硅石器時代とエルピーダの破綻/花づな列島復興のためのメモ(29)
西村吉雄『硅石器時代の技術と文明―LSIと光ファイバーがつくる"新農耕文化" 』日本経済新聞社(8508)を読んだとき、「目から鱗が落ちる」思いがしたことを覚えている。
既に4半世紀前のことである。
同書は、約10年後の1996年1月に、開発社から改訂増補版が刊行されている。
在庫が払底していたのに対し、同書をもとめる市場の声が大きかったのだろう。
同書の何に刺激を受けて、「目から鱗」になったか?
現代という時代の相を、「近代の終わり」とみる見方はすでに一般的であった。
時代が大きな曲がり角を曲がりつつあることを、たとえば鉄鋼や石油の動向から論じた著書も目にしていた。
⇒2010年7月18日 (日):「情報産業論」の時代/梅棹忠夫さんを悼む(6)
⇒2011年10月14日 (金):栄枯盛衰の法則性?
著者は、半導体用シリコンの供給量を加え、新しい時代の到来を鮮やかに「見える化」して見せたのである。
しかも、近代の終焉の後にくる時代に、「硅石器時代」というネーミングをつけた。
硅石器とは、半導体や光ファイバーなどの主要原料がシリコンすなわち硅(珪)素であることに着眼したものである。
刮目すべきだと思うのは、近代工業社会という山を越えたという認識から、「山を越えたら下りるほかはない」として、下りていく先を、近代以前の社会(=農耕社会)に似ているだろうと見立て、新農耕文化としたことである。
五木寛之氏の『下山の思想』幻冬舎新書(1112)よりずっと先行しているといえよう。
私が特に影響を受けたのは、「いかに作るか」よりも「何を作るか」が重要になる、という指摘であった。
リサーチャーから、歴史の浅いソフトウェア会社へ転職して、プログラマが一杯という環境の中で、プログラマよりSE、SEよりシステム企画あるいはコンサルタントを目指すべきだと主張したが、理解者は少数だった。
半導体は石と呼ばれてはいたが、光ファイバーを含めて、「石器」という言い方は新鮮だった。
エルピーダ破綻のニュースを聞いて、先ず頭に浮かんだのは同書のことであった。
硅石器時代の本命ともいうべき業種である。
しかも、日本を代表する電機メーカーが提携して作り、経済産業省が強力に支援してきた企業である。
80年代に世界を席巻した日本製半導体の復活を掲げ、経営再建中だった半導体大手エルピーダメモリが27日、破綻した。国が主導して国内大手電機メーカーのDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)事業を集約した「日の丸半導体」メーカーだが、国が公的資金を注ぎ、「国策会社」となりながらも、世界大手に対抗できなかった。今後は借金を整理して支援企業を探すが、世界的な業界再編の引き金になる可能性がある。公的資金投入から3年足らずで国民負担を生じさせた経済産業省の責任も問われそうだ。
<エルピーダ破綻>「国策会社」守り切れず毎日新聞 2月27日(月)
先頃は家電メーカーが揃って赤字を発表した。
パナソニックは3日、2012年3月期連結決算の最終赤字額が従来予想の4200億円から7800億円に拡大することを発表した。ITバブル崩壊後の02年3月期(4277億円の赤字)を上回り、過去最大の赤字額となる。シャープが2900億円、ソニーが2200億円の最終赤字見通しとなるなど日の丸家電は壊滅状態だ。
パナソニック、7800億円の最終赤字見通し!過去最悪
エルピーダには、産業活力再生法により公的資金が投じられている。
しかし、当初からこの資金投入には疑問符が付けられていた。
岸博幸慶應義塾大学大学院教授は、090424のダイヤモンド・オンライン誌で次のように言っていた。
しかし、エルピーダや日立については、どのような合理性があるのかよく分かりません。国内唯一のDRAM企業であるとか、半導体で国内最大シェアであるとかでは、理屈として弱いのではないでしょうか。過去10年以上に渡って不況の度に電機業界の危機や再編の必要性が叫ばれてきましたが、その度に政府の手厚い支援(IT関連の研究開発やプロジェクト予算が補助金として機能)で生き長らえ、本質的な問題解決は先送りされてきました。今回もその繰り返しであるようにしか見られないのではないでしょうか。
・・・・・・
自信を持って断言しましょう。世界的に景気回復局面に入る段階では、日本経済の回復が最も遅れるでしょう。日本の株価も、世界の市場の中で最も回復が遅れるでしょう。こんな経済政策を平気で講じる国の株を買いたい外人投資家は間違いなく少ないからです。
先頃は、経済産業省の元審議官が、自分の係わったエルピーダ社を舞台にしたインサイダー取引事件が報じられた。
⇒2012年1月13日 (金):経済産業省審議官の法律感覚
われわれの未来は容易ならざるもののように感じられる。
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