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守りたいもの


◆守りたいもの◆

この物語は近親愛表現がメインとなります。
苦手な方はご注意ください。

きっと、人が見たら「こんな事くらいで」と言うだろう。
でも他人にとっては些細なことでも、彼のたった一言、仕草さえも見逃せない。
その一挙一動が、堪らなく愛おしい。
そしてそんな感情を持ってはいけない相手。
……俺たちは真ん中の兄弟を好きになってしまった ──

まるで前世から運命だったんだと思うほど、この思いは譲れない。


*赤→R指定



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S1.  

 

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守りたいもの45

「何作ってるんだよ?」

克海が覗き込むと陸史が「パンプキンスープにパンプキンパイ」と言いながら笑いかける。

「見事にカボチャだな」
「ハロウィンだからな! パンプキンパイの他にリンゴのデザートもあるから楽しみにしてろよ?」

陸史は熱いうちに潰したカボチャに生クリームとグラニュー糖、そしてクリームチーズを混ぜた餡を克海の口に放り込む。

「美味いな」

普通だったらこんな二人を見ていると自分が邪魔者だと思ってそっと離れようとするだろうか。それとも人前でイチャつくなとムッとするだろうか。
だがこれらは特別な訳ではなく昔から普通に見てきた光景だけに、智空は何とも思わず陸史に聞いた。

「かぼちゃのコロッケもある?」
「当たり前だろ」
「……ならいい」
「智空は本当に好きだよな、カボチャのコロッケ」

克海が笑いかけてくる。

「美味しいから。……でもコーンいっぱい入ったコロッケは格別」
「そっか」

嬉しそうに克海が微笑んだ。

「にしても兄さんて、こういうイベント事、本当に好きだよな」
「克海、ちょっと違うぞ。俺はイベントが好きなんじゃなくて、お前やあきと一緒にこういう日を過ごすのが好きなんだよ。全然違うだろ?」
「あ。そういえば買ってある飲み物もそろそろ出しておこう」
「ねえちょっと聞いてぇ?」

相変わらずの陸史と克海だが、どうやら本格的に付き合っているようだ。
断言していないのは何というか、「本格的に」に掛けている。付き合うことになった、とは二人の口から聞いた。その時の克海はとてつもなく申し訳なさそうだったが陸史は反対に嬉しさを隠すことなくドヤ顔にすら見え、やはり野菜を切るのじゃなく陸史を切るべきだったかと智空に思わせてきた。ただ、智空の分かる範囲では二人がそういった恋人ならではの行為をしているのかは不明だ。陸史のことだから手を出さない訳がないとは思うのだが、家にいてもそれらしい感じは微塵もしない。
もしかしたら気を使っているのかもしれない。主に克海が。
どのみち付き合っていることには変わらないし智空としてはありがたくはないのだが、思っていたほどショックはなかった。先に克海の気持ちに何となく気づくといったワンクッションがあったからだろうか。今でも克海のことが兄というだけでなく好きだと思ってはいるのだが、その克海が陸史を受け入れた上で楽しそうにしているのを見るのは何故か嬉しさすら感じられた。



準備が終わる頃には友人たちも家にやって来た。克海の友人である鈴原が来た時は「わぁ、ほんとに来たんだ愉快な仲間くん」などと微妙そうにしながらもさほど嫌そうではなかった陸史だが、智空の友人である相田と山部が来た時は笑顔のままとてつもなく嫌そうな気持ちを全力で出してきていた。それも主に相田に対してで、山部はわりと普通に過ごしているが相田はちょくちょく避難するように智空のそばへ来ては「アイダくん。ちょぉっと俺の仕事手伝ってくれるよねえ?」などと嫌そうな顔を笑顔で器用に上手く表現している陸史に連れ戻されていた。そして陸史はちょくちょく木下という大人びた人に「いい加減にしておけ」と諭されていた。

