いしずえ

第四巻怒濤の巻

 戸松は和田の言葉を遮った。彼はやおら腕組を解き、浴衣の両袖を肩まで勢いよく捲し上げた。暑さのせいばかりでなく、そうせずにはいられないほど内面的に激昂していたのだ。しかし彼は冷たい口調で言いはじめた。

 「君の考えはよく分かった。君が進歩の名において再建を考えていたように、自分も南洋で再建を考え続けてきた。何れこれから、その理論方法を君達にも理解して貰おうと思っていたが、君は既に君自身の信念に固まっている。君はそれを我々にも強要しているが、俺はごめんだ。俺は天皇と日本の本質である神道に反する如何なる主義思想にも応ずることはできん」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/01(木) 14:04:01|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松の声はだんだん厳しくなり、最後の一言は叩きつけられるように云った。和田も顔面蒼白となり、切長の眼がきらきらと光った。

 「共産主義はもっとも進歩的な思想です。世界はこの方向に流れているのです。これを排しては日本は世界の進歩に後れてしまいます。この歴史的必然を天皇に拘って無視することは出来ません。天皇が日本の進歩を妨げる癌である以上、当然打倒しなければなりません」

 和田も厳しく喰い下がった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/02(金) 14:35:19|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「君はさっきから、共産主義をおいて社会の進歩はないように断定しているが、共産主義を生んだ近代ヨーロッパ思想、ヒューマニズム(人道主義の思想)の本質を知っているのか」

 戸松は南洋にある間、世界を征服した近代西洋文明の本質を探りつづけ、帰還してからは、杉山の中を彷徨ったり庭土を弄ったりしながら更に考えを深めつづけてきたのであった。彼はもはや揺るぎない一つの確信に到達していた。

 「社会主義、共産主義はたしかに一番新しい思想だ。だが、だからといって決定的なものであるとは言えない。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/03(土) 16:28:07|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 君が人類の敵として憎んでいる自由主義、資本主義も、曾ては進歩的な人類の救い手だったのだ。だが、封建制を打倒して人類に自由と幸福を齎したはずの自由主義、資本主義は、やがて弱肉強食、優勝劣敗を生じ利己的功利主義に変じ、特権的牙城を築き上げた。これに反抗して、個人的格差を否定して一切を平等化し階級闘争を通じて理想社会を建設しようとした社会主義共産主義も、専制支配に変り強制命令に変じ平等の名による圧政的官僚国家を作ろうとしているだけだ。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/04(日) 14:18:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 資本主義も社会主義、共産主義も、すべて近代西洋思想の生んだ兄弟だ。ヒューマニズムが神に反逆した人間中心の我慾の文明思想であるかぎり資本主義も共産主義も人間社会を解決することはできない。これらの主義、思想は、共に理想とか理念とかで飾られた我慾の花にすぎん。この我慾の根本を解決せずしては、如何なる主義思想も人類の解決者にはなりえないのだ。資本主義は自由を代表し、共産主義平等を代表し、全一の一半に外ならない。自由と平等の融合一体化が実現しない限り人間生活は解決されないのだ。つまり自由と平等を統一するものが何か、その課題を解決しない限りどれだけ自己の立場を主張しても解決にはならないのだ。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/06(火) 14:26:02|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 民主主義にしてもそうだ。これも近代ヒューマニズムの申し子だ。だからその根本は我慾中心だ。今に見ていたまえ、民主主義のために、万人が万人に干渉し合い、万人が互いに拘束し支配し合い万人専制になって、にっちもさっちも行かない世の中が出来るから……近代世界思想はもはや衰退期にきているのだ。何で我々がそれに固執しなければならんのだ」

 とつぜん共産主義の根源を論ぜられて、和田はいく分面食ったようであった。しかし、それがあまりにも意想外の理論であったので、彼は理解できなかったらしい。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/08(木) 15:21:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「あれはいけないこれはいけないと云っていたら、再建は出来ません。現に中共は共産主義によって成功しつつあるのです。日本も天皇を打倒して共産社会を創るべきです」

 「何度云ったら分かるんだ。俺はヒューマニズムの庶子である共産主義や社会主義では社会は本当に救済されないと云っているのだ。俺は解決の原理を南洋で考え続けてきた。そしてもう草稿はでき上っている。

