日ユ同祖論の盲点

「日本人は古代イスラエル人の子孫である」とする日ユ同祖論者のクリスチャンたちの中には、「日本人が、自分たちのルーツがイスラエルにあるとわかれば、聖書の神とイエス・キリストを信じるようになるだろう」と考える人々がいる。それで、日ユ同祖論こそ日本宣教の鍵であると主張する。しかし、当のイスラエル人(ユダヤ人)こそが、一番頑なでイエスを信じていないという現実を彼らは見落としているようだ。イスラエルの血を引いていることは、信仰上、決して有利なわけではない。

また、日ユ同祖論者の中には、ユダヤ人のことを「同じ古代イスラエル人から分かれ出た兄弟民族」と見なして、ユダヤ人に対する好意や敬意を抱く人々がいる。ホーリネス教会の指導者であった中田重治がその代表例であろう。しかし、一方で「日本人こそ古代イスラエル人の血を引く正統な子孫であり、今のユダヤ人はハザール人の子孫である偽イスラエル人だ」と主張する者たちもいる。結局反ユダヤ主義に陥ってしまっているのだ。日ユ同祖論の根拠の薄弱さを鑑みれば、総体的に見ると、危険性の方が大きいように思うのだが、如何か。

そして、日ユ同祖論者ならば、イスラエル人が神に選ばれた民族として祝福されていると信じているだろう。だからこそイスラエルの血筋にこだわっているのだろうから。具体的には、今のイスラエルの地(パレスチナ)が、イスラエル人に与えられた「約束の地」であり、世界に散らされた彼らがこの地に帰還するという聖書の預言を信じているだろう。

であるならば、もし日本人が正統なイスラエルの子孫だとすれば、現在ユダヤ人たちが実現しているように、日本人が大挙してイスラエルの地に「帰還」するという、パレスチナ問題をますますややこしくさせるような事態が起こらなければならない。だが現実には、日本人は「日本列島」という「約束の地」を既に別に持っている。このことからも、日本人はイスラエル人とは別の独立した民族であることがわかる。

それとも彼らは、日本列島を後にしてイスラエルに移住し、ヘブライ語を覚え、兵役に就き、割礼手術を受けて、イスラエル人になる覚悟があるのだろうか。地震で原発事故が起こり、日本列島が住めなくなるようなことでもあれば、あり得るかも知れないが......。


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