水晶の涙195
ここへ来てからのフォルアが何となくおかしいような気がして、アルスはとうとう直接本人に聞いた。
「フォルア、どうかしたの?」
ただ聞き方が抽象的だったのだろう。フォルアは首を傾げながらアルスを見てくる。ついでにファインも少し首を傾げながらアルスを見てきた。カースはただおかしそうにその様子を見ている。
「何でそんなこと聞くんだ、アルス? 気づけば寝てるとかそういうのと別に何かあるのか?」
ファインが怪訝に思うのは仕方ないとアルスは思う。いつもならフォルアの様子にアルスよりも先に気づいて聞いてそうなのがファインだ。しかしクレブスをここの新教会派の誰かに奪われないよう気をつけているためか、どうやらフォルアが何となくおかしいとは気づいてなかったのだろう。ちなみにアルスが「クレブス、盗みにくる可能性あるの?」と聞けば苦笑してきた。
「いや、あからさまに盗んでも犯人が明確すぎてさすがにそれはしねえだろけどな。とはいえ油断してると何してくるかはわからねえ程度には信用してねえ」
フォルアが普段よく喋るとか喜怒哀楽がわかりやすいとかならクレブスに気をつけているファインでも気づいただろうが、フォルアがフォルアだけに他に気を取られていたらなかなか気づくのは難しいかもしれない。実際、アルスも確信をもって口にしたわけではない。ただ、何となくおかしい気がしただけだった。だから聞いてきたファインにも「何となく、そんな気がして」と答える。
そしてフォルアがフォルアだけに、ファインもアルスの答えで十分納得したのか「お前、具合悪いとか?」とフォルアに聞いている。それに対しては無言のまま、フォルアはフルフルと首を横に振った。
「何か気になることがあるの?」
今度は言葉を変えてアルスが聞くと、フォルアはジッとアルスを見てきた。そして少しだけ首を傾げた後にフォルアの楽器兼武器を掲げてくる。
「それがどうかした?」
「……狙われてる」
「え? 楽器を?」
「……いや。多分、これ」
これ、とフォルアは楽器についている水晶を指してきた。途端、ファインが「あいつか」と忌々しそうな顔をした。
「ッチ。水晶狙ってるだろうし、油断して絶対すぐ行動に移すだろうなとは思ってたけど、その通りすぎて失笑すらする気になれねえわ」
「で、どうする?」
呆れたようなファインに、カースが楽しそうに聞いている。その様子を見て、何となくアルスには水晶のことに気づいていたけれども様子を見ていたといった感じがした。それはファインも同じだったようだ。
「あんた、絶対気づいてたろ」
「何でそう思うんだ?」
「あからさまにそういう顔してただろうが。隠そうと思えば絶対表情隠せるくせに、隠そうともしてこねーところがむしろウザい」
「ファインの俺に対する評価が高いんだか低いんだか」
「総合的に低いからな」
「悲しいだろ、そんなこと言うなんて。アルスはそんなことないよね。俺のこと好きだよね」
「え? あ、う、うん」
「はは。好きだってさ、ファイン」
「うるせぇ。そんなやり取りで妬くと思ったら大間違いだからな。だいたい評価って自分で言ったくせにアルスには好き云々に変えて肯定させようとすんな。そういう好きじゃねえって百パーセントわかってても何か腹立つ」
「妬いてんじゃないか」
「アルスがやばいほど好きなんだから仕方ねえだろ。わかっててすんな、つってんの」
「はは」
いや、ほんとちょっと待って。ほんと何で水晶の話からそういう話になんの。
アルスは戸惑いすぎて顔が熱くなってきた。最近たまにとはいえ、ファインとカースがやり取りしているとアルスへの気持ち云々を絡めている気がする。
だいたいファイン、俺に気持ちばらしてから堂々としすぎじゃないか?
おかげで気持ちなり対応なりに少々ついていけない時がある。今も多分そうだ。だから顔が熱い。
そんなアルスに気づいたのか、ファインも何故か少し戸惑ったような顔をした後、アルスの頭に軽くポンと手を置いてきた。昔からの気安い親しみある行為なのだが、変についていけていないからか妙に意識してしまう。
ただ変な風に意識して、もしかしたらファインがそれを気にしてしまうかもしれない、となるべく顔に出ないようアルスは心がけた。
「とにかくあれだな。こちらが気づいてるとばれないようにして、あとフォルアにはわざと油断しまくってもらおう」
「ふんふん。それで?」
「カースはいちいちウザいな」
「それ、言う必要あった?」
「モーヴェルトやあいつの部下は多分、こっちのこと舐めてかかってるからな。いけると思えば多少強引に行動に移してくるだろ。あと、多分舐めてかかってるだろうわりに、あとフォルアが隙だらけそうなのにちっとも隙見せねえで、モーヴェルトはきっとヤキモキしてそうだしな。何でオレらみたいなガキ相手から水晶の一つや二つ、奪えないのかってさ」
「なりそうだねえ」
カースの気の抜けたような相槌に微妙な顔を向けてから、ファインは続けてきた。
「そうなったらこっちのもんだろ。とっつかまえて大勢の人がいる前で暴露してやる。いくらここが新教会派の総本家と言えども、そうなればごまかすことも難しいだろ」
ファインが言ったことは間もなく現実のものとなったし、こちらに対して油断もしていたであろう者たちを捕まえるのは容易だったし、おまけに大勢かどうかはさておき、その場には幸いにも王の重臣が何人もいたようだった。
フォルアの楽器兼武器のデザインはちゃんとあって、ミムさんが描いたそれを見ながら書きつつそういえば大して描写してなかったなあと
