──悪夢は、再び現れることになる。

47: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:26:35 ID:lBZ9LO72
~大空~

プテラ「…。」

(俺は、これまでどう生きてきたっけな。そして、これから一体自分をどうしたいんだ?)


今までも、これからも、ずっと同じ様に生きていくつもりだったのに…。


…アイツと出会ってから…。

そうだ、アイツと出会ってからだ!

プテラ(アイツと出会ってから、俺は、俺は…。
『自分らしく』生きることが、できなくなってしまったんだっ!!)

プテラ「…糞っ!」


俺は、俺は…俺はっ!!

48: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:29:43 ID:lBZ9LO72
プテラは、苦悩していた。

己の生き方に、己の有り方に。

自分を慕ってくれる兄弟分も彼女も、単なる仲間としか思ってはいない。

馴れ合いを通じ、変化を恐れていたのだ。


絶対的な王者で有り続けるのか、それとも…。


ヒュウゥゥ…。


風が、寒くなってきた。
少々…地響きもしたようだ。

ここ数日に渡り、それは続いている。

…………………………

そして、“それ”は…数日後のことであった。

49: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:38:05 ID:lBZ9LO72
プテラ「お、お前…!」

カブトプス「う、うぅっ…。」


プテラの元へ、傷ついたカブトプスが訪れた。


プテラ「ど、どうしたんだ、カブトプス…そのボロボロの姿は…。
そ、それに…その、手に持っている傷だらけの殻は…。」

カブトプス「…。」


カブトプスは、重い表情を浮かべ俯いた。


プテラ「おい、オムスターの姿が見えないぞ。
オムスターは…オムスターはどうしたんだっ!?」

カブトプス「…オムスターは死にました。
…『奴』に喰われて、です。」

プテラ「!」

カブトプス「今から、俺たちに起こった全てのことを話します。
このままでは…兄貴が危ないんですっ!!」

50: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 14:40:32 ID:lBZ9LO72
数時間前、カブトプスとオムスターは例のゲノセクトの襲来にあった。


ゲノセクトは…腹を空かせていたのである。


彼らは対抗したのだが、あえなく撃沈。
オムスターは捕食され、カブトプスは命からがら逃れたのだ。


オムスターを捕食したことにより力を蓄えたゲノセクトは、今度こそプテラを仕留めるべく…こちらへと向かって来るであろう。


…道中、更にポケモンを捕食しながら。

51: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 15:56:55 ID:lBZ9LO72
プテラ「…まさか。」

カブトプス「奴は俺が喰い止めます、兄貴は、ここから逃れて下さい!
もう…仲間を失うのは、嫌なんですっ!!」

…。

プテラ「…そうだな、カブトプス。仲間を失うのは、嫌なことだよな。
俺…馬鹿だな。失って、初めて…そのことに、気付かされるなんて…。」

カブトプス「兄貴。」

プテラ「…本当に馬鹿だよな、俺。
あんなことを言ってしまったが…。
“アイツ”は…許してくれるのだろうか。」

カブトプス「ア、アイツって、もしかして…。
姉貴の、ことですか…?」

プテラ「『自分らしく生きられなくなった』とか最もらしくほざいたが…なんのことはない。
…俺にはそもそも、『自分』が本当はなんなのかと言うことも…理解できていなかったのかもしれないな。」

カブトプス「あ、兄貴…?」

52: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:03:58 ID:lBZ9LO72
プテラ「カブトプス…お前はここに隠れているんだ。
お前の気持ちは嬉しいが…俺はどうしても、行かなくてはならない。」