──今日という日は大好きな人のために笑顔でいよう。
今日だけは悲しい顔をさせないよう、言葉を紡ぎ笑顔を作る──

ふと何故かそんな言葉とともにハロウィンの装飾をした暖炉のある家の中が頭に浮かんだ。

「トリックオアトリート、智空ちゃん」

ニコニコと相田がポカンとしていた智空を覗き込むように言ってくる。

「はぁ……」
「ちょっと智空。そんな鬱陶しそうな顔で飴渡してくるの酷くない?」
「お前のバカバカしい恰好とテンションに俺のやる気が駄々下がり」
「もー。でもそんなところもか──」
「そんなところも花鳥風月って言いたかったのかなアイダくん。君には俺がお仕事を頼んでたよね?」
「そんなところも花鳥風月って逆になんスか……! ってあつ兄ちゃん、痛いっス」
「君にあつ兄って呼ばれる筋合いはないし、こっち。出来上がった追加の料理運んで」
「分かりましたよー、だからそんな引っ張らないで」

連れ去られていく相田を山部が微妙そうな顔で見ている。相田を助けるにも、助けた後の相田が面倒そうで結局同じく微妙な顔をして見送っていた智空にまた「トリックオアトリート」という声がした。だが今度は上がるテンションをなるべく隠すようにして智空は振り返る。

「かつ兄。悪戯選んだら俺、どうなるの?」
「え? それは予測してなかったなあ。うーん、どうしようかな」
「大丈夫、代わりに俺が悪戯しとくよ克海」
「相田くんとあっち行ってなかった? 陸史。忙しいやつだな……」
「ほんとね、もう大変、俺」
「……あつ兄ウザい」

実際忙しいヤツだなと、智空は心底呆れた顔を早々に戻ってきた陸史に向けた。気づいた陸史はだがニコニコと見返してくる。

「えー。でもカボチャのコロッケは美味しかったでしょ?」
「それは、まぁ」
「うん。俺も美味しかった」

微妙そうな顔をしていた克海もニコニコと言った後にだが、自分の友人の行動に気づいてまた微妙そうな顔になる。

「あ、ちょっと鈴原! ごめん、俺ちょっと。放っておくとあいつ、一人で兄さんのパンプキンパイ食う気だ」

そして鈴原のほうへ慌てて近づいて行った。

「かつ兄こそ大変そう……」
「ほーんとあの愉快な仲間くんはブレないんだよなー」

陸史も苦笑している。そんな陸史をじっと見上げた後に智空は「なあ」と呼びかけた。

「ん?」
「お菓子、あるよ。いっぱいある」

──お菓子、ないんだ──

ふとそんな言葉が二人の間に響いた気がしたが、気のせいだろうと智空は持っていたいくつかの菓子を陸史に差し出した。一方陸史は何か考えるような顔をした後に、ようやく答えを貰えたかのような笑みを浮かべている。

「っていうか、それで俺を退散させようってつもり?」
「まぁ」
「俺を魔物扱いして。そんなことしても無理だぞ。俺の克海も、」
「うっざい」
「それにあき、お前も。俺の大切で大事な存在だから。これから先も寄り添って楽しく過ごすつもりだから」
「は、はぁ? 何、言ってんの。あつ兄ほんとウザい」

ムッとしたように言ったが、顔がかなり熱いのできっと陸史にも顔色はバレているだろう。現に陸史は嬉しそうだ。

「でも悪いけど克海は俺のだからね。お前から二番目の兄は奪わないけど、でも兄じゃない克海自体は俺のだから」
「……言ったろ。かつ兄は好きだから応援するって。でもあつ兄はウザいからこれからも邪魔をするって」
「もー可愛いなあ、あきは」
「何でそうなんだよ、馬鹿なの」
「弟が大好きな馬鹿っていうなら否定しないよ。ずっと克海もあきも、俺の大事な弟だから」
「ほんと馬鹿」

これで良かったのだろうか。
きっと、絶対、良かったんだと思う。

智空はたくさんの飴やチョコレートを少し名残惜しい気持ちで陸史に押し付けると、テーブルへ向かった。そしてまだ残っていたカボチャのコロッケに手を伸ばす。きっと傍から見たら余程カボチャのコロッケが好きなんだろうなと思われるような顔をして。













