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金木犀の夢45

 *R-18指定あり注意

今回のお話は性的表現が含まれる部分がございます。
18歳以上でR指定大丈夫な方のみおすすみ下さい。




 

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金木犀の夢


◆金木犀の夢◆




金木犀の香りはいつも何かが頭を過る。
それは大切な誰かのこと。
そして怖いという感情で……


鳴海 秋李(なるみ しゅり)と星羽 悠犀(せわ ゆうせい)は家が近所の幼馴染であり、家族ぐるみで仲よかった。そして悠犀には八歳年上の兄、桃史(とうし)がいた。
兄弟に憧れがある上に優しくて恰好がいい桃史に、秋李は本当の兄であるかのように懐いている。

秋李と悠犀が十歳の誕生日を迎える日、桃史に付き添ってもらい家から離れた大きな公園へ遊びに来ていた。
そこで人生を狂わす事件が起こるとは、その時誰も知らなかった――。




*赤→R指定



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S1.

 

 

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金木犀の夢44

 気づけば秋李も悠犀も十八歳になっただけでなく、高校を卒業し大学生になる。秋李はふと「あの事件の時の桃史にいと同じ歳どころか、追い抜いちゃってるんだな」と思い、複雑な気持ちになった。
 相変わらず捕まった男はあの事件に関してしらばっくれているようだ。絶対にあの男が犯人だと思うだけに腹立たしいなんてものじゃない。桃史が目覚めないだけに余計悔しいし忌々しい。
 ちなみにその桃史と、航太は当時つき合っていたのだという。悠犀が「航太兄が秋李に言っていいって許可くれたから教えるけど」と話を聞いた。聞いた時、秋李は胸が痛くて泣いた。航太もどれだけ悲しくてつらくて腹立たしい思いを抱えてきたのだろうかと泣いた。そしてさらに犯人であろう男に対して憤りを感じた。

「意味ないかもだけど、警察の人に当時あいつにつきまとわれてたって話、しに行くわ。あいつに面会できないなら、せめて、な……」

 航太は悠犀にそう言ったらしい。
 その話を聞いた数日後、秋李は夢を見た。最近見ていなかった、金木犀と青年の夢だ。秋李は十歳だったあの頃の姿だった。
 記憶障害だった時と違い、夢の青年が誰なのか、今はもうわかっている。夢でもそれは把握しているようで、秋李は「桃史にい!」と名前を叫びながら青年の元へ駆け寄った。その青年は今度こそ顔がはっきり見えた。あの頃の桃史だ。桃史は満面の笑みを浮かべ、両手を思い切り広げ、飛び込んだ秋李をしっかり抱きしめてくれた。

「桃史にい、会いたかった」
「うん。俺も。待たせてごめんね」
「待っ? ううん。俺も思い出せなくてたくさん待たせたし」
「そっか。じゃあ、お互い様な」
「うん。ほんと会いたかった」
「会いたかったよ。でもほら、ゆうが呼んでるよ」
「悠犀が? でも……」
「大丈夫。また後で会おう」

 後で、と桃史が笑った。秋李も「そうだね、また」と言いかけたところで目が覚める。

「……何だ……? タイマー……?」

 夢もあり、少しぼんやりしていたがハッとなった。聞こえているのは目覚ましタイマーでも何でもなく、携帯電話の呼び出し音だった。悠犀だ。こんな時間に? と少し体がこわばりながら、秋李は恐る恐る電話に出た。

「どうしたの、こんな時間に」
『ごめんな、寝てただろうに』

 少しかすれながら出ると聞こえてきた声に、秋李は電話の向こうにいる悠犀を思い浮かべながら微笑む。だがほころんだ表情はすぐに緊張と驚愕のそれに代わった。

『でも知らせたくて。桃史兄の意識、戻った』

 次に悠犀が何を言ったかは、携帯電話を落としてしまったため聞こえなかったし、その後のこともあまり覚えていない。だが脳内に悠犀や桃史、航太との様々な記憶が浮かび、ぼろぼろ泣きながら向かったことや、悠犀の実家へ駆けつけると、目が覚めたものの体力がなく疲れたのかまた桃史はそのまま病室で眠ったところらしいと言われたことだけは何となく覚えている。
 その後、目を覚ました桃史の証言により、例の男は改めて当時の事件の容疑者として再逮捕された。航太が怪しいと思わせるような噂流していたのもその男だったともわかった。
 あらゆる感情が入り混じりすぎ、ようやく容疑者として逮捕された男に対し留飲が下がった、とはさすがに言えない。それでも呼吸をひどく邪魔していた異物が喉からも胸からも取れたような気持ちにはなれた。