カブトプス「え、兄貴…まさか…!
『奴』と、ゲノセクトと…戦うつもりなのですか…!?」

プテラ「それが、落とし前って奴だ。」

カブトプス「厶、無茶だっ!
だって、兄貴は現に一度…アイツに敗北しているんですよ…!?」

プテラ「過去がそうだったからと言って、今もそうとは限らない。
…それに、“仲間”を救いたいんだ…俺は。
だから、カブトプス…止めてはくれるな。」

カブトプス「…。」

プテラ「わかってくれ、カブトプス。」

カブトプス「…わ、わかりました。
兄貴がそこまで言う以上、俺は止めません。
例え止めようとしても…不可能なのでしょう…?」

プテラ「フフ、俺のこと…。
俺以上に、よくわかっているじゃあないか。」

53: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:17:32 ID:lBZ9LO72
プテラ「カブトプス…また、会えたら…。
その時は…一緒に温泉でも浸かろうか。それとも、腹一杯御馳走を喰らおうか?
色々考えてしまうな。ハハ、全く。」

カブトプス「兄貴…。
俺は、いや、俺たちは…兄貴に助けられたこと、決して…忘れません。」

プテラ「…じゃあな。
…俺のかけがえのない、“友だち”。」


バササッ…。


カブトプス(兄貴…。)



──プテラは、こうしてカブトプスの元を去って行ってしまった。

54: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:24:37 ID:lBZ9LO72
~海岸~

ユレイドル(プテラ…。)

彼女は、未だ彼のことを気にかけていた。

自分の有りのままの心情。
…それをベラベラと語ってしまったことが、彼の気を損ねてしまった。

最初から、他のポケモンのことなど思わなければ良かった。
所詮…自分は一人なのだ。


後悔していた。


同時に、悲しみに溢れ得ていた。


ゲノセクト「…。」


そんな彼女を…物陰で狙うポケモンが一匹。

55: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:27:13 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「ハァ…。」


全ては、元に戻るのかもしれない。
プテラに出会う前の日々に。孤独だった日々へと。

だけど、自分にはそれがお似合いなのだと思う。


ユレイドル「ん…?」


そんな、矢先。


ゲノセクト「…。」


ユレイドル「え、あ、あなた…誰なの…?」



──彼女の前に、“悪夢”が訪れた。

56: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:38:52 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「あなたは?」

──その時、彼女の前へと見知ったポケモンが駆け出して来た。

カブトプス「ハァ、ハァ…。」

ユレイドル「カ、カブトプス。
あなた、このポケモンさんと知り合いなの?」

カブトプス「気を付けて下さい、姉貴!
そいつが…例のゲノセクトなんですっ!!」

ユレイドル「え…?」

カブトプス「兄貴は、ゲノセクトが道中に海岸を通過するのを察知したんだ。だから、兄貴は姉貴の元へと飛び出した。
けれど、未だに兄貴はここにはやって来ていない。なにかあったとしか思えないが、だったら俺の使命はただ一つ。
兄貴に変わって、姉貴をお守り…。」バギャッ

ユレイドル「…!」


…ゲノセクトの攻撃により、カブトプスの身体はゴナゴナに吹き飛んだのだ。


ゲノセクト「長々と、うるさい奴だったな。
次はお前だ。お前は中々美味そうだ。
お前を捕食し…エネルギーを頂くぞ。」

ユレイドル「う、嘘…でしょ…?
カブトプス…そ、そして…私を、食べる…?」

57: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:52:38 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「ゲノ…ゲノォ~ッ!!!」ババッ

ユレイドル「だ、誰か…。」


自分を助けてくれるであろうポケモンなど、最早存在しないはずだった。


カブトプス…いや、カブトプスはもう…。

オ、オムスター…でも、あの子の実力じゃ、無理だ…。

お、お父さん、お母さん…。

…馬鹿だ、私。私が物心付く前に、もう死別してる…。


ものの数秒で、彼女の脳内はめまぐるしく働く。


ユレイドル(…。)


そして、彼女が最後に祈ったポケモンは…。



…あの、ポケモンであった。

58: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 16:59:29 ID:lBZ9LO72



お願い…。


…助けて…。




… プ テ ラ ッ ! !