〜プチあとがき〜

最後までのお付き合いありがとうございます。
この話、実は元ネタでは21話辺りで終わっていました。兄弟エンドといいますか。
克海の気持ちを優先した結果、誰もくっつかない感じです。ただ45話も書く内容だけにそれはちょっとなぁと思い、最初からそのつもりで付け足して書いたのが今回の最後までの話です。
ミムさんに「くっつけるなら誰がいいかな」と聞いたら三男好きだけどここは長男とかなあと。まあそうなりますねとこの展開にしました。
基本的には弟×兄が好きだし兄×弟はあまり好んで書いたり読んだりしません。保護する側×保護される側という方式が苦手なんですが兄×弟もそれに該当しがちで。
ただ陸史の場合は大丈夫でした(笑)

ところでこの話、Season Story魔界編にある話が元になります。
67話の「星月夜の合図」がそうです。
(タイトルクリックどうぞ)
ハロウィンでのとある三人の話です。そこに登場しているウィックという狭間の世界での道案内人が「三人とも兄弟として生まれるとかさ……」と言っていますが、まさに今回の彼らになります。
魔界編のこの話を知らなくとも分かる内容ですが、知っているとまた別途楽しめるかと思います。

今回のミム絵、途中で完成品を貰いました。
三人とも仲良くて楽しそうな雰囲気が好きです。あと何だかんだで目元とか皆似てて兄弟だなぁと。見た目は陸史が好みです。
元ネタではくっついていない展開でもあったように、三人が三人でいられないというのはまずなくて。
なので上二人がくっついても、三男溺愛は変わらないと思いますし、三男も上二人が大好きだと思います。
三男にちょっかいかけている友人はそういうつもりで書いてます、がくっつける予定は初めからなく。今後また何かあったら陸史が鬱陶しい小姑だろうなくらいで。
次男の友人が書いていて楽しかったです。ああいうちょっと変なタイプ好きで。
とはいえ主人公にすると色々考えないとなので、サブキャラくらいが一番気楽で楽しく書ける気がします。

兄弟BLが苦手な方には申し訳ないですが、今回の話も楽しんでいただけたのなら幸いです。








<了>




2020/02/08



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守りたいもの44

 *R-18指定あり注意

今回のお話は性的表現が含まれる部分がございます。
18歳以上でR指定大丈夫な方のみおすすみ下さい。




 

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守りたいもの43

陸史を受け入れるどころか、自分の気持ちすら受け入れるつもりはなかった。理解出来ないしどう考えてもおかしいし許されることではない。気のせいだと思いたかった。
だが陸史に抱きしめられ、ただ「俺のこと、好き?」と優しく聞かれ、もう陸史も、そして自分も誤魔化せないと覚悟を決めて好きだと認めた。とはいえ気持ちを認めてもこの感情を認める訳にはいかない。

「克海。ありがとう」
「……でも、こんなの……こんなの許される訳ない」
「誰に?」

思わずボソリと口に出ていた言葉に陸史がじっと克海を見ながら聞いてきた。

「え?」
「誰に許されないの?」
「え、あ、皆……」
「皆って誰」
「そ、んなの。せ、けんとか」
「世間のために生きてるの、克海は」
「そうじゃない、けど! そういうことじゃないだろ」
「じゃあ何。親が悲しむかもってのは分かるよ。俺もそれは本当にごめんねって思う。孫、見せてあげられないし、その世間? ってのを思って心配かけるかもだし、というか親ですら気持ち悪いと最悪思われるかもしれない」
「だろ。だったら」
「だったら何。克海は誰かのために、誰もが安心する人を好きになれるの? 誰かのために付き合ったり結婚したりするの?」
「違」
「克海。家族が大切だから家族のために出来ることをするのは俺も賛成だよ。俺も親やお前を含めた弟たちが大事だ。お前たちが嬉しいと思うことを自分が出来るのなら率先してやりたい。でもな、家族のために出来ないことを無理やりするのは正しいことか? 俺ならそんなの嬉しくないし、本人がしたいことをして欲しい」
「……そ」