「明日、桃史にいのとこ、見舞いに行っていい? 一度だけ起きてる桃史にいと会ったけど、改めてちゃんと会いたいし」

 悠犀以外、仕事やそれこそ見舞いなどで皆出払っている悠犀の実家で聞けば、怪訝な顔された。

「俺の許可いるか? 好きに行けばいい。ああ、いや。やっぱ許可出させてもらう」
「え、条件あるとか?」
「ああ。秋李はもう大泣きしながら桃史兄にごめんってひたすら謝らないこと。これ約束するなら行っていいよ」
「う……。泣いたのはわざとじゃないし。俺だってできるなら恥ずかしいから泣きたくないよ。でも謝るのはどうしても……」
「謝らないこと。約束できないなら桃史兄の弟として会うの許可しないよ」
「……わかった」
「まあ、本来許可なんていらないんだけどな。一応面会謝絶でもないし、経過は良好なんだし。さすがに体力とかあまりに弱り切ってるからまだしばらくは退院できないけど。で、何で俺に聞いてきたの?」
「だって航太にいの邪魔にならないかなって」

 避けていたとは思えないほど、今は桃史の病室に入り浸っているらしい航太を浮かべ、秋李は苦笑した。

「はは。あんなに桃史兄好きなのにむしろよくずっと堪えて生きてきたなって思うわ」

 記憶障害のせいで医師になりたいという将来の夢がなくなっていた秋李と違い、桃史と一緒に目指していた医師にならなかった航太はただひたすら、桃史と一緒じゃないと何も意味ないと様々なことから逃げていたのだという。

「桃史と一緒に目指すことが俺にとっての夢だった。俺一人で医師になるのでは意味なんて全くなかった」

 病室で悠犀と一緒にいた時、航太は静かに言っていた。

「馬鹿だな、こう……」

 桃史はまだない体力のせいか囁くような声ではあるものの、呆れたようなおかしそうな顔で航太を見ていた。

「ああ、俺は馬鹿だよ。知ってるだろ、昔から」

 入りたくても簡単に入れそうにない大企業でエリートサラリーマンしている航太は、桃史からそんな表情を向けられても嬉しそうな優しげな表情で笑いかけている。

「でも一つ、えらかった」
「俺? ほんと? えらかったとこなんてある? 何がえらかったんだ、桃史」
「俺に何かあっても、ちゃんと生きてきた」
「……っ、だっ、て……お前、許さないって、言った……」

 秋李にも悠犀にもわからなかったが、何か二人だけに通じるものがあったのだろうか。航太が突然溢れ出たかのように泣きながら言い返し、おかしそうな表情だった桃史はとてつもなく優しい笑みを浮かべていた。その笑みはあの頃よく見ていた微笑みだった。
 ようやくとまっていた時間は動き出したのだと秋李もまた泣いた。











この話書いていた時、ミムさんが桃史と航太の話もちゃんと見たくなるなと言ってました。
馴れ初めのところから。ただ、途中から悲しい部分ばかりになってしまうの確定じゃないですか。最後はハピエンにしても。









2024/02/17



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金木犀の夢43

 かけがえのない人だった。
 ずっとそばにいて、小さな頃から一緒に笑ったり怒ったりするのが当たり前だった。それこそ兄弟のように近しい人だった。だがいつしか友愛だけでなく恋愛として、航太は桃史をかけがえのない大切な人と見るようになっていた。それはあまりにも自然で、同性だからと悩む隙間すらなかった。
 中学生の頃にそれは自覚した。きっかけだが、告白してくれた女子何人かと少しつき合ったことだろうか。それでわかったのは「自分は一応ヘテロなのだろうな」ということと「それなのに好きなのはどうやら桃史みたいだ」ということだった。
 ただいくら自分の気持ちに対して葛藤がないとはいえ、同性愛に対して誰しも気にならないというわけではない、というくらい航太でもわかる。桃史への気持ちをどうするか。これに関してはかなり葛藤があったし、桃史との間に紆余曲折もあった。
 だから桃史とつき合えた時には死んでもいいと本気で思った。

