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「22箇所にキスする2人」
-リザとロイ~少尉と中佐

瞼(憧憬)

 ←髪(思慕) →額(祝福/友情)
 白い背中に焼き付けられたような赤い錬成陣は、目にした瞬間、ロイのすべてを奪っていった。
 魂が揺さぶられるほど美しいと思ったのは、初めてのことだった。手に入れたいという欲望のままに伸びたその手は、強ばった背中が震えていることに気づいたために、かろうじて触れる直前でとどまった。
 海の底へ沈んでいくような思考の奔流に囚われて、ロイは焔の錬金術に深くのめり込んだ。
 それからどれほどの時間、没頭していたのか。
 細部を確認しようとしたメモが見づらかったため、マスタングは改めてリザの背中を見ようと顔を上げた。
 床に座っていたリザは、いつのまにかベッドに突っ伏して眠っていた。
 父親の死とそれに係る手続きを終え、加えてずっと孤独に背負っていた秘密を晒したことで気が緩んだのだろう。
 すでに部屋は薄暗くなっていた。初めて見たときの暴力的な感動はなく、そこには白い女の肌が静かに浮かび上がっていた。
 年頃の女性が裸でそこにいるという事実をようやく認識したロイは、我に返って狼狽えた。
 自分の周囲は錬成式を書き殴って真っ黒になった羊皮紙が、足の踏み場もないほど散らかっていた。急いでそれらをかき集めて、端に寄せる。とっくに描き写し終えていたのにそれを告げもせず、リザを放置して研究にのめり込んでしまった自分が情けなかった。
 自分の来ていたジャケットを脱いで、リザの背中にかけた。リザは身じろぎして、そのままロイに身体をもたせかけた。
 まろみのある膨らみがちらりと見えて、ロイは全身が沸騰するほど熱くなった。できるだけ見ないように顔をそらして、ジャケットのボタンを一つずつとめていく。彼女の上半身がすべてジャケットに覆われて、ロイはハーッと深いため息をついた。
 リザの身体の重みを支えながら、ロイはベッドに背を預けてもたれかかった。
 見下ろすとリザの顔がすぐ近くにあった。スースーと寝息をつくのにあわせて、とじた瞼を縁取る長いまつげがかすかに揺れる。
 自分のことにかまけていて、彼女を取り巻く世界のことなど気にもしなかった。
 師はどうして自分の研究を娘の背中に刻んだのだろう。そのことが彼女の未来にどう影響するかとは考えなかったのだろうか。あるいは考えた上での結論なのか。
 師の意図を把握するには、ロイはあまりにも未熟だった。もしかしたら一生かけても理解し得ないかもしれない。それでも師の娘に対する愛情だけは疑いようもない、とロイは思った。
 その愛は、リザにとって糧となるのか枷となるのか。
 願わくば、その目に映る未来がずっと幸せでありますように。
 祈りにも似た気持ちを込めて、ロイはその瞼に口づけた。




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