彼は最後に微笑んだ158
その後ようやくエルヴィンは自分の上司の元へ顔を出しに向かった。服は仕方ないのでリックに借りた。借りたというか「返さなくていいよ」と言われたが、部屋着ともども完璧にクリーニングして返そうと心に誓う。ただでさえ借りしか作っていないし、それを理由に今後専属となる自分がいいように使われる未来しか見えないため、せめてもの反撃、だろうか。
もちろん今回のことでリックにもすごく感謝してはいるけども。
本当に迷惑しかかけていないし、直接何もしていないとリックは言うが、それでも助けてくれていたのだとエルヴィンは思う。
ちゃんと感謝の気持ちは心から返したいと思う、けど、でもリックにそう言っても流される気がするからなあ。
人をいいように使おうとしてくるくせに、こちらから好意的な気持ちを伝えると流すリックを思い、エルヴィンは苦笑した。
上司に「一旦戻り、改めて城へ出向きます」と言えば首を振られた。
「仕事の引継ぎは完了してるし、君も旅やごたごたで疲れているだろう。どのみち君の屋敷から往復したら、馬だろうが結構時間を取られるしな。それに第二王子殿下の護衛騎士としてこれからがんばってもらわなければいけない。おっと、まだ公じゃなかったっけか。でも正式な任命は改めて出るぞ。とにかく、一旦帰宅すると言うのなら今日はそのまま休んでいい。あと今日から数日間は第二王子殿下の護衛騎士としての準備など行う期間として使ってくれていい」
「いえ、しかし……」
「それも仕事だ」
「……。かしこまりました」
思いがけず休暇となったエルヴィンはニルスを探すことにした。とはいえいざニルスを目の前にしたら普通ではいられないかもしれないが、だからといって避けるのだけは嫌だ。
だとしたらさっさとすっきりさせるべきだよな。
ニルスに一体どんなことをさせてしまったのだろうか、自分の尻に違和感があるのは気のせいなのだろうかと、気になることは多々ある。それらを思い切ってずばり聞いてしまえるなら一番すっきりするだろうが、多分その前にエルヴィンが羞恥のあまり息が止まりそうだ。だが顔を見ないまま今日を終えてしまえばニルスが気になって眠ることもできなさそうな気がする。
リックの補佐をしているニルスがリックのそばにいないこととか、恋人であるエルヴィンが起きるまで様子を見ていてくれなかったことなど、その辺のちょっとした気になることはリックがすでにすっきりさせてくれている。
「君と顔を合わせづらいんだってさ」
「……それほど俺はひどい有様だったってことでしょうか……」
目に見えて落ち込んでいたようだ。むしろリックはおかしそうに笑った後で「違う違う」と手を振ってきた。
「大好きな君にさ、仕方ないとはいえほぼ意識を保てていないというのにエッチなことしまくったからでしょ」
「……あなたも第二王子殿下なら、もう少し言い方……」
呆れと羞恥が半端なかった。とはいえ、リックの言葉からして少なくともエルヴィンに引いたり軽蔑したりといった様子ではなかったということにはなる。
……エッチなことしまくった……。
ニルスを探しながらリックの言葉を思い出し、もう完全に果物の効用は切れているものの少し体が熱くなった。あと、前にもこんなことがあったような気がするとエルヴィンは微妙な気持ちで思った。おそらくニルスは真面目過ぎるからか、エルヴィンに何かしてしまったと思うと顔を合わせづらくなるのかもしれない。
もしくはリックが言うように、色々してくれたから気まずい、とか?
本当にそうなのだとしたら、何をされたのかとてつもなく気になる。何故自分はせめてもう少しだけでも意識を保っていられなかったのかと変な後悔が湧き起こる。
薬、じゃないけどそういうので乱れる相手を鎮めるために何かするとか、成人向けの小説でありそうだよな……。
少し前に読まされた話が少しそういう話だった。幸い、それを渡してきたのはラウラではない。コルネリアだ。しかも男同士の話だった。
「コルネリア……君ね……」
「ご安心なさって? ラウラはそういった同性愛ものは読みませんわ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ああ、そうですわね。成人向けのお話も多分読んでらっしゃらないんじゃないでしょうか。私も異性愛なら成人向けは少々苦手なのですけど、同性愛の……」
「いいからちょっと黙ってくれる……?」
「あら? どうかなさって? そんなに青ざめておられるなんて、もしかしてご気分がすぐれないのでは? 執事でも呼びましょうか?」
ある意味気分がすぐれないし、その原因は主に君だよと言ってしまいたかったがエルヴィンはどうにか堪えた。
本当は聞きたいことは多々あった。
君は成人しているけど、でも淑女がこういうものを読むものじゃありません。
多分そう言っても「あら、令嬢に夢を見すぎですわよ。むしろラウラみたいな方のほうが少ないのですから」などと返ってきそうだ。
君はうちのヴィリーと仲がいいと思っているけど、もしかしてヴィリーと誰か男性をこういう風に見立てたりして楽しんでないだろうか?
