いしずえ

第四巻怒濤の巻

 占領軍司令部は、宮城前の第一相互ビルを接収して立て籠っていた。戸松と村上が案内されたのは、二階の宮城よりの可成り大きな部屋であった。

 部屋の一方に配置された椅子に腰を下して待っていると、程なく大佐二人と日本人通訳が現われ気軽く戸松らの前に椅子を引寄せて腰を下した。

 その時、マッカーサーがつかつかと部屋に入ってきた。二人の大佐と通訳が立ち上って迎える前を通り過ぎて、彼はずっと奥の方のテーブルの前に悠然と腰を下した。

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  1. 2022/05/01(日) 11:11:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「マッカーサー元帥です」

 通訳から注意を促されて、戸松と村上も立上って敬意を表したが、対面というには、余りにもその位置は離れ過ぎていた。

 屈することを知らぬ高い鼻と、千里の彼方を見つめているような遙かな眼差しが、じっとこちらに向けられている。こういう胸像をどこかで見たような気がする、と戸松は思った。

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  1. 2022/05/03(火) 16:00:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 それは写真で何度か見た顔であったが、思ったよりも若々しく、しかも哲学的というか宗教的というか、高い理性に支えられた人格の存在を明確にしていた。

 背の高い柔和な顔をした大佐が戸松らに着席を勧め、自分らも向き合って腰を下した。回答はこの二人の大佐を通じて行なわれるものであることが、この時になって戸松にもやっと理解できた。

 戸松の前に座を占めた件の柔和な大佐が、満面に善意をにじませて語りだした。

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  1. 2022/05/04(水) 14:38:10|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「あなた方のマッカーサー元帥に対する請願の回答は、他の連合国との関係もあって公表を憚りますので、秘密を守るという条件なしには話すことは出来ません」

 戸松はすぐさま秘密を守る約束を誓った。

 大佐は笑顔で頷きながら、書類片手に、請願第一条の無賠償要求の回答をはじめた。

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  1. 2022/05/06(金) 09:17:14|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「アメリカは日本にたいし決して賠償を欲しているものではありません。そればかりでなく、ソ連が鉄道賠償の要求してきたのに対し、我々は日本に同情し、鉄道関係者に賠償の対象となる何物もない書類を作成させたほどです」

 戸松はマッカーサーの措置に謝意を述べ、四つの島におし込められ、大陸、南方への進出を封ぜられた日本民族の生活権の問題を説き、今後も持てるアメリカは、勝敗を越えて人道的立場にたち、和を基本とする世界の均衡安定をはかるよう努力してもらいたい旨を強要した。

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  1. 2022/05/08(日) 10:47:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 次の、食糧危機に直面している日本国民を救うため食糧三百万トン輸入放出して貰いたいという要請に対しては、回答は一段と明確であった。大佐は云った。

 「食糧は既に放出中であり、現に近日中に日本に到着することにもなっています」と……

 戸松は依然として主食の遅配がつづいている現状を訴え、民衆の生存慾を軽視しては如何なる統治も失敗に帰すであろうことを強調して、アメリカがアジアの真の友を得たいならば、善意と友好をもって日本の生活危機を救済すべきであることを述べた。

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  1. 2022/05/11(水) 08:44:28|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 この頃、彼の喉の器官は、古びたゴム管のように内部が貼つき、声を発することが困難になっていた。苦しそうな彼の様子を見かねた大佐は、つと立上ると部屋から出ていってコップに本を運んできた。戸松はこれを受けとると、息もつかずに喉の奥に流しこんだ。

 マッカーサーが部屋から立ち去ったのは、戸松の喉仏が水の流下に満足してびくびく動いているときであった。

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  1. 2022/05/12(木) 09:19:44|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 立上って見送った将校達は、席に着くと今度は幾分くつろいだ様子で次の問題に移った。彼らは、自衛のため最低七個師団の存置を要求する戸松の諸願にたいしても、理解と同意の態度を示した。戸松の趣意書には次のように述べられていた。

 「戦いに勝って武器を放棄するのが最善の道であり、関係諸国が協議の上で破棄するのが次善の道である。負けて止むをえず破棄するのは善の軌範には入らない。

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  1. 2022/05/13(金) 14:58:35|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 武器を放棄する事を理想とすべきであるが、武力を行使して隙さえあれば自己の要求を正当化しようとする国際不安の中で、日本だけが先走って理想に走るのは、かえって世界混乱を誘致し自滅をはかるようなものである。

 現世界の文明内容は信頼に値するほど偉大なものでなく、依然として富強勝利を争う利己的なものである。この力を前提とする世界観の中で、日本が厳然と存立していくには、最低七個師団を残しておく必要がある。アメリカが今後頼もしき友人としての日本の再建を期待するならば、最低の軍備を許すべきである。」

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  1. 2022/05/14(土) 10:46:26|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 大佐は英文に翻訳された趣意書に眼を走らせながら言った。

 「あなたの主張はなかなか勇気ある主張だ、日本の若者として当然のことだ。占領中はアメリカが日本の防衛の役を引受けるが、将来のことについては、アメリカは干渉するものではありません。日本は民主国家なのであるから、将来国民がその必要を感じたならば、国会を通じて再軍備をはかるべきであると考えます」