涙が出そうになった。
分かる。とても分かる。克海だって親や兄弟が克海のためだからと、自分を押し殺して無理やり何かをしてくれても嬉しくない。

「そう、だけ、ども」

だがこれは酷いのではないのだろうか。兄弟なのだ。血の繋がった。同性同士というだけでも少なくとも克海は慣れない。それでもまだマシだろう。だが、兄弟なのだ。おまけに智空にも好意を寄せてもらっておきながら、克海は両方無理だと突き放すならまだしも、陸史を好きになるなどと、ある意味裏切りにも似た選択をしているのではないだろうか。

「そ、うだ。智空」
「え?」

ハッとなった克海に対し、陸史が少しポカンとした顔で見てきた。それに対し克海はジッと見返す。グダグダと自分を憐れんでいる場合ではなかった。

「陸史。俺は本当に不本意だけど、お前が好きだ。これはもう誤魔化しようがないし自分の感情だというのにどうしようもない」
「え、あ、ああ。というか感情なんてそんなもんじゃ」
「今はそこじゃなくて。その、俺はお前が好きだ。でもやっぱり許されない気持ちだと思うことはやめられないし多分俺はずっと後ろめたいだろうしお前みたいに割り切れない。だが今はそれも置いといて」
「置いとくの?」
「智空だよ!」
「え、あ、ああ?」

陸史はとても戸惑っている様子だが、克海はそれどころではなかった。

「智空にも俺、好きだって言われた。俺はそんな智空に、兄弟以上にも以下にも見られないって言い切ったんだ。あいつの気持ちを受け止めはしたけど、あり得ないって。なのに俺は兄さんのことなんかを好きになんてなってしまって……」
「そんなまるでゴキブリに好意的な感情を抱いてしまったみたいに言わなくても──」
「とにかく! 俺、何よりもまず智空に言わなきゃ……」
「え?」
「大好きな智空をそういう意味で好きになれないって言ったけど、あろうことか陸史を好きになってしまって本当にごめん、って言わないと……」
「あの、まあうん、その、嬉しいし今後もずっと兄弟としても三人仲良くいたいからむしろ言うべきだと思うんだけどね、でも何かこう、うん……なぁ、お前ほんとはどっちが好きなの?」

その時、玄関から智空の「た、ただいま……」とおずおずしたような声が聞こえてきた。陸史が何か言う前に克海は立ち上がり、「智空」とリビングを出ていた。陸史も気を取り直したのかその後に続いて智空を迎え出る。

「あき! お帰り! 昼飯ありがとうな、めちゃくちゃ堪能したよ。あきの愛情こもり過ぎてて俺ほんっと最高だったなー」

相変わらず切り替えが早いというか、さすがというか、いつもと変わらない陸史に、克海はこういうところに騙されてたんだろうなとそっと思う。何も悩みなどなく、チャラくはあってもいつだって正しく優しい強い真っ直ぐな兄だ、と。
智空を見ると、そんな陸史に微妙な顔を向けていた。

「ココア飲むか?」

克海もとりあえずはいつもと変わらない態度でいようと心掛けながら台所へ向かう。
内心では落ち着かなかった。智空に言わないと、とひたすら思っていた。
緊張する。改めて自分に対し告白した二人は凄いなと思えた。智空に対し「陸史が好きだ」とちゃんと言えるだろうかと内心悶々と考えていた。

「あつ兄、ちゃんと全部食べたのかよ」
「食べた食べた。最高。また作ってね」
「それはヤだ」
「ええっ、何で!」

陸史と智空のやり取りを背後に聞きながら、克海は深呼吸をした。とりあえずは智空と二人で話したい。後で智空の部屋へ行こうとまず心に誓った。



あれほど陸史に対しての気持ちや、その感情を許すなんて出来ないなどと悲壮な思いにひたすら囚われていた克海だが、その後何とか智空に説明出来た時はとにかくやり遂げた感が半端なかった。
智空は言い方がおかしいが、驚くことに驚かなかった。

