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綾乃「揺れるココロと花火大会」

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:52:40.43 ID:O9EuNeW30


幼馴染みって、ずるい。

誰よりも長い時を共有できる。
誰よりも隣で温もりを感じられる。

私が羨んでいることも、船見さんにとっては当たり前のこと。
二人の間には二人だけの時間が流れていて、私がつけ入る隙はないのかと思ってしまう。

歳納京子は明るくて、元気で、お調子者。
周りを自分のペースに捲き込んでは暴走する。


船見さんはクールで、優しくて、お姉さんのような人。
暴走する歳納京子をたしなめるのは、いつも船見さんだ。





10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:54:16.94 ID:O9EuNeW30


二人は太陽と月、もしくは凸と凹だと思う。
凸と凹だけど、その凸と凹がぴったりと重なっている。

やっぱり私の入る隙間は無いんだろうか?
二人は女の子同士付き合うことについて、どう思っているんだろう?
二人はお互いに恋愛感情をもっているんだろうか?

もしかしたら、という思いが私の胸中にあった。
でも、ずっとこのままじゃ答えが解らない。



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:56:16.42 ID:O9EuNeW30


だから私は思いきって決断した。
これは賭けだ。
上手く行くか解らない。

でも、何もせずにモヤモヤしたままは嫌だ。
だから私は賭けに出た。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:57:02.57 ID:O9EuNeW30


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14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:57:59.73 ID:O9EuNeW30


「あの、ふ、船見さん……。お願いがあるんだけど……」

下校時刻を過ぎた放課後は、がらんとして静まりかえっていた。
季節は梅雨の真っ只中で、窓の外は雨が降っている。
私と船見さん以外誰もいない生徒会室で、私は勇気を出して言った。



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 21:59:09.42 ID:O9EuNeW30


「と、歳納京子について、色々教えて欲しいの」

「え?どういうこと?」

船見さんは少し怪訝そうに私を見つめた。

ある程度この反応は予想していたけど、私も別の台詞を選んだ方が良かったかもしれない。
いきなりこんな事を言われたら誰でも船見さんみたいな反応をするだろう。

予想はしていたとはいえ、本心を隠すために、私は必死で上手い口実を探そうとした。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:00:25.97 ID:O9EuNeW30



「え、えっとね……その……と、歳納京子ってよく提出すべきプリントを忘れるじゃない?」

「確かに……ごめんね綾乃、いつも京子が」

「べっ別にその……た、ただ歳納京子の事をもっと知れば、歳納京子がプリントを出してくれるようになる方法が……」



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:01:15.05 ID:O9EuNeW30


そこまで言って私は口を閉じた。
口調もしどろもどろだし、言っていることも支離滅裂。
船見さんは少し俯いて沈黙している。
雨の音だけが耳につく。

やってしまった。
絶対変に思われた。

私も俯いて、気付かれないように唇を噛んだ。



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:02:34.71 ID:O9EuNeW30


「……いいよ」

船見さんは微笑んでいた。
きっとこれは肯定のほうの「いいよ」だと思う。

でも、確かに船見さんの笑顔に陰りがあった。
本当は気を使ってくれているのだろうか。
そう思うと船見さんに悪い気がしてきた。

「……無理しないで大丈夫だから。ゴメン、いきなり変な事言って」

私は踵を返して生徒会室を出ようとした。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:04:14.65 ID:O9EuNeW30


「待って!!」

船見さんの右手は私の右腕を強く掴んでいた。
その右手は少し震えている。

「全然迷惑じゃないから……むしろ……」

船見さんはそこまで言うと口を噤んだ。



21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:05:23.52 ID:O9EuNeW30


「……ありがとう」

お礼を言いながら私は当惑していた。

どうしてあんなに必死そうだったんだろう?
むしろ……の後に来る言葉は何だったんだろう?
私の本心はバレてないだろうか?



