彼は最後に微笑んだ165
多分、とても嬉しくて大切な言葉をニルスから貰った。そう思う。大好きな人から大事にしたいからって言われて嬉しくないはずがない。
でも複雑なんだよな……。
「ニルス。言わなくてもわかるだろけど、俺、男なんだ」
「ああ」
以前もこんな言い方をした気がすると思いつつ口にする。改めて「こいつは何を馬鹿なことを言っているのだ」というような言い方だろうし実際馬鹿みたいだろう。エルヴィンはどこをどう見ても男にしか見えない。たまに線が細くて化粧映えもしそうな男性がいるが、少なくともエルヴィンが女性のような化粧をしたらひたすら似合わなさそうだ。違和感しかない。
綺麗な顔立ちだと言われたこともあるし、自分でもそこそこ整っているのではとも思ってはいるが、どう見ても男の顔立ちだし骨格だしで、あえて「男なんだ」と口にすると、そういう意味で言ったわけではなくとも虚無感が拭えない。
「……えっと。ああ、そう。男だから、その辺はその、大丈夫だから」
続けると首を傾げられた。
「大事に思って大事にしてくれるのはすごく嬉しいし、俺もニルスにそうしたい。でもそれとこれとは別ってこと。俺も大事にしたいし大事にして欲しいけど、お互い好きならその、体だって繋げたい」
「……せめて……婚約してから、と」
ん?
今、何か聞き間違いをしたのだろうかとエルヴィンも首を傾げた。婚約と聞こえたような気がした。もしくはエンゲージメントともし間違いなく言ったとしても他に「約束」だとか「契約」といった意味も考えられる。とはいえニルスと何の約束や契約をしてからセックスをするというのか。
……いや、でもそういうこともある、のか?
男同士だけにもしかしたら何かあるのかもしれない。例えばとても嫌すぎるが「万が一尻が駄目になっても訴えない」とかもしくは「尻の安全を確保するために回数を決める」とかそういう何かだ。男女ならしないような契約などを、もしかしたら安全に誠実にことを進めるためには必要なのかもしれない。
それに同性のセックスについてもちゃんと知っていたニルスのことだし、普段から書類関係などの処理もそつなくこなすくらいだ、こういうことこそニルスはよく知っているのかもしれない。
「えっと……どんなエンゲージメントをすればいい、んだ?」
この際はっきりしておこうと、エルヴィンはおずおず聞いてみた。ニルスは一瞬怪訝な顔をしたようだったがすぐに頷いてきた。心なしか嬉しそうに感じられたのだが、気のせいだろうか。
「それはお前に合わせる。盛大でもいいし、質素でもいい」
どういう意味だ。
エルヴィンこそ怪訝な顔をした。
盛大?
質素?
内容……? いや、回数のことだろうか。エルヴィンが問題なければ何度でもいいし、きついなら制限してもいいということだろうか。ニルスはそれに合わせると言っているのだろうか。そうだとして、それほどきちんと考えなければならないほど、尻を使うのは負担がかかるのだろうか。
というかそんなことを真面目に考えるのも少し、いや、結構やりにくい。世間の男同士は本当にこんなやり取りを交わした上で体を繋げているのだろうか。
「……これ、本当にしなければならないのか?」
「嫌、か?」
今度は一転、どこか悲しそうに感じられるのも気のせいだろうか。
「嫌、というか……もっと自由にじゃ、駄目なのか?」
「……エルヴィンがそうしたければ……それでもいい、が……俺はお前に誠実でありたい」
エルヴィンのことを思ってここまで言ってくれる相手に「めんどくさい」はないだろう。
「わかった。じゃあ……って言っても俺も経験ないからわからないんだよな」
女性相手なら遡る前にあったが、同性はない。月にどれくらいだとか週にどれくらいなら負担がないといったことなど予測さえできない。
「そうだな」
「やっぱり一度試してみてから……」
一度経験してみれば、どれくらいのものかわかるのではないだろうか。
「試しでするものでは……」
確かにニルスのように真面目でいてエルヴィンのことを考えてくれているような人だ。そういった契約をしておかないとセックスをしないとさえ考える人だ。試しでするのは意味がないのだろう。
にしてもここまでこだわらなくても、俺は大丈夫だと思うんだけどな……。
「ニルスに聞きたいんだけど。その……お前は何度したい?」
「……? 一度で十分だが」
「ええっ?」
「え?」
待って。
一回したらもう十分って意味なのか? え? い、いや。さすがに違うだろ。あれかな、週に一回ってことじゃ? まさか月に一度とか年に一度じゃないよな? あ、もしくは一日に一度? それはそれで俺の体持たないかもだよなあ、まいったな。
「……何故楽しそうなんだ?」
「え? 気、気のせいだよ。あのさ、一度って何に一度なの?」
「? 一生に、では」
「ええっ?」
「え?」
嘘だろ? 俺、どこかで何か間違えてる? どういうこと? だってエッチを一生に一度だけでいいなんて思うやつ、いるはずなくない?