これは聞いては駄目なやつだろう。肯定されても否定されてもすっきりしないだろうし、多分ほぼ百パーセント想像しているような気がする。エルヴィンとしてはヴィリーとコルネリアがくっつけば、中々にかわいいカップルなのではなどと少し思っているが、もしかしたらくっついても全然かわいくないカップルになりそうで怖い。主にコルネリアが。
そしてエルヴィンがコルネリアに何より聞きたいことは、何より聞けそうになかった。
基本プロットなしで書く上にキャラクターが勝手に動くので、我ながらよくこういう長編書けるなあと思うこともあります。
もちろん今回のことでリックにもすごく感謝してはいるけども。
本当に迷惑しかかけていないし、直接何もしていないとリックは言うが、それでも助けてくれていたのだとエルヴィンは思う。
ちゃんと感謝の気持ちは心から返したいと思う、けど、でもリックにそう言っても流される気がするからなあ。
人をいいように使おうとしてくるくせに、こちらから好意的な気持ちを伝えると流すリックを思い、エルヴィンは苦笑した。
上司に「一旦戻り、改めて城へ出向きます」と言えば首を振られた。
「仕事の引継ぎは完了してるし、君も旅やごたごたで疲れているだろう。どのみち君の屋敷から往復したら、馬だろうが結構時間を取られるしな。それに第二王子殿下の護衛騎士としてこれからがんばってもらわなければいけない。おっと、まだ公じゃなかったっけか。でも正式な任命は改めて出るぞ。とにかく、一旦帰宅すると言うのなら今日はそのまま休んでいい。あと今日から数日間は第二王子殿下の護衛騎士としての準備など行う期間として使ってくれていい」
「いえ、しかし……」
「それも仕事だ」
「……。かしこまりました」
思いがけず休暇となったエルヴィンはニルスを探すことにした。とはいえいざニルスを目の前にしたら普通ではいられないかもしれないが、だからといって避けるのだけは嫌だ。
だとしたらさっさとすっきりさせるべきだよな。
ニルスに一体どんなことをさせてしまったのだろうか、自分の尻に違和感があるのは気のせいなのだろうかと、気になることは多々ある。それらを思い切ってずばり聞いてしまえるなら一番すっきりするだろうが、多分その前にエルヴィンが羞恥のあまり息が止まりそうだ。だが顔を見ないまま今日を終えてしまえばニルスが気になって眠ることもできなさそうな気がする。
リックの補佐をしているニルスがリックのそばにいないこととか、恋人であるエルヴィンが起きるまで様子を見ていてくれなかったことなど、その辺のちょっとした気になることはリックがすでにすっきりさせてくれている。
「君と顔を合わせづらいんだってさ」
「……それほど俺はひどい有様だったってことでしょうか……」
目に見えて落ち込んでいたようだ。むしろリックはおかしそうに笑った後で「違う違う」と手を振ってきた。
「大好きな君にさ、仕方ないとはいえほぼ意識を保てていないというのにエッチなことしまくったからでしょ」
「……あなたも第二王子殿下なら、もう少し言い方……」
呆れと羞恥が半端なかった。とはいえ、リックの言葉からして少なくともエルヴィンに引いたり軽蔑したりといった様子ではなかったということにはなる。
……エッチなことしまくった……。
ニルスを探しながらリックの言葉を思い出し、もう完全に果物の効用は切れているものの少し体が熱くなった。あと、前にもこんなことがあったような気がするとエルヴィンは微妙な気持ちで思った。おそらくニルスは真面目過ぎるからか、エルヴィンに何かしてしまったと思うと顔を合わせづらくなるのかもしれない。
もしくはリックが言うように、色々してくれたから気まずい、とか?
本当にそうなのだとしたら、何をされたのかとてつもなく気になる。何故自分はせめてもう少しだけでも意識を保っていられなかったのかと変な後悔が湧き起こる。
薬、じゃないけどそういうので乱れる相手を鎮めるために何かするとか、成人向けの小説でありそうだよな……。
少し前に読まされた話が少しそういう話だった。幸い、それを渡してきたのはラウラではない。コルネリアだ。しかも男同士の話だった。
「コルネリア……君ね……」
「ご安心なさって? ラウラはそういった同性愛ものは読みませんわ」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「ああ、そうですわね。成人向けのお話も多分読んでらっしゃらないんじゃないでしょうか。私も異性愛なら成人向けは少々苦手なのですけど、同性愛の……」
「いいからちょっと黙ってくれる……?」
「あら? どうかなさって? そんなに青ざめておられるなんて、もしかしてご気分がすぐれないのでは? 執事でも呼びましょうか?」
ある意味気分がすぐれないし、その原因は主に君だよと言ってしまいたかったがエルヴィンはどうにか堪えた。
本当は聞きたいことは多々あった。
君は成人しているけど、でも淑女がこういうものを読むものじゃありません。
多分そう言っても「あら、令嬢に夢を見すぎですわよ。むしろラウラみたいな方のほうが少ないのですから」などと返ってきそうだ。
君はうちのヴィリーと仲がいいと思っているけど、もしかしてヴィリーと誰か男性をこういう風に見立てたりして楽しんでないだろうか?
これは聞いては駄目なやつだろう。肯定されても否定されてもすっきりしないだろうし、多分ほぼ百パーセント想像しているような気がする。エルヴィンとしてはヴィリーとコルネリアがくっつけば、中々にかわいいカップルなのではなどと少し思っているが、もしかしたらくっついても全然かわいくないカップルになりそうで怖い。主にコルネリアが。
そしてエルヴィンがコルネリアに何より聞きたいことは、何より聞けそうになかった。
基本プロットなしで書く上にキャラクターが勝手に動くので、我ながらよくこういう長編書けるなあと思うこともあります。
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