22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:06:29.25 ID:O9EuNeW30


沸いてくる疑問を呑み込んで、私は船見さんに言った。

「じゃあ、一緒に帰らない?」

「そうだね」

私たちは傘を差しながら薄暗い通学路を歩いた。

いつかのシャッフルデートの時のように妙な気まずさが襲った。
気まずさだけではなく、色々な感情が混ざりあって、泥水のような混沌としたものが私の中を渦巻いていた。

ただただ雨が傘を叩く音だけが耳についた。



23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:07:16.32 ID:O9EuNeW30


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25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:10:32.63 ID:O9EuNeW30


外から小さく聞こえてくる運動部とミンミンゼミの声を聞きながら、ぼんやりと窓の外を眺めた。

空は雲一つない快晴で、放課後になった今も太陽はギラギラと照りつけている。
木々の万緑は青い空に映えて、今年も夏の到来を感じさせてくれる。

ほんの数時間前に終業式が終わり、明日から夏休み。
部活のある生徒は学校に残っているようだが、きっと大半の生徒は今頃解放感に満たされながら家路についてるだろう。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:11:40.75 ID:O9EuNeW30


その所為か、今日の放課後はいつもより閑散としている。

ここ、生徒会室の整理は昨日終わり、特にやる仕事はない。
それなのに何となく来てしまったのは何でだろう。

そもそも今日は生徒会はお休み。千歳は用事があるみたいで先に帰ったので、ここに来ても私一人。
生徒会室の片付けも昨日終わったので仕事もない。
それでも、ひっそりとした生徒会室でのんびりと過ごすのも悪くない気がした



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:12:52.21 ID:O9EuNeW30


大きく伸びをして、椅子に腰かける。

蒸し風呂のように暑い体育館に表彰式、終業式、退任式と長時間閉じ込められていた所為で疲れたのかもしれない。
ぼんやりしていると心地よい眠気が襲ってきた。

眠たさ故か、ふわふわと浮遊するような感覚もだんだん朧になり、意識が遠くなっていった。




30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:13:40.55 ID:O9EuNeW30


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32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:16:08.90 ID:O9EuNeW30


「…………の」

「…………やの」

遠くで誰かの声がする。

「…………あやの」

千歳?いや、違う。千歳は先に帰ったはず。

「……綾乃?」

囁くような優しい声。
けれども半分寝ている頭では声の主が判別出来ない。

「綾乃?…………寝てる?」



33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:17:18.50 ID:O9EuNeW30


そう聞こえたかと思うとそっと頭を撫でられた。
ゆっくりと慈しむように手のひらが往復する。

手の温もりはクーラーで少し冷えた身体に心地よい。
ふふ、と優しい風が微かに私の頬に当たった。

「綾乃……」

まるで愛しい人の名を呼ぶような声。
ずっとこうされていたい気もしたけれど、何だかこそばゆかった。

私はおもむろに瞼を開けた。

艶やかなセミロングの黒髪。深い琥珀色の双眸は私を見つめていた。
私もぼんやりと見つめ返す。



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:18:28.94 ID:O9EuNeW30


「わぁぁぁあっ?!」

数秒後、声の主はすっとんきょうな叫び声をあげて数歩後ずさりした。

「な、何っ?!」

私は驚いて目をぱちくりさせる。
でも、お蔭で目が覚めた。

私の視線の先では船見さんが少し挙動不審にうろたえている。
いつもの船見さんらしくない。

「い、いや……。た、ただ、いきなり綾乃が起きたからびっくりしただけ」

船見さんは妙に早口で答えた。
動揺しているように見えるのだけど、何かあったのだろうか。

少し気になったけど、敢えて追及する気にはなれなかった。



36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:20:36.51 ID:O9EuNeW30


「船見さんは部活か何か?」

「いや、今日の部活はお休み。他の三人は用事があるって言って先に帰ったから、一人で暫く部室の掃除してた」

一人で掃除なんて、本当に律儀だと思う。
もし船見さんが生徒会に入ってくれたら、仕事がますます捗りそうだ。

「言ってくれれば手伝ったのに。私、今までずっと寝てたから」

「いや、そんなに掃除すること無かったから、大丈夫だよ」



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:23:40.79 ID:O9EuNeW30


「そう?」

「うん。まぁ、押し入れの中に山ほどある京子の私物を何とかしないといけないけど、それは京子がいないとね……」

運動も勉強も出来る船見さんが娯楽部という部活に入っているのも、船見さんなりに考える所があるからなのだろう。

それは歳納京子の存在だろうか?
やっぱり私が入る隙間は無いのだろうか?