「分かってたし」
「えぇ? わ、かってた、って」
「だってかつ兄、分かりやすいんだよ」
「そ、う……なの、か? じゃ、じゃあ父さんや母さんも……」
「まさか。あの人らは思いもしないんじゃない。俺はだってかつ兄が好きだからだよ。家族ってだけじゃなくて」
「え、あ……うん。その……ごめん、な」
「えぇ。俺、二度も振られた?」
「あっ、え、ごめ」
「……いいよ。謝らなくて。その、とにかく! えっと、かつ兄、好きだから……その、かつ兄は応援したい」

今までムスッとした顔をしていた智空が顔を赤くしながらモジモジと言ってきた。

「智空……」
「でもあつ兄はウザいしムカつくから邪魔はするけど」

プイっと顔を逸らしながら言ってくる智空に、克海はむしろ微笑ましさを感じて口元が綻んだ。

「かつ兄、あつ兄と付き合うの?」
「えっ、いや……気持ちには気づいたけど……そんなの無理だよ。だって兄弟……」
「せっかく両想いなのに? 付き合えばいいだろ。いいよ好きにしたら。でも……その、俺、邪魔はする、って言った、けどでも……でも俺が邪魔って思われる、かな。やっぱ……俺、邪魔……?」
「っばっ、馬鹿やろ、そんな訳ないだろ! 智空は大事で可愛い弟なんだ、邪魔な訳ないだろ!」

一時期はあんなに克海に対して反抗的で嫌われているとしか思えなかった智空が可愛すぎて、克海は思わずギュッと抱きしめた。










書く流れは決めていて終わりまで分かっていても、
この辺りは構成をどうしよかなと思いながら書いていた記憶です。









2020/02/06



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守りたいもの42

克海の態度がどうしてもそういう風にしか思えないこともあり、あと単純に退院出来て久しぶりに家にしかも克海と二人きりなのが嬉しいこともあり、気持ちが抑えられなかったのは否めない。

「だけど殴るのは酷いなあ」
「わ、悪い。いや、ほんとごめん。お前、頭大丈夫か……?」

引き寄せてキスを実際したまでは良かった。だが一瞬唖然とした様子で固まっていた克海が我に返ったのか、速攻で陸史を引きはがすと顔をグーで殴ってきたのだ。今までもされたことはあるし慣れてない訳ではないが、少し久しぶりなこともあって陸史は素直に受けてしまった。

「待って、頭大丈夫かって聞かれたら俺がヤバい人っぽく聞こえる」
「実際ヤバいよお前! いや、そうじゃなくて、ほんと大丈夫か……? また脳に出血したりとか」
「いやいや、そんな簡単に出血しないよね。俺、治ってるからね? だからそういう意味ではお前は俺をいくら殴っても問題ないから。ただ俺が痛いから問題なくはないけど」
「……そ、か。ならよか……ぶふ」

顔色を青くしそうだった勢いの克海がホッとため息を吐きながら「よかった」と言いかけているところで同じソファーに座ったままの陸史を見ながら吹き出してきた。

「俺見て笑った? 失礼なヤツだな」
「いや、だって。ほんと殴ったのはごめん。痛かったよな。それは悪いとは思うけど、お前が変なことしてきたのも悪いからな。あと何かその、あれだ。鏡見て。ごめん」
「あー。見なくても分かった。痣になってんだな?」
「ほんとごめん」
「笑いながら言っても説得力ないからな。無いわ。ほんと無い。キスして殴られて痣作るとか、無い」
「ああ、無いよな。情けない」
「克海がしたんだからな?」
「お前が変なことしたからだろ!」
「ええ? 変とか言われたら切ないんだけど。好きな子にキスすんの、変?」
「その相手がいいっつってないのにしたら変なことにもなるだろが!」

怒っているというよりは微妙な顔をしていた克海だったが、改めて思い出したのだろうか。急に顔を赤らめてきた。多分殴ってしまって動揺してか陸史に対しての態度はいつものように戻っていたというのにまた意識してしまったのかもしれない。

