仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 600 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/05/04(水) 00:34:05.46 ID:hbBXZ3pI0/エピローグ
今回の事件もまた、悲しく不幸な事件だった。
鹿目まどか、美樹さやか、暁美ほむら、巴マミ、佐倉杏子の五名は心にも身体にも深い傷を負い、癒えるには時間がかかるだろう。
目には見えない魔法という幻想に踊らされ、傷つき倒れ、それでも立ち上がる。
人間はだからこそ美しい。
事件の主犯であったネオン・ウルスランドはその際立った頭脳と肥大しきった自我を持て余し、人の手の届かぬ領域を望んでしまった。
彼女はいわば人間存在を見限り、科学という魔法に酔い、全ての超越者としての存在を希求した愚かな人間の代表であるともいえる。
オレ達は今回のことを忘れることはないだろう。
奇跡を望んだ魔女が手を伸ばした呪いにも似た魔法のことを。
翔太郎はそこでタイプを区切ると、デスクの上に置かれたカップに手を伸ばして口をつけた。
琥珀色の液体。芳醇な香りを楽しむと、アイボリーホワイトの輝きに目を細め椅子をぎいと揺らした。
「――で。君はいつ自分の家に帰るんだ。なぁ」
「え? 何をいってるんですか、翔太郎さん」
翔太郎の膝の上。
にこにこと笑いながらどっしり腰を下ろした巴マミが、手に持ったプレートからカップを持ち上げながらさも不思議そうに返事を返した。
「お前らも笑ってねーで、何とかいってやってくれよ! フィリップ! 亜樹子! 照井! おい!」
「翔太郎、とりあえず男らしく最後まで責任を取ったらどうなんだい」
フィリップは洋書から目を離さず答える。
「ロリコン探偵にいうことはありません、以上」
亜樹子はあきれたように腰に手を当てながら、唇を尖らせる。
「左。頼むから、俺に手錠を掛けさせるような真似はしないでくれ」
照井は淡々と、新聞に目を落としながら告げた。
「――フィリップ。とりあえず、お前からツッコませてくれ。その責任てのはなんだ」
「え? 彼女とは既に愛を誓いあったのではないのかい。マミちゃんがそう僕に話してくれたよ」
「はい。フィリップさんのいうとおりです。あ、お代わりはいかがですか」
マミは追求を避けるように翔太郎の膝から飛び降りると、フィリップのテーブルに移動し慣れた手つきでカップへと紅茶を注いだ。
「しかし、君もこの事務所に馴染んだものだ」
「はい。翔太郎さん、ともども末永くよろしくお願いしますね」
マミはしあわせそうにふやけた顔で微笑む。
追い込まれた翔太郎はいつも以上にその器の小ささを見せながら、両手を振って拒否の姿勢を見せた。
「帰れー!! 勝手に馴染んでんじゃねー!」
「亜希子さん、食器はシンクに運んでおきますから」
「いつもごめんねー」
「聞けよ! 人の話!!」
「マミちゃん、君は三年生だろう。進路はどうするんだい?」
「永久就職です!」
「私、聞いてな――あ、翔太郎くん。祝儀先に渡しとけばいいかな?」
「左、祝辞は任せておけ」
「お前ら全員許さねー!!」
フィリップは翔太郎がマミを追い掛け回しながら部屋を横切ってドアを突っ切り外に出て行くのを見ながら、ふところに忍ばせたほむらからの手紙へとそっと手を伸ばす。
「やれやれ、渡しそびれたかな」
「ん、どうしたの? フィリップくん、その手紙」
「美少女から翔太郎への熱烈ラブレターさ」
フィリップは亜樹子の問いかけに答えると、テーブルの上に封筒を置いた。
窓際から優しく暖かな風都の風が舞い込む。
封印の合わせのシールが薄く剥がれ、中から一枚の写真がきらきらとした陽光の中へと軽やかに踊りながらひらめく。
写真の中の少女たちは、満面の笑みを浮かべいつまでも輝いていた。
――END←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 436 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/05/03(火) 01:57:54.79 ID:v5fLK6XV0/10
「――検索終了。さあ、今回の事件もほとんど見えた。ここから脱出しようじゃないか」
「本当かよ、フィリップ。でも、どうやって、ここから逃げ出すんだよ」
「そうよ、フィリップくん。翔太郎くんの両手はもうブリの照り焼き状態よ!」
「あのさ、アンタらここから逃げ出すのはともかく、そんなデカイ声で思いっきり相談するのはやめねーか?