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:24:57.80 ID:O9EuNeW30


ともかく、生徒会の一員に引き抜くなんて、許されないよね。

自戒、というよりも悔しさだった。
その感情が自分の気持ちをより一層解らなくさせる。

私は雑念を振り払って船見さんに訊いた。

「ここに居てもすることないけど……帰らない?」

「そうだね、一緒に帰ろう」

船見さんは微笑むと生徒会室のドアを開けた。



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:26:05.11 ID:O9EuNeW30


廊下は生徒の姿はなくがらんとしている。

西に傾いた陽の光が眩しかった。
相変わらず運動部の声が聞こえる。

ミンミンゼミの合唱はいつの間にかヒグラシの囁きに変わっていた。



42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:26:54.04 ID:O9EuNeW30


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43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:28:58.32 ID:O9EuNeW30


そろそろ夕飯の仕度を始める時間だろうか。
今さっき通りすぎた民家からカレーの匂いが漂ってきた。

まだご飯には少し早いけど、お腹が空いてきた。
グゥゥゥとお腹から恥ずかしい音を立ててしまわないかちょっぴり不安に思いながら船見さんの隣を歩いた。

「もう夏休みって、早いもんだね」

しみじみとした感じで船見さんが呟いた。
確かにこの一学期はあっという間だった。
新しい友達も出来たし、充実した毎日だったと思う。



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:31:24.29 ID:O9EuNeW30



「そうね。船見さんはこの夏休み予定ある?」

「私?とりあえ実家には帰らないと。親に帰ってきなさいって言われてるし。
 あと、8月の頭にまりちゃんが来るから、一緒に遊ぶ予定。あとはまだ決まってないかな」

「まりちゃん?」

「ああ、親戚の子。まだちっちゃいから、面倒見てあげないといけなくて」

やっぱり船見さんはしっかりしてる。
一人暮らしもしてるし、家事もきちんとこなせるのだろう。

私とは全然違う。
そういうところに少し憧れてしまう。



49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:32:56.18 ID:O9EuNeW30


「へぇ……偉いのね」

「そうかな?私、子供好きだから」

「子供、可愛いわよね」

「うん。まりちゃんはウニが好きみたいで、来たときはウニのお寿司を出してあげるんだ」



50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:33:51.14 ID:O9EuNeW30


“グゥゥゥゥ”

グルメなのね、と言おうとしたその時、私のお腹の虫は派手な音を立てて鳴いた。

「ぷふっ」

船見さんが吹き出した。
顔を背け、声を押さえて笑っている。

「もうっ!笑わないでよ」

羞恥で顔を真っ赤にして怒る私を余所に、船見さんは笑い続けている。



51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:34:55.57 ID:O9EuNeW30


「はぁ……はぁ……ゴメン、可笑しくて……綾乃って結構可愛いとこあるよね」

船見さんの息は笑いすぎて絶え絶えになっている。

「かっ可愛いって……」

さっきとは別の性質の熱が頬に集まってくる。

「うん。綾乃は可愛いよ」

どうしてさっきのが「可愛い」んだろう?
どうして私はこんなにドキドキしてるの?