「何言ってんの。せっかくこれから親友ってだけじゃなく恋人として楽しめるって時に、お前は死んでもいいんだ?」
「い、いや! 何があっても死ねない」
「ふーん?」
「桃史! ほんっとだから。だって俺、お前がそれこそ死にそうなほど大好きなんだぞ。これから遠慮なくいちゃいちゃできるってのに死ねない」
「ややこしいな」
「とにかく、死んでもいいのは間違い。でももしさ、桃史に何かあって死んじゃったら俺も生きてけねえかな……」
「馬鹿だな。縁起でもない。俺を勝手に殺すな」
「も、もしだよ。……あ、でも言うんじゃなかった。気持ち、すげえ下がってきた……」
「はは。ほんっと馬鹿。俺は死なないよ。死ぬわけない」
「うん。だよな」
「それにお前が言うようにもし俺に何かあってもさ」
「ないよ。ごめん。ない。絶対ない」
「必死か。とにかく。あっても、お前は生きてくよ」
「……何で」
「俺が許さないから、かな」
「ふは。何だよそれ」

 病院へ駆けつけた時には病室に桃史以外、たまたま誰もいなかった。その桃史も、まるでそこにいないかのようにピクリとも動かなかった。後にも先にも、あれほど号泣したことなど、ない。悲しすぎると声も出ないとか感情が出ないとか聞いたことあるが、嘘だ。あんなに声帯が張り裂けそうなほど声を出し泣いたことなど、航太にはなかった。桃史にすがりつき、永遠に止まらないのかというほど、泣いた。
 その後気づけば屋上まで来ていた。ようやくというか、それこそ感情が出尽くしたかのようにぼんやり柵の向こうを眺め、そのままふらりと乗り越えるところだった。

「俺に何かあってもさ、あっても、お前は生きてくよ」
「俺が許さないから、かな」

 だが以前した桃史との会話を思い出し、航太はハッとなり柵から離れた。そしてまたそこでしばらく泣いた。
 桃史はその後も目を覚まさない。一度も覚まさない。それでも生きている。

 そう、生きてる……。生きてる、のに……。

 航太はだがほとんど見舞いへ行っていなかった。はっきり言って逃げだ。あの事件でショックを受けてしまい、また自分の不甲斐なさと申し訳なさに到底見舞いへなど行けそうもなかった。生きているとはいえずっと目を覚まさない桃史を見た自分の状態にあまり自信持てそうもないというのもある。どの理由も全部「逃げ」だ。
 桃史の家族からも逃げていた。本当は悠犀が家へ来る話が出た時も断りたかった。だが彼らが嫌いで逃げていたのではない。これからようやく高校生になる悠犀が完全に一人暮らしするのは航太も心配だったし、結局受け入れるしかなかった。
 その悠犀から聞く秋李についても、あの事件以来会うまでは「あんなにかわいがっていた秋李を、もし憎むことになったらどうしよう」と悩んだことすらあった。もちろん理性では秋李が全く悪くないのはわかっていて、だが未熟な自分の心が身勝手な感情を秋李に持ってしまうのではと悩んだ。
 その心配は幸いというか、杞憂だった。記憶を失っている秋李を、航太は悠犀に対してと同じように心から慈しんだ。だから秋李の記憶が回復した時も心底喜んだ。純粋に秋李に対して本当によかったという気持ちと共に、秋李が思い出したなら桃史だって目覚める可能性がほんの少しだろうがあるかもしれないという希望が持てたからだ。
 そして同時にとても聞きたくてたまらないこともあった。

「犯人について、顔、特徴、声、何でもいい。何でもいいから覚えていること、ない?」

 少しでも情報が知りたかった。警察ですら見つけられない犯人を自分が見つけられるとはもちろん思っていないが、それでも桃史の救いになることならどんなことでも、どれほど些細なことでも知りたかった。
 結局秋李は犯人について少しもわからなかったのだが、実際の犯人も秋李が見ていないかどうかなどわかるはずもないと気づくことすらできなかった。
 襲われた秋李が無事で本当によかったが、何もかも航太は自分のせいだとしか思えなかった。
 せめて容疑者である男に会って話し、説得したかったが面会すらできなかった。