あそこの、看守に思いっきり聞かれてるぜ」
「アンタの声も、充分大きいけどね」
「心配しなくていい。策はこちらにある。みんな、僕の周りに集まってくれ」
「おーい、聞こえてるかーい。アタシの話」
「ホラホラ、さやかちゃんも、もっとこっちにつめて。翔太郎くん! 顔近すぎ! 離れて、そっち」
「亜樹子、お前が仕切るんじゃねーよ。あだっ!」
「おい、大丈夫かよ。ちょっと、手、見せてみな。
あーあー、こんな無茶苦茶な巻き方したら、治るもんも治らねーよ。まったく、さやかは不器用だねぇ」
「――なっ! うるっさいわね! だったら、あんたがやってみなさいよ」
「ふーん、ふん、ふふーん。ちょちょいの、チョイ、と。完成」
「おおー」
「あら、すごいじゃない。杏子ちゃん。ま、元はといえば、翔太郎くんの自業自得なんだけどねー」
「んだとぉー!」
「……なによ、なに見てるのよ。なに勝ち誇ってるの?」
「別にぃ?」
「ああ、もお。喧嘩はしないでよ、二人とも!」
「みんな、僕の話を聞く気ないのかい」
「オーケイ、フィリップ。聞こうじゃないか、その作戦ってやつをな」 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 358 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/27(水) 23:02:38.55 ID:xI3kLD7r0
/09
「やあ、魔法少女のみんな。ご機嫌はいかがかな。待遇はスイートルームといかないが、まあ我慢して欲しい」
鉄格子を挟んだ向こう側。そこには、私たちを閉じ込めた張本人がいた。
――インベキューター。
彼は薄暗い廊下の中央部に座り込み、耳を小刻みに揺れ動かしている。
怒りで目の前が真っ赤に染まった。
そしてその隣には、あれ以来姿を消していた巴マミが決まり悪げに立ち尽くしているのが見えた。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 325 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/27(水) 19:12:22.10 ID:xI3kLD7r0/08
オレはゲート越しから見える白亜の巨大な建屋を前にして、いささか気おされ気味に、ため息をついた。
「なんというか、ここまで堂々としていると、こっちが気後れしちまうな」
「別に可笑しいところはないさ。財団Xはフロント企業をいくつも経営している。
この研究所も新薬開発では地元に相当金を落としているそうだしね。もちろん末端の部分に限られてはいるが」
オレ達はあれから話し合った結果、いくつかの方針を決め、敵が攻め寄せてくる前に正面からぶち当たってみることにした。
虎穴に入らずんば虎児を得ずとは、前漢の班超の言であったか。
フィリップの検索を使わずとも、敵の居場所があっさり判明した時は拍子抜けしたが、それだけ余裕を持っているということだろう。
オレとフィリップとほむらが直接敵地である、見滝原バイオ医学研究所に乗り込んでいる間、 亜樹子たちにはもうひとりの魔法少女である巴マミの捜索を頼んだ。
彼女は昨日から連絡がまったく取れていない。
照井にも連絡を取り、地元の所轄にも応援要請を頼んでもらったが、今のところ成果はゼロである。
それにしてもこの研究所、見たところはおかしな部分はほとんど感じられない。
もっとも、異常が理解できるほど、この手の企業に出入する経験もないのだが。
それだけに、場合によってはいきなり戦闘になるかと身構えていたが、正規の手続きを経て、入門ゲートを通れた時は振り上げた拳の落とし所がないような、不安定な気持ちに駆られた。
「どうぞ、お進みください」