色んな感情が混じりあって、私の頭は混乱していた。
真っ赤になった顔を見られないように俯く。

頭の中を整理しようとしても、余計解らなくなるだけだった。



52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:35:47.26 ID:O9EuNeW30


「綾乃?大丈夫?」

船見さんは心配そうに私の顔を覗きこんだ。

「だ、大丈夫よ……」

「そう?なら良かった。しかして具合悪いんじゃないかって」

「そんなんじゃないから。私は大丈夫だから」

「良かった」

船見さんは安堵したようにほっと息をついた。



54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:37:03.57 ID:O9EuNeW30


「……何の話してたっけ?」

「夏休みの予定の話。綾乃は何か予定ある?」

「私?私は家族旅行に行く予定があるけどそれ以外は……」

「旅行ってどこに?」

「日光。東照宮に行く予定」

「羨ましいな……。帰って来たらお土産話よろしくね」

「勿論。お土産も買ってくるわ」

「ありがとう」

船見さんはふんわりと微笑んだ。
クールなようだけど温かさもあるような、そんな笑み。
私が真似しようとしたって絶対出来ない。

船見さんって、なんていうか……ずるい。



55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:38:12.23 ID:O9EuNeW30


「そういえば綾乃、京子とは遊ぶ約束してないの?」

「と、唐突ね……。特に約束してないわ」

「来週の八森の花火大会、京子と行ってきたらいいんじゃない?」

「い、いいわよ……。やっぱり四人みんなで行かない?」

四人とは、私、歳納京子、船見さん、千歳の四人。
二人だけ楽しんでくるのは悪い気がした。



56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:40:16.59 ID:O9EuNeW30


あの梅雨の日以来、船見さんは私と歳納京子がもっと仲良くなるために、色々と背中を押してくれる。

船見さんは歳納京子の事を色々と教えてくれた。
歳納京子の小さい頃の話だったり、はちゃめちゃな行動の話だったりと内容は様々。
中には「ノロケか!」と言いたくなるような話もあった。

船見さんの話からは、幼馴染みである二人の距離はとても近いということがよく解った。

それなのに船見さんは私の背中を押してくれる。

解らない。
船見さんが解らない。

あなたにとって歳納京子はどんな存在なの?
歳納京子に対して恋愛感情はあるの?

考えれば考えるほど、余計解らなくなっていった。



57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:41:21.85 ID:O9EuNeW30


「そっか……。じゃあ四人で行こう」

「そうね。千歳には伝えておくわ」

「分かった。京子には私から伝えておくよ」

「うん。お願い」

夏といえば、やっぱり花火。
花火に行くのは人数が多い方が楽しいと思う。

予定が重なったりして、なかなか見に行くことができなかったので、久しぶりの花火大会だ。
想像するだけで心が踊る。



58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:42:10.19 ID:O9EuNeW30


「……そういえば綾乃、最近京子と話すの慣れてきた?」

「……そうね。そうかもしれない」

「そっか。それじゃあもう一息かもね。……それじゃ、私はこっちだから」

私の家はこの十字路を真っ直ぐ行った所で、船見さんの家は左に曲がった所。
ここからはお互い別の道。



61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:43:20.36 ID:O9EuNeW30


「またね」

「うん、また今度」

船見さんは2、3回手を振ると背を向け自分の家へと歩いていった。



62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:45:02.72 ID:O9EuNeW30


私も自分の家へと歩きながら「京子と話すの慣れてきた?」という船見さんの言葉を反芻する。

以前は歳納京子と話すときは緊張して、思ってもないキツイことを言ってしまったりした。
最近歳納京子とよく遊んだから「慣れた」のだろうか。
呼び方はこのとおり「歳納京子」のままだけど。


歳納京子は明るくて、可愛くて、魅力的な女の子。

船見さんはクールで、優しくて、魅力的な女の子。



63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:45:59.89 ID:O9EuNeW30



船見さんと親しくなっていくうちに、船見さんの意外な一面や優しさ、時には可愛い所を沢山発見していった。

船見さんのことをもっと知りたいと思う自分がいる。
これは友達として?
それとも……?



65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:46:45.10 ID:O9EuNeW30



何もかもが解らない。


私が好きなのは誰?

歳納京子?
それとも船見さん?

好きって何?
恋って何?

女の子どうしってやっぱり変なのかな?



