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2014年11月22日 (土)

クリティカル思考の反面教師としての百田尚樹/知的生産の方法(111)

殉愛』 は、プロモーションの効果もあってのことだろうが、たちまちベストセラーのランキングのトップに躍り出た。
しかし、世間の注目を集めた結果、作品の瑕疵が多くの人に指摘されることになった。
Amazonのカストマーレビューでも、星5つの高評価と星1つの低評価に極端に分かれ、特にたかじんファンを自称する人の多くが怒りに近い表現で低評価をつけているような印象だった。

私は当初、Amazonのカストマーレビューは圧倒的に「感動しました」という類が多いのだろうな、と予想していた。
11月22日時点での763レビューの分布は以下のようである。
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2週間ほどの間にこれだけのレビューが投稿されるというのも稀であろうが、星5つと星1つに見事に分裂しており、1つが5つの3倍以上である。
明らかに、当初よりも日を追って低評価が増えているようで、私の予想は見事に外れた。
驚くべきことには、百田氏は自身のツイッターに次のように書いて、低評価レビュアーに反撃した。

=『殉愛』のAmazonレビュー、未亡人に対する誹謗中傷がひどすぎる! 実態も真実も何も知らない第三者が、何の根拠もなく、匿名で人を傷つける。本当に人間のクズみたいな人間だと思う!=

「クズみたいな人間」というのは、都知事選でも使っていたから、彼の愛用句(?)もしくは口癖なのであろう。
百田氏の批判は、作家の言葉かと思えないデリカシーが欠けていると言わざるを得ない。
さすがにこの百田氏のツイートが低評価投稿者を増やしたのではなかろうか。

他人の批判に傾ける耳を持たないというのは、典型的なクリティカル思考の欠落である。
⇒2014年6月 7日 (土):今こそ必要な『暗黒日記』のクリティカル思考/知的生産の方法(96)
批判されることによって磨かれるのである。
こともあろうに、高圧的な反撃が墓穴を深めた。
常識ある人間は、褒められたり賞をもらったりしたときほど、身を振り返るものではないだろうか。

それでも、私は、熱烈というほどではないが「たかじん」という反権威的なスタンスの人は好きだったので、新刊を買ってみた。
こういう売られ方をした本は、間もなくBookOffに大量に出回ることだし、幻冬舎に乗せられるのもシャクだ、などとと思いつつである。

一読して、幻冬舎のサイトに載っているコピー以上の内容のない、予定調和のような、感動の押し売りのような「ノンフィクション」であった。
あえて言えば後味の悪さの残る作品と言えよう。
実の娘やKとかUのイニシャルで登場する「たかじん」の現役時代の仕事上の側近に対して、私憤というのだろうか、口汚い批判が頻出する。
さくら未亡人美化の意図だろうが、『殉愛』というタイトルにそぐわない感じがして、逆効果としか思えない。

さらに驚くべきことに、たかじん氏の代表作『東京』の作詞家・及川眠子氏の発言にも逆ギレして、次のようなツイートをしている。

=自分は何の迷惑もこうむっていないのにヒステリックな正義感(?)を振りかざして他人を攻撃する人間も腹立たしいが、この機に乗じて売名行為する作詞家というのも実に厄介や。=

何という高圧的な姿勢だろう。
私は作詞家の世界に疎いが、たかじん氏の歌の数十曲を手がけたその世界では著名な人だという。
そもそも作詞家というのは、縁の下か屋根裏の住人であって、売名行為とは無縁の存在である。
ついつい、自分に引き寄せて、売名行為と考えたのだろうか。
ちなみに、及川氏の発言の一端は次のようにきわめて順当なものだ。

=ちゃんと金を払って本を購入した読者の批判に対し、人間のクズ呼ばわりをする。世間に出したものがあれこれ言われるのは当然。私たち物書きはそれでゴハンを食べさせてもらっているのだ。世の中すべてが味方ではない。その覚悟なしに物書きなんてやれねえよ=

炎上した結果、さくら未亡人が離婚歴があることを百田氏自身も認めざるを得なくなったが、プライバシー云々というような陳腐な弁解ツイートでさらに墓穴を深くしている。
100%真実だと書いていたことが崩れたわけである。
こんどの日曜日の「たかじんのそこまで言って委員会」は本書の特集らしいが、どんな内容にするのか、あるいは百田氏がどういう顔で登場するのか、楽しみである。
東京地上波ではオンエアされないらしいが。

私は、男女のことは所詮他人には分からないことだと考えるので、さくら未亡人が巷間で噂されているようなことが事実であっても、批判する気はない。
幻冬舎の見城氏も、出版社としては「売れてナンボ」であるから、売れる本を作って売る努力をするのは理解する。

しかし、百田氏は、急先鋒として攻撃していた朝日新聞と左右が反転しただけで、同型ではないのか。
というよりも、今まで正義感を気取って激しく他人を攻撃していた人間が、居丈高に開き直るのは不快に感じる。
まさに「自分に対して」と「他人に対して」が異なるダブルスタンダードである。
NHK経営委員などの公職は即時辞任すべきであろう。

そして何よりも、いわば服喪中ともいうべき期間である。
とんでもない死んだ人にたいする冒涜行為ではあるまいか。

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コメント

人間のクズみたいな人間だと思う!、という百田氏のコメントを見て、ちょっと驚き、Amazonのレビュー欄を開いてみました。
そして、そのレビューを読んで、これは成程、と、思ってしまいました。
百田氏が“クズ”と言うことが成程、ではありません。 その、誹謗中傷が殺到しても仕方ない、・・・そうか、成程、です。

本には、テレビでの紹介を見ても、関心は起こりませんでしたし、読んでいません。

でも、やはり、読者を欺くようなものだと、そう思われます。 この本は赦し難いですね ー ー ー。

投稿: 五節句 | 2014年11月26日 (水) 17時39分

五節句様

コメント有り難うございます。
ビジネスの世界では「顧客のクレームは宝の山」と言います。読者のクレームは有難く聞くべきなのに、よりによって「人間のクズ」とは、です。
自分に批判的な存在は許さないというファッショ体質が見事に表れたのではないでしょうか。こんな男とぐるになっているのが、この国首相だから情けなくなります。

投稿: 夢幻亭 | 2014年11月26日 (水) 20時10分

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