受付嬢から発行されたIDカードを受け取ると、オレ達はゲートに付随するスキャナに接触させ、至極平凡に入場した。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 284 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/21(木) 00:46:25.13 ID:oBULefdH0/07
やってしまった。
やってしまった。
鹿目まどかをやってしまった。
「おえぶっ!!」
ステンレスのシンクに向かって、えずく。
「うぇえええっ!!」
もう何度目かわからない。
私は涙目になりながら、黄色い液体を吐き出すと、ふらつく頭を振りながら蛇口をひねりこみ、流水で汚物を流した。
「違うのよぉ、違う、私、そんなつもりじゃなかったのぉ」
時間を刻む時計の音だけが規則的に聞こえてくる。
「べつに、魔法少女なんかなりたくなかったんだもぉん」
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
全ては夢。今も、こうやって泣き喚いて、座り込んでいれば、パパとママがやってきて、優しく慰めてくれる。
そんな幻想を全力で願い、ぎゅっと目を閉じる。
まだかな。
……ねぇ、まだ?
「パパぁ、ママぁ」
耳を澄ます。何の音も聞こえない。
誰の気配もしない。
窓の向こうは既に夕日が落ちきって、夜が訪れていた。
ドアの向こう側に、こつこつと乾いた靴の足音が聞こえる。
その足音を聞いていると、いつも無性に寂しくなるのだ。
汚れた唇を袖口でぬぐうと、なんとか立ち上がった。腰から下が抜け落ちたように力が入らない。
これからどうすればいいのだろうか。
「ひとごろしだ、私は」
美樹さやかの鬼のような形相が、脳裏にちらついて離れない。
頭をぶんぶんと、左右に振って忘れようと努めた。そういえば、彼女はこの家に来たことがある。
途端に、激しい恐怖心が全身を浸した。
「に、逃げなきゃ」
美樹さやかが来る。
私の中で、鹿目まどかを殺した罪悪感と、断罪される恐怖心がせめぎあい、相克する。
申し訳ないと思う気持ちとは裏腹に、私の足はアパートを飛び出すと、自然と目的地も定まらないまま駆け出していた。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」241 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/18(月) 00:27:46.38 ID:Dni6wn420/06
僕たちがようやく学園を探し当てたどり着いた時に凶事は起こっていた。
「か、火事だ。学校が燃えてるよー」
「落ち着くんだ、アキちゃん」
動揺する彼女に声を掛け、周りを見渡す。
校庭には逃げ出した生徒達が、それぞれクラスごとに集団を作り、遠巻きに燃え盛る校舎に見入っている。
それらを押しのけるようにして、遠巻きに火事見物をしているのは周辺地域の住民たちだろうか、彼らもしくは彼女らはまちまちの服装年齢層で、その中に混じる僕らもたいした違和感なしに校門をくぐれたのは幸いだったというべきか。
関係者以外をシャットアウトするべきの警備員も、今はその任を放り出し、校舎を舐めるように這っている炎を熱心に見入っている。
続けざまに消防車と救急車が並ぶように校庭へと到着し、さながらここは戦場だった。
耳を聾するサイレンの音。
怒声と押し詰まった人々の悲鳴。
真昼に起きた惨事は、いともたやすく、人間の理性を崩壊させる。
消防隊員の放水作業を見ながら、本日において収集できそうな情報の精度と確率を心の中で推し量りながら、僕はある違和感を覚えた。
「アキちゃん、何か違和感を感じないかな」
「どうしたの、フィリップくん。そりゃ、こんな真昼間から学校が火事になるなんて、あんまりないと思うけど」
「そう。まず、こんな昼間から、しかも教育機関である学校で火を出すなんてことまずほとんどないだろう。