66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:48:30.52 ID:O9EuNeW30



歳納京子への気持ちと、船見さんへの気持ちはどう定義すればいいんだろう。

もうこれ以上私を迷わせないでよ、船見さん……。



68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:49:19.46 ID:O9EuNeW30


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72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:51:34.63 ID:O9EuNeW30


今日の降水確率は0%という天気予報のとおり、今日の空は雲ひとつない一面の青。
昼間はギラギラと太陽が照りつけ、うだるような暑さだったが、今はだいぶ涼しくなった。

当初4人でいく予定だったが、千歳は京都に行っているので来れないらしい。
歳納京子はお祖母ちゃんの家なので、同じく来れないそうだ。

つまり今日の花火は私と船見さんのふたりきり。

妙に緊張しているのは何故だろう。
今日こそ自分の気持ちをはっきり出来るだろうか。
今日の花火で何か少しでも答えの切れ端でも見つけられたらいいな。

そんな事を考えながら駅のベンチで船見さんを待つ。

駅の中には浴衣を着ている人が結構いる。
きっとこの人たちも八森の花火を見に行くのだろう。
ここは田舎だから電車の本数が少ないし、私が乗る電車はほぼ満員になるかもしれない。



73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:52:46.09 ID:O9EuNeW30


「綾乃」

声の聞こえた先を見ると、船見さんだった。

「ゴメン、待った?」

「ううん、今来たところだから」

恋愛マンガのベタなセリフみたい。
さっきのやり取りが少し気はずかしかった。



74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:54:55.61 ID:O9EuNeW30


「船見さんの浴衣、大人っぽい……凄く似合ってる」

船見さんは黒の生地に朝顔を染め抜いた柄の浴衣を着ていた。
落ち着いた感じで、大人っぽい。
船見さんの雰囲気にぴったりあっていた。

「そうかな?……なんか照れるな……綾乃も似合ってるよ?」

私は群青色の生地に桔梗を染め抜いた浴衣を着てきた。
正直この着物が似合っているかどうか不安だった。
けれども船見さんが誉めてくれたのだから、きっとこれを着て来て正解だったのだろう。



76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:56:36.08 ID:O9EuNeW30


「そ……そう。ありがと……」

頬に熱が集まってくる。
誉められるのはなんだか照れ臭い。

「船見さんは切符買った?」

「うん。買った。綾乃は?」

「買ったわよ」

「じゃあ、行こっか」

「そうだね」



78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:58:38.41 ID:O9EuNeW30


駅の改札を抜け、プラットホームへ向かう。

私の気持ちの答えを見つけることよりも、まずは楽しむことが大事かな。
それはゆっくり考えればいいよね。

久しぶりの花火に私の心は踊っていた。



79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 22:59:24.49 ID:O9EuNeW30


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81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:00:22.39 ID:O9EuNeW30


夜の帳が降りて空には星が輝いている。
日はとっくに沈んでいるけれど、辺りは出店の照明で結構明るい。

屋台で綿菓子を買っていると花火の打ち上げを告げるアナウンスがあった。
金魚すくいや射的、ヨーヨー釣りなど、少し出店で遊びすぎたかもしれない。
時間を全く気にして無かった。



83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:02:39.85 ID:O9EuNeW30


「綾乃、行くよ!」

「えっ、ちょっ待っ……」

船見さんは私の手を握って走り出した。

さらさらと船見さんのセミロングの髪が揺れる。
仄かな甘い香りにドキリとしてしまう。
女の子に使う言葉じゃないかもしれないけど、船見さんの後ろ姿がかっこよく見えた。

しっかりと握られた手を握り返し、船見さんの背中を追いかける。



84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:04:00.13 ID:O9EuNeW30


「凄い……」

河原のほとりまで来ると船見さんは立ち止まって空を見上げた。

赤や青の光の花が大きな音を轟かせて夜空に咲き乱れる。
ぱっと刹那に咲いては消えていく。
パチパチと瞬くような光や鮮やかに色を変化させる光。
夜空を彩る幾多の花は私を釘付けにして離さない。

