百田尚樹の『殉愛』の売り方/知的生産の方法(110)
百田尚樹という作家がいる。
『永遠の0』(講談社文庫(2009年7月)、『海賊とよばれた男』講談社文庫(2014年7月)、『フォルトゥナの瞳』新潮社((2014年9月)等のベストセラーを連発している当代筆頭の人気作家と言えよう。
しかし、日本社会の右傾化の露払いとしての役割の方を問題にしたい。
安倍首相とも親密であるのはよく知られているが、こともあろうに先の東京都知事選で田母神俊雄氏を応援したのである。
⇒2014年2月 9日 (日):都知事選と安倍政権批判/花づな列島復興のためのメモ(305)
田母神氏については、私は政治家としてまったく評価する観点を持たない。
⇒2009年1月10日 (土):田母神第29代航空幕僚長とM資金問題
⇒2009年1月11日 (日):田母神前幕僚長のアパ懸賞論文への応募
「幸福の科学」を主宰している大川隆法と似たようなものだと思っている。
⇒2009年8月24日 (月):大川隆法と田母神俊雄/「同じ」と「違う」(4)
しかし、いかにインチキ臭いっぱいの「幸福の科学」といえども各地に支部を作るほどには支持者がいる。
田母神氏も、泡沫候補のようでありながら、都知事選では若年層を中心に、結構支持を集めたのが現実である。
⇒2014年2月11日 (火):都知事選の結果と暗い予感/花づな列島復興のためのメモ(306)
そのことが、いわゆる右傾化する日本の1つのエビデンスである。
⇒2014年2月26日 (水):右傾化して行く日本の不安/花づな列島復興のためのメモ(311)
一作家としての百田氏が、田母神氏を応援するのは氏の勝手である。
しかし、百田氏は、NHKという影響力の大きな公共マスメディアの経営委員である。
しかもその応援演説で、他の候補者たちを、「人間のクズ」と表現して問題になった。
作家にあるまじきデリカシーの無い発言である。
これを聞いて、私の中では百田氏を見切った。
百田氏の最新作『殉愛』がアマゾンカストマーレビューなどで、炎上している。
火だるま状態と言えようか。
まず幻冬舎のサイトに載っているコピー(Amazonでも使われている)を引用しよう。
*****
誰も知らなかった、やしきたかじん最後の741日。 2014年1月3日、ひとりの歌手が食道がんで亡くなった。 「関西の視聴率王」やしきたかじん。 ベールに包まれた2年間の闘病生活には、 その看病に人生のすべてを捧げた、かけがえのない女性がいた。 夜ごとに訪れる幻覚と、死の淵を彷徨った合併症の苦しみ。 奇跡の番組復帰の喜びと、直後に知らされた再発の絶望。 そして、今わの際で振り絞るように発した、最後の言葉とは――。 この物語は、愛を知らなかった男が、本当の愛を知る物語である。 『永遠の0』『海賊とよばれた男』の百田尚樹が、 故人の遺志を継いで記す、かつてない純愛ノンフィクション。
*****
素直な人間ならば、あの「やしきたかじん」の秘められた純愛と思い、ファンならずとも「買ってみようか」という気になるであろう。
しかも、ベストセラー連発の百田尚樹が書いたとなれば・・・
本の帯に載っている「たかじん」氏とさくら未亡人の写真である。
幻冬舎の見城徹社長は、さらにメディアミックス戦略というか、TVの人気番組をプロモーションに利用した。
たかじんの闘病生活を特集した「中居正広の金スマスペシャル」(7日)は、平均20.1%(ビデオリサーチ調べ、関西地区)という高視聴率を記録した。
再現ビデオまで用意して、プロモーションとしては絵に描いたようなサクセスストーリーというべきであろう。
さすがに見城社長のやることは違う、というべきであろうか。
『編集者という病い』等で、自らの仕事の流儀を、「顰蹙は金を出してでも買え!!」と言っている通りである。
Amazonで在庫切れというような情報もあったが、これも見城氏のやらせのような気がする。
それはともかく、ここまではマーケティングの教科書になるかも知れないような展開であった。
私はたまたまつけていたTVで「金スマ」を横目で見ていたのだが、違和感があった。
愛とか死というような究極の個人的マターを、「ノンフィクション」と銘打ってベストセラーにする?
しかも一周忌も済んでいないのに、再現ビデオか?
いくら資本主義の世の中とはいえ、「あざとさ」が過ぎるのではないか?
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