工場などと違って火を出す薬品・材料・機械などはほとんど常備されていないだろうからね。おまけに、ここ数週間の湿度は極めて高い」
「うん。そだね、最近よく雨降ってるし」
「今は乾燥する季節じゃない。特に燃え方が変だ。
また、今日はこの学校のカリキュラムでは、全学年全クラスで火を使う調理実習は一切行われていない。
しかも、一番火を出す確率の高い科学室や調理室の棟を避けるようにして、火災が発生している」
いずれも、地球の本棚で検索した情報だ。間違いは、ない。
僕は、地面に座り込むと、地べたに簡単なこの学園の見取り図を指先で描いた。
彼女はふんふんと首を縦に振って僕の話を聞き入ると、何かに気づいたように、顔を上げた。
「もしかして、これって……」
「そう、火勢の強い部分は全て、この校舎のデッドスポットから発生している。
極めて意図的だ。本来の目的は事件のデータ収集だったけど……案外あたりかもしれない。急ごう
「うん、って何をどう急ぐの」
「校舎の裏手。そこにたぶん手がかりがありそうな気がする」
「つまりぶっちゃけていうと、人目につかない場所に火をつけた悪いやつ、がいると」
「人心を混乱させ、陽動を行うのにもっとも簡単な方法だよ。
火を見れば、人間は簡単に理性を失う。これだけ人間の集まる場所なら尚更さ。
財団Xの狙いは、もちろんソウルジェムだろう。……いやな予感がする」 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」198 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/09(土) 20:18:11.29 ID:kkVZOldP0/05
今起きたことが全て夢の中であるように願った。
前のめりに崩れ落ちるまどかへと駆け寄る。
転校生は呆然としたまま、背中からまどかを抱きかかえ、虚ろな視線を漂わせていた。
あたしは、ぽっかりとあいた、まどかの黒々とした胸の銃創を見つめながら、こぽこぽとめどなく溢れ出す赤黒い血を止めようとそっと手を伸ばした。
血溜まりの中は、あたためた泥のように粘って指先から手首までを浸していく。
「まどか、しっかりして、なんとか、なんとかするから!!」
何をどうするというのだ、この状況で。
そもそも、周囲は燃え盛った建築物が、今にも自分たちの居る中庭にまで倒れてきそうだというのに。
知らず、泣いていた。
涙がぼろぼろとこぼれ、頬を伝う。
歪んだ視界の向こうには、顔をくしゃくしゃにしたほむらが涙を流しているのが見えた。
どうして、どうしてまどかが殺さなければならないのだ。彼女は何の関係もないのに。
まどかは、ほむらを庇って銃弾に倒れた。どうしようもない事実だった。
「ち、違うの、こ、これは違うの。だって、私は暁美ほむらを……。鹿目さんが悪いのよ、そんなやつかばうから……」
尊敬できる先輩だと思っていた。
彼女の洗練された物腰や、力強い行動力にどれだけ憧れたのだろうか。
魔女や使い魔を一掃する時の彼女は、まるで物語のヒロインそのもので。
瑕疵ひとつなく、完璧だった。
それが今はどうだ。この期に及んで言い訳すらしている。
――こんなのは、あたしやまどかが憧れた巴マミじゃない! ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」165 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/09(土) 00:10:58.79 ID:Hu0QOljI0/04
時間よとまれ、汝は美しい。
この言葉を残したのは、ゲーテのファウストだったか。
私は、教卓の上の時計を見つめながら、まもなくやってくる苦痛の時間を思い、心の中でため息をついた。
終わる。
終わってしまう。
授業が終わってしまう。
「はーい、じゃあ今日はちょっと早いけどここまでにしますねー」
おい!
勝手に切り上げるんじゃないわよ!
