例えば秘密のノートに記すように。

cancion-de-la-abeja(みつばちのささやき)          

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曼荼羅の模様


 昨日から塗っている曼荼羅の模様が完成し母に渡すと、溜息を吐かれた。うっとりしながら、自分のとは全く違うと言いまた溜息を吐く。
 デイサービスで塗り絵を行う時間があると聞いてはいたが、まさか曼荼羅の模様に挑戦しているとは想ってもなかった。根気が要るのに何枚も染めている母に、あたしの方が感心する。
 塗って欲しいとあたしに渡されたのは、ひとつひとつの模様が大きかった。だが、ひとつひとつの模様が大きい方が難しいと母は言う。此れも大きいと見せられた画と母の塗り方を見て、此の蓮の花は桃色壱色でなく花托に近い花びらの方からこんなふうに赤を入れたら、と自分の塗ったものを指さす。
 早速塗り始めた彼女は数分後、花らしく見えるようになった、と喜んだ。蓮の花が並んで幾つも描かれた画は華やかになり、完成したら素敵だろうなと想った。

 そんな気が起こらない、と此の間まで母は言っていた。それが塗り絵をし、卓には藤沢周平の文庫本まで置かれている。まだ叔父夫婦の話をしたがるのは直らないが、止めるとすぐに止めるようになった。
 顔を浮かべたくなく名を口にしたくないあたしは彼らを(母の前でだけではあるが)糞と呼んでいる。自分が塗った曼荼羅の模様にどんな意味があるのかは知らない。母も自分も心豊かに過ごしていけるように、と完成させたことは母に黙っている。

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