ONE PIECE 尾田栄一郎 インタビュー
「いやあ、すばらしい。20歳そこそこにしては構成力がすばらしいと思います(笑)」
『ONE PIECE』第1話が載ったジャンプを見ると、尾田の口からそんな冗談めかしたひとことが出た。実際、その完成度の高さに驚かされる。
「ボツを重ねられた上で描いたものだったのでね(笑)。いよいよ、というつもりで描いた海賊ネタだったし、読み切り版も人気があったんですが……連載が通るまでに、2回ボツにされています。連載できるかどうかの会議に出す時は3話分のネームを提出するんですが、2話目からアーロンやガイモンさんが登場するバージョンとか、いろんなパターンがあったんですよ。2回ボツになって、ようやく通った第1話でした。読み切り時代から、ボツはとにかくたくさんくらっていましたね」(中略)
新人時代の尾田が編集者から言われ続けたのが、「キャラクターがない」ということ。
「ストーリーはずっと研究していたんですよ。ストーリーがあって絵があれば漫画だと思っていたので、キャラクターがないと言われても意味がわからないんですよ。そこから葛藤が始まりましたね」
『ONE PIECE』に個性的なキャラクターがあんなにもたくさん出てくることを考えると、信じ難い話だ。
「今はあほみたいに(笑)たくさん作っていますが、コツをつかむまでは全然できなかった。キャラクターって、何か1つ事件が起きた時に『その人ならどうするか』ということで作れるんですよ。例えば、肉が降ってきたとして……食らいつくのがルフィでしょう?見ているのがナミ、敵かと思って斬るのがゾロ。これがキャラクターです。それをすべての場面で同じように再現できなければいけない。一度世に出たら、読者のほうがキャラクターをつかんでしまうので、僕がルフィらしく描いた上で、さらに読者を驚かせなきゃいけないんです。でも……今だから言えますが、最初のころはルフィのキャラクターですらつかみ切れていなかったんですよ。(かつて尾田がアシスタントをしていた)和月(伸宏)先生に相談したら『まだルフィは何か裏で考えてる』とか『お前の描くキャラクターは腹黒い』とか言われたんですよ。それって作家の計算が見えている、ということですよね。キャラクターが素直に動いていなかったのだと思います」(中略)
「僕は、責任感が強くないんです。もし『ONE PIECE』を終わらせる時が来たら、編集部から『もっと続けてくれ』と言われたところで、それを聞く気もないですしね。僕が終わるのは、僕の自由。まあ……終われないんですけどね。ストーリーがまだまだあるので」(中略)
漫画界を見渡して、こんなことも考えている。
「今、読者が選ぶ雑誌が多様化していって、同じ漫画をみんなが読むということが減りつつあるのは、ちょっと残念だなと思います。これは僕の実体験ですが、昔は『DRAGON BALL』を読んでいることを話したら、すぐに友達ができた。漫画には、そういう役割があると思っていて。特に僕らの子供時代は、ジャンプの役割は本当に大きかった。だから”たくさん売れる”ということには価値があるのだと思う。もっと共通の話題を持ってほしいという意味で、複数の雑誌が合わさって1つになってもいいんじゃないか?と思ったりもします。”アベンジャーズ”的にね(笑)」(中略)
ジャンプを背負っている意識はない、と言い切った尾田だが、話すほどにジャンプのナンバーワンらしい貫禄のようなものを感じ、本当に自負はないのか、重ねて聞いてしまう。
「本当に、その器じゃないんですよ。秋本先生が『こち亀』の連載をやめた時にね、編集部の皆さんにはっきり言ったんです。『僕はエースになるけど、キャプテンにはなれないから』って。秋本先生は、キャプテンなんです。毎週ジャンプを読んで、新人の漫画も知っていて、新年会で1人1人に『君の漫画はここがおもしろいね』って声をかけて回るんですよ。そんなすごいこと、僕にはできない。僕ができるのは、1番をとって、売り上げ的にジャンプを引っ張ること。エースとして、そこは任せて、と思っています」
様々なメディアに展開してきた『ONE PIECE』だが、歌舞伎そして海外ドラマと、ここへ来てまた新しい展開を見せている。
「ここから先は、前人未到というか前例がないことばかりになってくる。怖さもありますが、気楽でもあって。成功者がいると『あの人はうまくいったのに、何でおまえはうまくいかないんだ』と言われてしまうけど、誰も成功していないんだったら、転ぶのも自由ですから。新しいことは、どんどんやっていきたいですね。めちゃくちゃ楽しみです」
(『創刊50周年記念 週刊少年ジャンプ展VOL.3 公式図録』掲載インタビューより抜粋)