そんなに昼食にしたいの! 時間内いっぱいまで真面目に働きなさいよ、ばか!
日直が号令を掛けると、クラスメイトの皆は三々五々に散っていく。
楽しい楽しいランチライムだ。そして、私に声を掛ける人間は誰もいない。何故だろうか。
当たり前だ。それは、私が特別な人間だから。選ばれた魔法少女は、群れたりなどしない。孤高。
素晴らしい言葉だ。そう考えて心の均衡を保つ。
告白します。私は友達が少ない、というか、うん、その選んでるの。そして、私の目に適う崇高な人物がここにはいないだけだった。
すいません、嘘でした。
かつて、両親を事故で失った際、私は荒れた。
自暴自棄になって、心配してくれる人たちの声すら無視し、大業(魔女殺し)に邁進していく内に、やがて気づけば一人になっていた。
そして、私を一人にしたこの世界を恨んでいくうちに、
ますます人々は私を世界からのけものにしていったので、こっちから縁を切ることにしたのだ。
後悔はない。でも、世俗の垢に染まった小人たちがどうしてもと、媚びへつらって交誼を結びたいと心の底から望むのであれば、
その辺りは柔軟に対応しようと思っているが、やつらは一向に心を入れ替えようとしない。
ま、私は心が広いのでそれらを待つくらいの度量は兼ね備えている。いつでも、いいのよ、ホラ。
「ごはん、いこー」
「あ、ちょっと待ってよー」
前の席の子達が、連れ立って歩き出した時、視線が絡み合う。
しばし無言。
やがて何事もなかったかのように、その場を去り、私の意識は日常に回帰していく。
たまには誘ってみなさいよ、ばか。
そのまま椅子と一体化していてもお腹はふくれない。
極めて現実的な決断として、売店に行き、タマゴサンドとお茶を買い、なるべく人気のなさそうな中庭に向かった。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」110 :◆/Pbzx9FKd2 [saga]:2011/04/02(土) 00:09:26.87 ID:kDJ2UamJ0「さあ、いくぜ!!」
オレは雄叫びを上げて接近するビースト・ドーパントを睨みながら、後ろ足で大地を蹴って迎え撃った。
振り上げられる大爪。大気を裂いて旋回するそれは、首筋を刈らんが為、半円を描いて旋回する。
上半身を反らしてかわす。同時に無防備な腹へと蹴りを叩き込んだ。
――硬ェ!!
コイツには一発や二発じゃ利かねェ。
オレは最初の蹴りでバランスを崩したドーパントに、両拳を全力余すことなく叩きつける。
鋼鉄もひしゃげとばかりに連打の雨を降らせるが、さすがに硬い装甲だ。
殴りつける度に、もげそうになる指の衝撃をこらえながら突破口を探す。
だが、ヤツも黙ってはいない。片手で拳の雨をかいくぐると、再び大振りの一撃を胸元に見舞ってくる。←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」47 :◆/Pbzx9FKd2 :2011/03/24(木) 22:23:24.48 ID:VzXfE/Lt0/02
私が誰かの好意を裏切ったのは初めてではない。けれどもこの時、確かに超えてはいけない一線を踏み越えてしまった気がした。
手にしたスタンロッドは青白い魔翌力と火花を散らしながら、ふるふると震えている。
目の前には、先程まで屈託無く笑っていた青年がうつ伏せに倒れていた。
探偵だと名乗っていた左翔太郎の背後から一撃を与えるには、余りにも容易過ぎた。
荒い呼吸がやけに耳につく。自分のものだ。
脂汗が額を伝って左目に入ると、軋んだように左目が痛んだ。彼の取り返してくれたソウルジェムをそっと握り締める。
この男は危険だ。
魔法少女以外の、いやそれ以上の強力な力。
私にはいちいち関わりあったり、人並みに興味を持ったりする暇はないし、必要も無い。