 君は天皇をばかに邪魔にするが、君の考えている天皇は、明治のドイツ模倣憲法の権力と中心者としての天皇だ。本来の日本天皇はもっと高大で権力を超越したものだよ。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/09(金) 15:24:42|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

天皇は倫理の肉体化であり、宇宙生命の人間化であり、万民生存の基準となる存在だ。天皇を打倒したら、日本の精神的支柱は崩壊し、主体性を失って世界に独自の存立が出来なくなってしまうだろう。君がどうしても天皇打倒と共産主義で再建運動していくというのなら、君自信勝手にやれ、俺はもう君には用がないっ」

 和田の顔はいよいよ青白く冴え、反抗と侮辱の色がありありと浮かんでいた。彼の唇がニタッと不敵な薄笑いを浮かべた。その時、戸松の一喝が響いた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/10(土) 14:08:00|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松の声が終るか終らぬ中に、和田はすっくと立上った。顔には忿怒と嘲笑の影が交錯し、無言のまま立去っていく後姿には背離のふてぶてしさがあった。もう少したてばキリタンポの鍋が運ばれてくるのであるが、誰も食べてから帰れと止める者もいない。人一倍人情家の村上も、黙って煙管を弄くりまわしている。やがて和田の顔が、庭先に生い茂った浦島の赤い花群にそうて視界から消えていった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/11(日) 13:54:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 満洲、中支と、戸松の後を追い、戸松の思想に傾倒してきた筈の和田が、今真向から対立して去っていったことは、戸松にとってやはり淋しいことであった。しかし和田に対しては未練はなかった。和田が帰国後、戸松の郷里の駅を素通りして村上の家に往来していた一事をみても、主義思想を除外して、既に人間的に離反していたものと戸松には思えるのであった。

 村上はこの日以来、屡々戸松の家を訪れ、その中に従兄弟の村上清を連れて来るようになった。隆喜が誠実で純情な反面、無頓着、無神経、野放図な矛盾性をもっているいるのに比べ、清は生一本の純情さに終始し、親切で真面目な男であった。彼ははじめから戸松を「先生」と呼んで信従した。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/12(月) 15:25:12|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松はその頃、戦地で書きなぐった論文を読みなおし、庭で土仕事をしながら更に考察を加え、気分がのれば机に向って一気に原稿を書き進めていく生活を繰返していた。彼は二人の村上に、執筆中の原稿を読み聞かせ、講義して聞かせた。

 何回か講を重ねたころ、末弟の武男を、もう一人遠い縁籍にあたる柴田哲男が加わるようになった。柴田は三弟貞夫の竹馬の友で、戦中は支那大陸にいたが復員後は生家にあって、時世を見詰つつ、生涯の仕事を考えていた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/13(火) 10:20:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 彼と貞夫は、友人や後輩が続々と戦地から引揚げてきて、指導者もない無秩序な社会で、衆愚に堕し虚脱に陥っていくのを見て、都内の青年に呼びかけて青年同志会を組織した。貞夫が上京してからは柴田が中心になって指導してきたのであるが、これといって明確な指導原理のない組織は、停滞がちとなり、酒を飲んで気勢を上げることが集会の通例のようになっていた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/15(木) 15:28:22|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 彼は青年会の指導方法を戸松に学びたいと思った。何回か戸松の話を聞いている中、彼は自分が村上隆喜と同じように、ずっと以前からの同志であるかのような思いに捉われていった。彼は自分の心が、戸松の説く日本本来の思想に定着しつつあることを自覚した。そんな時、彼の父親が突ぜん戸松を訪れた。

 「家の哲男はもうお前さまに上げますから、好きなように教育して男にしてやって下され。どうかお前さまの手足となって活動できる男に仕込んでやって下され」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/16(金) 13:43:36|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 と云われた時、戸松は面食らってしまったほどだ。これからの運動がどんな事になるのか、当の戸松ですら全く見当もつかないとき、息子の前途不明の向こう見ずな考えを牽制すべき父親が、進んで民族思想の再建運動に息子を参列させようというのだ。この草深い農村に、自分の父の他にもう一人、志広大な老人がいたということは戸松にとって大きな驚嘆であった。