 率直な、あまりにも良心的な回答であった。マッカーサーは日本独立後の自主性を、今から保証しているのである。弱者に対する理解と公平を戸松はしみじみと感じた。

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  1. 2022/05/16(月) 15:19:16|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 曾て戦時中、和平論をひっさげて時の陸軍大臣東条英機を陸軍省に訪ね、意見具申書を提出したとき、東条大臣は面会を拒否したばかりでなく、反戦主義者として憲兵に監視させ、挙句の果てには南方戦線に拉致させたものであった。当時の日本陸軍の指導者の中に、真実の声に耳を傾ける冷静で余裕ある理性があったならば、日本はもっと賢明で有利な戦争の終結を見ていたことであろう。

 戸松はこの事を相手に伝えようとして又喉を詰まらせた。大佐は再び立って水を運んできた。

 水を飲みながら、掠れた声で語る戸松の話を聞いた大佐は、困惑したような笑いを浮かべてこう云った。

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  1. 2022/05/18(水) 16:19:15|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「あなた方は、アメリカを真実の行なわれる理想的な国だと思われるかも知れませんが、アメリカ内部は、決して理想的な国ではありません。国内には不道徳、不公平、非常識、犯罪等、多くの不愉快な事件が蔓延し、内政的には困窮をきたしています。あなたが先程強調していたように、世界の文化は平和にはまだまだ程遠い段階にあります。世界の叡智の積極的協力による指導に、我々は今後の期待を掛けているのです」

 通訳がこの言葉を伝える間、微笑を含んでいた大佐は、更に上体を乗り出すようにして待ち付け加えた。

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  1. 2022/05/19(木) 13:51:33|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「日本はきっと近い将来復興するでしょう。日本の青年がこうして、占領軍総司令官に肉迫してくるだけでも、日本が遠からず立上るであろうことが想像されます。敗戦国民が、反抗や怨恨からでなく、人道を掲げて正々堂々と占領軍に迫ってきた例はまだ聞いたことがありません。マッカーサー元帥は、驚異的精神であると評しておられました」

 往きには敵城に乗りこむような緊迫感に襲われていた戸松も、復りには友人のもとを去るような親和感に緩んでいた。

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  1. 2022/05/20(金) 15:01:23|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

  個人的には容易に理解し融和できうる相手なのに、国威国益を背景にしては、何故あんなにも激しく対立戦闘しなければならなかったのか。

 人類の前途には、まだまだ未開の道が閉ざされたままである。世界の公平と共栄の道が開かれるのはいつのことか。日本はこの役割を積極的に受けて立たねばならないと、戸松は思った。

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  1. 2022/05/21(土) 15:01:55|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 再び車で送られて帰ってきたときは昼近い頃であった。近くの中華料理店でスープを飲み、帰ってみると、何時の間に集ったのか、公園入口は人の群でうまり、街路まで溢れだした群衆を、巡査とアメリカ兵が協力しあって整理していた。掲示しておいた報告演説の時間までには大分間がある。

 断食場で休息していると、群衆の中から、こんなに人が集まっているのに何故始めないのか、と喚き声が頻発する。

 掲示通り二時に集まってくる人もあるであろうから、約束の時間まで待って頂きたい、と弟達と柴田が代る代る立って説得に当たった。

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  1. 2022/05/22(日) 21:44:04|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 二時近くなると、アメリカ軍の憲兵が映写機やカメラを持って現れ、前田正実、宮崎竜介(白蓮女子の夫君)松本蔵次等の先輩や、宮崎秀人、萱野長雄、田尾五太郎等の知友がぞくぞくと集まってきた。(緒方竹虎氏は朝日新聞社の屋上から、双眼鏡で見ていたということを後で知った)宮崎綾乃女史は断食後の痛々しい姿を見るに忍びないと云って松本を代理人として出席させた。

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  1. 2022/05/23(月) 16:51:29|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 戸松はビール箱を逆さにした上に立って、群衆を見まわした。柴田と篠原が、両側から彼の身体を支えた。篠原は前田正夫氏の秘書になってからも、こんな時には必ずかけつけてきて、同志としての役割を果していた。

 「今から、我々の断食請願運動に対する、マッカーサー総司令官の回答を公表いたします」

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  1. 2022/05/25(水) 14:51:58|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 これだけの発生で、咽頭はぴたりと貼りついたようになってしまった。一時間前に飲んだスープは、二十一日間の飢に萎えきった肉体には焼石に水であったらしい。

 柴田が、用意してあった薬缶の水をコップについで飲ませた。

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  1. 2022/05/27(金) 19:19:59|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

第四巻怒濤の巻

 「実は、マッカーサー司令官は、他の連合国を刺激することを怖れて、我々が秘密を守って公表しないという約束のもとに、回答をあたえたのでありますが、今、私は皆さんの前で、司令官との約束を破ることにしました」

 ここで戸松は又水を飲んだ。

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  1. 2022/05/31(火) 11:35:37|
  2. 永遠の道 戸松登志子著

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Author:國 乃 礎
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政官財・癒着根絶
マスコミ横暴撲滅
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