 もう逃げたくないって思っても……結局俺は何もできない……。なあ、桃史……きっと今の俺知ったら……嫌いになるよな? 見舞いにも滅多に来なくて逃げてばかりの最低男なんて、軽蔑するよな……? ごめん。本当にごめん。ごめん……ごめん……。

 そんなある日、悠犀から連絡があった。

「桃史兄の意識が戻った」











そもそも自責や後悔のない人などいないんじゃないですかね。ただ、それを自分の中でどううまく扱えるかでずいぶん変わってくると思います。
どれほど重くのしかかる内容でも。だから第三者からは一見わからないものではありますよね。









2024/02/15



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金木犀の夢42

 秋李を襲おうとしていた男は捕まった。近所に親と住む無職の男だ。昔から住んでいる家なので秋李だけでなく悠犀も顔見知りではある。その上男は桃史や航太と同級生だった。小さかった頃はそれなりに姿を見ていたが、気づけば見かけることはなくなっていた。どうやら引きこもりだったようだ。いつから見かけなくなったのか覚えていなかったが、今から思えばちょうどあの事件以降だったのではないだろうか。
 悠犀が秋李の声を聞き、駆けつけると秋李が男を押さえ込んでいる状態だった。彼らのそばには刃物が落ちている。悠犀はとりあえずそれを足で蹴ってさらに遠ざけた。

「……っ秋李、離れろ」
「だ、大丈夫だから、警察呼んで」
「離……、いや。俺が代わる。頼むから……だから離れてお前が呼べ」
「わ、かった」

 以前から時折秋李には護身術を教えてはいた。それでも心配すぎて一刻も早く男から離れて欲しかった。
 男が襲いかかろうとしてきた時、秋李は男の頭部と首の急所への一撃を同時に加えたようだ。これは当たり方や力加減にもよるが、ダメージを受けた者は立ち眩み、崩れ落ち、立つことさえできなくなる。下手すれば気絶する。
 それでも護身術は攻撃ではない。あくまでも隙を作って逃げるのが前提だ。悠犀は後で秋李に対し不機嫌な気持ちを隠すことなく不満を伝えた。

「ごめんて。でも……絶対、絶対逃したくなかった。何があっても、絶対」
「気持ちはわかる。わかるけど、それでもしお前に何かあったら? そんなの、それこそ絶対、俺は耐えられない。それにお前すら許さない」
「でも」
「逆の立場だったら?」
「……、……うん……絶対逃げて欲しい……。悠犀は俺と違って強いけど、それでも無理。ごめん。ほんとに。悪かった」
「……」
「ほんとに、ごめん……。これからは悠犀が大事にしてくれてる俺のこと、俺もすごく大事にするから」
「何、それ。……はぁ。俺関係なく、大事にして」
「うん。……悠犀」
「何?」
「お詫びに、俺のこと、好きにしていいから」
「……そういう反則、なしにして……」
「好きにしたくない?」
「したいけど、詫びでは欲しくない」
「じゃあ、詫び関係なく、俺を好きにして。俺がして欲しいから」
「……日、日を、改めさせてください……」
「何で敬語?」
「動揺して」

 恰好悪いとは思う。秋李とすでに何度かそういう行為をしているというのに、いまだに慣れない、というか秋李への気持ちが大きすぎて心臓が潰れそうになる。元々大切な大事な人だったが、幼馴染の親友としてだけではなく愛しい相手としても大事だと気づいて、その後秋李もそう思ってくれたと知ってから、どんどん、ますます、愛しい気持ちが増している。
 ところで捕まった男だが、秋李を襲ったことは認めた。だが過去のあの事件については知らないと言い続けているようだ。では何故秋李を襲ったのかと聞けば「久しぶりに見かけてつい、魔が差した」「危害を加える? まさか。ただ抱き着こうとしただけ」などと答えたらしい。もちろん警察も馬鹿ではない。それを鵜呑みするわけないが、如何せん過去の事件に関する証拠がない。秋李を襲おうとした時に「犯人の顔見た?」「ほくろ、覚えてるんだろ?」といった質問をしたらしいが、当然ながら証拠にはならない。男も「好奇心で聞いた」「ほくろ? 何の話かわからない」などと答えるらしい。刃物に関しても「たまたま持っていた。実際使う気はなかった。言うことをきかせるための脅しだった」と答えている。
 当時の男についてアリバイなど改めて洗いなおしているようだが、八年前のことだけにそれも今のところ成果なしと聞いた。このままだと大した罪にもならない。