「綾乃?どこかに座らない?」

船見さんは私の手を引いて歩き始めた。

「ごめん、花火に見とれてた」

「いいよ。あの辺に座らない?」

「そうね」

私たちは石段に腰を降ろして、夜空を眺めた。



85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:05:01.74 ID:O9EuNeW30


「……綺麗」

「うん、本当に綺麗」

暫く無言で花火を眺めた。

あのときのシャッフルデートのような気まずさは全くなかった。
その代わりに私の心臓のペースが速い。

一体どうしちゃったんだろう。



86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:06:58.61 ID:O9EuNeW30


「…………ごめんね、私で」

二人の沈黙を破ったのは船見さんだった。
船見さんは悲しそうな目で花火を見つめている。

「……ごめんって、何が?」

私は船見さんの言いたいことが解らなかった。
船見さんが私に謝らなきゃいけないことなんて、一つも思い浮かばない。

「ホントは京子と行きたかったんでしょ?ごめんね、私で……」

「そんなことないわ。船見さんと居るの、楽しいもの」

「ありがとう。……でも、京子の事が……」



88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:09:08.78 ID:O9EuNeW30



「歳納京子が、何?」

「好きなんでしょ?友達としてじゃなくて、それを越えて……」

「それは……」

次に続く言葉を探しても、肯定の言葉も否定の言葉も見つからなかった。

「解った……言わなくていい。言わなくてもいいから……」

夜空に色とりどりの花火が上がる。
船見さんの目元の一粒の雫が花火の光を写していた。



89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:10:09.90 ID:O9EuNeW30


「船見さんは、やっぱり好きなの?」

「…………えっ?」

「歳納京子のこと」

「好きだよ。でも、綾乃の思ってる『好き』とは違うと思う」

「……どういうこと?」



92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:11:43.96 ID:O9EuNeW30



「幼馴染みだからかな、もう姉妹みたいなかんじかもしれない。
 お互いが妹であって姉みたいな……うまく言えないけど、持ちつ持たれつみたいなかんじだと思う」

姉妹、確かにそうかもしれない。
何年も一番近くにいて、時間を共有してきたんだもの。

「だから京子は恋愛対象としての『好き』じゃないかな……」

それを聞いて安心した自分がいる。
でも、肝心の答えは出ないまま。



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:14:25.93 ID:O9EuNeW30


「綾乃、今から話すのは私の独り言だと思って……」

船見さんの声は糸のように弱々しかった。
こんな船見さんは初めて見る。

「綾乃が『京子について教えてほしいの』って言ったことがあるでしょ?あの時私は凄く辛かった。
 だって綾乃が好きなのは……」

あの時の自分に好きな人を聞けば、きっと照れながら「歳納京子が好き」と言うだろう。
今思えばその「好き」は恋愛の好きだったのかどうかよく解らない。

「私が好きなのは歳納京子」と知って船見さんが辛いのは何故だろう?
やっぱり船見さんは歳納京子が好きなのだろうか?



96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:16:02.18 ID:O9EuNeW30


「でも、あそこで『うん』って言わなかったら、ずっと諦めれないだろうって思ったから」

諦める?
歳納京子を?
それとも別の何かを?

「バカだよね、私……。諦めるどころか、どんどん惹かれていって……こうして今も……」

今?
どういうこと?
訊きたいことがありすぎて、もう訳が解らない。
訊きたいけれど、独り言って言ってたし、口を挟んじゃ悪いのかな……?



97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:18:13.89 ID:O9EuNeW30


「表面的には応援してるのに、心の中は正反対で……。今日、千歳と京子が来れないのを喜んじゃう自分が居て……。
 もしかしてチャンスかもしれないって思っちゃう自分が居て……」