幸いにも、インキュベーターが連れて来た男たちは残らず始末されたようだ。
いや、まだ、ひとりだけ残っている。
「ひっ」
左翔太郎に撃破されたうち、一人だけ消滅せずに倒れている者がいた。
私は、起き上がろうともがく男に近づくと、手の中に顕現させたグロック17を見せ付け、恐怖を煽るように銃口を向けたまま上下にゆっくりと揺らした。
男は四つん這いのまま無防備な背中を見せて、動かない両足を無理やり酷使しいざっていく。
まるで、ピンで張り付けられた虫けらみたいだ。
私は男の背中の中央を蹴りつけると存分に地べたの砂を食らわせ、おもむろに前方に回ってから顔面を容赦なく蹴上げた。
「ぎひいいっ!」
無言のまま、二度、三度とつま先を男の顔面中央にに突き入れる。
「痛い? でも、仕方ないわ。これは罰なのだから」
蹴りつければ蹴りつけるほど、自分の中のドス黒い感情が高まってくる。魔女を殲滅する時にはまったくなかったものだ。
「や、やべ、やべてくださ、ください」
「やだ」
男は両手で顔を覆って痛みから逃れようとする。
もはや腹の中のくぐもったむかつきは、自分でも誤魔化しようの無いくらい膨れ上がっていた。
頭の中で、今まで何度も繰り返してきた、まどかを失ってきた悲しみ、
自分の言葉を何一つ理解しようとしないみんなのこと。
それから、終わりの無い苦しみの道程。すべていっしょくたになって、胸の中で渦を巻いて激しく唸っている。
「いだ、いだぁい、びょ、びょういんへぇ」
男の覆面を無理やり剥ぎ取る。白い骨のような模様が描かれていたそれは、血反吐ど泥でぐちゃぐちゃの汚物に成り果てている。
仮面の下から出てきた顔を、凡庸な中年男性のものだった。
「答えなさい。あなたは、なに?」
「お、おれは、ざいだんえっくす、のものぉ、いぎぃいいいっ!! いだああああっ!! やべっ、やべてぇええっ!!」
前髪を毟るようにして引き絞り、俯きがちな顔を無理やり上げてやる。
「私に理解できるように答えなさい、といったの」
その時の私の顔は、鏡を見なくてもわかるくらい凶悪なものだったと思う。
男の話を総括すると以下のようになる。
第一に、私を襲った彼らは財団Xという組織であり、これらはこの待ちにソウルジェムとグリーフシードを求めてやってきたらしい。
第二に、彼らはガイアメモリという「地球の記憶」と呼ばれる、
事象・現象を再現するデータプログラムを収納させたメモリを使うことによって超人的な力を得ることが出来る、ということ。
つまり彼らは、ガイアメモリ研究の為に、魔法少女の力の要であるソウルジェムやグリーフシードを集めにやってきたらしい。
もっとも、このガイアメモリ、極めて特殊なもので適正者はほとんど居らず、使用者の全てといっていいほどその強大な力によって精神を破壊されてしまう。
そういった意味では、左翔太郎は限定された適合者なのだろう。
なんというか、ほとんど理解できない世界だ。
私も魔法少女の力を知らなければ、こんなことは絶対に理解できなかったと思う。
今考えれば、知らないことがどれだけしあわせだったのだろう。
「これで知っていることは全て?」
「は、はぁい」
「そう、もうこちらに用はないわ」
立ち上がってグロックを構える。精薄者のように呆けた男の間抜け面を眺めながらトリガーを二回引くと、9mmパラベラム弾が軽やかに発射。弾着。至極上手に両膝を撃ち抜くことに成功した。
絶叫と嗚咽を上げながらのたうつ男を尻目に、左翔太郎の傍らに移動する。
彼は、何の見返りも無く私を助けた。
それなのに自分は今、恩を仇で返そうとしている。
知らず、唇を噛み締める。鉄錆に似た血の匂いが口腔いっぱいに溢れた。
まどかのため。
まどかのため。
まどかのためなんだ。
呟くようにいい聞かせる。