59: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 17:20:40 ID:lBZ9LO72
──次の瞬間。


「「…待てっ!!」」


ガキィン…。


ゲノセクト「…!」ビリビリ


ゲノセクトの身体を、静止させる者が一匹。


ユレイドル「え、そ…その、声…は…!!」


そう、その…ポケモンとは。


プテラ「…フフッ。」


ユレイドル「プ…プテラッ!!」



そう…プテラで、あった。

60: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 17:28:37 ID:lBZ9LO72
プテラ「ユレイドル、この前は色々心にもないことを言ってしまい…悪かったな。
…助けに来たぜ。」

ユレイドル「プ…プテラ。
そ、その、担いでいるポケモンは一体…?」


プテラは、とある年老いたポケモンを抱えていたのだ。


プテラ「…こいつの名はアーケオス。
落ちぶれた、かつての空の王さ。」

アーケオス「ワ、ワシが、こんな小童にぃ…。」

プテラ「かつての栄光など見る影もない。老いたお前など、俺に勝てる訳がないのだ。
お前はさしずめ…『夢追い爺さん』だ。」

アーケオス「ワシは…ワシは…。」

プテラ「仕入れた情報によると、コイツは出しゃばり出た俺を始末したかったらしいな。しかし、当然ながらコイツは俺には敵わない。
だから、コイツは…ある行動に出た。」

アーケオス「…グウゥゥ。」

ユレイドル「ある、行動…?」

61: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 17:36:23 ID:lBZ9LO72
プテラ「1000年に一度目覚めるとされる、ジラーチの力を用いたのだ。
ジラーチは…あらゆる願いを叶えることのできる能力を持つ。」

ユレイドル「…ジラーチ…。」

ゲノセクト「…。」

プテラ「今年はちょうどジラーチが目覚める年。
そこに目を付けたアーケオスの『私の代わりにプテラを倒してくれ』という願いは、ジラーチを通し遥か未来のそこのゲノセクトと接触し、ジラーチの力で増長され…ゲノセクトを現代へと呼び寄せた。」

アーケオス「うぅ…。」

プテラ「そのゲノセクトはこの時代で生まれたが、未来にて化石で発見された後…何者かに改造強化され、凶悪兵器として復活を遂げた。
そして、ゲノセクトは再び元の時代へと帰って来たということだ。」

ユレイドル「そんな、ことが…。」

プテラ「来な、ゲノセクト。今度は前のようにはいかねぇ。ぶっ倒してやる。」

ゲノセクト「フン、以前とは何かが違うようだ。私をガッカリさせるなよ。
…行くぞっ!!」

63: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:32:22 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「…ふん。」ウィーン

プテラ「!」


ゲノセクトは身体を折り畳み、飛行に特化した姿へと…フォルムチェンジを遂げた。


プテラ「なるほど、てめぇも空を飛べるって訳か。」

アーケオス「ゲ、ゲノセクト…そいつをやってしまえっ!
若造の思い上がりごと、粉々にしてしまえぇっ!!」


バサッ…。


二匹は、空へと舞い上がった。

かくして今ここに…闘いの火蓋が、切って落とされたのだ。

64: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:36:51 ID:lBZ9LO72
プテラ「…ふんっ!」

ゲノセクト「…ゲノゲノ~っ!」


キィン、キィン…。


両者の身体がぶつかりあい、火花が飛び散る。


プテラ「…オラァッ!!」ヒュヒュン


プテラは自身の翼を広げ、ゲノセクトに体当たりを仕掛けるが。


ゲノセクト「ゲノゲノ…舐めるなよ…。
効くかぁ、こんな…ものぉぉっ!!」


ガシィ。


プテラ「ぐっ…。」


ゲノセクトは、それを容易く受け止める。

65: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:40:04 ID:lBZ9LO72
──動揺した隙を、見逃さない。


ゲノセクト「ゲノ~っ!!」ドガッ

プテラ「うぉっ…。」


プテラは思わず、よろけてしまうことになる。


ユレイドル「プ、プテラァ~、頑張って~っ!
そんなポケモンになんか…あなたが負けるはずがないんだからあぁぁぁぁ~っ!!」


ユレイドルは、彼女なりに彼を応援していた。


プテラ(ア、アイツ…。
…フフ。)

66: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:44:16 ID:lBZ9LO72
プテラ「…うおぉぉっ!!」ガシィッ


プテラは、なおゲノセクトへと突っかかる。


ユレイドル(プテラ…!)