 柴田はいつも村上隆喜と清の背後にあって、屈みこむように戸松の話を聞いていた。隆喜や清が活発に質問したり意見を述べたりするのにくらべ、彼は置物のように、むっつりとして坐っているだけであった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/17(土) 14:00:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松の期待はどうしても上海以来の同志である隆喜に多く注がれ、自分の志を引き継ぐ第一人者としての養成に心を配った。数年を経ずして、貧乏と苦闘の最中に隆喜と清が相ついで脱落し、牛のように黙って蹲っていた柴田が、集合しては離散していった多くの同志の中で只一人、二十年の苦難を共にのり越え、彼の父が希っていたごとく戸松の片腕のごとき存在になろうとは、当時誰が想像することができたであろうか。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/18(日) 13:38:08|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松が帰郷してはや一ヵ月が過ぎ、八月も終ろうとしていた。稲田に秋を思わせる風が吹き過ぎ、実りはじめた稲がその後を慕うようにたわたわと靡いていた。今年はどうやら豊作のようであった。

 だが、この実りの秋を目前にして、食糧は底をつくような窮迫ぶりであった。戦争中の無理な供出と人手不足による減収のため、農民と雖も米食を満足に食べれる者はいなかった。戸松の母は、戦地から骨と皮ばかりになって帰ってきた息子と病弱な嫁のために、魚や卵を求めて歩き廻った。座していては魚は絶対に手に入らなかったし、この春生まれた若鶏はまだ卵を産むまでには育っていなかった。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/19(月) 14:28:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 母の買ってくる魚は、たまには鮎に似たすんなりした魚もあったが、ほとんど鮒かなまずの類で、魚気を食べるという程度のものであった。しかもこの鮒すらも、朝早く行って頼んでおかなければ手に入らないのである。母としては精いっぱいの努力を息子夫婦のために尽してくれたわけである。

 「慶議はどこか勤め口が決ったろうか。だんだん金の不自由な時代にならんて、早う勤めるようすすめたもれ」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/20(火) 14:00:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 母が切実な表情で訴えるまで、わたくしは家庭経済については疎く、傍観的であった。今年の二月発せられた「金融緊急措置令」によって、預金は封鎖され、手持の金も一人百円だけ新円との交換が許され、あとの旧紙幣は強制的に預金させられる事になった。そして一ヵ月の引出しは世帯主三百円、世帯員一人百円以内に制限され、一世帯五、六百円を限度として、それ以上は使用できない仕組になっていた。全国一斉に、完全な共産主義国家になったのである。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/21(水) 10:00:49|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 母はこの制限内で預金を引出して生計を立ててきたのであるが、中等学校と専門学校に学ぶ弟妹の教育費と、戸松の帰郷とともに急増した来客に要する費用とに頭を悩ませていた。母は毎月確実に新円の流入する道をこうじたかったのである。

 わたくしは母の希望を戸松に伝えた。

 「俺に早く就職しろというのか」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/22(木) 10:19:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 彼は一言ぽつんと云ったまま、口を閉ざしてしまった。話を理解してくれたのか、怒っているのか、よく分からなかった。彼の気持が掴めないままわたくしも黙っていた。やがて彼は一言々々釘づけするように、断定的に言った。

 「俺は生涯絶対に就職しない。俺ももう三十四だ。これからの人生を俺自身の計画の基に進めていく。生活の為に一生を費やすことは俺は真っ平だ。俺には日本民族の名において、人生を賭けてやらねばならぬ仕事があるのだ。戦後の日本でどうしてもしておかねばならぬ事があるのだ」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/23(金) 14:08:13|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 彼はシャカやキリストのように、母や妻や弟妹を置き去りにして、この家を出ていくつもりなのであろうか。シャカやキリストが老化した既成宗教に抵抗して、真の民衆救済のために家や肉親を捨てたように、彼も又、日本の真実のために身辺を断ち切って出掛けていくつもりなのであろうかー

 彼は満洲にいた時も上海にあった時も、給料の半分以上を郷里に送り、父母の満足と誇りをもって自己の喜びとしてきた男である。母は今もそういう彼を望んでいる。彼は母を裏切る気なのであろうかー

