つまり、外的には、日本軍が軽装備の少師団だったのにくらべ、敵は重装備をもった大軍であったこと、インパールへの進路が人足未踏の山岳、大密林、大河によってはばまれ、進軍と補給に困難をきわめたことなどが教えられる。内的には軍内部の対立、統師の無能、作戦の失敗などがあげられる。
インパール攻略戦がもともと無理な作戦であることは、誰にもわかっていた。しかし、装備の乏しい少軍が、物量にものをいわせる大軍に立向っていくには、どうしても困難をおししのいで敵の意表に出るような作戦をえらばねばならない。それは、日本軍の伝統的宿命のようなものであった。
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- 2018/09/01(土) 15:27:01|
- 永遠の道 戸松登志子著
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首尾よくいけば、義経のひよどり越えや、信長の桶狭間の戦いのごとく、衆目をさますようなあっぱれな成果をあげることが出来るが、一つ躓けば、全軍の敗北を招くような結果となる。
こういう無暴と思われる作戦を行うからには、第一に天才的指導者が必要であり、第二に指導者を中心とする内部の精神的結束が強固でなければならない。
牟田口軍司令官は、すぐれた勇将であることはたしかであった。それは自他ともに認めていたことであったが、かえってそれが、インパール戦をあやまらせることになったものと考えられる。
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- 2018/09/02(日) 15:51:15|
- 永遠の道 戸松登志子著
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戦いに対する指導者の自信過剰は、古来おうおうにして敵を悔り、敵の術中に陥った例があまりにも多い。ナポレオンの如き天才的英雄ですら、モスコー遠征には凡将にも劣る失敗を記録しているのである。
牟田口中将にも勇将の陥りやすい欠陥があった。しかし、それを決定的な失敗にまでおい込んだのが、十五軍の内部の対立分裂であったといえる。
危険な奇襲攻撃を得意とする牟田口中将を軍司令官として、インパール攻撃のような無理な作戦を行うには、その配下に、一言一句を信奉する忠実な師団長がいなければならなかった。
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- 2018/09/03(月) 15:06:01|
- 永遠の道 戸松登志子著
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ところが、事実は皮肉にも、陸士や陸大を首席ででた柳田元三、山田正文中将のような批判的インテリ―将軍や、牟田口にも劣らぬ激しい性格をもった佐藤幸徳中将などが、その配下におかれたのである。
不可能を可能ならしめる気魄をもって、無理とおもわれる戦闘をがむしゃらにおしきらねば、とうていインパール作戦の成果をあげることはできないのであったが、インテリ―指揮官たちは、彼我の戦力の違いが明らかとみると、不可能を可能ならしめるような無暴はけっしてやらなかった。
牟田口中将は、作戦命令に批判的態度をみせる前線の師団長にたいし、怒りを投げつけるようなはげしい命令を何度か送った。
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- 2018/09/04(火) 13:33:33|
- 永遠の道 戸松登志子著
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前線からも又、作戦命令に対する非難をおびた応答があり、司令部と前線との間の感情的な溝はいよいよ深まっていくばかりであった。
十五夜内部の感情の対立、作戦の不一致は、それだけではなかった。
前線の師団のなかでも、作戦に消極的な師団長と、積極的な参謀長との反目、更にその何れかを支持する幕僚の分裂が深刻となり、前進は予定どおり進みそうにもなかった。
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- 2018/09/05(水) 11:13:33|
- 永遠の道 戸松登志子著
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牟田口司令官は、ついに第三三師団長、柳田元三中将(弓兵団)を軍命令に不忠実の故をもって罷免し、新師団長、田中信男中将をおくり、そのついでに第十五師団長、山内正文中将(祭兵団)をも戦意不足の理由で解任してしまった。
なおその上に、内部の混乱は、第三一師団長、佐藤幸徳中将(烈兵団)の抗命事件によって、いっそう悲惨をきわめるに至った。佐藤中将は一カ月をへても補給が行われないことに対する怒りと、作戦の失敗に対する批判から、軍司令官の進撃命令を公然と拒否し、独断で作戦中止して、部下一万を率いて退却してしまったのである。
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- 2018/09/06(木) 13:32:36|
- 永遠の道 戸松登志子著
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「俺は、命令反抗の責任をおうて、一万の将兵を救うのだ。雨にのまれない前に、米のあるところまで退がれ」
中将は、配下の第三一師団の将兵を、飢えと病魔の犬死から救うため、またインパール作戦の愚を明らかにして、第十五軍軍司令部の反省を求めるため、軍法会議にかけられることを覚悟の上で行動をとったのであった。
しかし、何んといっても、その胸底には、牟田口中将に対する憎悪と非難の感情が、ふつふつとたぎりたっていたことはまぎれもない事実であった。こうして佐藤中将も解任され、免官となった。
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- 2018/09/07(金) 16:38:53|
- 永遠の道 戸松登志子著
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第三三師の新師団長、田中中将は、すぐに来着したが、第一五師の方は暫く就任者のみ込みがたたなかった。牟田口中将は、自ら戦場に出て馬を走らせ、全軍を激励したが、四十日余も激戦をくりかえしただけで、一向に前進することは出来なかった。インパール戦は、既に奇襲壊滅戦の機を失していたのである。
さすが激越獰猛、剛気の牟田口中将も、ついに作戦の完全なる失敗を認めざるを得なかった。同じ頃、方面軍司令官河辺中将も、この作戦を断念し、中止する決意を固めていたのである。
こうして、七月十五日から、全線の総退却が開始されたのであった。
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- 2018/09/08(土) 15:15:15|
- 永遠の道 戸松登志子著
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以上がインパール敗退に纏わる軍の統帥の混乱ぶりであったが、当時、戸松はこうしたビルマ方面軍の内幕は知るよしもなかった。
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- 2018/09/09(日) 13:13:13|
- 永遠の道 戸松登志子著
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戦後になって服部卓四郎大佐(大本営作戦課長だった)により、太平洋戦争の全貌を知り、又生き残りの田中新一中将、花谷正中将から当時の模様をきくに及んで、はじめてあの惨めな敗退戦のすべてが諒解されたのであった。
ビルマ中国国境線
ビルマの雨期は六月から、約半年の間につづく。
昭和十九年の雨期は、日本のビルマ防衛軍の総崩れの期間であった。
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- 2018/09/10(月) 15:15:15|
- 永遠の道 戸松登志子著
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インパールに近い西武国境の雨量は特にはげしく、世界でも屈指の降雨地帯であるが、ビルマ防衛の中核軍である第十五軍は、まるで自然に呪われた如く、洪水と泥土に翻弄されながら崩れていったのであった。
ビルマの西武戦線が敗れたという情報は、それが主要な作戦であっただけに、ビルマ方面軍にあたえた影響は大きかった。
しかも、この悲惨な敗戦についで、北の米支軍の防禦地点ミートキーナ、東の重慶軍の防禦点、拉孟、騰越の玉砕がつたえられ、ビルマ戦線の危急はいよいよ切実なものとなって、心ある将兵の胸を抉ったのである。
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- 2018/09/11(火) 10:10:10|
- 永遠の道 戸松登志子著
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北の防衛線ミートキーナは北ビルマの主要な都市であって、昔からインドと支那をゆききするには、必ずここを通らねばならなかった。連合軍に占領されるまでは、ミートキーナを中継点として、米英軍と重慶軍の連絡をはかっていたのである。
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- 2018/09/12(水) 13:38:18|
- 永遠の道 戸松登志子著
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それだけに敵はミートキーナを執拗に狙っていた。この地点を守備していたのは、本多中将を司令官とする第三十三軍指揮下、第十八師団の丸山房安大佐であった。寡兵をもって防衛にあたっている日本軍にくらべ、北からせめ下った米支混合軍は、日に日に兵力を増加し、六月には空と地上から本格的にはげしい包囲戦をもって挑んできた。
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- 2018/09/13(木) 08:00:00|
- 永遠の道 戸松登志子著
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そこでこの危機を救うために、五十六師団の水上源蔵少将が、僅かな兵力をもって指揮官として急派させられたのである。
こうして七月に入ってからは、連日連夜はげしい市街戦が展開された。敵は日本軍の頑強な抵抗に、ほとほと手をやき、ついには空軍の大編隊をもって、頻繁に攻めたててくるようになった。
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- 2018/09/15(土) 15:02:15|
- 永遠の道 戸松登志子著
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毎日毎日、B二十九爆撃機の編隊が襲ってきては猛威をふるい、僅かな間に市街はめちゃめちゃに破壊されていった。日本軍の陣地もことごとく崩され、将兵も大半が爆死し、弾丸も尽きはてて、もはや防禦すべきすべもなかった。
こうなっては、残兵を率いて南方に向って脱出するよりほかに方法がない。水上少将は実状を軍司令部に報告した。
だが、軍司令部からは、これにたいして何ら指示の電報は来なかった。水上少将は着任直後の軍命令である「貴官はミートキーナを死守すべし」という死守命令にしたがうよりほかに道がなかった。
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- 2018/09/16(日) 13:37:31|
- 永遠の道 戸松登志子著
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そこで水上少将は、部下を丸山大佐にたくして脱出せしめ、軍司令部にはミートキーナを喪失した詫びと、脱出させた傷病兵の救助を依頼する電報をおくり、ひとり従容として自決してしまったのである。
こうして、北ビルマの防衛線は破れた。このあと、ビルマ方面軍は、北ビルマを放棄して中部ビルマに新しく防禦体制をしくことにした。
その際、まず第一に問題になるのは、東部の国境で、蔣介石直属の重慶軍に十重二十重に包囲されて苦闘している三つの守備隊を、後方に徴収することであった。
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- 2018/09/17(月) 11:13:16|
- 永遠の道 戸松登志子著
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三つの守備隊は、印支国境をこえて中国雲南省の怒江のほとり、拉孟、騰越、平戞に一千余の兵力をもってたてこもり、重慶の大軍をこの地点にくい止めてインパール戦を援護していたのであった。
しかし、西部の主作戦のインパール進撃が失敗し、北部のミートキーナが玉砕した今となっては雲南省の奥深くたてこもって持久戦を続けること自体、既に意義を失っていた。
軍司令部はただちに命令を発して、一日も早く敵の重囲の一角をやぶって、撤退させるべきであった。
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- 2018/09/18(火) 13:00:23|
- 永遠の道 戸松登志子著
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ところが、この時も未練にひかれて撤退命令を出すのを躊躇しているうちに機を失し、敵の勢力は、内部からも外部からも打ち破ることが出来ない程に強大化してしまったのである。
西部と北部で勝を占めた敵軍は、強大な兵力と装備にものいわせるばかりでなく、軍勢そのものが、旭日のように勢いづいていた。第三十三軍は司令部を間近まですすめ、敵を東方においかえそうとしたが、敵は意想外に強く、とうとう目的を果す事は出来なかった。
こうして籠城百日余の後、拉孟、騰越の守備隊は、中国雲南の地に玉砕してしまったのである。
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- 2018/09/19(水) 16:37:26|
- 永遠の道 戸松登志子著
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拉孟の守備隊長は金光恵次郎といって、一兵から小佐まで昇進した人格、力量ともにすぐれた人であった。彼の陣地は十倍の敵に包囲されていた。千人余の兵力をもって百二十余日の間、もっぱら手榴弾による反撃をくわえながら、敵をこの地にひきつけていたのである。
だが、ついには弾丸も糧食もつき果て、敵の総攻撃に陣地も崩壊し、隊長自身も胸に砲弾をうけてあえなく戦死をとげてしまったのであった。
あとに残った四十余名の兵も、群がる敵の中に斬りこみ、決死の鬼と化して奮戦し、一人のこらず戦場の露と消えてしまったのである。
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- 2018/09/20(木) 11:11:18|
- 永遠の道 戸松登志子著
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騰越の守備隊も二十倍の敵と戦っていた。蔵重連隊長が砲弾にたおれてからは、若冠二十八歳の太田正人大尉が指揮をとっていた。この人も金光少佐に劣らない程の人物で、なかなかの勇者であった。
第三十三軍は、全力をあげてこれを救い出そうとしたが、敵の大軍には力及ばず、守備隊はさいごの突撃によって、全軍玉砕し果ててしまったのである。
さいごの一つ平戞だけは、決死の救出戦によって、守備隊九百名と重患者二百五十名を救い出す事が出来たが、ビルマ国境の防衛戦は、こうして豪雨に洗い流される如く、あえなく崩れさっていったのであった。
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- 2018/09/21(金) 10:26:08|
- 永遠の道 戸松登志子著
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もちろん、当時、国境線のくわしい事情は、他の軍団の将兵にはわからなかった。
しかし、インパール作戦の失敗と同時に、北部と東部の防衛が崩れてしまったらしいという情報は、ビルマ一帯がくらい陰影におおわれてしまったように感じさせた。
事実、その頃、日本軍は国境をこえて雪崩の如く反撃してくる敵の大軍の前に、休む暇もなく戦い、且つ、破れつつあったのである。
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- 2018/09/22(土) 10:32:21|
- 永遠の道 戸松登志子著
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もはや、敵は日本軍の実力の底を見ぬいていた。そして彼らの気勢は、あおられた焰の如く全ビルマを一なめにせんとしていた。
彼らの爆撃機と戦闘機は、いなごの大軍のようにビルマの原野に移動してきたのである。
彼らは鉄道や鉄橋に猛爆をくわえるばかりでなく、鷹が獲物をさがすように、ビルマの原野に潜む日本兵を作業中といわず、野営中といわず、さがし出して、皆殺しにするつもりでいるのに違いなかった。
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- 2018/09/23(日) 09:50:31|
- 永遠の道 戸松登志子著
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その夜、戸松の中隊は、クルミや野生の柿や、そのほか名も知れぬ木々の生茂っている林の中に野営していた。夜明けになれば、近くの鉄橋で夜間作業をしている他の中隊と交代することになっていた。
そこへ、突然、敵の編隊が襲ってきたのである。おそらく、このあたりのビルマ人が、作業地点と野営地点を敵に知らせたものに違いなかった。
兎に角、原住民にたいしては少しも油断が出来なかった。表面では親日的な態度をしめしながら、蔭ではくるりと背をむけて、連合軍に通じているのである。
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- 2018/09/24(月) 10:00:50|
- 永遠の道 戸松登志子著
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僅か二年たらずの間に反転していったビルマ人の態度には、たんに日本軍の政策にたいする抵抗という一言だけでは、割切れないものがあった。
自らに自信をもてない弱小民族は、本能的に強者をかぎわけ扈従せずにはいられないのかも知れない。ミートキーナの飛行場を敵に奇襲占拠されたときも、親日的にみせかけた原住民が、英国軍に内通し、敵の着陸をたすけたからであった。
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- 2018/09/25(火) 19:00:31|
- 永遠の道 戸松登志子著
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ともあれ、他国の支配をうけていた原住民に、民族的節操を期待する方が迂闊であったというべきかも知れない。彼らは妾のように、自己中心的で、弱者の護身法ともいうべき保護色を使分ける術にたけていたのである。
「空襲……」「空襲……」
テントの外に響き渡る喚き声に、戸松ははっと眼がさめた。
「また密告か……」
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- 2018/09/26(水) 16:08:00|
- 永遠の道 戸松登志子著
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戸松は舌うちとともに、がばっと起き上った。敵の爆音が命の終りを予告するように、無気味におさえつけるように響いてくる。間近い音だ。
「敵襲……」「退避……」
緊張した声があっちでもこっちでも、一せいに響き渡る。
兵隊達は言葉にならない驚愕の声を発しながら、林の奥へと、くもの子を散らすように逃げていく。
戸松は立ち止って敵機の爆音に耳を澄ませた。二十機、いや三十機ぐらいの爆撃機かも知れない。
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- 2018/09/27(木) 10:08:23|
- 永遠の道 戸松登志子著
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「大分ひどくやられるぞ」
と、彼は直感した。そして運を天にまかせるより仕方がないと思った。
間も無く、後ろの方からはげしい爆破の大音響が響いてきた。だーん、だーん、だーん、大地の底まで割れるような響きであった。それは人間の心を恐怖と焦燥にかり立てずにはいなかった。抵抗するすべもない巨大な魔物に追いつめられているような、生の一線に必死にかじり付いている逼迫感が、全身をしめ付けてきた。
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- 2018/09/28(金) 13:55:02|
- 永遠の道 戸松登志子著
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とにかく逃げることだ……夜間の集中爆撃では一刻もはやく、目標物から遠退くことだ……それは度重なる空襲の体験によってえた知恵であった。
四、五百メートルも走ったと思われるころ、戸松は走りながら振りかえってみた。落雷のような音とともに、林の黒い梢の向こうを、敵機がゆうゆうと飛び去っていくのがわかった。
敵はどうやら、照明弾を投下して、逃げさる日本兵を皆殺しにしようとする程の執拗さはなさそうだ。何機づつかにわかれて、次々と野営地点に投弾していくだけのようである。
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- 2018/09/29(土) 11:17:10|
- 永遠の道 戸松登志子著
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戸松は、やっと心を静めて立ちどまった。そのとき、彼の瞳に、何人かの人影と一緒に、行季を背負って、喘ぎ喘ぎ走ってくる兵隊の姿がうつった。戦功記録がかりの下士官であった。
戸松が立ちどまって、悠然と後方をながめているのをみると、その下士官もよろめくようにして立ちどまった。
彼も、もう大丈夫だ……と、思ったのであろうか。小銃や私物袋や行季などを、どっと地面に投げおろして、苦しそうな息をつづけさまに吐いた。かろうじて責任を果したという安堵が、全身にありありと見えていた。やせてはいるが、骨組のがっしりしている男であった。
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- 2018/09/30(日) 11:25:28|
- 永遠の道 戸松登志子著
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