俺が今の会社に入った年のこと。
同じ部署に定年退職間近の女性Oさんがいた。
独身で、
高齢の母親と二人暮らしだった。

Oさんは仕事ができなかった。
また、周囲の人々との関係も悪く、まともに人付き合いのできない人だった。

同僚たちは、
みんなOさんの陰口を言っていた。
職場の飲み会にもOさんだけが誘われなかった。

俺は新入社員だったので、多少の遠慮もあって、普通にOさんと話をしていたが、心の中では「Oさんって変な人だな」と思っていた。

家に帰ると、
かみさんにOさんの話をしていた。
かみさんは、
俺の愚痴や不満に耳を傾けてくれていた。

だが、
ある日のことだった。
かみさんは俺の話を聞きながら、「
Oさんって、かわいそうな人だね」と言った。
そして、「
Oさんって生きづらいだろうね」とも言った。

俺はかみさんの言葉を聞いて気がついた。
Oさんも俺と同じような環境で育ってきたのではないか。
両親から虐待されてきたのではないか。
その結果、
上手く人間関係が作れなくなったのではないか。

Oさんとは違い、
俺は親との関係を断った。
Oさんとは違い、
俺はかみさんという自分を受け容れてくれる伴侶に出会った。

たったそれだけの違いかもしれないが、Oさんは排除され、俺は受容してもらうことができたのだ。

・・・

Oさんが亡くなったそうだ。
死因は知らされていない。

これまでずっと生きづらかっただろう。
ずっと苦しかっただろう。

きっと「ようやく死ねる」と安堵したのではないだろうか。

俺もかみさんと出会う前は生きづらかった。
かみさんが亡くなってからも生きづらくなってしまった。
俺が世界を受容し、世界に受容されたのは、かみさんと一緒に暮らした20年間だけなのだ。

俺もいつか、「
ようやく死ねる」と安堵しつつ、人生の幕を閉じるだろう。

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