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/24(土) 13:28:50|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 わたくしには彼が理想の雲に乗って、家という狭い池から舞い昇っていく天竜のように思えた。尻尾を摑まえて止めようとしたところで、所詮ふり落とされてしまいそうに思えた。わたくしは不安に慄きながら、身を固くして黙っていた。彼はわたくしの沈黙を共感ととったのか、屈託のない声でこれからの計画を語り出した。

 「俺にとっては生活は第二義的な問題だ。だが母はそうはゆくまい。だから由紀男(次弟)に何か事業をやらせるよ。あいつも迫撃砲で肩や手首をやられているから、百姓も無理だし今の仕事(会社事務)もむかんだろう。この家で出来るような仕事を考えてやるよ。そして家族つまり母や弟妹の生活や面倒をみるならばこの家も田畑も山もみんな由紀男夫婦にやってもいいと思っている。それなら母も安心だろう」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/25(日) 11:33:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「そうしてあげればお母さんはお喜びでしょう」

 母はどういうものか、戸松には父以上に遠慮していたが、弟達には人並の母権を振り回していた。だから、弟がこの家に坐る事になれば母はかえって気楽であろう。

 だがそれはいったい何時実現するのか。具体的な計画もなく母に伝えたところで、母を納得させることはできない。わたくしはなるべく詳細に夫の心づもりを知りたいと思った。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/26(月) 07:39:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「由紀男さんにどんな事業をさせるんですの」

 「それはこれから村上達と相談して考えるよ」

 彼はねちねちとしつこく聴かれる事が嫌いな男だ。いくらか面倒くさそうな口調であった。しかしわたくしは追及していった。

 「それで、わたくし達はどうなるわけ」

 「ああ、家を弟に譲って来年になったらすぐ東京に出るよ。二人で無から出発しよう」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/28(水) 10:14:54|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「東京に出たって、焼野が原で私達の住む家なんかないでしょう」

 「行けば何んとかなるさ」

 「あなたは理想と使命感に燃えていらっしゃる。家がなくてもお金がなくても平気なのね」

 自分の虚弱と無力からくる絶望的な感情が、わたくしの心を支配しはじめていた。平素心の底でふつふつと煮詰まっていたものが、堰が切れたように溢れ出してきた。

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/29(木) 11:00:05|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「あなたは生命力が眼にも頭にも手足にも満ち溢れ、全能を託された人のように、考える、喋る、書く、大工もできれば土方もできる。二十日や一ヵ月の断食も平気だし、家や財産には未練もない。只自分の理想のために人生を掛けようとしていらっしゃる。

 あなたのような人に付いて行くには、余程の力がなければならない。わたくしにはとても付いて行けそうにないわ。こんな病弱では、あなたの仕事の邪魔になるだけです。とてもわたくしには付いて行けそうにありません」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/30(金) 14:05:45|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 彼は奇怪なものでも見るようにわたくしを見つめた。

 「それは、一体どういう意味なんだ」

 「あなたがお許しになれば、わたくし実家へ帰ります。母と一緒に島根の家に帰ります。尼にでもなろうかと思っています」

 わたくしは必死になって云った。

 「何を馬鹿な、尼になる位なら行くことはないだろう。自分を弄ぶのもいい加減にしたらどうだ。もちろん私の性格や人格が嫌であるとか性が合わないというなら別だが」

   (43 43' 23)

にほんブログ村
FC2 Blog Ranking

テーマ:このままで、いいのか日本 - ジャンル:政治・経済

  1. 2021/07/31(土) 17:20:31|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

プロフィール

國 乃 礎

Author:國 乃 礎
   綱 領
政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
国賊売国奴殱滅
現行憲法廃棄
日米安保破棄

最新記事

カテゴリ

未分類 (7)
提言 (1)
理念と使命 (1)
目的・活動 (1)
遺言状(救國法典) 戸松慶議著 (660)
生存法則論 (第二巻 思想篇) 戸松慶議著 (4)
永遠の道 戸松登志子著 (3453)
新聞 (25)

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログランキング

にほんブログ村 政治ブログ 政治思想へ
にほんブログ村

ブログランキング

FC2 Blog Ranking

月別アーカイブ

アクセスカウンター

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QR

  翻译: