いしずえ

第二巻受難の巻

 翁の表情は微動だにしない。その眼だけが宇宙の深源に通ずるような底知れぬ光を発している。

 やがてのこと、翁の頭がゆっくりと大きく前に動いた。無言のまま「諾」の意をあらわしたのである。つづいて一言、

 「連れてきなさい」

といった。

 戸松の心は勇躍した。

 よし、今日こそは秀三氏と真剣勝負をやってみせるぞ。彼をかならずや俺の案にひき入れてみせるぞ~彼はさっそく座を立つと、目黒の秀三氏宅にとんだ。もちろん園田も一緒である。

 園田は口重であるから、先輩の前ではほとんど語らない。しかし、影の形にそうように、只なんとなく戸松についてあるいているように見えながら、それでいて結構彼の役割を果していた。彼のいかめしくむっつりとした重々しい風貌が、熱心に語りつづける戸松の背景をなして、その主張を一段と力づよく感じさせていたからである。

                  (43 43' 23)

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  1. 2016/02/21(日) 13:28:53|
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