ゲノセクト「つっ…!」

アーケオス「どうした、ゲノセクト!
お前の力は…そんなものじゃないはずだろおぉっ!?」

ゲノセクト「そ、そうだ…。
私は未来の最凶兵器。まだこんな程度で、やられる筈が…ないのだぁっ!!
…ゲノゲノォォォォ!!」ガシイッ

プテラ「…!」


二匹の攻防の応酬は、停滞することはなかった。

67: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:47:12 ID:lBZ9LO72
ユレイドル(プテラ…。)


争う二匹の姿を、ユレイドルは恐れはしなかった。
ただ、奇妙な感覚が彼女には湧いていた。


『憧れ』とも言うべき感情。

空を自在に舞う二匹の勇姿に…それを重ねていたのだ。


どちらが勝とうが負けようが…彼女は、“運命”に身を委ねる気でいたのだ。


──そして、決着の瞬間は、静かに訪れる。

68: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:51:03 ID:lBZ9LO72
ゲノセクト「テクノ…。」


その“瞬間”を、見逃さなかった。


プテラ「いわ…なだれえぇぇっ!!」ドガガガ

ゲノセクト「なっ…!!」


彼が岩礫を打った、その方向とは。


アーケオス「な、一体どこに向かって打ってやがるんだっ!?
ハハハ、若造…耄碌しやがったなぁっ!!」

ユレイドル「いや、違うわ!」

アーケオス「え?」

ユレイドル「プテラは、最初からこれを狙っていたのよ。
…見て、彼が岩礫を打った…その方向をっ!!」

アーケオス「あっ!
ま…まさか…!?」

69: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:53:41 ID:lBZ9LO72
カポッ…。


ゲノセクト「し、しまった…。」

アーケオス「あぁ、ま、まさかぁっ!?」

ユレイドル「そう、プテラの目的は…!」


ボガァンッ。


ゲノセクト「ゲ…ゲノラァ~っ!?」

プテラ「岩礫をお前の砲台にはめ込み、テクノバスターを暴発させるのが目的!
自身の必殺技が…己を穿つとはな!!
そして…。」


ボオォォ…。


プテラは、自身の牙に炎を纏わせる。


ゲノセクト「や、やめろぉぉぉぉっ!!」

70: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 19:57:37 ID:lBZ9LO72
プテラ「ほのおの…。」

ゲノセクト「う、うおぉぉぉぉっ!!」


…その時、であった。


ゴゴゴゴ…。


地面が…大きく揺れ始めたのだ。


プテラ「…キバアァッ!!」ボオォォ


ガシイィッ…。


ゲノセクト「ゲ…ゲグラァ~ッ!!?」

71: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 20:00:59 ID:lBZ9LO72
ドサァ…。


断末魔をけたたましく上げ、未来の兵器…ゲノセクトは地に伏し、敗北を遂げた。


今ここに、勝負が決したのである。


プテラ「ハァ、ハァ…。」


ユレイドル(プ、プテラが…。
勝った…。)


…しかし。

72: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 20:42:03 ID:lBZ9LO72
ボゴォン…。


プテラ「な、なんだぁ…!?」


なんと、突如上空より…隕石群が降り注いたのだ。


アーケオス「…。」


アーケオスは、既に息絶えていた。

…流れ石を受けてしまったのである。


プテラ「せめて、かつての栄光を抱えて…安らかに、眠れ。
それより、あいつは、どこに…。」


プテラ(…!)