「ほ、んとに? 週に一度とか月に一度とかじゃなく?」
「……? ……、……もしかして本番は一度だが、毎月気軽なものをしたいという意味、か?」
「嘘でしょ……っ?」
しばらく同じようなやり取りをして、その後ようやくエルヴィンが盛大な勘違いをしていたと判明した。
音楽聞くの大好きなんですよ。欠かせない。子どもの頃から基本洋楽です。さらに好きといえば、すれ違うやり取りほんま好き。
でも複雑なんだよな……。
「ニルス。言わなくてもわかるだろけど、俺、男なんだ」
「ああ」
以前もこんな言い方をした気がすると思いつつ口にする。改めて「こいつは何を馬鹿なことを言っているのだ」というような言い方だろうし実際馬鹿みたいだろう。エルヴィンはどこをどう見ても男にしか見えない。たまに線が細くて化粧映えもしそうな男性がいるが、少なくともエルヴィンが女性のような化粧をしたらひたすら似合わなさそうだ。違和感しかない。
綺麗な顔立ちだと言われたこともあるし、自分でもそこそこ整っているのではとも思ってはいるが、どう見ても男の顔立ちだし骨格だしで、あえて「男なんだ」と口にすると、そういう意味で言ったわけではなくとも虚無感が拭えない。
「……えっと。ああ、そう。男だから、その辺はその、大丈夫だから」
続けると首を傾げられた。
「大事に思って大事にしてくれるのはすごく嬉しいし、俺もニルスにそうしたい。でもそれとこれとは別ってこと。俺も大事にしたいし大事にして欲しいけど、お互い好きならその、体だって繋げたい」
「……せめて……婚約してから、と」
ん?
今、何か聞き間違いをしたのだろうかとエルヴィンも首を傾げた。婚約と聞こえたような気がした。もしくはエンゲージメントともし間違いなく言ったとしても他に「約束」だとか「契約」といった意味も考えられる。とはいえニルスと何の約束や契約をしてからセックスをするというのか。
……いや、でもそういうこともある、のか?
男同士だけにもしかしたら何かあるのかもしれない。例えばとても嫌すぎるが「万が一尻が駄目になっても訴えない」とかもしくは「尻の安全を確保するために回数を決める」とかそういう何かだ。男女ならしないような契約などを、もしかしたら安全に誠実にことを進めるためには必要なのかもしれない。
それに同性のセックスについてもちゃんと知っていたニルスのことだし、普段から書類関係などの処理もそつなくこなすくらいだ、こういうことこそニルスはよく知っているのかもしれない。
「えっと……どんなエンゲージメントをすればいい、んだ?」
この際はっきりしておこうと、エルヴィンはおずおず聞いてみた。ニルスは一瞬怪訝な顔をしたようだったがすぐに頷いてきた。心なしか嬉しそうに感じられたのだが、気のせいだろうか。
「それはお前に合わせる。盛大でもいいし、質素でもいい」
どういう意味だ。
エルヴィンこそ怪訝な顔をした。
盛大?
質素?
内容……? いや、回数のことだろうか。エルヴィンが問題なければ何度でもいいし、きついなら制限してもいいということだろうか。ニルスはそれに合わせると言っているのだろうか。そうだとして、それほどきちんと考えなければならないほど、尻を使うのは負担がかかるのだろうか。
というかそんなことを真面目に考えるのも少し、いや、結構やりにくい。世間の男同士は本当にこんなやり取りを交わした上で体を繋げているのだろうか。
「……これ、本当にしなければならないのか?」
「嫌、か?」
今度は一転、どこか悲しそうに感じられるのも気のせいだろうか。
「嫌、というか……もっと自由にじゃ、駄目なのか?」
「……エルヴィンがそうしたければ……それでもいい、が……俺はお前に誠実でありたい」
エルヴィンのことを思ってここまで言ってくれる相手に「めんどくさい」はないだろう。
「わかった。じゃあ……って言っても俺も経験ないからわからないんだよな」
女性相手なら遡る前にあったが、同性はない。月にどれくらいだとか週にどれくらいなら負担がないといったことなど予測さえできない。
「そうだな」
「やっぱり一度試してみてから……」
一度経験してみれば、どれくらいのものかわかるのではないだろうか。
「試しでするものでは……」
確かにニルスのように真面目でいてエルヴィンのことを考えてくれているような人だ。そういった契約をしておかないとセックスをしないとさえ考える人だ。試しでするのは意味がないのだろう。
にしてもここまでこだわらなくても、俺は大丈夫だと思うんだけどな……。
「ニルスに聞きたいんだけど。その……お前は何度したい?」
「……? 一度で十分だが」
「ええっ?」
「え?」
待って。
一回したらもう十分って意味なのか? え? い、いや。さすがに違うだろ。あれかな、週に一回ってことじゃ? まさか月に一度とか年に一度じゃないよな? あ、もしくは一日に一度? それはそれで俺の体持たないかもだよなあ、まいったな。
「……何故楽しそうなんだ?」
「え? 気、気のせいだよ。あのさ、一度って何に一度なの?」
「? 一生に、では」
「ええっ?」
「え?」
嘘だろ? 俺、どこかで何か間違えてる? どういうこと? だってエッチを一生に一度だけでいいなんて思うやつ、いるはずなくない?
「ほ、んとに? 週に一度とか月に一度とかじゃなく?」
「……? ……、……もしかして本番は一度だが、毎月気軽なものをしたいという意味、か?」
「嘘でしょ……っ?」
しばらく同じようなやり取りをして、その後ようやくエルヴィンが盛大な勘違いをしていたと判明した。
音楽聞くの大好きなんですよ。欠かせない。子どもの頃から基本洋楽です。さらに好きといえば、すれ違うやり取りほんま好き。
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