ああ、可愛いな。
弟としても、好きな相手としても可愛い。どうしようもない。

「キス、そんなヤだった?」
「っ、い、一瞬で分からない」
「え、じゃあもう一回する?」
「しないよ! お前ほんともう……。いいか、俺とお前は兄弟なんだぞ。百歩譲って男同士に目を瞑っても兄弟という事実には瞑れない」

言い切る克海の口調はまるで自分に言い聞かせるようにも聞こえる。それは陸史の希望がそうさせているだけだろうか。

いや、違う。
克海はおそらくかなり傾いているだろうと思われた。理由は分からない。自分が死にかけたからかと自嘲してみたが、それで好きになるのなら陸史のために初めて料理をしてくれた智空だって陸史を好きになっているだろう。だがそれは絶対にないことは分かる。陸史が守ろうとしたからか。だがそれなら克海自身、子どもの頃に智空を守ろうとして高台から落ちた。好きな相手はさておき、弟を守りたい兄の気持ちは十二分に分かっているはずだ。
どのみち理由はどうでもいい。陸史自身、克海を好きになった理由を全部説明しろと言われても難しい。守りたいと思ったからとはいえ、それだけが理由なら同じくそう思っているであろう克海は子どもの頃から智空を好きで仕方がないことだろう。

きっと傍から見れば「こんなことくらいで」と言うであろう、他人にとっては些細なことでも本人にとっては琴線に触れることなのだと思う。
たった一言、ちょっとした仕草、どんな些細なことであっても見逃せない愛しい瞬間であり、そんな感情を抱いてはいけない相手だろうが気づけば恋に落ちてしまっている。

「ねえ、克海。お前、俺のこと、好き?」

克海に対し「お前は俺のこと、好きなんだよ。その事実から目を逸らし兄弟でしかないと思おうとしてるかもしれないけど、間違いなく好きなんだ。諦めろ、認めろ」と優しく諭し、言い聞かせ、引きずり込むことは多分出来る。陸史なら、そして陸史のせいで恋愛に疎いままの克海になら、出来る。だがそうしたくはなかった。自分で気づき、自覚し、受け入れて欲しかった。

「だから、兄として好き、だと」
「そういう意味で聞いたんじゃないことくらい、克海は分かっているよね」
「……き」

嫌い、とでも言おうとしたのだろうか。だがそのまま固まってしまった。

「ん?」
「す、きじゃ、ない」
「本当に? 俺や智空はうっかりとはいえ、お前に対して誤魔化さず打ち明けた。お前も、そう?」
「……何で……」
「うん?」
「何でだよ……俺は……嫌だ……嫌なんだよ……お前のこと、兄として本当に好きで……智空のことも弟として大好きで……そうとしか見られないし世間的にもそれが当たり前で……だいたい嫌なんだよ。親や智空を悲しませる必要あるのか? それにお前だってせっかく何でも出来て、きっと最高の相手が絶対見つかるはずなのに……何で。何でだよ。俺もほんと何で。理解出来る訳ないだろ……受け入れたって誰にとってもいいことなんてない……」
「克海」

今にも泣きそうな克海を、陸史は引き寄せて抱きしめた。

「俺はお前が好きでよかったってずっと思ってる。後悔なんてしてない。例え他の家族を悲しませてしまうような恋でも、俺はお前が好きでよかったって思ってる。何も間違ったことなんてしてない」

しばらく抱きしめられたままでいた克海がため息を吐いてきた。

「……分かってる。お前に対しても、智空に対しても、好きになることが間違っているんじゃないって受け止めたつもりだったし……でも、でもこんなのやっぱり」
「克海。俺のこと、好き?」

抱きしめられ、顔を埋めたままの克海からはしばらく何も返事はなかった。だがまた大きく息を吐いてきたかと思うと陸史の抱擁を解き、顔を上げてきた。

「……ああ、好きだよ」










きっと、人が見たら「こんな事くらいで」と言うだろう。
目次のくだりです。









2020/02/02



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