かみさんは、俺の唯一の「心の支え」だった。
かみさんがいてくれるから、俺は残酷な世界の中でも生きてくることができた。

もちろん、
かみさんと出会う前だって、俺は生きていた。
かみさんと出会う前に付き合っていた女性たちだっていた。

だが、
楽しくはなかったし、面白くもなかった。
むしろ辛くて苦しいことばかりだった。

だからだ。
俺は世界を憎悪していたのだ。
俺は世界を破壊したかったのだ。

そんな俺にとって、かみさんとの出会いは衝撃だった。

かみさんは自分自身を受け容れていた。
かみさんは世界のすべてを受け容れていた。
そして、
かみさんは俺をも受け容れてくれたのだ。

かみさんとの出会いが俺を変えてくれた。
このクソ面白くもない世界を肯定してみようと思った。
かみさんが一緒なら、きっと肯定できるようになるはずだと思った。

そして俺は、
世界を受け容れることができたのだ。
全部かみさんのおかげだった。

・・・

生まれてからの
20年間、辛くて苦しいことばかりだった。
だが、
かみさんとの出会いが俺の人生を変えてくれた。
出会って以降も辛くて苦しいことはあったけど、かみさんがいてくれたから、俺は幸せだった。

楽しかった。
嬉しかった。
生まれてきて良かったな…と初めて思った。

それなのに…
何故こんなことになってしまったんだろう。

生まれてから最初の
20年間はクソだ。
しかし、
俺はそのクソみたいな日々に耐えたのだ。
だったら残りの
60年間くらいは幸せに生きてもいいはずだ。

だが、幸せな日々も
20年間で終わってしまった。
また元通りだ。

いや、
元通りどころではない。
ずっと知らなかった幸せを知ってしまったあとの喪失だ。
初めから無かったとしても、途中で得られることがなかったら、「人生なんて、こんなもの…」と諦観して生きていったかもしれない。

しかし、
俺は知ってしまった。
他人を「世界でいちばん大切な人」
と思えること、他人と一緒にいることで癒されること、他人と全てを共有できること、他人を全身全霊で守りたいと思えること。

これ以上ない幸せな気持ちを知ってしまったのだ。

知ってしまったあとの喪失だ。
あまりにも残酷じゃないか。

だから俺は思うのだ。
何故こんなことになってしまったんだろう…
と思うのだ。

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