ユレイドル「うっ、げほっ…。
ハァ…ハァ…。」

プテラ「ユ、ユレイドル…。
…ユレイドルウゥゥゥゥッ!!!」

73: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 20:48:43 ID:lBZ9LO72
大地が裂け、吸盤ごとユレイドルは放り出されてしまっていたのだ。


…このままでは、長くは持たない。


ゲノセクト「ゲ、ゲノゲノ…。」

プテラ「ゲ、ゲノセクト…ユレイドルを助けるのを、手伝ってくれっ!!」


──だが。


ボコォッ…。


プテラ「なっ…。」

隕石の影響で大地が盛り上がり、そのまま…ゲノセクトの身体を飲み込み始めたのだ。

ゲノセクト「さ、さらばだ、“好敵手”…。」


バゴォン…。


そのまま、ゲノセクトは地中へと…飲み込まれていった。

74: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 20:53:43 ID:lBZ9LO72
プテラ「くっ…。
オムスター、カブトプス、アーケオス、ゲノセクト…皆、死んじまったっ!
この様子では、他のポケモンたちも…。」

ユレイドル「プ、プテラ…。」

プテラ(…もうどうにも、ならないのかっ!?
だったら俺一匹が、なんとかしてや…。)


──その時。


「「無駄だよ。」」


プテラ「!」



突如、謎の一つの声が響いたのだ。

75: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 20:58:23 ID:lBZ9LO72
プテラ「お、お前は…。
…そうか、お前が…そうなのか。」


声の主は、ジラーチであった。


ジラーチ「この星は隕石の襲来により、大幅な地殻変動が置き、大規模な氷河期へと突入するんだよ。
これは運命。運命には逆らえないんだ。
例え、僕の能力であったとしてもね…。」


ヒュンッ…。


そう言い残し、ジラーチは消え去っていった。


プテラ「そうか、運命には、逆らえないのか…。」


…。


プテラ「…おい、ユレイドル。」

ユレイドル「え…?」

76: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:05:59 ID:lBZ9LO72
プテラ「お前を助けることは、すまない、無理だ…。」

ユレイドル「いいのよ、ありがとう…。」

プテラ「そしてもう一つ、俺はお前に謝らなければならないことがあるんだ。」

ユレイドル「え…?」

プテラ「あの時俺をお前が助けてくれた時、本当は…とても、嬉しかったんだ。
カブトプスたちもまだまだ弱くて、今まで俺を助けてくれようなんて奴、他に居なかったからな。」

ユレイドル「…。」

プテラ「今まで俺は、“自分”を捨てきれなかった。粗暴に、本能のままに生きてきた自分を捨ててしまえば、もう俺には…なにも残らないんじゃないかって。」

ユレイドル「プテラ…。」

プテラ「…でも、もう、皆…居なくなった。
この世界には、俺とお前…二匹が残された。
だから、もう…“嘘”は付かない。」


ドゴォン…。


隕石群は、更に降り注ぐ。


プテラ「ユレイドル…。
お前に、最後の罪滅ぼしをさせてくれ。」

77: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:09:50 ID:lBZ9LO72
ドサッ…。


ユレイドル「あ…。」


プテラは、ユレイドルを己の背中へと載せたのだ。


プテラ「お前、いつか言ってたよな…?
『空を飛びたい』って。
その願い、叶えさせてやる。
…最期までな…。」

ユレイドル「プテラ…。」


バササッ…。


“二匹”は、荒れ狂う上空へと飛び立った。

78: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:14:19 ID:lBZ9LO72
バササッ、バサ。


ユレイドル(これが…。)

プテラ「へへっ、どうだ…ユレイドル?」

ユレイドル(ああ、これこそが…。)


生まれて初めて感じる感覚。


これが、空を飛ぶことなんだ。


私が憧れていたものは…これだったのか。


…残された時間、ずっとこの感覚を味わっていたかった。



──永遠に、忘れたくなどなかった。

79: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:17:22 ID:lBZ9LO72
──やがて…。