この言葉こそが魔法の呪文。
彼のようなイレギュラーがいれば、財団Xのような輩が集まって来ないとも限らない。
銃把を持つ指先が、カタカタと震える。
命まで奪う必要は無い。
それにもう、とうに超えてしまったのだから。
引き返すことは出来ない。
……そもそもこんなことを迷っている時点でもはや自分は人間の範疇に入らないだろう。
銃口が定まらない。調査だかなんだか知らないが、これ以上引っ掻き回されるのはもうたくさん。
もうたくさん。
何もかも。
大きく深呼吸をする。
引き金を絞る。
軽やかな音が、たんとひとつ鳴った。
「でき、ない」
気づけば、両手でグロックを握り締め、空に向かって銃弾を放っていた。
「私は、魔法少女じゃない、ただの魔女よ」
くたりと倒れこんだままの探偵の顔を覗き込む。
こんな時でもなければ、胸をときめかせていたのだろうか。間近で見た彼の顔は、すっきりとした目鼻立ちの二枚目だった。
落ちていた帽子を拾い、埃を軽く払う。私は、彼の顔の上にそれを乗せると立ち上がり、握り締めていた拳を開いた。
ガイアメモリとベルト。
この二つが無ければ彼も、首を突っ込んでくることも無いだろう。
「まったく。手癖が悪い」
自嘲がこぼれる。右手で、自分の左手の甲を叩くと、闇の中で小さく音が鳴った。
さよなら、おせっかいな探偵さん。心の中でもういちど呟き、その場を振り返ることは無かった。
またひとつ、自分の心を闇の中に押し込めた。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
仮面ライダーW「さあ、インキュベーター! おまえの罪を数えろ!!」 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/03/19(土) 21:02:38.20 ID:Vpfm+ia40『仮面ライダーW 魔法少女のM/探偵のララバイ』
/01
四方における見渡す限りの天蓋は、太陽を包み込むようにして、灰色の砂塵に覆い尽くされていた。
都市の殆どは、流れ込んできた海水に埋没し、僅かに残った文明の名残である高層建築だけが数える程度に頭を覗かせている。
「彼女なら、最強の魔法少女になるだろうと予測していたけれど、まさかあのワルプルギスの夜を一撃で倒すとはね」
「その結果、どうなるかも見越したうえだったの」
暁美ほむらの黒髪が、流れるように烈風になびく。その顔は、感情を失くしたように凍り付いていた。
「遅かれ、早かれ結末は一緒だよ。彼女は最強の魔法少女として、最大の敵を倒してしまったんだ。
勿論あとは、最悪の魔女になるしかない。
いまのまどかなら、おそらく十日かそこいらでこの星を壊滅させてしまうんじゃないかな。
ま、あとは君達人類の問題だ。僕らのエネルギー回収ノルマは、おおむね達成できたしね」
キュゥべえは、さも人事のように呟くと尻尾を左右に振り続けている。
ほむらは、俯いた顔をもう一度上げ、奥歯を噛み締める。怒りも憎しみも通り越して、最後に残ったのは。
「戦わないのかい?」
「いいえ、私の戦場はここじゃない」
時間を撒き戻す。ほむらの胸に残ったのは、焼け爛れるように熱く、青白く燃え盛る炎のような使命感だった。
荒涼たる絶望の中で、それでも溶けきらない記憶がある。
何度でも、繰り返す。
何度でも。
ほむら出来ることは諦めないことだけなのだった。
希望も無く、出口のない迷路を歩き続ける。狂気に満ちたリングワンダリング。
もう、誰にも頼らない。
砂塵の舞う空の向こうには、濁った黒雲が奔馬のように駆け去っていくのが見えた。 ←ブログ発展のため1クリックお願いします
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