船見さんの目元からキラリと光の雫が、一粒、また一粒と零れ落ちた。

「……嫌いになったよね。私は偽善者なんだ。本当は京子とくっついて欲しくなかった。
 本当は綾乃の事が好きで、大好きで……」

船見さんは崩れ落ちるように顔を伏せた。
肩は震え、時折嗚咽が漏れる。

「……大丈夫……諦めるから」

船見さんは顔を伏せたまま、か細い声で言った。



99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:20:10.25 ID:O9EuNeW30


意外だ。
船見さんが私を好きだったなんて。

でも船見さんの告白を聞いて、胸がドキドキしている。
今まで感じたものとは全く異質のドキドキ。

同時に抱き締めたい衝動にかられ、その衝動のままに抱き締める。

「大丈夫……。船見さんを嫌いになんてならないから」

「……やめて………私、勘違い、しちゃうから……」

船見さんの声はさっきよりもずっと弱弱しい声だった。



101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:22:06.15 ID:O9EuNeW30


「ええ、船見さんは勘違いしてる」

「……え?」

「私、昔なら歳納京子が好きって自分に言えたと思うの。
 でも、船見さんと親しくなるうちに、船見さんの色んなとこを知って……」

私の知らない船見さんを歳納京子は知っているのかな、と思うと悔しかったりした。

「優しさとか、可愛さとか、数えきれないくらい。
 もっと船見さんを知りたくなって、もっと船見さんの側に居たくて……」

その気持ちが、私を迷わせた。

「だから気持ちが解らなくなったの。歳納京子に対しての気持ちは恋なのか、船見さんへの気持ちは恋なのか……」



105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:25:23.90 ID:O9EuNeW30


でも、何となく答えが出た気がする。

「船見さんが私のこと好きって言ってくれたとき、凄く胸がドキドキしたの。今もそう……」

「綾乃……」

船見さんはようやく顔を上げた。
潤んだ双眸はじっと私の目を見つめる。





106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:27:23.18 ID:O9EuNeW30


「多分私も船見さんが……。でも、まだ頭の整理が出来てなくて。だから側に居てほしいの。
 もしこれが恋じゃなかったとしても友達として傍に居てほしい……って、我が儘かな?」

「解った……傍に居る。傍に居るよ」

船見さんの頬を一筋の露がつたい落ちた。

「私も傍に居る。だから泣かないで」

「うん……私、嬉しくて……」

「ほら、泣かないで」



110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:31:06.74 ID:O9EuNeW30


私はそっと船見さんの目元を拭ってあげた。
船見さんは顔を明らめてモジモジとしている。
そんな船見さんを見てると余計にドキドキしてきた。

「ありがとう。……ねぇ、今夜だけ……寄り添ってても…………ダメかな?」

今日の船見さんはしおらしくて、可愛らしい。
普段はクールなのに。
何て言うか……ズルい。



112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:32:15.69 ID:O9EuNeW30


「……いいわよ」

船見さんがは私の肩に頭を載せてもたれ掛かった。
私の頬が熱を帯びてゆくのが感じられた。

浴衣越しに船見さんの体温を感じる。
涼しい夜風と温もりが丁度よくて心地よかった。
風と共にふわりと髪の匂いも漂ってきて、思わずドキリとしてしまう。



114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:33:29.71 ID:O9EuNeW30


「船見さん、見て!」

私は夜空を指差した。
煌めく星のような光や、輝く金糸のような光。
色とりどりの光の花が夜空に咲き乱れる。
今まで見た花火の中で一番綺麗に見えた。

光の造り出す幻想的な世界に私たちはただ見とれていた。



116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:35:52.00 ID:O9EuNeW30


「綾乃、またいつか返事聞かせてね。ゆっくりでもいいから」

「勿論。まだ整理がついてないけど、船見さんが『好き』なのは変わり無いから」

「綾乃……」

「だから、今は曖昧に伝えとくね」

でもいつか絶対、気持ちを整理してはっきりと伝えたい。



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:36:52.87 ID:O9EuNeW30







「好きよ。船見さん」







118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:37:40.75 ID:O9EuNeW30


―――――終わり―――――


120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:38:18.70 ID:oyacCJ/30





125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:39:34.21 ID:DoUzjjNh0


乙りん
久々の結綾分



128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:41:45.31 ID:O9EuNeW30


以前、結綾で花火のSS書くとかいいながら、
こんなに時間が経ってしまいました。
少し季節外れになってしまってごめんなさい。

あと、ところどころ地の分で前作の表現を使いまわしてます。
ごめんなさい。

結綾って難しいですね……

拙い文章でしたが、最後までありがとうございました。



129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:42:36.35 ID:3gCCqJiC0


おつ
良かったで



130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:43:20.66 ID:1nTjPHYUO


結綾良いね



132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/09/16(日) 23:49:09.68 ID:FHegBO3K0


乙乙


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