ユレイドル「…うっ。」

プテラ「…ユレイドル?」

ユレイドル「ごめん、プテラ…。
どうやらもう、あなたとお別れするときが来たみたい。」

プテラ「ユレイドル、縁起でもないことを言うな。
お前はずっと…俺と一緒に居るんだっ!!」

ユレイドル「だけど、一つ…言っておきたいことがあるの。」

プテラ「ユレイドル…。
そ、それは、なんだ…?」

80: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:20:19 ID:lBZ9LO72
ユレイドル「私は今、とても嬉しいのよ。
プテラ…あなたは今、私のことを、呼んでくれている。…『ユレイドル』って。
今まで頑なに“アイツ”とか“お前”って呼んでたのに、今、あなたは私のことをとても思ってくれている。
それだけなのに、とても…。」

プテラ「ユレイドル…!!」


ユレイドル「うれ、しい…。」


プテラ「おい、ユレイドル…ユレイドルッ!!」


ユレイドル「…。」


しかし、もはや…彼女の口は開くことはなかった。



「「ユレイドルウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」」

81: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:23:10 ID:lBZ9LO72
ゴゴゴゴ…。


プテラ「ふっ、一時代もこれで終わりってか。」


プテラが見上げた先には、この星全体をも包み込もうとする巨大な隕石。

彼は、自身の生命の終わりを…。

自らが築き上げた時代の終わりを悟った。


…。


ボオォォ…。


プテラ(思えば…色々なことがあった。)

82: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:25:51 ID:lBZ9LO72
プテラ(…ああ。)


一瞬にして、様々な記憶が駆け巡った。


生まれた時。

やんちゃしてた幼少期。

空の王と上り詰めるべく暴れ回った血気盛んな若き時。

命を助け、自身を慕ってくれた二匹のポケモン。

ふとしたきっかけで知り合ったユレイドルのこと。

ゲノセクトとの交戦。

仲間の死。



そして…。

83: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:30:03 ID:lBZ9LO72
プテラ(なあ、ユレイドル。)

俺は、誰かと一緒に死を迎えるなんて考えたこともなかった。

死ぬ時は一人だと思っていたからな、俺は…。

だけど、もう、違う。


俺には良き仲間、いや…『友だち』ができたんだ。


やっと、そのことに気づけた。

本当に、馬鹿だよな、俺…。

馬鹿で、不器用で、どうしようもない俺だけど…。


…。


最後に一つぐらい、言える権利はあるはずだ。


プテラ(父さん、母さん、カブトプス、オムスター。…ユレイドル。
本当に、本当に…。)

84: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:32:58 ID:lBZ9LO72







…ありがとう。







85: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:37:07 ID:lBZ9LO72





ドゴォン…。





──巨大隕石が、今…この星全体を包み込んだ。

86: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:42:20 ID:lBZ9LO72
~数億年後~

かつての大幅な氷河期もとうに終焉を迎え、新たなる時代では…。

ポケモンと、当時は存在しなかった人間と言う種が共存を果たしていた。

人は、ポケモンをペットとしたり、仕事仲間としたり、時には戦わせながら、今日もまた良きパートナーであり続ける。


──そして、ここはとある地方、とある発掘現場。


この地で、数人の作業員たちが…“なにか”を見つけたようだ。

87: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:48:15 ID:lBZ9LO72
作業員「おい、ポケモンの化石が見つかったぞ!」

作業員「本当だ、しかもこれは…。
ひみつのコハクと、ねっこのかせきだな。
しかもこの化石…折り重なっているぞ。何だか、微笑ましいな。」

作業員「よし、さっそく復元させてみようか。古代の情報が、なにかわかるかもしれない。」


作業員たちは、この発見を心から喜んだ。

88: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:54:42 ID:lBZ9LO72
時代は移れど、思いは消えず。



プテラとユレイドル ~完~

89: ◆saZByGv7M6 2016/03/10(木) 21:55:26 ID:lBZ9LO72
これにて完結です

稚拙な表現やお見苦しい描写がありましたら、すみません

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました

90:  2016/03/11(金) 02:24:55


プテラカッコいいよね

91:  2016/03/11(金) 03:07:00
おつ
俺もサファイアでユレイドル加えてた

92:  2016/03/14(月) 02:49:09
イイハナシダナー

引用元: 【ポケモン】プテラとユレイドル