「俺が……ちゃんと見てさえいれば」

 秋李は落ち込んではいたが、それでもただ嘆いて手をこまねくつもりはないようだ。

「警察に聞かれても、緊張して思い出せないだけかもしれない」

 そう言って自ら近所の人に世間話を装って聞き込みしている。あまり下手なことして欲しくないが、じっとしていられない気持ちはわかる。それに悠犀としても捕まった男が多分犯人だと思っているからか、そいつが捕まる前に比べたら心配する気持ちも多少マシかもしれない。

「あいつが、か……」

 その男と同級生だった航太は一瞬唖然としたようだが、すぐ悠犀も見たことないような表情をした。

「ちょっと航太兄」
「……え?」
「怖いんだけど」
「何が」
「顔。そりゃあの頃は桃史兄とすごく仲よかっただろし、腹立たしいと思うだろけど……」
「っ腹立たしいなんてもんじゃない……!」

 怒りに歪んでいた表情が、今にも泣きそうなそれに代わる。航太はだが泣くことなく、両手で自分の髪をつかむようにして頭を抱え、俯いた。

「あいつ……当時俺につきまとっていた」
「……え?」
「告白、されたんだ。でも俺にはつき合ってる好きな人いるって断って……」
「航太兄、彼女いたの?」
「……、ああ……お前の兄さんだよ」
「何が? ……え、あ、え……そ、うなの、か?」

 一瞬何言っているのかわからなかった。だが言っている意味が浸透すると唖然となった。航太と桃史が、と驚いたものの、それも次第に脳内へ浸透していくかのように驚くべきことではなくなった。

「ただでさえ……俺、桃史に何もしてやれなかったのに……補習なんか受ける羽目になって……あいつ守れなかったのに……おじさん、おばさんにも申し訳なさすぎたのに……もしかしたらあいつ刺されたの、もしかしたら俺のせい、かも……なんじゃ……」

 いつ見舞いに行っているのか悠犀にもわからないくらいだった。ましてや悠犀の親が航太を見かけることはほとんどなかった。少し薄情だと思わなくもなかったが、桃史が全く目を覚まさないので来てもらっても仕方ないわけで、航太が見舞いに来ないことに違和感はなかった。

 むしろ来れなかったってこと?

 桃史が目を覚まさないのがショックで、そして桃史の親に申し訳なさを感じ、気軽になど到底来れなかったのだろうかと悠犀は黙って航太を見た。だがすぐ口を開く。

「航太兄のせいなわけ、ないだろ。悪いのは犯人だけ。航太兄のせいだって言うなら一人逃げた俺はどうなんの? 自分が足手まといになったせいじゃないかって思ってしまった秋李はどうなんの? 桃史兄が刺されて今も目を覚まさないの、俺らの責任でもあるの?」
「そんなわけねえだろ……! お前らは何も悪くない」
「だったら航太兄だって悪くないだろ」
「違う」
「違わない。もし、もし補習なくてあの場所に航太兄がいてても、刺される人が増えただけだったかもだろ。あの男が犯人に間違いないとして、航太兄に横恋慕して、勝手に嫉妬して桃史兄刺したんだとしても、どう考えても悪いのはそいつだろ。なのに航太兄も悪いって言うなら、俺と秋李だって悪い」
「違」
「違わない」
「……っくそ」

 航太はさらに頭を抱えた。











自責や後悔はどうしようもなく自分の中で湧いてくるもので、多分第三者がどうこうできるものではないかもしれない。
けど、思いがけない言動や当たり前すぎる言動で、救われるとまでいかなくとも多少なりとも軽くなることはあります。









2024/02/11



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