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終末期でなくても「胃ろう」…栄養状態が回復、体力UPも実感



 胃ろう。おなかに開けた穴からチューブで栄養を入れる医療器具だ。漢字で「胃瘻(ろう)」。語感の影響もあってか、終末期に使うというマイナスイメージもついて回る。その胃ろうを心身の回復のために活用し、安息の暮らしを手にした患者と家族を訪ねた。

 古い書籍がかおる洋室。赤い花をつける庭の霧島ツツジ。大阪府吹田市の住宅街に、池田謙介さん(86)と、長女の会社員、仁美さん(58)が暮らしていた。

 午後1時。謙介さんは自分でプラスチック製の注射器やチューブ、400ミリ・リットルの半固形化栄養剤のパックを両ももの上に置き、昼食を始めた。注入時間は10分ほど。30分あれば片づけも終わる。

 今年1月、入院中の妻を仁美さんと見舞った時、病室のベッド脇で倒れた。多発性脳梗塞。運ばれた国立循環器病研究センター(同市)で意識が戻った。指は動く。左足はまひが残るが、動かせる。話すこともできる。だが、ものをのみ下す機能が失われていた。

 検査の画像を見ると、どの部位の筋肉もピクリともしない。転院先の病院でも、鼻からチューブを入れて栄養をとった。下痢が続き、トイレを失敗することもあった。気力が衰え、筋力も落ちていく。「紙パンツを買ってくれ」と娘に頼む自分がふがいなく、ベッドから点滴とチューブを見上げ、ひどくめいった。

 3月、千里リハビリテーション病院(同府箕面市)に移った。副院長の合田文則さん(54)に胃ろうを勧められ、戸惑った。「死にかけた人間をただ生かすための器具」と思い込んでいた。仁美さんも似た感覚で、友人らに相談しても、「お父さん、そんなに悪いの?」という返事ばかり。

 外科医の合田さんは、10年以上胃ろうに携わり、消化運動を促す半固形化栄養剤の開発も行ってきたスペシャリスト。「元気になるために作るんです」「口で食べられなくなったら終わり、じゃない」「リハビリの効果を伸ばすことも期待できます」……。丁寧に、回復期に胃ろうを活用するメリットを説いた。

 3回の説明を聞き、謙介さんは決断した。「胃ろうは死」という誤解が消えると、不思議に生への強い意志が生まれた。「生きて、やれることをやりたい」「マグロの大トロと松阪牛を食べてやる」。同じ頃、最愛の妻を亡くしたが、自らを奮い立たせた。

 5月。約10分の手術で胃ろうをつくった。効果は大きかった。下痢が止まった。栄養状態が回復し、体力がついていくことが実感できる。リハビリを頑張り、口からの食事にも挑戦。大トロなどは細かく刻み、のみ込む時の姿勢にも工夫するなどして暮らしの可能性を広げている。

「父との自宅での暮らしが戻りました。病院という非日常から我が家という日常へ、父を連れ帰ってくれた“道具”が胃ろうでした」。仁美さんが穏やかに言った。

 合田さんは「胃ろうは、栄養状態をよくするため、必要時に適切に使うべき道具。その認識を社会で広く共有したい」と語る。同病院では毎月数人の患者に胃ろうを作るが、回復期リハビリ病院の診療報酬に算定されず、約10万円の費用は持ち出しという。

 ◆メモ 胃ろうに関する情報提供などを行うNPO法人「PEGドクターズネットワーク」(東京)によると、昨年は約7万9000人が胃ろうをつくった。「脳卒中治療ガイドライン」(日本脳卒中学会編)は、発症1か月後以降も、口からの栄養摂取が困難な状況が続く時には、胃ろうでの栄養管理を勧めている。
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