2010年12月31日 20:06
238 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 19:45:26.98 ID:FzntPiwO
第十話
北米大陸 ゴラオン
アリサ「アリサ・バニングス、コア・ファイター、哨戒任務に出ます!」
ゴラオンの開け放しになっている格納庫から、戦闘機コア・ファイターが飛び出した。
それを見送るなのはとすずかは不安の残る表情で見送った。
なのは「アリサちゃん、最近はよく出るね」
すずか「うん、早く操縦をマスターしたいのもあると思うけど……」
ハロ「ハロハロ」
なのは「もしかしたら、あの放送が関係あるのかな……」
すずか「そうかもしれないけど……アリサちゃん、何も話してくれなかったから……」
四日前、ちょうどゴラオンが北米大陸に到着した頃に、ある放送がジオン側から流れた。
ジオン公国のガルマ・ザビとバイストン・ウェルのアの国の国王ドレイク・ルフトが会談し、互いに軍事同盟を結ぶことで同意したと。
その時の映像はゴラオンにも届いた。
映像には、ガルマとドレイクが手を握り合っている姿が映っていた。
その脇を固めていたのが、ショット・ウェポン、トッド・ギネス、イセリナ・エッシェンバッハ、そして、赤い彗星フレイムヘイズのシャナである。
アリサはその映像を食い入るように見ていた。
なのは「もしかしたら、アリサちゃんにしかわからない何かが、あの放送にあったのかもしれないね……」
すずか「アリサちゃん、思い込んじゃうところがあるから……」
チャム「そこまでわかってるなら、追いかければいいじゃない!」
なのは「あ、チャムちゃん」
すずか「どうしたの?」
チャム「ダンバインの整備を手伝おうとしたら、タマキに邪魔だって追い出されちゃったの!」
なのは「にゃはは、チャムちゃんらしいね~」
ハロ「ハロハロ、チャムハロ」
チャム「私のことより、どうしてアリサを追っかけてってあげないの!?」
なのは「う~ん、なんでだろ……?」
すずか「なんだか、アリサちゃんが聞いてほしくなさそうだから……かなぁ?」
チャム「なぁにそれ? そんなことわかるの?」
なのは「まあ、二年も一緒にだからね」
すずか「たぶん、アリサちゃんは、話したくないというより、話すのが怖いのかも……」
なのは「うん、そうだね。私もそう思う」
チャム「ふぅーん……なんだかよくわかんない!」
すずか「ふふふ」
なのは「にゃはは」
ハロ「ハロハロ、ニャハハ、ハロハロ」
アリサ「…………」
コア・ファイターの操縦席でアリサは考え事をしている。
というより、考え事をしたいときに、アリサはコア・ファイターで出撃していた。
なのはとすずかが思っているとおり、アリサは迷っていた。
二人は親友だ。それは間違いなくそう言える。
だけど、言うべきことか、黙っているべきことなのか、アリサには判断がつかないことだ。
アリサ「まだしばらくは……黙っていたほうがいいのかもしれない」
アリサは今年十一歳になるが、ジオンの赤い彗星シャナとは姉妹であったのだ。
そして、彼女の父親はあのジオン・ダイクンなのである。
ジオン亡き後、姉妹はジンバ・ラル夫妻に守られて地球に移り住んできた。
ジンバ・ラルは用意していた莫大な資産で地球の名家バニングス家の名前を買った。
父との記憶はないが、姉との記憶はある。一番強い記憶はアリサが四歳の時、シャナがジオン入国を決めた時のものだ。
シャナ「私の父はジオンのザビ家に殺された。私は父殺しの仇ザビ家を討つべきだと思う」
まだ幼かったアリサにその言葉の意味はわからなかったが、姉のいない家にアリサが留まる価値はなかった。
出会った親友たち、なのはとすずか。ジオンの娘であるアリサにとって、二人は眩しすぎた。
そして、姉のシャナが地球を離れた理由がわかるようになると、それはアリサにとって嫌悪すべきものとなった。
アリサ「父が、子どもの不幸を喜ぶものか」
何よりアリサはジオンの娘となることで、なのはとすずかを失いたくなかった。
だから、二人が戦うことを選んだとき、民間人としてホワイトベースを降りることもできたのに、乗員として残ったのだ。
誤算はあった。いつでも人間の周りを飛び回っているそれが舞い降りたのは、大気圏突入時だ。
アリサ「……ツッ!」
操縦桿を握りしめながら、アリサは頭痛を堪えた。
あのとき現れた赤い彗星フレイムヘイズのシャナを見たときから、姉のことを思い出すたびに、額からこめかみのあたりを電気のような痛みが走るのだ。
それはあのジオン・ドレイクの同盟会見の映像を見たとき、ピークに達した。
アリサ「違う……何かが違うのよ」
アリサはこの頭痛を違和感だと思っていた。
何かが、違うのである。それは姉のことを思い出して、常に感じることである。
姉の名はシャナ。それはジオン入国の際に偽名として名乗ったものだ。
だが、彼女のファミリーネームは誰も知らない。バニングス家の名は捨てているはず。
しかし、誰もが彼女のことを『赤い彗星フレイムヘイズのシャナ』としか呼ばないのだ。
それはルウム戦役でついたあだ名なのだから、それまでに名乗っていたファミリーネームがあるはずだった。
それに、アリサの知っている姉の名前はあと二つある。
覚えてはいるが、それが違和感の正体であることにアリサはまだ気づいてない。
キャスバル・レム・ダイクンとエドワゥ・バニングス――前者はジオン・ダイクンの子としての名前、後者はバニングス家としての名前である。
キャスバルとエドワゥ――この名は、主に男子につけられる名前なのだ。
アリサ「シャナ――姉さんに会えば何かわかるはず……」
あの映像にシャナが映ったということは、北米大陸にまだ駐留している可能性が高い。
ゴラオンに乗り続けていれば、会うことはできるだろう。
そのとき、レーダーが質量を捉えた。四つ、ドレイク軍のドラムロだ。
アリサ「すぐに戻らないと……!」
敵もこちらに気づいたようだった。
急いで機首を返す。戻りきれるだろうか?
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