「フォルア、どうかしたの?」
ただ聞き方が抽象的だったのだろう。フォルアは首を傾げながらアルスを見てくる。ついでにファインも少し首を傾げながらアルスを見てきた。カースはただおかしそうにその様子を見ている。
「何でそんなこと聞くんだ、アルス? 気づけば寝てるとかそういうのと別に何かあるのか?」
ファインが怪訝に思うのは仕方ないとアルスは思う。いつもならフォルアの様子にアルスよりも先に気づいて聞いてそうなのがファインだ。しかしクレブスをここの新教会派の誰かに奪われないよう気をつけているためか、どうやらフォルアが何となくおかしいとは気づいてなかったのだろう。ちなみにアルスが「クレブス、盗みにくる可能性あるの?」と聞けば苦笑してきた。
「いや、あからさまに盗んでも犯人が明確すぎてさすがにそれはしねえだろけどな。とはいえ油断してると何してくるかはわからねえ程度には信用してねえ」
フォルアが普段よく喋るとか喜怒哀楽がわかりやすいとかならクレブスに気をつけているファインでも気づいただろうが、フォルアがフォルアだけに他に気を取られていたらなかなか気づくのは難しいかもしれない。実際、アルスも確信をもって口にしたわけではない。ただ、何となくおかしい気がしただけだった。だから聞いてきたファインにも「何となく、そんな気がして」と答える。
そしてフォルアがフォルアだけに、ファインもアルスの答えで十分納得したのか「お前、具合悪いとか?」とフォルアに聞いている。それに対しては無言のまま、フォルアはフルフルと首を横に振った。
「何か気になることがあるの?」
今度は言葉を変えてアルスが聞くと、フォルアはジッとアルスを見てきた。そして少しだけ首を傾げた後にフォルアの楽器兼武器を掲げてくる。
「それがどうかした?」
「……狙われてる」
「え? 楽器を?」
「……いや。多分、これ」
これ、とフォルアは楽器についている水晶を指してきた。途端、ファインが「あいつか」と忌々しそうな顔をした。
「ッチ。水晶狙ってるだろうし、油断して絶対すぐ行動に移すだろうなとは思ってたけど、その通りすぎて失笑すらする気になれねえわ」
「で、どうする?」
呆れたようなファインに、カースが楽しそうに聞いている。その様子を見て、何となくアルスには水晶のことに気づいていたけれども様子を見ていたといった感じがした。それはファインも同じだったようだ。
「あんた、絶対気づいてたろ」
「何でそう思うんだ?」
「あからさまにそういう顔してただろうが。隠そうと思えば絶対表情隠せるくせに、隠そうともしてこねーところがむしろウザい」
「ファインの俺に対する評価が高いんだか低いんだか」
「総合的に低いからな」
「悲しいだろ、そんなこと言うなんて。アルスはそんなことないよね。俺のこと好きだよね」
「え? あ、う、うん」
「はは。好きだってさ、ファイン」
「うるせぇ。そんなやり取りで妬くと思ったら大間違いだからな。だいたい評価って自分で言ったくせにアルスには好き云々に変えて肯定させようとすんな。そういう好きじゃねえって百パーセントわかってても何か腹立つ」
「妬いてんじゃないか」
「アルスがやばいほど好きなんだから仕方ねえだろ。わかっててすんな、つってんの」
「はは」
いや、ほんとちょっと待って。ほんと何で水晶の話からそういう話になんの。
アルスは戸惑いすぎて顔が熱くなってきた。最近たまにとはいえ、ファインとカースがやり取りしているとアルスへの気持ち云々を絡めている気がする。
だいたいファイン、俺に気持ちばらしてから堂々としすぎじゃないか?
おかげで気持ちなり対応なりに少々ついていけない時がある。今も多分そうだ。だから顔が熱い。
そんなアルスに気づいたのか、ファインも何故か少し戸惑ったような顔をした後、アルスの頭に軽くポンと手を置いてきた。昔からの気安い親しみある行為なのだが、変についていけていないからか妙に意識してしまう。
ただ変な風に意識して、もしかしたらファインがそれを気にしてしまうかもしれない、となるべく顔に出ないようアルスは心がけた。
「とにかくあれだな。こちらが気づいてるとばれないようにして、あとフォルアにはわざと油断しまくってもらおう」
「ふんふん。それで?」
「カースはいちいちウザいな」
「それ、言う必要あった?」
「モーヴェルトやあいつの部下は多分、こっちのこと舐めてかかってるからな。いけると思えば多少強引に行動に移してくるだろ。あと、多分舐めてかかってるだろうわりに、あとフォルアが隙だらけそうなのにちっとも隙見せねえで、モーヴェルトはきっとヤキモキしてそうだしな。何でオレらみたいなガキ相手から水晶の一つや二つ、奪えないのかってさ」
「なりそうだねえ」
カースの気の抜けたような相槌に微妙な顔を向けてから、ファインは続けてきた。
「そうなったらこっちのもんだろ。とっつかまえて大勢の人がいる前で暴露してやる。いくらここが新教会派の総本家と言えども、そうなればごまかすことも難しいだろ」
ファインが言ったことは間もなく現実のものとなったし、こちらに対して油断もしていたであろう者たちを捕まえるのは容易だったし、おまけに大勢かどうかはさておき、その場には幸いにも王の重臣が何人もいたようだった。
フォルアの楽器兼武器のデザインはちゃんとあって、ミムさんが描いたそれを見ながら書きつつそういえば大して描写してなかったなあと
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